真章28~不伝~怪力乱神御伽噺~真実を見ろ~Look tlue~


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ーーーオレハーダンス・ベルガードーー

ーーシヌタメニーウマレテキターーーー

ーイマハチガウーーーーーーーーーーー

ーオマエタチヲコロスタメニーーーーー

ーーカイブツトナッテウマレカワッター

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ーデビルズヘイヴンハーーーーーーーー

ーオレガスベテオワラセテヤルーーーー

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~デビルズヘイヴン・ピラミッド頂上~



 包帯で作られた怪物が血塗れの口を大きく上げて咆哮する。ピラミッドの麓でバリアの中で縮こまっている魔族達が震え上がる。


「な、なんだあれは!包帯で出来た怪物なんて見たこと無いぞ!」「魔神スーパーエゴ様が食べられた!」「お、終わってしまったというのか!?我等の今までの苦労全てが、あの怪物によって!馬鹿な!!」「い、イヤアアアアアアア!!スーパーエゴ様アアアアアア!!」


ざわめきは悲鳴に変わり、悲鳴は混乱に変わり、混乱は恐怖に変わり、恐怖が絶望に変わろうとしたその時、

 一匹の悪魔がこう叫んだ。


「違う!喰われたのは魔神スーパーエゴ様ではない!ダンス・ベルガードが喰われたんだ!今、咆哮を上げた存在こそ、魔神スーパーエゴ様なんだ!」


その言葉は何の根拠もない、現実を認めたくない心が叫んだデタラメだ。

 だがその言葉は安寧を求めた者達の心に周囲に急速に浸透していく。

 当たり前と言えば当たり前だった。彼等は一度も魔神の姿を見たことが無いのだから。

目の前で起きた魔神が殺戮された瞬間を理解できず、自分に都合の良い物語を見て理解したふりをしていく。


「そうか!そうさそうに決まってる!

 エゴ様がそんな簡単に負ける筈がない!あれは、我々が作り上げた魔神、スーパーエゴ様なんだ!」

「食べられたのがダンス・ベルガードなんだ!あれはただの生け贄なんだ!」

「そうだ!あれは魔神様!スーパーエゴ様だ!我等はもう怯える必要は無いんだ!」


浸透された言葉は彼等の絶望を振り払い、恐怖を打ち消し、混乱が収束され、歓声へと変わっていく。


「ばんざーい!魔神スーパーエゴ様ばんざーい!」

「デビルズヘイヴン万歳!ベル様万歳!スーパーエゴ様ばんざーい!」

「もう俺達に怖いものなんて何もない!

 我等の神は、スーパーエゴ様だ!」


ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!


歓声は希望へ変わり、希望は結束の絆を造り上げ、笑顔を造り上げていく。

 そうして、ピラミッドの麓にいる全国民が、この怪物を讃え、崇めるようになった。

 その異常にいち早く気付いたのは司祭ミールバイト。彼は怪物の足元から彼等が喜びの声をあげるのを聞いて顔を青ざめていた。


「何故だ?

 何故皆、ダンス・ベルガードを崇めようとする?何故我等の希望を食い殺した者を讃える?

 やめろ・・・やめるんだ!万歳をやめろ!やメっ!?」


思わず叫んだのが間違いだった。

包帯が彼の足元に巻き付き、瞬く間に空中に投げ出したのだ。

 悲鳴を上げながら空を舞うミールバイト。天に向けて手を伸ばし、神に助けを請う。


「神様タスケ・・・」


て、と言い切る前にその姿が口の中に消え、ごりごりと噛み砕かれ呑み込まれる。それでもうミールバイトの人生は、そしてデビルズヘイヴンの真実は終わってしまった。

 彼等の真実、未来はこの瞬間閉ざされてしまった。

 観衆達はそれを見ていたがやがて笑みを浮かべる。小さな子悪魔が弾けるように笑いながら叫んだ。


続き


「アハハハハ、そっか!魔神様はダンス・ベルガードだけじゃお腹が膨れないんだ!僕達も食べたいんだよ!」

「そうか!確かに生け贄が人間一人だけじゃあの巨体を支えきれないだろう!

 ほら、我等も食べにきてくれ!」

「俺達全員、スーパーエゴ様の為に殉教する覚悟でここに立っているんだ!

 早いか遅いかの違いだ、ほら魔神様!

 俺達を食べてくれ!」

「魔神様ー!早くバリアを壊して俺達を食べてくれー!」


包帯の怪物は鎌首を下ろし、その姿を少しずつ変えていき人型へと変えていく。

 そして完全に人型へ姿を変えた時、ピラミッドの小さな頂上では足場が足りず、バリアを踏みつける。

 バリアがミシミシと音を立てて壊れ始めるが、民衆達は笑みを止めようとしない。


「ああ、やっとこの世からおさらばできるのね、素晴らしいわ・・・」

「お前、向こうでも仲よくやろうな」

「ええ、貴方・・・」


夫婦の悪魔は壊れていくバリアを見ながら、優しい笑みを浮かべている。

魔王は呟いた。


「やめろ・・・」


バリアの麓では堕天使と悪魔のカップルが互いを眺めながら話をしていた。

「ジュエル、実は言わないといけない事があるの。

 ・・・私、妊娠したのよ」

「エミリー!素晴らしいじゃないか!僕はもう君を離さない、何処にも、何処にも離さないからな!」

「受け入れてくれるのね、嬉しいわ・・・」


「やめろ・・・!」


子ども連れの家族の悪魔がミシミシと壊れていくバリアを見上げながら、楽しそうに笑っていた。

「パパ、凄いね!バリアがどんどん壊れていくよ!」

「はは、本当だな。魔神様が我々を楽園に連れてくれるんだ、もう何も心配する必要はない世界が、あと少しで見れるんだぞ」

「ワクワクするなぁ、どんな世界なのか楽しみ!」


「止めるんだぁ!

 ダンスウウウウウウ!!」


 実を言えば、この怪物の凶行を止める事はとても簡単にできた。

 ダンス・ベルガードには服従の呪いがかかっており、デビルズヘイヴンの住人が命令すればそれに逆らう事は出来ないからだ。

 だが、それを知っていた筈のミールバイトは命令する前に殺され、それを聞いていた筈の観衆にはダンスを魔神としてしか見る事が出来なくなり、更に魔王はデビルズヘイヴンの住人として認められていない為に言うことを聞けず、とどめに彼等は魔神に『俺達を早く食べてくれ』と命令してしまった。

 だから、これから起こる殺戮は、誰かが『やめろ』と叫べば直ぐに止まってしまう。

 だが頭がおかしくなり目の前の怪物を神だと勘違いした民衆に、『止まれ』と叫ぶ者は誰一人として存在しなかった。


バリアに亀裂が入り、『魔神』がバリアの上に歩み始める。一歩歩む度にその巨体の重みでバリアが軋み、亀裂が大きくなる。


「やったぁ!バリアが壊れる!俺達を食べてくれるぞ!」

「早く壊してくれ!忌々しいバリアを破壊し、我等を楽園に連れてってくれ!」


亀裂はバリア中に走り、民衆達はひび割れた空を見て楽しそうに笑う。

『魔神』は亀裂が深い所に拳を降り下ろし

 そして、遂にバリアが決壊した。


硝子のように輝きながら消えていくバリアを見て、観衆達は歓声をあげる。

 そして巨大な『魔神』が民衆達の所へ数百本の包帯を伸ばしていき、民衆達に巻き付いていく。捕まれた民衆達は捕まれてない民衆達にバイバイと言いながら手を降り、


「一足先に楽園に行ってくるね」


と言い残して空中へ投げ飛ばされ、怪物の口に放り込まれたり、包帯で首を絞められたり、まるでヨーヨーのように空中で跳ねたと思ったら地上に投げつけられ、民衆の間を散々引きずり回された後に踏み潰されたり、その様子は地獄でさえ中々見られない程の、民衆達が想像していたのとは程遠い血塗れの世界だ。

 だが血を浴びても、自らの四肢が千切れ、愛する人が死んでも彼等は笑みを崩さない。

 皆、皆笑って殺されていく。

 感情のままに全国民を殺し尽くそうとする怪物と、笑いながら殺され、それを誉れとする悪魔達。

彼等の中で天国と地獄が逆転している。もはや彼等が真に癒される事は何処に行っても無いだろう。

 彼等の中で世界は楽園になっているのだから。 


「う・・・う、ううっ!おえええっ!!」


 その光景はあまりに凄惨で残酷で、空から様子を見ていた魔王は吐き気を堪えきれず吐いてしまう。

 だが朝から何も食べてない魔王は何も吐く事は出来ない。

 魔王の本能が、この異常すぎる状況を受け入れないよう無理矢理吐かせているのだ。

 事実、無理矢理頭を下に向けた事で魔王はベルが動き出した事に気付く事が出来た。六枚羽をちぢこませ、のそのそと歩いている。



「うう・・・む?ベル、何処に・・・」


自然と目線を向けると、そこには倒れているリンベルの姿が見えた。

 夥しい魔神の血により炎は消化され、血だまりの上で瞼を閉じているリンベルの姿は何処か芸術性さえも感じられる。

 ベルは倒れているリンベルのところまで歩き、膝をつく。

 血でズボンが赤く染まったが、彼は気にも止めずにリンベルを抱き上げる。

 そして、ボロボロと涙を流し始めた。


「リンベル・・・すまない、すまない!私が間違っていた!お前をこ、殺したのは私だ!私の狂気がお前の未来を奪ったんだ!す、すまない!戻れ、戻ってくれリンベル!リンベルウウウウ!!

 ウワアアアアアアアアアアアア!!

ワアアアアアアアアアアアアアア!!」



今、デビルズヘイヴンに始めての悲鳴と涙が降り注ぐ。

かつて神を愛しすぎて残虐の限りを尽くし、神に追放された堕天使べリアル。

 彼は自分を捨てた神に復讐し、また自分を愛してくれる神を作る為にこの計画を立ち上げた。

 その結果手に入れたのは、自分の姿も見えない狂信者と動かない娘だけであった。


 

 

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歩き続ける者達 C・トベルト @Ctobeluto

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