第10話 ヒロさんとの出会い
始めての背広に四苦八苦していると、僕の背後で扉が勢いよく開いた。振り向くと茶髪の青年が、見世物小屋の動物を見るような目付きで僕の顔をマジマジと見つめてきた。鏡さんや関田さんとは違う若い青年で左耳にピアスを付けていた。指には三つの指輪に下品な金のネックレスをぶら下げている。第一印象は最悪だった。だけど実際は違っていたんだ。青年の名前は
「おう、お前が新入りか!!俺は博之ってもんだ。さっき、関田さんから頼まれたんだけど、これから客を呼び込むからよ、俺と一緒について来いよ」
「初めまして、今日からお世話になります。よろしくお願いします」
「ああ、堅苦しい挨拶はいいよ。それから俺のことはヒロさんって呼んでくれ。ほら、早く着替えて行くぞ」
見た目とは大違いで、ヒロさんは色々と仕事のイロハを教えてくれた。関田さんからは店の中での仕事。営業的な仕事はヒロさんから教わり、僕はこの日、ずいぶんと仕事の流れを教わるのだった。一番苦労したのは行き交う人々に声をかけて店へ招く。単純な仕事ほど難しいものはなかった。ヒロさん云く、その人の好みを聞き出して、いかに希望通りの女の子を紹介出来るかが重要だと教えられた。
「まずはウチの女の子たちの特徴を覚えるんだ。顔や容姿、それにどんなプレーが得意かどうかだよ。でもな、それを直接女の子から聞くのはタブーなんだよ」
「タブー?どうしてですか!?聞かないとわからないですよ」
僕の質問にヒロさんは、口にくわえた煙草をおもいっきり吸い込んだ。そして誇らしげに優雅な煙を空へと吐いた。優雅に見えたのは、ヒロさんの吐いた煙がいつまでも空へ空へと舞い上がっていたからだ。ヒロさんの吐く煙はいつだって優雅だった。それは彼の生き方を思わせる。二十歳でこの世界に飛び込んだヒロさん。かつては舞台俳優を目指す青年だったけど、ある事件をきっかけに諦めたと教えてくれた。
「舞台女優が自殺!?」と僕は聞き返した。
店の裏で一服しながらヒロさんは語り始めた。今から6年前の出来事。当時、ヒロさんは僕と同じ19歳だった。そしてある出来事がきっかけで、ヒロさんは女性を大切に扱うことになったという。それは店の女の子を扱う基本的なことになるのだった。そして、タブーはタブーであって破ってはいけないルールでもあるのだ。
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