第10話 処刑騒動後日

ピジョンブレステッド

相変わらずな鳩胸である。


そこの二階の一室に、アドフィルゲイン・ノーザンホークが滞在という名の軟禁状態である。


窓からは日が高く昇り、もう朝はとっくに過ぎていると思う。



アドフが起きたのは、朝方で丁度日が昇った頃であった。


起きた後、体調はすっかり良くなった事を実感し、長時間寝込んだこともあって、すぐにお手洗いを探した。


見た感じ、あまり高価な宿ではなかったので、きっと共同トイレだと当たりをつけて、階下へ降りた。


階段を降りてすぐ右手には手洗い場と書かれたプレートがかけられており、男性用だと思われる方へ入った。


まぁ、普通男性用に女性が紛れ込む事はないので、そういったイベントは発生は残念ながら発生しない。


手洗い場から出れば、丁度宿屋のエプロンをした男性に会った。見た感じこの宿の主人だろうか。


「やぁ、おはよう。君がガーディのツレの方だね。

ガーディからは、君をあまり外に出さないでくれと言われているからね。朝飯は部屋に持っていくよ」


愛想の良い主人に話しかけられたが、どうやら俺の事は気にしてないようだ。


「おはようございます。俺はもう少し部屋にいます。朝食楽しみにしてます」


彼はガーディという名前だったか。命の恩人の名を知らなかったのは、失礼だったな。


「おう!楽しみにしてな!」


元気な主人の返事を聞き、一礼すると、俺は部屋に戻った。それから30分位して、朝食が出てきた。メニューは、黒パンとスープ、サラダにメルジアという魚の塩焼きか。この国は海に面していないので、魚は貴重だ。久々の魚料理を堪能することができた主人に感謝だな。



食事をしてから、幾分が過ぎただろうか。


太陽は既に高いところにある。


昼にはまだ早いが、もう3刻ほど経っているだろう。


最初は状況整理をしてみたが、なぜあの少年が行動を起こしたのか、結局まったくわからなかった。


結局は本人に聞くしかないという結論に至った。




本当にやることがなく、落ち着かなくなったところに、昨晩聞いた声が耳に届いた。


「アドフさん、調子はいかかですか?」


旅人がよく使用する灰白色のローブを身に着けた少年が扉を閉めながら聞いてきた。


何が嬉しいのかニコニコと屈託のない笑みを浮かべている。


「あぁ、だいぶ調子は良いみたいだ」


そっか、と笑みを絶やさないまま、呟いた少年は言った。


では、まずはお家に帰りましょう。


少年は、俺の肩に触れ、何かを呟き、そして一瞬視界が歪んだ。



***********





さて、僕こと、ガーディは、一度ノーザンホーク家を出てから、まずは王都の状態と王宮内のチェックを行った。


理由は単純。しっかりとアドフは死んだことになっているか確認するためである。万が一【スケープドール】が見破られていないか確認する必要があった。


王都での調査では、しっかり、騎士団長は処刑され、副騎士団長が騎士団長に就任されたと話がなされていた。


「とりあえず、街は問題なしと……」


次は、いよいよ王宮だ。ここは慎重に行かないといけないし、まずただの子供が自由に行き来できる場所ではない。


なので、久々のチートアイテム。透明マントだ。このマントの原理はまぁよく解っていないが、風属性と光属性・闇属性を付与した布地に、特殊な魔物の吐き出す糸で編み込んだ逸品である。つまり量産は原則不可能だ。劣化版なら、自分の創造魔法で作り出せるが、ここまで、遮音性・気配遮断・隠密性に優れたものはたぶん創れと言われれば、自身は、ない。


しかし、ストックは複数あるので問題ないし、破れても、復元魔法を使えば、ほぼ元通りになるから、余程消し炭にならない限り、再生は可能だ(あれ?今のフラグかな……)


まずは城の警備周辺を伺う。


騎士が数人いる。どうやら稽古後の休憩中みたいだ。


「レイノ副騎士…騎士団長、今日はすごく機嫌良いですよね。訓練も張り切っていたし。やっぱりアドフィルゲイン騎士団長のことすごく嫌ってたんですかね」


「そりゃそうだろう。自分よりも20歳以上若い奴が自分の上に立つんだ。プライドのある奴ほど嫌な気分になるだろう」


「でも、まさかアドフィルゲイン騎士団長が処刑されるとは思いませんでした。俺結構好きだったんですけどね。体術も剣術も指揮力も桁違いに熟せちゃう人でしたから」


「まぁ、俺たちはまだ新人の部類だからそう思うんだけどな、ベテラン層はやっぱり皆多かれ少なかれ、アドフィルゲイン騎士団長の事はあまり良くは思われてなかったぞ」


「そうっすか。出来すぎるのも困りもんっすね」


「あぁ、そうだな。若い奴らは皆、アドフィルゲイン騎士団長は無実だと考えている。大方、国の上層部や副騎士団長らが企てたんだろう。それに、噂でしかないが、第二皇子も加担しているって噂だ」


「えっ?第二皇子がっすか?あのクールで氷結に咲く一輪の花のような儚げな第二皇子ですか?」


「なんだ、その第二皇子のイメージは、突っ込みどころ満載だぞ。まぁ、あくまで噂だ。だが俺を含めて、若い奴らは、アドフィルゲイン騎士団長は冤罪だと皆思っている。騎士団長を助けられなくて皆悔しがっているが、上層部に目を付けられかねないから、何でもないように振舞っている。お前も気を付けろよ」


「了解っす。あっそろそろ休憩終わりっすね。戻りましょう」


「あぁ、そうだな」


話の内容的にやはり、上層部だな、いつか現国王を失墜させるために動いている。そのための、砦崩しね。


もう少し調査を続けよう。




この奥が重臣たちしか入室できない塔だな。


こっそり入るけど。ドアもすり抜けるけど。チートグッズで隠密レベルMaxだ。


さて、会話を頂戴しますか。


「アレクシス第二皇子、この度はご協力ありがとうございました」


「なに、こんなこと僕にかかれば簡単なことさ。まぁ、もっとあのノーザンホークの脳筋騎士団長が処刑時に泣き嘆いてくれればもっと楽しかったけど、ある意味あの何もかもあきらめた表情は最高だったね。これだったら、処刑前にもっと拷問しておくんだった。失敗したなー。でも、中々良い玩具だったよ」


「これはこれは気に入ってもらって何よりです。して、アレクシス皇子、あの愚かな元騎士団長の遺体はどうされたのですか?」


「あぁ、あの後ちょっと加虐心が湧いちゃって、裏に遺体を下げたらグチャグチャにしちゃった。飽きたから、その辺の奴らに片づけさせたから、わからないけどもう残ってないんじゃない」


「それは……。実はあの騎士団長の遺体を欲しがる酔狂な奴が現れまして、処刑完了後引き渡すように、陛下と取引をしたようなので、その遺体を引き渡せないとなると、少々問題になるかと」


「まぁ、大丈夫じゃない?どうせそいつ平民かなんかなんでしょ。困ったら殺しちゃえばいいんじゃないの?」


「それはそうかもしれませんが、たとえ虫けら同然の民でも国王が約束を破ったとなれば、国民は良い顔しませんぞ」


「大丈夫、僕が何とかするよ。だから君は黙って僕に付いて行けばいいのさ」


「はぁ、わかりましたよ皇子。あなたにすべて任せます。しかし無理はなさいませぬ様お気を付けください」




ガーディがいた場所とは違う方向に向かって足音が響いてくる。どうやら会話は終わったようだ。


今の話を聞くに、スケープドールは上手くいったらしい。


後は、(偽の)アドフの遺体を貰いに行くか。

にしても、第二皇子ゲスイなゲスの極みだな。

ミンチにしたいくらいだ。

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