第7話 イヤラシイわね!

「まず結論から言う。5階の女子トイレにカメラがしかけてある。やったのは本吉。気づいたのは小鹿野だ……大丈夫か?」

 ショックのあまり飲んでたお茶が違うとこ入ってむせかえってしまった。え! トイレにカメラ? しかもモトキチ? 私のあんなのとかあんなのとかがカメラに!

 恥ずかしさと嫌悪感と嘘だと否定したい感情とでパニクりそうになりながら、小鹿野さんと菅谷の顔を交互に見た。けど、2人ともまったく表情が変わってない。

「三宅、お前が俺にゴミ箱を押しつけたときの事、覚えているか?」

「忘れるわけないでしょ! あのとき小鹿野さんがトイレから出てきてぶつかりそうになって……」

「あのときトイレから出てきた小鹿野の様子がおかしいと思った三宅は、トイレの中で小鹿野が誰かとトラブルになったと思ったんだろう、すぐトイレに突進した。だが誰もいなかったらしく、拍子抜けの表情でトイレから出てきた……」

 そう、トイレでイジメでも起きたのかと思ったんだ、あのときは。

「そこまでなら、トイレの中でケータイに届いたメールの内容がショックで小鹿野が飛び出した可能性もあった。が、小鹿野や三宅は気づいていなかったと思うが、本吉はトイレ付近の廊下をずっとウロウロしていたし、トイレから小鹿野が飛び出してからずっとソワソワと落ち着かなかった。俺がトイレ前の廊下に座り込んだ時、まるで監視するかのように俺に張りいてきた。その後、5階に駆け上がってきた小鹿野が、俺の横にいた本吉の顔を見て動きが止まったとき、本吉に対して『もしや』という思いが生まれた」

 へー、そうだったの? そこは小鹿野さんも同じ思いだったらしく、目を丸くして菅谷の話を聞いている。

「俺はその推論に確信が持てなかった。だからあの後、廊下のロッカーの上にスマホを入れたバッグを置いて、監視アプリを使ってトイレ前の廊下を撮影しておいた。その結果がこれだ」

 菅谷が出したスマホの画面には、照明を落とした廊下に、非常灯と窓からの月明かりに照らし出された人物が、女子トイレに出入りする動画が再生されていた。画面の時刻表示は小鹿野さんとぶつかりそうになった日の21時過ぎ。暗いから顔立ちは不鮮明だけど、鳥の巣頭の長身は間違いなく担任のモトキチだ!

「たぶん、カモフラージュカメラの回収かメモリの交換のため入ったんだろう。夜間に廊下の照明を落としたままで女子トイレに入る、その段階でアウトだが、わからないのは小鹿野、お前が何故なぜ気づくことができたんだ? 小鹿野が5階のトイレの利用を避けていることからカメラの存在に気づいているのは分かったが……」

 何だって! 思わずちゃぶ台を叩いて文句言った!

「ちょっとォ! なんで菅谷が小鹿野さんのトイレの行き先を知ってるのよ! アンタ小鹿野さんをつけてまわってたの? イヤラシイわね!」

 菅谷はひるむ様子もなく、ため息をついて言った。

「三宅、お前、自分がどれだけ毎日いらんこと大声で喋っているか、全然理解していないんだな」

 え? そうなの? 小鹿野さんの方を見ると、困ったような顔で笑っている。

 ううう……次からは少し気をつけよう……。

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