11俺はただ捕食するだけだ

★★★

あの下ネタ暴動は置いといて……。

最近、昼間にもゴーストが現れるという情報が入ってきたらしい。経路は教えてくれない。まぁ女王だからね。そんぐらいの情報はあるだろう。というか、もうそんなのいいから入れ替われる装置作れよ。もしくは、どうやって戻るかの情報教えろや。早く体に戻りたいんだが。昨日の朝礼からなぜか俺は『学校のマドンナ』って呼ばれてんだぞ!魔李ちゃんものすごい怒ってたぞコノヤロー。俺今日のうちに死ぬかもしれんぞ!……と噂をすれば。

ガラガラと教室に入ってくる軍団が。あれ?前より減ってない?(笑)と言いたかったが、それを言ったら俺の首はない。まぁヘルの首ですけれども。

その魔李軍団は案の定俺の周りを取り囲む。

「ヘルちゃんヘルちゃん!」

おい急に元に戻りやがったぁぁぁぁぁぁ!?声変えたぞ!?やっぱり危機感があったか!?

魔李ちゃんはいつもの天然キャラに戻った。こちらのほうがいい。いや、こっちにしてくださいお願いします。

しかし、なぜかものすごい怖い。

「今日の放課後新しくできたデパートに行こうよ!」

なんと女の子らしいんだろう。

「う、うん……」

ハァ……面倒な約束してしまったな……。


★★★

放課後。ヘルには帰ってもらい、俺は愛しの魔李ちゃんとデート――間違えた、近くのデパートに足を運んだ。俺と魔李ちゃんとその他女ども、女子高生の集団がデパートとへと入っていく。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ大きい声で喋る。耳元でうるせーな。

中に入ってすぐに大きな樹が見える。その周りには座れるように長椅子で囲ってある。チラホラと座っている者がいた。俺なら座れない。なぜかって?理由なんてないよ?え?理由なんているの?全3階になっていて、1階が食事処やスーパーなど。2階が洋服店とか物売り。3階がゲームセンターやおもちゃ売り場など子供向け、となっている。デパートの真ん中がすっぽりなく、その周りを店が囲っている感じだ。天井からは宣伝やら何やらいっぱいぶら下がっている。あれ落ちたら面白いよな〜。

と、心の中でぺちゃくちゃ言ってるとゲームセンターに着いた。どうせプリクラだろ……と思った瞬間、ババババン!と銃の音が聞こえてきた。……おい待て。

見ると、魔李ちゃんを含む3人の女子がシューティングゲームをしていた。てめぇーら女子だろうが!しかもゾンビ系のゲームだし!少しは女子らしくしろよ!そこでキャー!とか怖いー!とか言ってみろあん?キャー!とか言いながら魔李ちゃん隣の女子の銃奪って2丁で打ってるんですけど!?あなた女子ですか!?バイオ★ハ★ードですか!?キャー!とか言いながら笑顔だからバイオ★ハ★ードより怖いんですけど!?精神的に大丈夫ですか!?

終わるとすぐにパンチングマシン。魔李ちゃんがうぉりゃ!と言いながら叩く。20。ハッ。他の女子もそんぐらい。ハッ。

そのあと格闘ゲーム。魔李ちゃんと俺との対決。なんで?

始まって早々魔李ちゃんがものすごいスピードでリモコンを操作する。ちょ待て!速すぎる!速すぎるって!あっという間に俺は負けてしまった。

そのあと太鼓★達人。さすが吹部とでも言うのだろうか、魔李ちゃんは当たり前のようにむずかしいレベルをフルコンボ。お?すご。じゃあ俺は鬼かな。と思いながらコインをいれ、魔李ちゃんと同じ曲を選択する。そしてドンドンとやると鬼モードが出てくるはずなのだが、なぜかスーパーサイヤアルティメットウルトラハードキラメキファイヤーコードノーマル鬼モード、がでてきた。いや長すぎんだろ!意味わかんねーよ!はみ出してんじゃん!隣のむずかしいモードに侵食してんじゃねーか!と、魔李ちゃんがバチでドンと押してしまった。いや待てぇぇぇぇぇぇぇ!

終わった時には俺の手と目と神経が死んでいた。……なんだよあれ……譜面でてこないじゃん……下にドンかカンしか書いてないし……それに加えて鬼レベルより難しかったわ……ナ★ト★オ★・★イツのゲームの太鼓★達人並に難しいわ。このゲーム機壊れてしまえ……。

そのあとはクレーンゲームやカードゲームとかいった男子がやるようなことをやっていた。結局、最後にプリクラを撮ってゲームセンターは終わった。

そのあと、飲食店に行きのんびりお喋りタイム。

「ねーねヘルちゃん!幽霊って信じる?」

と、隣の女子が話しかけてくる。

「し、信じるかな〜」

「へー!ヘルちゃんって信じるんだ!私はそんなに信じないな〜」

「えー信じないのー?私は信じるかな〜」

「じゃあ今度肝試しやってみる〜?」

「あ〜それいいかも!」

「えー怖くない?私無理〜!」

と女子の会話になってしまった。イマイチ入り方がわからん。

と、その時。キャー!と聞こえてくる声とともに、客が次々と逃げてくるのが窓越しに見えた。さすがに危険だと思い、他の客とともに店を出る。俺はチラリと後ろを向く。しかし、なぜ逃げているのかわからない。周りの人に聞いても、無視かわからないの一点張り。俺もここは逃げるのが1番だとわかったが、何やら魔李ちゃんが流れとは逆方向に走り出した。

「魔李ちゃん!?」

と叫ぶも反応を示さずにそのまま走り出す。他の女子は放ってそのまま走って逃げる。人はパニクると他の人のことなんてどうでもいいのだ。それが『人間』、異世界No.2地球の国民の特徴なのだ。自分さえよければ誰でも良い。そんなのは違う。俺の『勇者』の魂が許さない。

と、謎の魂に燃え俺は魔李ちゃんのあとを追いかけていた。数々の人々に当たって魔李ちゃんと距離が遠くなっていく。どうやったらそんな当たらねーんだよ。

ついには見えなくなってしまった。


その頃、デパートの奥ではゴーストが人々を食っていた。魂ではなくその本体まるごと。

辺りは血まみれで中には、足だけとか手だけとか人間の部分しか残っていない。

そこに、蓮雄が走り着いた。

「な――」

その光景を見て、蓮雄は声がでなかった。辺りは赤色。手や足だけの部分部分。ゴーストは蓮雄に気づきいなくなっていたが、逆にいてもらった方がよかった。こんな残骸を残して、蓮雄に見せつけるかのように。

と、その時天井を突き破ってヘルが現れた。ヘルが手があるところに着地をし、重みで手が潰れた。赤い華を巻き散らかして。

「ヘ、ル……?な、なんでそんなに冷静な顔をしていられるんだ……?」

「何を言っている。私の仕事はこういうものだ。こんなの……見慣れている……」

いや、見慣れてはいないはずだ。俺だってこんなの見慣れない。いや、見慣れるはずがないのだ。

ヘルはわざと見慣れているフリをしている。

「どうやら体ごと食うゴーストまで現れ始めたみたいだな」

「……し、死ね……」

「貴様。そういう感情は捨てろ。死ぬぞ」

「殺す……殺す殺す殺す!……俺は『勇者』だ!人を守れなくて何が『勇者』だ!くそっ!なんでこうなる前に気づかなかったんだ……!気づいていたら……こんなことに……!」

「悔やんでいても仕方が無い……しかし、どうにも都合が良すぎる……」

「俺に見せつけている……」

「あぁ……どうやら魔王リヴェルトンは貴様のことを知っているようだ……いや、魔王リヴェルトンを手助けしてるやつが……かもな」

「まぁそんなとこは俺にとっちゃどうでもいい。――今はただ、ぶっ殺すだけだ」

そう言いながら剣を出現させ、血まみれの中を歩いていく。もう俺には獲物を捕食するという気持ちしかない。その後をヘルも剣を出現させてついてくる。

「いいのか?」

「本当はこれは私の仕事。貴様こそいいのか?」

「俺は今、無性に怒ってんだよ――」


★★★

それを見ていたある男。ここからの眺めはやはりいい。いや、眺めてるのがいいのか。

それにしても、本当に面白い男だ。散々人を殺したくせに、今なぜか怒っている。意味がわからない。彼にも何かあったのかな?ますます捕食するのが楽しみだなぁ。おっといけない。あの方がいいって言うまでダメなんだっけ。あの方もあの方で面白い人なのだけれどな。まぁ楽しみはあとにとっておくのが1番、ってよく悪役が言うけど本当だねぇ。楽しみはあとにとっておかないとね。

そこにトントンと歩いてくる女が1人。

「おや?これまた珍しい人が来たもんだ」

「あら?私のデータもあるようね?よくできてること」

「僕はよくできてるよ。……それで、なぜあなたがここに?死ににきたのかな?」

「ハッ笑わせてくれるわね。だけど、ユーごときに私は殺せないわ。……少し面白いことがわかってねぇ。ユー達が殺し損ねたあと4人についてだけれど。ユー達にとって悪い話じゃあないのよ?」

「ほう?それはそれは興味深い。あなたを今すぐ殺したいのですが、まぁお聞きするだけしときましょう」

「わかればいいのよ」

女は不気味な笑みを作った。


★★★

今の蓮雄の頭の中にはどこかに行った魔李のことなどありもしない。今はただ、殺すことにしか頭にない。どうやらここにベール司令官もいるようだし、何せよここに地球に来ているすべてのゴーストがいる。もうここで地球にいるゴーストをすべてぶっ潰す。

と、しばらく進むとまた血が広がっていた。そこには無数のゴーストもいた。そして丁度、俺の目の前で『人間』を食った。足だけが残り、辺りに血が舞った。

「よぉゴーストさんよぉ。そんなに『人間』が美味しいか?……ならば、俺を食ってみやがれ!」

蓮雄が走り出すとともにゴーストも走り出した。

「ヘル!てめぇーは下がって見てやがれ!」

「わかっておる」

ヘルは黙って蓮雄を見る。死ななければいいがな。

四方八方から攻撃を受けるが、すべてを剣で受け止めすかさずカウンターする。1匹、2匹、3匹……と殺していく。

背中や足など切られるがおかまいなしに反撃。

だんだんと数が減ってきた。だが、まだまだ時間はかかりそうだ。

「そこをどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

と無双に殺していく。時にはゴーストの剣を手で受け止め、剣を奪って二刀流をしたり。

少し時間と怪我をしてしまったが、まぁ問題は無い。ノープロブレム。全員殺したが、まだもの足りねぇ。

蓮雄がそのまま奥に進むのを見てヘルは、フッと笑っていた。

奥に進むにつれ血の量が増えていく。そして蓮雄の傷から出る血の量も増えていく。

そして、ある店の前で止まった。その店は食事処で客達の食事の残骸があった。

俺は引き付けられるかのように店に入っていった。

すると、ある1席に人形のゴーストが座って紅茶を飲んでいた。

「やはり来ると思っていましたよニューヘル女王……いや……バグ・レオン」

「ほう?お前も俺のことを知っているようだな。やべっ俺って超有名じゃん。え?何?お金貰えるの?」

「……いろいろと変わっているようですねぇ。性格とか強さとかそして体とか」

「ふん。お前がどこのどいつか知らねーが、俺は変わっちゃーいねーよ」

「そうですか……てば1つお手を合わせても?」

「死ぬ覚悟があるならな」

そのゴーストが立ち上がって剣を出現させる。

「そういえば名乗っていませんでしたねぇ。私の名前はカリア・ケンです。以後お見知りおきを」

「カリア……どこかで聞いた気が――っ!」

蓮雄の声を止めるかのように、カリアと名乗るゴーストが剣を振ってきた。蓮雄は瞬間的に剣で受け止め、剣と剣が混じり合う。

「おいおいフライングはいけねぇーぜ」

「戦場においてフライングなどという言葉はない」

どうやらこいつ、戦場というのに慣れていやがる。こいつ、ゴーストになる前は『勇者』だったか?まぁどちらでもいい。とりあえず、先を急がねーと……なっ!

蓮雄がカリアの剣を上にあげ、空いた足を狙って剣を振る。が、カリアは上にあげられた剣を手放し、そのまま落ちていく剣の刃の部分を持ってそのまま持ち手のところを蓮雄の手首に強く落とした。その剣の持ち手ののところは蓮雄の手首を貫通していた。

落とされた衝撃で剣は離れたところに飛んでいってしまった。

カリアがグリグリと貫通した剣を動かす。蓮雄が声をあげる。

「こういう感じだったかな……前陰陽師のところで殺したゴーストのとき」

「!?」

ヘルは店の外で待たせてあり聞こえていないが、確かにこいつは言った。

「て、てめぇ見てたのか!――ぐわぁぁぁぁ!」

「はて?何のことでしょう」

「てめぇ……!」

蓮雄が貫通した剣を握る。そして力いっぱいにその剣を抜こうとする。だが、びくともしない。……こいつ……どんだけ力強いんだよ……!

蓮雄が力を抜いたその瞬間、カリアが剣を抜き蓮雄を蹴り飛ばした。蓮雄はテーブルやテーブルの横の壁や窓を突き破って通路に飛び出した。

「大丈夫か!?」

と、ヘルが近寄ろうとした時、ヘルの腕に剣が突き刺さる。カリアの剣だ。

「あれあれ危ないよー?」

「貴様……!」

ヘルが突き刺さった剣を抜き、カリアに投げつける。カリアはやすやすと受け取った。

蓮雄がビクビクと起き上がる。

「おいヘル……主人公の俺が言うことじゃあないだろうが、こいつは俺に任せろ……てめぇーは先に行ってろ。すぐに追いついてやるからよ」

「……蓮雄。やはりここはラノベ的に私が残るべきだと思うが」

「へっ……多分ヘルにこいつは倒せない……それよりもてめぇーはさっさとベール司令官を殺してこいや。それに、第3者から見れば、てめぇーが男で俺が女だ。もっとも、てめぇーのほうが主人公に見えやがる」

「……」

剣を持たない蓮雄がヘルの前に立つ。ここからは通させない……!

ヘルは無言で後ろを振り返る。

「死ぬなよ」と小声で言いながらヘルは奥へと走っていった。

「おやおや。女王の魂と自分の体を犠牲にしたと。そしてここであなたの魂と女王の体も消える……哀れですねぇ……昔と何も変わらない……」

「ほう?死ぬのはてめぇーだよ……カリア!」

「剣のない『勇者』に何ができるのですか?」

「ふん。俺の中には『狼』という武器があるんだ、よ!」

蓮雄は猛スピードでカリアに向かって走り出す。剣も持たぬ状態で。

おやおや……馬鹿ですねぇ……とカリアが思いつつ、迫り来る蓮雄を剣で斬りかかる。が、斬った感触がない。と、思った時には蓮雄がカリアの後ろにいた。さっきの食事処をめがけて走り出していた。

あなたまさか……!

と、カリアが思った時にはすでに遅し。蓮雄は食事処の中に飛び込んでいた。

蓮雄は中に入ると剣を手に取り、カリアの方を向く。が、カリアの剣が飛んできてすかさずよける。

し、しまった……!あれは剣じゃない!

と思った時には遅し。よけた先にカリアが立っていた。

カリアは、つまらなかったな……と目をつぶりながら剣を振った。斬れた感じがした。が、それは人肉ではなく蓮雄の服だった。

斬った服がカリアの顔にかかる。くそっ!と服をはらった時にはすでに上半身裸の蓮雄がカリアの胸を突き刺し、そのまま走って壁に追突する。まるで準備してあったかのように、その壁にとんがった木があり、カリアの腹の部分を貫通していた。

カリアは大量の血を吹く。その血が蓮雄の肌色を赤に染めていく。

「てめぇの負けだカリア」

「ふ、フフ……ゴブッ!……ま、まさか本当に『狼』に染まっていたとはね……ゲホッ!」

「てめぇを見つけた時からてめぇは……俺の獲物なんだよ。――俺はただ獲物を捕食しただけだ」

蓮雄はそう言いながら剣を抜いた。

と、同時にカリアが蓮雄を殴り飛ばした。そして腹から木を抜く。

「こんなもんで捕食される私ではない……!」

「そんな体で俺に勝てるとでも?」

剣を杖に立ち上がりながら蓮雄が言う。

「あなたもそんな体だ……ここはどうです?引き分けということで……ゴブッ!」

「へへ……誰がいつ勝負なんてした……」

「と、とぼけたことを……!」

「じゃ、じゃあ安らかにお眠りいたしましょうか……!」

と、カリアの心臓部分を突き刺して勝負が終わった。

剣を抜いて、蓮雄が立ち去ろうとすると、

「わ、私は……絶対に……絶対に……!」

それがカリアの最後の言葉だった。


蓮雄を背に奥に進んだヘルは次々に襲いかかってくるゴーストに苦戦していた。やはり集団相手には私は向いていない。魔法もそんな瞬間的に使えるわけではないし、剣術もそこまでうまいというわけではない。このままでは……このままでは死んでしまう……!と、その時。ゴーストの動きが止まり、後ろに引いていった。

と、後ろから都茂龍架が現れた。巫女みこ風の着物を着て。

「ここまでくるとはたいしたものです。あのカリアを殺してしまうとは」

「ふっ……何言ってるんだ……カリアの相手は蓮雄だ」

「おや。蓮雄を犠牲にしてまで奥に進んでくるとは……それでも女王ですか?」

いつもの重い声。やはり不気味だ。

「私はあいつを信じただけだ。必ず来てくれると、な。それに、蓮雄のことだ。貴様も救いにくるだろう」

「そうですか……ならば本当に地獄の底まで来てくれるか試してみましょう」

龍架がニヤリと笑うと、ヘルは強い自信を持って龍架の魔法陣の中に入っていった。

「お楽しみあれ」


★★★

蓮雄は剣を引きずりながら通路を歩いていた。なんだこの通路。一向に奥が見えない。このデパートそこまで広くはないはずだ。さすがにおかしい。いや、まぁ誰の仕業かまぁだいたいはついているが。しかし、ヘルの姿が見当たらない。もうそんなに奥に進んだのだろうか。

と歩いていると目の前にある女が現れた。

「都茂龍架……」

「どうも」

やはりこれは龍架の仕業だった。

「おいてめぇ……ヘルをどこやった」

「ヘルさんの意志を尊重したまでですが?」

「まぁだいたい場所はわかった。じゃあそこをどけ。俺はベール司令官に用があんだよ」

「わかっています。しかしながら、ここから先は通せません!」

呪符を2枚取り出しながら天井高く飛ぶと、呪符にあらかじめ採っておいた人の血を呪符にたらす。すると、1枚が紫色に光り、もう1枚が緑色に光る。それを地面に投げつけ、一定時間光ると、そこには陰陽師の寺で戦ったらしい『蜘蛛くも』とおのを持った2本足で立っている大きな『牛』が現れた。またも厄介なものを。さすがに2体同時はキツイ。できれば1体ずつがいいのだが……しょうがねぇ2体同時に相手してやるか。こんな怪我だが、まぁ大丈夫だろう。蓮雄はそう判断をし、剣を構える。

ウォー!とシャー!という、

「クズどもの威嚇など、俺には通用しねーぞ、ゴルァ!」

と叫びながら2体に向かって走る。真の『勇者』っツーもんをみせてやらぁ!

『蜘蛛』と『牛』も同時に向かってくる。

「さぁ楽しい捕食バトルの始まりだ――」

と小声で言った。

先に『牛』が斧を振り下ろす。蓮雄はジャンプしてよけ、そのまま顔に剣をぶっ刺そうと思ったが、『蜘蛛』が天井に蜘蛛の巣を張り巡らせてそこから糸1本でぶら下がり、蓮雄の目の前に顔を出して、口から糸を吐き出してきた。蓮雄は剣で糸を切りながらそのまま地面に着地した。と思ったのはつかの間、『牛』が斧を横払いしてきた。蓮雄は反応に遅れ、そのまま斧に横に吹き飛ばされ、壁に激突した。……やはりなかなか簡単には倒せねーようだ。だが、もうてめぇーらは俺の獲物ターゲットだ。

蓮雄は壁から抜けると、改めて『蜘蛛』と『牛』を睨みつける。阿呆な間抜けヅラだ。

と、容赦なく『蜘蛛』は糸吐き出して俺を捕まえようとする。が、蓮雄はよけたり糸を切ったりして一向に捕まらない。『蜘蛛』が糸を吐くのをやめると、『牛』が斧を振り下ろしてきた。が、蓮雄は剣1つでその斧を受け止めた。地面がドーム状にへこむ。そこを狙って『蜘蛛』が蓮雄に向かって突進してくる。そして、そのまま激突。が、斧の下敷きになっていたのは『蜘蛛』だった。斧に斬られ、真っ二つになっている。

『蜘蛛』が蓮雄に激突する瞬間、蓮雄は斧を上にあげ、そのままよけ、『蜘蛛』の上に斧が落ちたのだ。蓮雄の作戦勝ちだ。1匹ゲームセット。残るはあの『牛』だけだ。

『牛』がいつものように斧を振り下ろしてきた。蓮雄はジャンプしてよけトドメを刺そうと『牛』に向かおうとした瞬間、『牛』が斧を上に振り上げた。蓮雄もそれは予測しておらず、斧に当たって天井に叩きつけられた。煙の中からポツポツと血が落ちてきた。

ウォォォォォォォー!と『牛』が叫ぶ。その風圧で煙が消える。が、そこに蓮雄の姿はなかった。

蓮雄は『牛』の頭上に乗っていた。

「これでてめぇーも終わりだ」

蓮雄が『牛』の頭上で飛び上がりそのまま一直線に『牛』を斬り殺した。

地面に着地すると、剣についた血を払った。

「こんなもんか?」

「くっ……ゴースト達!爆颶蓮雄を食ってください!」

無数のゴーストが現れる。

「お前何もわかっちゃーいねーな……俺はてめぇーを救いに来たんだよ。俺を救って欲しいところをわざわざてめぇーを救いにきてやったんだよ。まだわからんか」

「だ、黙りなさい!」

ゴースト達が次々と襲いかかってくる。が、やすやすと蓮雄は殺していく。

「気づけ!くっ!お前は!ウォリャ!あいつらに!利用されてるだけ!なんだよ!」

途中途中途切れてよくわからない。

「この戦いが終わったらお前も殺されんぞ!だから!俺らのところにこい!」

「……う、うるさい!」

「てめぇーは1人じゃねーんだよ!まだ俺らがいんだろ!」

「……っ!」

なぜ都茂龍架がゴーストを手を結んだのか。それは『いじめ』である。都茂龍架はいじめられていたのだ。陰陽師の子孫ということで、学校中からいじられ、学校中から気持ち悪がれた。それは今も続いていた。『いじめ』によって、人が信用出来なくなった龍架は心に大きな闇に取り付かれてしまったのだ。

これがヘルが調べた情報だ。つまり、龍架は人が信用できず、ゴーストに頼ってしまったというわけ……ではなく、ゴーストとともに人間に復讐するのが本当の目的だろう。しかし、そんな過ちはさせない。俺が、させてたまるものか!

「目を覚ませ龍架!てめぇーはそんなので復讐してるつもりか!」

いつの間にかすべてのゴーストを殺し終えていた。今、ここにいるのは蓮雄と龍架だけだ。

「人間はすぐにそう言う。だから逆に信用できない」

「うるせぇ!信用できるできないの問題じゃねぇ!俺を信じろ!俺はお前を必ずその闇から解き放してみせる」

「フ、フ、フフフフフフフハハハハハハハハハ!……あなたを信じろと?闇から解き放してみせる?笑わせないでくれませんか?もう今更遅いんですよ……もう……」

「遅くなんかねぇ!お前にはまだ『光』っツーもんがあんだろ!」

「どこにあるって言うんですか?」

「お前……わざとここに俺をここに来るよう仕向けただろ?それに、俺の封印されてた記憶を解き放ったのはお前、龍架だろ?」

「な、なわけないでしょう?なぜあなたのためにそんなことをしなければならないんでしょうか」

「おかしいんだよ。急に魔李ちゃんの態度が変わるわけがない。それに何もかもが都合よすぎるんだよ」

急に変わった魔李ちゃんの態度。そんな、俺を嫌っている魔李ちゃんがデパートなんかに誘うはずがない。そして行ったデパートがゴースト達に襲撃に合う。タイミングがよすぎる。あまりにも、自然的に起こったことではなく、誰かによって意図的に起こったこと。

記憶が戻った件もそうだ。あまりにもタイミングがよすぎるんだ。

「お前は俺らが入れ替わっていることを知った時、過去を覗いただろ?」

「……」

「ヘルの過去は簡単に除き込めたが、俺の過去はそうもいかなかった。手こずったんだろ?そして龍架はいい方法を思いついた。俺の過去の魂を呼び覚ますこと――」

「何もかもバレてるようですね……あぁそうですよ。私はあなたの、爆颶蓮雄の過去を覗いてしまった。フとした気持ちで見たものが、外部からの力によって封印されていた。それがますます除きたくなってしまったんです。どんだけ頑張ってもその封印は解けない。そこで、外部からではなく内部から解き放とうと思ったのです。魂というのは個体1つによって魂が1つまでと決まっているのです。魂が1ついじょうになると、魂がパンクし内部から爆発する。それを狙ったのです」

「そしてあの森でのこと。俺を襲ったゴーストは殺すためではなく、そのゴーストの魂を俺の体の中に入れるため」

「はい。見事に成功しました。しかし」

「封印していた力が……あまりにも強すぎた……」

「そうです。封印していた力が強すぎ、体が反応を起こしてしまったのです」

「それが、あの暴走した俺……というわけだな」

「はい……」

「こちらは十分にわかった。が、なぜ俺をここに来るよう仕向けたんだ?」

「……それは言えません」

まぁ言わないことぐらいわかっていた。だが、これで龍架に少しでも『光』があることは大きな収穫だ。俺の予想だが、龍架はこの暴動を止めてほしくて俺をここに呼んだ、つまり龍架にはまだ『光』がある。

俺は剣を消した。

「そうか……」

「どうやら、私は反逆者とみなされたようです……」

突如、龍架の下に大きな魔法陣ができる。そして魔法陣からいくつもの赤い手が出てきて、龍架を拘束する。そして、どんどんどんどん龍架が魔法陣の中に吸い込まれていく。

「蓮雄君。優しいことはわかってます。だが、私の『闇』はそんなもんでは取り除けませんよ?」

その言葉を最後に龍架は魔法陣の中に消えていった。

取り残された蓮雄。また救えなかった。また。

龍架を連れ去ったのはベール司令官、もしくは魔王リヴェルトンで間違いない。

――今度こそ、救ってみせる!

――ぜってぇに許さねぇ!魔王リヴェルトン!

蓮雄はさらなる殺意を持って奥へと進んでいった。

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