They cherish~自分が大事~

傍らにいた彼は今焼けるような暑さを体験している。


暑さのあまりか、顔は歪みきっている。


起き上がればいい、と思った。


立ち上がればいいのだと。


当然が彼にはできなかった。


彼がなぜアスファルトの上横たわっているか。


なぜ苦悶の表情を浮かべているか。


なぜ数日降ってもいない雨が水溜りとなっているか。


答えは簡単であり、難関である。


彼は轢き殺され、たった今絶命したのだ。


雨は赤く色づき、広がっていく。


傍らには誰もいない。


涙をふき、抱きしめる者はいない。


見つめる私は思った。


ただ少し、強めに背中を叩いただけなのに…


一時間待たされた恨みをいたずらしただけなのに。


私は…私、悪くないわ。


誰も見てないわ。


彼が一人、大袈裟にこけただけよ…


彼は事故に…そう、ただの事故にあっただけよ。


私は悪くない。


哀しみの涙と歪んだ笑顔と自己防衛。


どれを捨てることも叶わず。


彼は死んだ。

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