第18話 嫉妬

キッチンの流し台に食べ終わった皿を置いた。蛇口を捻っては流れ落ちる水。生きることは難しく、それは生きていることでもあった。苦しいことがあっても自分の存在を大切にしようと、皿の上で跳ねる水を見つめながら思った。食器を棚へ片付けるように教わっては、僕は正しい位置へ皿を片付ける。それを忘れた時、生活リズムは脆くも崩れ落ちるだろう。教訓は教訓で、頭の隅っこで大切に保管しよう。きっとどこかで役に立つからさ。


決まり事には順番がある。僕は正しい解答を持ち合わせていないけど、生きるヒントや教訓は教わったと思っていた。鏡さんから頂いたジョーカーを口にくわえて、ヒロさんみたいに優雅な気持ちを心へ、星一つない夜空へ煙を吐いた。行き場を失った野良猫がうろうろして、煙は闇夜の境目でうろうろ浮かんでいた。


煙草を吸うのはベランダと教わり、室外機の上に置かれた灰皿へ煙草を揉み消した。美琴さんは煙草を吸うのか?答えはNOである。だったら誰かが来た時に用意された灰皿なのか?それも微妙な感じでNOであった。答えは美琴さんが話していた。ここのマンションの持ち主が鏡さんだからだ。美琴さんは数年前から、このマンションを借りて住んでいた。だから只の事務員が高級マンションに住める訳なのだ。こんな高級マンションを無償で借りている美琴さんって、鏡さんとどんな関係なんだろう。頭に浮かぶのは、結局のところ愛人の二文字だった。真相はわからないが、美琴さんは特別扱いされている。灰皿が用意されているのは、きっと鏡さんがマンションを訪れるからに決まってる。僕は予想しては、胸に奇妙な感情を抱くのだった。


この気持ちは嫉妬なのだろうか?誰に対する嫉妬なんだろう。19才になって始めて芽生えた感情かもしれない。いや、今までにあったかもしれないけど……


厚みが違っていた。僕は正しい解答を持ち合わせていないけど、この気持ちは今後、僕の生きる道で大きな苦しみを与えるだろう。灰皿に残った煙草は、僅かに煙を残していた。

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