12 俺はニコラス王国を救いにいくんじゃない……約束を守りにいくんだ

★★★

悪というのはそんなにも悪いものだろうか?僕はそうは思えない。いや、逆に悪というものはいいと思う。どの異世界でも悪と善がいるからこそ、その異世界は成り立っているはずだ。悪がない異世界などそんなのは平和ではない。

男は女が話している途中、ほかごとを考えていた。別に聞くまでもない。どうせわかりきっていたことだ。この女が来ることも、その話の内容も。

「悪い話ではないでしょう?」

「確かにそうだね……だけどね?君は僕達が殺し損ねた者なんだよ。つまりはそれほどまでに殺さなければならない人物と言うわけだ。そんな者を仲間に入れるとでも思ったのかな?」

優しい声音で言っているようだが、殺意むき出しだ。完璧に女を殺す気満々だ。

未だに顔も見せてくれない。男は背をこちらに向けたままで、1階の無残な死体をずっと眺めている。いや、顔が見えないからどこを向いているかわからないか。

「異世界最強の海賊〈異賊暴オーガ〉。その第1使徒〈神炎ウリエル〉の隊長であるあなたが裏切るわけがない」

「フーン……どうやら私のことを調べたらしわね。絶対にバレないと思ってたんだけどね」

「殺し損ねた者達を逃す我々だと思いますか?」

「いや、それはないと思うわ……異世界最強の海賊とか言われてるけど、異世界最強はユー達じゃないかしら?」

と、赤と黄色でライオンを思わせるような剣を男の頭に当たるか当たらないかぐらいのところでとめる。男は気づいているはずなのに、動こうともしない。

「おやおやこれは光栄です。〈異賊暴オーガ〉の第1使徒〈神炎ウリエル〉の隊長殿に言われるとは……」

「ふん。ユー達は私達の事を嫌ってるくせに?そうでしょ、レッカ?」

レッカと呼ばれた男は座っていた手すりから飛び降り、こちらに顔を向けた。太陽を背にようやく顔が見えた。リネンは笑顔だった。

「おやおや、まさかメーリス殿に名前を知られていたとは……それに、この僕に剣を向けているとわね」

「気づいていたくせにとぼけたことを!……っで、提案はどうするの?受け入れる?受け入れない?」

「そんなの答えは決まっているよ。僕らがまた動き出したのは彼が記憶を取り戻してしまったからだ。つまり――」

「受け入れない、と?」

「うんそうだね。〈異賊暴オーガ〉と仲良くしてても利益ないし、まさか第1使徒〈神炎ウリエル〉隊長が僕らの殺すべき者だなんてね」

「私への指令はこうです。『レッカという男と接触し、同盟を結ぶよう言ってこい。もし受け入れられなければ、レッカという男を殺せ』」

「えー怖いなー〈異賊暴オーガ〉の船長がそんなことを言うだなんてー」

レッカは笑顔で棒読みに言う。その笑顔が怖い。

「だけどねメーリス殿。……僕は君を殺さなければいけないんだ」

「あら奇遇ね。私もユーを殺さなければいけないのだけれど」


【では始めようか――】


2人の声が重なった。

先に動いたのはメーリス。剣を横に振ったり縦に振ったり、斜めに振ったり回転しながら振ったりしているが、すべてよけられる。メーリスは〈異賊暴オーガ〉の中では1番剣の速さが速い。ようは、スピードがウリだ。そのメーリスがレッカにかすりすらしない。しかも、レッカは剣すら持っていない。それに、ずっと笑顔だ。この笑顔は――危険だ。

レッカに隙ができた。そこを逃さず剣を振ったのだが、そこにはレッカの姿はなく、


「スピードが遅いねぇ」


と横から声が聞こえてきたと思うと、頸椎けいついを手の横で思いっきり叩かれ、意識を失い前かがみに倒れそうになる。が、すぐに意識を取り戻して地面に倒れる前に回転しながら剣を振る。レッカは予想をしておらず、背中をかする。メーリスはそのまま転がって離れた所で立ち上がる。

「痛いなー……まさかこの僕がねぇ……よくもアレを耐えたねぇ。普通の人なら気絶してるのに……」

「ふ、フフ……十分な時間稼ぎをした……」

「ほう?やはりそうでしたか……」

瞬間、ドカーン!と天井に穴が開いて、巨大な船が姿を現す。赤色と黄色の。〈異賊暴オーガ〉第1使徒〈神炎ウリエル〉の船だ。つまり、はめられた。予想はしていたのだが、まさか本当に来るとは。

「さ、さて……どうしますかレッカ……」

「さすがに船相手は……」

「ふん……」

レッカは強制的に受け入れるしかなかった。

――いや、これもすべて予定通り、か。


★★★

3階でそんなことが起きているとも知らずに(いや知るわけないんだけど)俺は歩いていた。新たなる獲物を探している蓮雄はまるで『狼』だ。

と、獲物が近づいてくる音がした。現れたのは当然だがゴースト。だが、

――なんで全員マッチョなんだよ。

そこにいたゴースト全員が筋肉ムキムキのゴーストだった。え?ゴーストも筋肉ムキムキになるの?こんなんに襲われてる俺って腐女子から見たらマジ興奮するよね。下の口いじるの止まらないよね。てか、なんで筋肉ムキムキなんだよ。おいそこ、なんでガッチガチやで!みたいに見せびらかしてんだよ。てめぇーはザブ★グルか?あん?ていうかなぜいきなりコメディーいれてきやがった!?

と、いつもならツッコミをしているところだが、今はそんな状態ではない。――ただ、捕食するだけだ。

蓮雄はすぐさま攻撃を開始した。……が、

【ムッキムキやで】

と筋肉マッチョのゴースト全員が、股間を叩く。蓮雄の足が止まった。

「いや待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!なんで股間なんだよ!普通は腕の筋肉だよ!なんで股間の筋肉がムッキムキなんだよ!おいそこ!思いっきり叩きすぎて股間押さえてんだろうが!痛いよな!?痛かったんだよな!?ふざけんなよゴルァ!」

「あ……」と気づいた時には既に遅し。思いっきりツッコんでしまった。てか普通ここで笑いもってくるか!?今までなんか戦闘シーンばっかでいい感じだったのになんで急にコメディーがでてくんだよ!なめてんのか!

【フリーダム(キリッ】

「なんではもってんだよ!」

何がキリッだ!何もかっこよくねーよ!しかもそのネタパクってんじゃねーよ!意味わかんねーし!

だが、何かが変わった気がする。

「そうか……ありがとよ龍架……」

そうニヤリと笑ってゴースト達に突っ込んでいった。あーいう意味じゃないからね。違うからね!?

今までの蓮雄は怒りと中の『狼』に任せて戦っていた。だが、それは蓮雄の本当の意志ではない。今までの蓮雄はおかしかったんだ。ツッコミをしない蓮雄なんて蓮雄じゃない。

そう、ツッコミをしない蓮雄なんて蓮雄じゃない。本当の蓮雄はあんな怒りと『狼』とは違う。それがわかった今の蓮雄なら、怒りと『狼』をコントロールできる。今の蓮雄こそ、

「本当の『狼』のお出ましだ!」

次々に筋肉マッチョのゴーストの筋肉を剥ぎ落としていく。数100体いたゴーストを5分で片付け、辺りを血の海にした。

一旦剣を消して歩き始めた時。どこからか声が聞こえてきた。

[んっん。あー聞こえるかー?]

俺の声だった。ということはヘルからということだ。

「あ、あぁ聞こえる」

[あー私捕まってしまってな。今、私のとっておきの魔法を使って話しておる。感謝しろ]

いや何に対してかわかんないんですけど。

[っで、どうやら龍架も牢獄に入れられてな、今隣におる]

「ほ、本当か!?」

[あぁ。……どうやらベール司令官が私達を怯えて撤退しようとしている。早く急がないといかん]

「わかってる。だからどうした?」

[貴様1人では不安だからな……後ろ見てみろ]

言われたままに後ろを振り返る。……うん見なかったことにしよう。

言われたままに後ろを振り返る。……うん見なかったことにしよう。

言われたままに後ろを振り返る。……うん見なかったことに――

[いい加減向けや!]

いや向けって言われても……何このモザイクの固まりは!おい!モザイクしかねーよ!ぜってぇ危ないもんだよな!?だよな!?

[……それは、『性器アタックNo.1』だ]

名前からして危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!なんだよ『性器アタックNo.1』ってぇぇ!だからモザイクなのか!?だからなのか!?アタックNo.1とかパクリじゃねーか!もう俺は知らねーぞ!

それにしてもこいつはなんなんだよ!ただのわいせつ物じゃねーか!警察に捕まんぞ!

[『性器アタックNo.1』。性別、★★★★★★]

★★★★★★ってなんだぁぁぁぁ!

[年齢26の童貞処女]

やめてあげてぇぇぇぇぇ!

[特徴あまりにも真っ黒と真っピンクなためモザイクがかかっている。ドッキング中なのでしばしば興奮する。抜けたら驚くほどの白い液がなだれでてきてすべてのものの行動を不能にする。攻撃は★★★を振り回す。しかし、抜けやすいためオススメしない。オススメは荒い息]

ツッコミどころが多すぎるぅぅぅぅ!?

[必殺技『★★★アタックNo.2』、『★★★アタックNo.3』]

なんだそれぇぇぇぇ!『性器アタックNo.1』の性器変えただけじゃねーか!

[『★★★アタックNo.2』。★★★から白い波動砲が放たれる。威力は子宮という名の敵を突き破るほど]

どんな威力だぁぁぁぁぁぁ!?

[『★★★アタックNo.3』。★★★から銃弾が乱射する。この流れ的にこの銃弾は★★★★だろう。威力は当たった者は強烈な臭いで気絶、または即死する]

『★★★アタックNo.3』恐ろしいぃぃぃぃぃぃぃい!

なんだこれぇぇぇぇぇ!R18だよこれ!わいせつ物だよこれ!ただのわいせつ物だよこれ!だからモザイクついてんのか!

てか★が多すぎて何言ってんのかわかんねーよ!

[まぁこんなところだ。仲良くしてやってくれ]

「できるかぁぁぁぁぁ!なんだよこれ!なんでこんなわいせつ物が生まれたんだよ!」

[あーえーとな、貴様を助けるために私の分身でも送ってやろうと魔法を使ったら、こいつができた]

「なんでだぁぁぁぁぁぁ!?」

[まぁきっと役に立つだろう]

「ぜってぇ立たねーよ!」

「あ、最後に、こいつは何度でも蘇るさ。アハッハッハッ!……こいつがいる限り、貴様と私は会話ができる。ただ、こいつは24時間しか動かない。そうつまり――

――1日でニコラス王国を救え」

「な……」

1日だと?そんなの無理に決まっている。いや、実際はあと5時間だ。ニコラス王国には5時間しかいられない。つまり、あと5時間でベール司令官を倒し、魔王リヴェルトンをぶっ殺さなければならない。

いや、だがそんなことはどうでもいい。

「……すまねぇーがヘルの命令は聞けねぇな」

[き、貴様!ふざけている場合じゃないんだぞ!]

「ふざけてなんかいない。だが、俺はニコラス王国を救うつもりはない」

[貴様……!ふざけるのも――]

「俺が学校で『正直すぎる界』と言われてるのは知っているよな」

[貴様!この時に何を言っている!]

「それはどういう意味か知っているか?」

[そんなことを――]

「知ってるかって聞いてんだよ」

[……し、知るわけないだろ]

「俺は嘘がつけねぇーからだよ」

[は?]

「俺は嘘をつかねぇ。1度した約束を破ることもできねぇ」

そこでヘルが思い出した。あの時した約束を。……貴様まさか!


「俺はニコラス王国を救いにいくんじゃねぇ。……約束を守りに行くんだよ……てめぇーらを助けに行くってな……」


そう言って蓮雄は走り出した。……かっこよく言ったけどあれって約束なのか?とヘルが疑問に思ったのはまぁどうでもいいだろう。

異世界救うなんてまっぴらゴメンだぜぇ。そんなん救うなら俺を救ってほしいもんだ。体返せよコノヤロー。俺は異世界救う暇なんてねぇーんだよ!(笑)


あ、と『性器アタックNo.1』を置いてきてしまったことに気づいて取りに帰った。てか俺が持ってかなきゃならねーんかよ!

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