第六部 四章 -誇るべき力を奮わせて-

 午前中はトロノ支所の中で筆記試験を行い、午後は実技の試験として訓練場へと受験者達は移動する。試験監督は私も話した事が無い別の町から来た召喚士だった。

 インヴィタドと自由に活動する資格を与えられる物であり、試験は当然厳格に審査される。実技の方を重点的に評価されるとは言え、私は筆記にも集中して取り組んだ。

 回答を求められたのは召喚陣に触媒として使用される応石や植物の名前、そしてその触媒を利用して現れる異世界の住人の傾向や誤って呼び出した時の対策方法。セルヴァやピエドゥラ周辺で確認できる鉱石はわざとあまり出題されていなかった。まぁ、それなら東ボルンタに住んでいる自分達には有利だし。

 予習はしておいたからその辺の問題は答えられたと思う。問題はこれからの実技の方だ。

 「引き続き実技試験を行います。準備はお済でしょうか」

 他に浄戒召喚士試験を受けるのはチコとルイさん、イラリオさんとマリタさん。私を含めても五人しか訓練場へ来ていない。午前中の試験で一緒だった他の受験者達はそれぞれまた別の資格試験を午後に受けるらしかった。今回は既に浄戒召喚士の資格を持っている人達も多かったみたい。

 「いつでも」

 チコが前に出て、その一歩後ろにフジタカが立っている。背中に背負った剣をまずは抜き放つ。

 「これから課すのは、いかに素早く受験者のインヴィタドが的確に試験用で召喚したインヴィタドを退治するかです」

 私の横でレブが鼻息を噴出する。やる気も体調も万全。あとは私が失敗しないだけだ。

 「受験するにあたって、条件が幾つかあります。まず、召喚士はこの場から動かずに指示を出す事」

 「え……」

 試験監督が最初の条件を提示した段階で一人、私やチコよりも数年先輩の召喚士であるマリタさんが困惑の声を洩らした。今回の受験者の中で私以外では唯一の女性召喚士だったので、移動中は何度か試験の手応えについてコソコソと話していたんだけど……。確か、実技の方はまだ少し不安があると言っていた。だからその分筆記に力を注いだそうだ。

 「次に、召喚士自身の加勢は一切禁じます」

 「………」

 もう一つの条件に今度は私が胸元の首飾りを押さえる。それは、私の魔法を使う事が禁止という話だ。

 これまでは何度もレブやカルディナさんのゴーレムを相手に魔法を使う時間を作って自分に慣らしていた。だけどその時間や成果を活かすのは今日ではない。いつか無駄にせずに済んだと思える時が来るまで、今は切り替えて挑む。

 「質問」

 そこにチコが軽く手を上げて試験監督を見ている。……今日の顔色は悪くない。痩せたみたいだけど前よりも精悍な顔付きになっていた。

 「どうぞ」

 「召喚士自身の、という事は召喚士が召喚陣で新たにインヴィタドを追加するのは可能って事ですよね」

 チコからの質問に監督はすぐに頷いた。

 「もちろん。小悪魔を多量に呼び出して戦おうとする召喚士もいましたからね。召喚士の魔力が続く限り、何体呼び出してもこちらは構いません。」

 それはつまり、一体で勝てる相手ではないのかも。その時々、試験監督によって実技の傾向が変わってくるという情報しか私達は掴んでいない。

 一人一人があらゆる状況に対応する為にそれぞれ違うインヴィタドを用意された事もある。またある時にゴーレム作りが得意な召喚士に特大のゴーレムを召喚させて受験者全員が力を合わせて戦った試験もあったそうだ。

 「………」

 私に必要なのは用心深さではない。今は自分の力を、レブを信じて、胸を張って誇る事。それが私達の力に替わる。

 「受験者の資料を読みましたが、皆様方は全員が実際にビアヘロ退治を経験されている方達です。実績を考えれば合格を狙うのはそう難しくないと思います」

 他の三人がどんなビアヘロと戦ってきたかは知らない。誰が倒したかではなく、どんなモノが倒されたかばかりを気にしていたから。どんな風に倒すのが有効かは筆記でも出題されていたが、誰が倒したかなんて歴史的問題は一切ない。

 だけど試験監督は把握した上で私達にこれから実技を行わせる。だとしたら私とレブや、チコとフジタカの戦績も知っている筈だ。それでもアルコイリスは禁止されないのかな。様子を窺ってみたけど、特に何かを言われる気配は無い。

 あとは、チコがどうしたいかを決めるだけだ。自分自身で挑むのか、すぐ隣にいる人狼の力を借りて戦うか。フジタカは手伝うつもりみたいだけど、まだチコの前に立とうとはしていない。

 「それでは、今日受験者の皆さんが相手をして頂くインヴィタドを紹介しましょう」

 試験監督が取り出したのは、若干汚れてはいるが何か白い物だった。手の中でからからと転がすと急にそれをばら撒いてしまう。

 「ふんっ!」

 監督が拳をしっかりと握ると散らばした牙の様な白い物が、犬歯の先の様に尖った部分から地面の中へと潜っていく。そして数秒で変化は起きた。

 「ウゥ……!」

 「ウゥァ……!」

 ぼこ、と土を下から掘り返して現れた異形にルイさんが一歩下がった。聞く者の胸を絞める程の呻きを上げながら出てきた対戦相手は尚も数を増やしていた。

 「……スパルトイ」

 「お見事。ザナさんには加点をしておきます」

 対峙する相手を見て私が名前を言い当てると監督は暢気に答えた。それを聞いて他の受験者達もざわつく。これでまた一歩、合格に少しでも近付けたのかな。

 スパルトイ。それは泉を守る黄金の竜の歯から生まれる兵士だった。歯を撒いた者の言う事を聞き、その身体は疲れ知らずで戦い続けられると聞く。

 その姿はさしずめ動く人骨と植物を合わせた物に似ていた。最低限の骨格を持ち、筋肉の代わりに植物状の蔦が全身に絡まっている。関節や筋肉のつもりだろうが、その蔦が逆に動きをぎこちなくしている様にも見えた。

 「今回はこのスパルトイを相手に一定時間戦って頂きます。倒すのみならず、耐えしのぐという戦い方も場合によっては評価されます。まだまだ数は用意できるので、存分に戦ってください」

 あの歯は竜から取らないと手に入れられない。だとすると、この試験監督はテーベの竜を倒したか召喚して直接採取したか。どちらにせよ、相当の手練れだと思う。

 「……では、どなたから?」

 「俺だ」

 真っ先にチコが名乗りを上げる。誰も口を挟む隙も無い即答だった。

 「よろしい。では、位置についてください」

 監督の指示に従い、訓練場の指定された場所へにチコが移動する。その後ろにはフジタカも続くが、未だに前へは出ない。

 「……準備は?」

 「これだけ」

 スパルトイも四体のろのろとチコの正面へと移動する。フジタカを前に出そうとしないチコに流石に試験監督も確認で尋ねたが彼は召喚陣を地面に三枚のみ放って腕を組む。

 「お願いします」

 「……では、はじめぇ!」

 監督の号令と共にスパルトイが走り出す。その動きは定位置に移動した際とは雲泥の差で素早かった。

 「来いやぁ!」

 そこに、目くらましと言える程に強烈な光がチコの声と共に発せられる。その場にいたほとんどの者が目を腕で覆い、光の強さが弱まった頃に腕を退かすとその光景に目を見張る。

 「行けぇ!」

 チコが召喚したのはスライムとゴーレムにサラマンデル。どれも核を起点にして実体を持たず、自分の操作で動かす必要のあるインヴィタドだった。精霊であるサラマンデルも自発的に相手を倒さない。チコの方から働き掛けないといけないのだから負担も大きい筈。それを一気に召喚しけしかけた。迷わず進むゴーレムとサラマンデル、そして遅れる様にずるずると這うスライムは間も無くスパルトイに接触する。

 「アァ……!」

 「ゴーレムっ!」

 スパルトイの振り上げた腕をチコと同じくらいの大きさをしたゴーレムがなんとか左腕で受け止める。しかし、その直後もう一体のスパルトイがゴーレムの胴に鋭利な腕を突き込んだ。

 「アァウ」

 手応えを感じて喜んだのかは分からないが短く声を洩らしてスパルトイが腕を横に薙ぐ。体の均整が崩れたのか、ゴーレムはガラガラと下半身を崩してその身長を半分ぐらいにされてしまう。

 「今だ!スライム!サラマンデル!」

 「アァァァァァ!」

 崩れたゴーレムの隙間を埋める様にスライムが入り込み、破片を凝縮させてスパルトイ三体の足を一気に固める。そこにサラマンデルが炎を一気に吐いてスパルトイを黒焦げにした。

 「よっし!」

 ゴーレムの核が徐々に崩れた下半身を再構築し始める。その横でスライムもサラマンデルの炎で蒸発しなかった分だけだが再生した。

 「アァアウ!」

 「しまった!」

 しかし残り一体スパルトイは残っている。その一体が飛び掛かり、まだ移動できないゴーレムの核を腕で一突き。すぐにガラガラとゴーレムは崩れてちょっとした岩の山を築く。

 「く……サラマンデル!」

 「アァァ」

 良い調子を乱されてチコが慌ててサラマンデルへ指示を出す。しかし火蜥蜴の精霊が炎を口から噴出した時には既にスパルトイは跳んで躱していた。しかも近くにいたスライムの大部分が炎で焼け溶けてしまう。

 「しまっ……!」

 サラマンデルの炎を止めさせてももう遅い。スライムは核がへたれて粘液部分から完全に露出した。そしてサラマンデルもスパルトイの腕を頭に叩き込まれた事で消え去ってしまう。

 「そう簡単にはいかないか……!」

 一歩後ろに下がってチコは舌打ちする。スパルトイの虚ろな目らしき部分が彼を捉えると体の向きを変えた。

 「この……もう一度だ!来いやぁ!」

 スパルトイが走り出すと同時に再びチコが召喚陣を輝かせる。飛び出てきたのはゴーレムとスライムのみ。

 「うっ……!」

 しかし急にチコが口を押えて前屈みになる。どうしたと思えば、ゴーレム達の様子がおかしい。

 「あれって……」

 「あぁ」

 私の隣で観戦するレブも目を細めた。

 「出し過ぎだ」

 ゴーレムもスライムも明らかに先程の比ではない大きさで出現していた。スライムに至ってはロカへの道中で出したのと同じか、それ以上。まるで出せるだけ出したと言わんばかりの量だった。ゴーレムはまだ制御できる範疇内の大きさに見えるけどスライムはまともに動きそうもない。

 「ぐぅ、うぅぅぅ……!」

 それでもチコは胸を押さえながらも前を見た。再び走るスパルトイを倒そうとゴーレムは右腕を薙ぐが器用に跳んで避けられる。

 「あ……!」

 本当はチコの試験中だ、誰も喋ってはいけないのに声が洩れてしまう。スパルトイがゴーレムの肩と腕に足を乗せて着地してしまったのだ。

 「ふ……!」

 頭の核を狙ってスパルトイが腕を振り上げる。しかしその土壇場でチコは笑った。

 「今だ!這い上がれぇ!」

 チコのスライムが急にぶくぶくと泡立つ様に蠢き、急にゴーレムの腕を昇っていく。勢い良くスパルトイの足を絡めて相手は体勢を崩して後ろに倒れる。

 「おぉぉらぁぁぁ!」

 チコの動きに合わせてゴーレムがスパルトイに岩の腕を思い切り振り下ろす。私達の足元を揺らす程の地響きを立ててスパルトイは粉々にされた。

 「はぁはぁ……どぉだぁ!」

 汗だくのチコが勝利を確信し腕を突き出す。

 「では追加です」

 しかしその表情を歪めんと試験監督は更に四つの牙を地面に撒いた。再び、スパルトイが四体現れてしまう。仕切り直すにはチコの消耗が激しい。

 「……こうなりゃ、奥の手だ!」

 チコが手を開いて高く掲げる。するとスライムが跳び、一気に大きく広がるとそのままゴーレムを呑み込んだ。そんな姿は誰も見た事が無い。

 「……名付けて、スラレム!」

 ゴーレムをスライムで包み込んだ、言わば粘液まみれの岩人形をチコが紹介してくれる。そのまんまの名前にイラリオさんが笑いを堪え切れずに吹き出した。

 「ただ動きを鈍くしただけでは……」

 試験監督も思わず苦い表情を浮かべながらもスパルトイを一斉にけしかける。手数に対して手数で対抗していたチコが数を減らしたら不利になるのは目に見えていた。

 「な……!?」

 スパルトイの一撃が見舞われようと腕が、足が上がる。しかしそのいずれもスラレムには届かない。その奥にいる召喚士、チコは腕を組んで歯は見せずに笑った。

 「強度も上がってるんだよ、特に物理的な攻撃にはな!」

 ゴーレムの弱点は岩と岩との継ぎ目部分だ。そこは核の魔力を帯びてかろうじて繋げられているだけ。その魔力が強固でなければ、木の枝一本をすっと差し込むだけでゴーレムは形を維持できない。まして、大きな岩で構成されたゴーレムは余計に核から岩と岩との距離が離れるから魔力を帯びさせるのも一苦労になる。

 そんな巨体のゴーレムを維持するには多大に魔力を注ぎ込むしかない。そう思っていた私の考えをチコが目の前で上回って見せた。

 スパルトイの腕は巨体のスラレムを狙って外す事は無い。しかし、粘液部分がスパルトイの腕を捉えて肝心の継ぎ目部分に届かない。届かせる前にスライムの核が今度は自分の身を凝固させていた。

 「こんな事もできんだぞ……!」

 チコが言うのと同時にスラレム自身から粘液が飛び散る。そして後ろの方に待機していた残り二体のスパルトイも纏めて捕縛した。抜け出そうともがく骨の姿は見えているのに、意外にもなかなか抜け出せない。そう、スライムの核を潰して逃れようにもその核はゴーレム部分に隠れて見当たらないのだ。スライムの核をゴーレムの岩が守り、ゴーレムの核や脆い部分をスライムの粘液が守っている。攻守ともに補い合いながらの合成インヴィタド。その姿を私達は息を呑んで見続ける。

 「……それで?」

 「………」

 試験監督が手を下ろす。チコは何も言わないし、その場から何も起きる事は無かった。

 「次はどうする?」

 「………っ」

 再び試験監督が口を開く。チコは歯噛みをして一塊になったインヴィタドを見ていた。

 スパルトイはあの状態から自力で抜け出せそうにない。しかし、それはスラレムも同じ事だった。スラレムの方からスパルトイを倒す術もなかった。

 「膠着状態に追い込んだまではいいですが、これでは……」

 「……甘いっ!」

 チコが俯きながらも叫ぶ。前髪に隠れた表情は見えないが試験監督はそれ以上言わない。

 「フジタカ……頼む!あの二体を斬ってくれ!」

 それはチコからの願いだった。フジタカへの強制力は持っていない。なんだか、以前の私とレブを見ている様だ。

 チコが試験監督に叫んだ言葉の意味が今分かる。そう、ずっとチコの隣には、彼がいた。

 「……やっぱり凄いよ、お前は。あとは任せとけ!」

 ニエブライリスを構えて遂にフジタカが走り出す。その歩みを止める者は誰もいない。

 これこそがあの二人得意の戦法だ。私とレブでは再現できない、あの二人だけの呼吸。それは未だに健在だった。

 「おぉぉぉぉ!」

 まずは一体の細い腰を剣で叩き折る。試験監督の命令か、残り一体になったスパルトイの動きが激しくなった。抵抗してじたばたと粘液から逃れるべくもがくがもう、とうに遅い。

 「はぁぁぁぁぁ!」

 大上段からの一刀が肩から胴に抜け、スパルトイは崩れて動かなくなる。粘液を払い飛ばしてフジタカが剣の切っ先を試験監督に向けた。

 「「次はどうする?」」

 スラレムが泥を作りながら一歩前に踏み込み、チコとフジタカの声が重なる。

 「……いいえ、試験はここまでです。お下がりなさい、ご苦労様でした」

 乾いた拍手を試験監督がチコへと送る。それに遅れて私や他の召喚士もチコとフジタカに拍手した。だって彼らの勝利で間違いなかったもの。

 「……っしゃあ!」

 「あぁ!」

 チコとフジタカが互いの手を叩き合わせて喜ぶ。あの二人はもう、あんまり心配はしなくても大丈夫なのかも。

 「……次の受験者、ザナ・セリャドは前へ」

 「はい!」

 チコ達と一緒に喜ぶ間も無く試験は続く。次に呼び出されたのは私だった。その隣には当然、レブも続く。

 召喚陣を回収したチコやフジタカとすれ違って空気が変わったと気付く。この胸を押さえたくなる緊張感は筆記の時とは違う。実戦に近い空気感をあの試験監督がわざと放っているんだ。

 「では、始めますよ」

 「お願いします!」

 少し離れて声を張る監督に私も頭を下げる。顔を上げると、既に監督は手にスパルトイを呼び出す牙を四本用意していた。

 「待て」

 牙を撒く前に止めたのはレブだった。

 「……何か?」

 これはあくまでも召喚士の試験だ。レブを試す場ではない。監督もどちらかと言えば私の方を怪訝そうに見ている。なんで勝手にインヴィタドを喋らせているの?とでも言いたそうにしていた。

 「どうせ試すのなら、勿体ぶるな。お前がその牙を、この私の前で使う意味を知っているのならばな……!」

 「………!」

 レブが試験監督を威圧しているのは明白だった。気圧された様に監督は牙を入れていた袋に手を入れる。

 そして牙を地面に放ると先程と同じ、ムクムクと土が盛り上がりスパルトイが現れた。その数はそれでも八体。レブは足の爪を勢い良く地面に突き立て土を蹴飛ばした。

 「その程度か……」

 「あの八体を倒せば良いんだよ!他の受験者もいるんだよ!」

 堪らず私が言うとレブは目付きを鋭くして私を睨む。……睨むだけの理由があの牙にはあるのだろう。

 「……測るのが目的だったな」

 それでもレブは無理にでも自分を納得させたいのか口に出して拳同士を打ち鳴らす。もう気にする必要は無さそうだ、少なくとも今は。

 「……行くよ!」

 「うむ」

 私の合図と共にレブが翼を広げる。それと同時相手のスパルトイ八体が一斉に動き出した。

 今日までの自分を信じる。今日まで一緒に戦ってくれたレブを信じる。フエンテを恐れて常に力を温存しながら生きてなんていられない。今は、私が一人前の召喚士になる!その為に!

 「レブ!飛んで!」

 「はぁ!」

 私の声にレブが上空ではなく前へ飛ぶ。その勢いは脚力とも合わさって、爆発的な加速を生みながらスパルトイ達へと肉薄した。それは勢いがあり過ぎて最初の数体を見逃す程にまで達している。

 「く……分かっているのですか。召喚士はこの戦闘に介入できない。守り切れないのなら……」

 そう、試験監督の言う通り私は魔法でレブを援護できない。援護したり、もしもスパルトイに私が捕まれば不合格になってしまう。

 「試験を治める立場の者が受験者に助言をするな……!」

 私だって分かっている事へレブが威嚇の表情そのままに飛び掛かる。レブしかいない私にはレブが抜かれたら無防備になってしまうのは必然。

 だけど、レブは必ず私を守る。だから移動できなくても構わない。

 「右端から!拳、蹴り!魔法は禁止!」

 「承知!」

 レブが地面を一蹴りし、跳び上がってまずは一体の頭を右腕の一撃で破壊した。乾いた枯れ木を殴った様に、拍子抜けする程に簡単に砕けてレブも勢いを余らせ回転する。

 「おぉぉぉ!」

 しかしそのまま着地しつつ足払いをして隣にいたスパルトイの足を折る。体勢を崩した相手に自分の尻尾を叩き付け、そのままの勢いでもう一体の腰も尾で叩き折ってしまった。残り五体。

 「次!」

 「拳で二体!」

 レブが私の指示を求めて目線を送る。こちらからの条件に頷く間にレブはスパルトイの手刀を額から受けてしまった。

 「本体から離れればその程度か……!」

 レブの額に打ち負けたスパルトイの腕にヒビが入る。その部分から掴んでレブは握り潰してしまった。手から破片を溢しながら同じ様に手刀を振るうと今度のスパルトイもあっさりとその細い体を崩壊させて動かなくなる。

 両腕を振り下ろしたスパルトイに圧し掛かられる。レブも相手の腕を掴んでいるが今度は握り潰せない。心なしか、先程のスパルトイよりも腕が少しだけ太い。恐らく、あの植物状の蔦で筋肉代わりの部分を増量している。となれば、中が折れていようと離れる事は無い。

 「足を狙って炎を吐いて!」

 「ぶぉぅ!」

 レブの武器は手足だけではない。その角も、翼も、そして吐息でさえも相手にとって脅威となり得る武器だった。彼の吐いた炎はスパルトイの足を焼き尽くして踏ん張りを失う。レブは上半身だけになったスパルトイを振り回して上空へ放り投げた。

 「レブ!……魔法解禁!」

 その一言で私の胸がズキンと痛む。レブに魔力が持って行かれたと体が感じ取っているからだ。

 「雷よ……ともがらの末端を……」

 レブが自分を挟み込むスパルトイ三体と不完全な一体に両腕を向ける。

 「眠らせろ!」

 閃光がその場に居た者の視界を通り抜ける。直後に地面の一部とスパルトイが、大きいが短い爆発音と共に弾け飛んだ。見れば地面には蛇が這った跡の様なヒビ割れが長く尾を引いている。

 「……戻って」

 「御意」

 スパルトイの破片が風に舞う。焦げ臭い香りを鼻腔に感じながらレブに小声で言えば、聞き及んでいた様ですぐにこちらへ引き返す。

 「……試験、終了です」

 その間、ものの数十秒。試験監督は苦い表情のまま私の試験が終わったと告げる。状況の確認は見ての通り、レブによる全滅だった。

 「ありがとうございました」

 私は一礼してからレブと共に次の受験者達と交代した。その後の展開に私は息を呑む。考えていたよりも接戦が続いていたからだ。

 ルイさんが召喚したシルフは風を研ぎ澄ませた刃の様に魔法を使うが、スパルトイを切り裂くに至らなかった。蔦の一部を退け、身体の部分に傷を負わせるだけで致命打にならない。途中から三体呼び出してようやく撃破したが、その時には魔力切れを起こして第二陣には敵わなかった。

 マリタさんが召喚したのはサラマンデルとゴーレム。チコと違い、スライムの召喚陣は用意してこなかったらしい。ここではチコが戦っていた時とは様子が異なる展開を見せた。

 ゴーレムの肩に乗ったサラマンデルが縦横無尽に岩壁を動いて炎を吐く。そのサラマンデルの動きを止めるのにスパルトイが四体総出で襲い掛かった。その過程で先にゴーレムの核が潰されてしまう。しかも、魔力の逆流を防いでいなかったらしくマリタさんが呻いたところにサラマンデルも続け様に仕留められる。そのまま召喚士を取り囲まれてマリタさんは膝から崩れ落ちた。どうやら今回使うつもりだったインヴィタドを今回の試験では不適と判断し、急遽あの二体を呼び出した様だった。

 残りのイラリオさんが呼び出したのは漆黒の猫、オヴィンニクだった。同じ炎の精霊としてサラマンデルは度々現れていたが、それよりも小ぶりで動きも素早いとは言い難い。

 炎の使い方も特殊で、赤く輝く目から火を放つその姿は見ていて異様だった。しかし、その力は守る事に大いに役立った。

 ギリギリまで引き付けて炎を放つオヴィンニクにスパルトイは一切近付けない。範囲の広い炎に乗り越える事もできずにスパルトイは徐々に焼かれ、最後まで四体残っていた一方でイラリオさんにも触れられる事は無かった。

 全員の試験終了後に私達は午前中に筆記試験を受けた一室に戻された。そこで私を待っていたのはブラス所長とニクス様ではない鳥人、そして他の試験受験者達だった。

 「あれ、結構戻るの早かったね」

 「用意した分のほとんどが使い物にならなくなりましたよ。かなりはっきり力を見せてもらいましたからね」

 所長と試験監督の話を聞きながら私は廊下で待たせたレブの事を考える。さっきのスパルトイを見た時から少し気を張ったままにしていた。魔法を使った時も妙な言い回しをしていたし。

 接戦をして決着がつかないと思っていたが、前回や他の試験に比べて私達は早かった……?やっぱり試験の方法で随分変わってくるんだろうな。

 「それでは浄戒召喚士、召喚試験士、召喚技術士の試験は全員が戻ったのでこれで終了です。結果は三日後に発表します。……何か質問は?」

 手をパン、と叩いてブラス所長が受験者を見回す。私も見える範囲で確認したが表情の明るい者は少ない。特に召喚技術士を受験した人達は俯いて机の一点を見ている者が多かった。

 「では解散!長丁場の試験でしたがお疲れ様でした!」

 その後二、三言所長が言って試験監督達と話している姿は気になったが、まず私とチコは受験室から出て待たせていた二人と合流する。レブもフジタカも扉の横に立っていた。それに、他のインヴィタド達も何人か自分の召喚士を待っていたらしい。

 「……終わった」

 「おう」

 簡単な報告だけでチコとフジタカは歩き出した。フジタカはこちらを一度向いて手を振ってくれたから私も振り返す。チコに筆記の手応えや自己採点の確認もしたかったけど、それは一人でやるしかなさそうだ。

 「私達も」

 「あぁ、戻ろう」

 途中、廊下で会ったイラリオさんやマリタさんに挨拶しながら私達は自室へ戻った。トロノの外へは出ていないのになんだか旅をしてきた時と同じ疲れ方をしたように感じる。

 「召喚士試験、やっと終わったんだ……」

 目標に向かって進むと終わりが必ず訪れる。今まで積み重ねてきた向こうに待っていた開放感。それは時に風が通り抜ける様に爽快で、時に雪原に一人取り残された様に何も見えなくなる。私が今感じているのはその両方であり、そこに浸りたいのに走ってどこかに辿り着きたい。その矛盾に何も考えられなくなってしまう。

 「結果はまだ出ていない」

 ベッドに座ってぼうっとしてしまう私を現実に引き戻してくれるのはやはりレブだった。カタカタと風に揺れる窓枠の音がそこでやっと耳に入る。

 「あ、うん……。そう、だよね」

 三日か……。受験者はあまり多くないし、すぐに結果が聞けるものだと思っていた。

 「はぁ……」

 靴を脱ぎ、仰向けに倒れて暗い天井をぼんやりと見詰める。気を抜いてはいけない。だらけてしまうと立ち直るまでに時間が掛かる。だから私は今日まで……。

 「早めに休めば良い。今日まで疲れただろう」

 「ぶ……!?」

 瞼が重くなりかけたところにレブからの言葉に驚いて勢いのまま私は腹筋で起き上がった。

 「……なんだ」

 目を細め、口をぐにゃぐにゃに曲げて私を見るレブに思わず私は笑いを堪えられずに吹き出した。口元を押さえても止まらない。

 「ど、どうしたの……。そんな、急に……ふふっ、ふふふっ!」

 「………」

 「も、もう笑わないから……ね?」

 もう口も利きたくない様に顔を背けてしまったレブに手を合わせる。それに、私だってまだレブと話をしたい。

 「……根を詰め続けていた貴様をこの部屋で、訓練場で見ていたのだ。気にならないわけがない」

 そりゃあ試験だもん、合格する為に必要な事はしないといけないよ。でも……その間に私はレブと何をしていただろう。あっという間に過ぎて、二人の時間を取れていなかった。その間は、頑張らせてくれていたんだ、きっと。

 「……心配、してくれてたんだ」

 「……別に。体を壊さない程度で迎えられたのだ、それは自身の日頃の行いの賜物だろう」

 フジタカは一夜漬け、という方法で試験を乗り切った事もあるらしい。でもさすがに徹夜で合格できる程度の試験ではなかった。私も今日、自分で体感している。

 「……ねぇレブ。今日はありがとう」

 「最初から協力するつもりだった。言っただろう」

 うん、知っている。レブは初めて会った時からずっと私に協力してくれていた。

 「一応練習しておいて良かったよ」

 「あんな連中に遅れる私ではないのだがな。しかし貴様の命令は的確だった」

 私もレブがスパルトイくらいに負ける事はないと分かっている。それでもレブは私の言う通りに動いてくれた。そして本人からもお墨付きをもらえると、冷や冷やしていたあの一瞬も無駄ではなかったと思える。

 「試験じゃなかったらもっと早く倒せたよね」

 「見せ付けないといけないとはまた、難義なものだな」

 召喚士が戦うわけではない。しかし試されるのは召喚士だから、見られているのは実はインヴィタドじゃなかった。戦えるだけの力を持つインヴィタドを、どの様に振るうか見られていたのを感じてやりにくかった。もしかしたら“そこは押すよりも引くべき”とか思われてたかな、なんて。

 「でも終わった事だもんね。あとは結果が評価してくれる……」

 「そうだ。この機にできる事は発揮しただろう」

 できなかった事ももちろんあった。本当はもっとレブに早く指示を伝達する手段もあったのに私は試さなかった。……それが確実に行えると自信がなかったから、手応えと慣れで挑んだ。できる事を全力でやってもまだ先があると知っている。そこに至れていないままの自分は、痒い所に手が届かないままだった。

 「……ねぇレブ。終わった事、って言ったけど聞いてもいい?」

 「話してみろ」

 椅子に座るレブを敢えて、私の隣に来てほしいとベッドを叩いて呼んでみる。すぐに椅子から跳び移って彼は私の顔を覗き込んだ。

 「さっきの……スパルトイの事、教えて」

 レブは試験中にスパルトイを使った召喚士に対して、この私の前で使う意味を知っているのならば勿体ぶるなと言っていた。何を言われたか分かった試験監督が倍に増やしたのが気になっていたんだ。

 「その事か」

 伏し目にしてレブが床を見る。

 「あの牙の持ち主である竜と古い仲だった。それで思い出してな」

 「古い仲って……テーベの竜と?」

 聞き返すとレブは頷いてこちらを見た。

 「別個体という可能性もあるが……あのスパルトイが帯びていた微かな気は我が友と同じだと思った」

 「信じるよ、と言うか……いいのかな」

 「構わん」

 スパルトイがいたならそのレブの知り合いは退治されたか懐柔されている。それをレブが気にしていると思ったけど……見る限り、大丈夫みたい。

 「最後に会ったのはティラと出会って少しした後だ。どうなったかなんて知れたものでもない」

 それでも瞬時に思い出したんだ、きっと親しかったんだろうな……。

 「どんな竜だったの?」

 「うむ。私とは毒息仲間でな。よくその毒の効能を競い合わせたものだ」

 早速ちょっと想像しただけで具合が悪くなりそうな話をされて私は苦笑してしまう。なかなかこの世界じゃ聞けない集いだよね、それ……。

 「黄金の鱗に覆われ、毒を溜め込んで膨れた屈強な身体と長い首先の顔は凶悪でな」

 だけど競い合ったりする仲だったんだ。当時の大きいレブとテーベの竜が並ぶ姿を思い描くけど……絵面の迫力が凄い。凶悪な顔って自分の事は棚に上げてないよね……?

 「力比べで私が勝る分、奴はああいった牙での小兵での戦いが得意でな。……竜人相手には子ども騙しだったが」

 「実際に見た事もあったんだ」

 スパルトイを直接竜が使役する瞬間を。だから試験でもすぐに経験として呼び出せた。

 「……昔話に興じるつもりは無かったのだがな」

 「でも、ちょっと楽しそうだったよ」

 今までのレブは聞いても嫌そうにする事が多かったから。

 「……生きていれば、生きた分だけ毎日へ起因していく。故に妙な事に遭遇してしまう機会もまた、往々にして起きうる。今日はそう思える日だった」

 レブでもそんな風に思うんだ。だけど、レブの昔話は私からすればきっと歴史の勉強では追い付けない、神話の話にまで遡る事もありそう。

 「………」

 「どうした」

 「う、ううん……」

 私はレブと同じ時間を共有している。今、どうしてか考えた途端に胸が苦しくなった。どこかで、その時間が断たれてしまう。そんな気がして。

 「これからはもっとそうしていくんだよね」

 「たまにでいい」

 スパルトイの出所をレブが気にしている様子は無い。無関心ではないだろうけど、結果として受け入れているみたいだった。

 私の知らないレブがいる。ティラドルさんですら知らないレブもいる。きっと私がレブと一緒にいられる時間は、彼にとっては極めて短い時間になってしまうのではないか。まさか召喚士の認定試験でそんな事を新たに考えさせられるなんて。

 ……嫌だな、って思ってしまった。これからも続く私の人生が彼にとっては一瞬。もっと彼と過ごしていたい。自然とそんな事ばかり頭に浮かんで顔が熱くなってきた。

 「どうした。知恵熱、というやつか」

 「ううん……違う」

 どうあっても私ではレブの毒息仲間にも竜人にもなれない。会話を成して、通じ合っても時間の過ぎ方が違ってしまう。その差に、ただの人間である私はどうやっても……追い付けない。

 こちらの体調を気遣ってくれているレブに首を横に振る。……疲れたけど、寝込むようなものではない。顔が赤い理由は教えないからね。

 「ブドウ酒、飲まない?そろそろ良い頃合いだと思うんだ」

 話の切り替えに私がブドウ酒を引き合いに出す。今日の功労者は私だけではない。レブには肉体労働をさせているのだから、見合うだけの報酬が要る。今日は私達にとって節目になるかもしれない日だ、ちょっとは贅沢もしたい。

 「………」

 しかしレブは腕を組んで顔を上げ、目を閉じる。……悩んでる?

 「いや……今日は、止めておこう」

 レブが……ブドウを自ら断った……!?

 「レブ!熱でもあるの!?病気!?ど、どうしよう……こういう時って竜は溶岩に浸けるんだっけ!?」

 「……それは一部の竜だな。貴様は私を何だと思っている」

 冷ややかに見られて私も慌てるのを止める。一度落ち着いて……ええと。

 「ぶ、ブドウドラゴン?」

 「………」

 手から力を抜いてレブは黙ってしまう。しまった、言葉選びを間違えた!

 「あの、ご、ごめん……」

 「謝るな。咄嗟に出たその呼び名こそ私に相応しいのだろう……」

 完全にヘソを曲げちゃった。……竜にもあるのかな、おヘソ。

 「でも、どうして飲まないの?楽しみにしてた……でしょ?」

 「………はぁ」

 答えるまで見詰め続けるのも辞さない覚悟だったが、レブは私からの情熱的な視線に耐えられなかったのか溜め息を大きく吐いてからこちらへ体を向けた。

 「まだ結果は分かっていまい。祝杯は、祝い時に楽しむものだ」

 「あ……」

 そっか、まだ結果は出ていない。幾らレブが頑張ってくれたと言っても、筆記がどうしようもなかった場合も不合格。終わった事だけに浮かれてしまっていた。

 「……だから」

 「え?」

 レブの言葉が続く。

 「だから……貴様が合格した暁には……」

 「……うん。私が注いであげる。残さず飲んで?」

 「承知した」

 レブと私は穏やかに笑い合う。いずれ来る時の歯車の掛け違いを、今を共にして埋める。埋めた距離を私達はどこまで詰められるのかは、まだ見えていなかった。


 受験に備えていた期間と結果発表までの期間は同じ時間ではない。圧倒的に短い筈の発表までの時間を私はとても長く感じていた。待つ、という行為がどれだけ生き物にとって集中力を割くのか身を以て覚える。選定試験の時はその場で分かっていたしね。

 「お集り頂き、恐縮です」

 待つだけの時間を終えて私達は再び前と同じ試験室に集められていた。そこにはソニアさんや他の召喚士試験を受けた受験者達も集まっている。

 「お待たせして申し訳ありませんでしたが、ただいまより浄戒召喚士試験の合格者を発表させて頂きたく思います」

 私やチコ達は自然に実技試験でスパルトイを仕向けてきた試験監督の元に集まっていた。他のトロノ支所の受験した面々もそれぞれの試験監督の側で結果発表を受けている。

 「実技の試験を受けた順番から発表しますが、よろしいですね?」

 「……はい!」

 監督がまず最初に見たのは実技を初めに受けた者、チコだった。目を合わせて返事をしたものの喉をごくりと鳴らして身を固めている。

 「では、まずチコ。貴方からです」

 自分が先に結果を知りたいと言い出す者は他にいない。試験監督はチコを見てゆっくりと告げる。

 「合格です」

 「……ありがとうございます!」

 合格と言われた途端にチコの疲れていた表情に生気が満ちて晴れやかになっていく。すぐに私と周りのルイさんや他の召喚士もチコに拍手した。

 「まずはおめでとうございました。しかし、尋ねたい事もあります」

 「は……?はい」

 試験監督も拍手こそしたものの、表情はまだ柔和とは言えない。

 「貴方は報告で聞いていたインヴィタドの能力を使わなかった。それは何故でしょうか。強力かつ消費の低い方法を確立している貴方なら、もっと効率良く戦えた。違いますか?」

 鋭い質問だった。きっと、チコが一番聞かれたくない部分だったと思う。

 「はい。確かに……最初からフジタカの力を使えば、あのスパルトイを消すのはもっと早かった……かも、しれません」

 確実にとは言わない。フジタカは大勢を相手にする状況は得意ではないだろうし、確実に倒せても早さは別だと思う。

 「しかし、召喚士として俺の力は一つではない。それを……試験ではご覧頂けたかと思います」

 今まで上がっている報告とはまた違う力を使う事で試験監督へチコの実力を見せる。結果が合格だったと考えればそれは成功したらしい。監督は頷いて、そこでやっと表情を和らげた。

 「そういう事でしたら」

 納得されてチコもぎこちなく笑う。フジタカの力、できれば使いたくなかったんだろうな。自分一人の力でどうにかしたかったみたいだし。

 「最初からインヴィタドを事前に用意せず、立て続けに召喚したあの魔力量。そして連携は素晴らしかった。発想も面白い」

 出し過ぎるだけの魔力の蓄えに、咄嗟の機転。チコの判断力は他の受験者に比べても抜きん出ていたと素直に思えた。強いて言うなら、スラレムの名前は考え直した方が良いかも。

 「流石は、特待生ですね」

 「………はいっ!」

 試験監督からもらったその言葉の意味をチコは誰よりも知っている。その重さを背負う事、背負い続ける事の困難さ。しかしチコは今度こそ、召喚士選定試験で勝ち得た特待生の名を……自力で物にした。

 「これを」

 そっとローブから取り出した白く透き通った応石を監督がチコへ差し出す。受け取らせると自分の腕輪と同じく嵌める様に促した。

 私達の腕輪にあった小さな窪みへ針で穴を開け、金具で留める。チコが掲げると、収まった応石は室内の灯りを微かに反射した。資格の証だけでなく、魔力を高め反応する役割も担っていると前にカルディナさんから聞いている。

 「これで今日から貴方は浄戒召喚士として扱われます。その自覚を、応石を見る度に思い出す様に」

 「はい。今度もトロノ支所の特待生として恥じぬだけの力を……手に入れます」

 チコの返事は静かだったが力強かった。先を越されてしまったな。

 「そして特待生はもう一人。ザナ、次は貴女です」

 「はい……」

 私を向いた監督の表情は穏やかなままではなかった。

 「インヴィタド一体の単騎突破。多少、あのインヴィタドの持つ力に頼り気味になっていましたね」

 レブしかいない私にはどうやっても避けられない話題だった。一度頷くと監督はそのまま続ける。

 「しかも若干振り回されている」

 その通りで言い返せない。だって私ではレブを力で、魔力で押さえ込むなんてできないもの。

 「しかし」

 監督の口から出た接続詞に私は俯きかけた顔を上げた。

 「命令に対しての大振りながら忠実な行動を見るに、関係性はとても良好。よく手懐けていますね」

 懐いている、なんて表現をレブが聞いたら怒るだろうな……。彼の怒る姿を想像している間に言われてしまう。

 「よってザナ、貴方も合格です」

 「あ……」

 その言葉を聞いて私は全身をまるで感電したかの様にぶるりと震わせた。すぐにでもレブに飛び付きたい。聞いてほしい、今、私がやっと出発地点に立てたこの気持ちを。

 「では、これを」

 渡された応石を受け取って痺れたままの頭で腕輪に取り付ける。向けられる拍手にぼんやりとしたままでも言わないといけない事がある。

 「……ありがとう、ございます!」

 「ご自身が頑張った結果だ。顔を上げて」

 深々と下げた頭上からかけられた声に涙が浮かぶ。でも、彼らの前で泣きはしない。この涙を共有できるのはきっと、彼だけだから。

 「はい!」

 自分の腕輪にそっと手を添えて私は精一杯笑顔を浮かべる。

 「では次に……」

 そして召喚士試験の結果発表は続く。チコと私と快調な出だしから一変、次のルイさんとマリタさんは不合格だった。

 理由は二人に共通していたのが、自分のインヴィタドに拘りが強過ぎたから。横で聞いていて私とチコも耳は痛かった。拘りなら私達の方がきっと濃いし。

 ただしその拘りを貫き通すだけの力が伴っていなかったとの事だった。シルフを使うにも、スパルトイの様な相手には不向き。ルイさんは他のインヴィタドで戦った方がもっと継戦できただろう。一方、マリタさんは使役する予定のインヴィタドからサラマンデルとゴーレムに変えてしまった。対応できるのなら良かっただろうが、慣れない召喚で場しのぎにしかならなかったから倒せなかった……。

 二人とも歯噛みするばかりで言い返したりはしない。監督は淡々と事実を指摘するだけだったからだ。

 最後に残ったイラリオさんだったが、彼は三人目の合格者として監督から応石を受け取っていた。それは私達も結果に声を洩らしてしまう。

 イラリオさんの場合、戦う試験で戦っていない。オヴィンニクの魔法で炎の防壁を作り、悠々とその場に立っていただけだ。

 だが、当然召喚士をスパルトイから守る様に指示を出していたのはイラリオさん本人。制限時間内で敵を一体も倒さなかったが、最後まで守り通させた。その部分と筆記試験の成績を加味しての合格。説明を受ければ誰も異を唱えたりはしなかった。

 「それでは試験の一切を終了します。合格者には追って、トロノ支所長ブラス様より連絡がいきますので、まずはご苦労様でした」

 試験監督に合わせて私達受験者は頭を下げる。

 「不合格だったお二人は、また次回の挑戦をお待ちしています。……では、これで」

 最後にルイさんとマリタさんの方を見てから試験監督は一足先に室外へと出て行った。周りもちらほら解散し始めたので私も試験室の外を目指す。チコと話すのは後で。

 まずはレブに会いたい。私と貴方で掴んだこの応石を見て、できれば一緒に喜んでほしい。先にブドウ酒も持って行こうかな。

 「あ……」

 「お疲れ様、ザナさん」

 しかし、試験室を出て三歩。私の名前を呼んだのはレブではなく、獅子の獣人。

 「ライさん……!」

 「待っていたよ」

 そうだ、レブは戻る時間が分からないから廊下じゃなくて部屋に戻していた。壁に背を預けていたライさんは私を見付けると、他の受験者をすり抜け私の前に立つ。

 「おめでとう」

 「あ、ありがとうございます……」

 最初のおめでとうはレブに言ってほしかった……って、レブじゃ言ってくれないよね、きっと。

 「あの、聞こえてたんですか?その……試験の結果……」

 「いや。でもザナさんのその表情を見ればすぐに分かるさ」

 ライさんが私を見て微笑むものだから私は顔を押さえる。そんなに浮かれた顔しちゃってたのかな、私……。

 「聞こえていたというより、実技を見せてもらっていたんだ。少し離れてだけど、ウーゴと一緒にね」

 だから試験結果は読めていたのか。この三日、姿を見なかったからウーゴさんと何かしているのかなと気になっていた。

 「ウーゴさんは一緒じゃないんですね?」

 「今日は買い出しに行っていてな」

 何のだろう、と思ったけどすぐに気付いてしまう。

 「そう、契約者との旅の支度だよ」

 私達が浄戒召喚士になった理由。私も今なら堂々と言っていいんだよね。

 「ライさん、その旅は私も……」

 「無論、同行してほしい。……チコ君にもね」

 ライさんが私の頭上へ視線を向ける。振り返ればチコが立ってこちらを見ていた。

 「分かってます。……だから俺もフジタカと一緒に戦ったんだ」

 言うだけ言って、チコはそのまま自室へと向かって歩き出した。……フジタカに話すのは、チコの役目だよね。ニクス様へは……私から話したい。

 「チコ君は行ってしまったが、二人ともよく頑張ったじゃないか」

 「……はいっ」

 それもレブに言ってもらいたかったかな。先ばかり越されて部屋に戻りたい気持ちも募っていく。

 「それじゃ私は……」

 「ザーナー!」

 そろそろ話を切り上げようとしたところで試験室の方から声がした。振り返ればニコニコ笑ったソニアさんがやってくる。

 「ソニアさん!お疲れ様でした!」

 「聞いたわよ、合格したって。やるじゃない」

 「えへへ……」

 ソニアさんやライさんは私が試験を受けるまでの間、ずっと一緒に勉強や訓練に付き合ってくれていた。そんな二人に挟まれて祝ってもらえば、どうしても表情は緩んでしまう。たぶん私一人だけでなく、レブにもその言葉を皆から伝えてもらいたいから後ろ髪を引かれるんだ。本人は気にしないだろうけど。

 「ソニアさんももしかして……」

 「あったりまえでしょ!ほら!」

 ぶるん、と胸を張ってソニアさんは自分の腕輪を私に見せてくれる。そこには白い応石だけでなく、黒い応石も嵌め込まれていた。どうやら召喚試験士の資格所有者に与えられる応石は黒、らしい。

 「おめでとうございます!」

 「ありがと。……そっちのインヴィタドは?」

 目を細めて笑ったソニアさんがやっとライさんを見た。今日まで話した事が無かったんだ。

 「ライネリオさんです。カンポから来た……」

 「あぁ、契約者の……」

 カンポ、と言った時点でソニアさんは察してくれたみたい。ウーゴさんは知っていてもおかしくないが、そのインヴィタドのライさんまでは把握してなかったのかな。勉強や訓練の時も二人は分けて予定を組んでいたしね。

 「どうぞ気楽にライ、と呼んでください。宜しくお願いします」

 「ソニアよ。こちらこそ、ザナがこれからお世話になるでしょうけど」

 「お任せください」

 二人は穏やかに握手を済ませる。ソニアさん、初対面の時と比べると本当に丸くなったなぁ。……ティラドルさんのおかげ、かな?今ではカルディナさんと同じ様に私にとっては良いお姉さんというか召喚士としての先輩だ。

 「じゃあザナ。カルディナに会ったら伝えといて。私はアナタの先を往く、ってね」

 「わ、分かりました……」

 ただし、ソニアさんとカルディナさんは今でも仲が悪いと言うか互いに意識し合っている。険悪ではなくて、強い言葉を使いながらも高め合えているのかな。

 ソニアさんはそのまま私達の横を通り抜けて去っていく。ティラドルさんにも私の合格を伝えてくれると思うけど、後で改めて報告しよう。また会えなくなると知ったら、今度こそ泣きじゃくるかな……?

 「………」

 ライさんはまだソニアさんの背中を見送っていた。

 「カルディナさんには前からああなんです。向こうも特に気にしてないから、喧嘩とか危ない仲じゃありませんよ?」

 察しろと言っても知らない人達の仲までは分からない。人に聞きにくい部分ならば私から教えてあげないと。

 「うん?あぁ、いや……違うんだ」

 角を曲がってソニアさんが見えなくなったところで声を掛けると、ライさんは不意を突かれた様に耳をピンと立ててこちらを向いた。集中して見てたんだろうな。

 「でも」

 「なんだ、その……美しいな、と思って。ははは……」

 ライさんは恥ずかしそうに笑って髭を指で掻く。そこで私はもう一度だけソニアさんの歩いた廊下を見やり、人がいなくなったのを確認した。

 「……ソニアさん、胸大きいですもんね」

 「うっ!」

 もぞ、とライさんが内股になって顔を背けた。

 「ざ、ザナさん!俺はそういうのではなくて純粋に……」

 「純粋に?」

 人間より遥かに幅が広い獅子の口が歪み、曲がっていく。

 「……純粋に、艶やかな女性だなと思って」

 欲望に素直、って悪い事ではないんだよね。

 「綺麗だとは思います。浄戒召喚士だけでなくて、今日で召喚試験士にもなられたんですからね。女性としても、召喚士としても私よりずっと凄い人です」

 着ている服も美しさと体の線を強調されていて、男性の召喚士からも人気はあると思う。実際にお誘いを受けたりする事ってないのかな。召喚試験士としての仕事やティラドルさんに夢中な部分ばかり見ていたのも気のせいじゃないし。

 「そう卑下しなくても大丈夫。ザナさんの胸も大きい方だよ」

 ライさんは親指を立てて微笑む。どこかでレブにも言われたと思う、それ……。

 「褒めてないですよ……」

 「む……あぁ、失礼……」

 カンポでチコ達と話していた時は女性の前でそんな話は、と言っていたライさんだけど今は堂々としてたな。私がまだ子ども扱いされてる、って事かな。あの時はカルディナさんもいたし。

 「せっかくの召喚士としての門出なのにな」

 「いいえ、お祝いの言葉は……嬉しかったですから」

 レブ以外にも私のこの瞬間を祝ってくれる人がいる。それだけ繋がりを持てた事は大事にしないといけないと思う。

 「それで所長には……」

 「待ってください」

 でも、やっぱりこれまで。今からブラス所長に会って契約者との儀式同行も話したい。それはまだ一番最初にしたい事じゃなかった。

 「所長に会うのは……待ってもらえませんか?だったらチコも行くでしょうし」

 「……そう、だな」

 口では肯定してくれたが、ライさんの表情が締まった。今すぐに一緒に行こうと言おうとしていた様にすら見える。

 「あの……」

 「長々と引き留めてすまない。また時間を見付けて、俺から迎えに行くよ」

 こちらから謝る間もなくライさんは背中を向けて大股で廊下を歩いていった。試験室にはまだ試験監督達の姿が見える。私は迷ったけど食料保管庫に寄ってブドウ酒の瓶を持って部屋へと戻った。

 「ただいま」

 「遅かったな」

 扉を開けるとレブが椅子に腰掛けて待っていた。変わらない彼の姿に私は笑みを浮かべる。

 「合格したよ」

 「あれだけ派手に暴れて不合格にされれば、もっと暴れていたところだ」

 実技試験よりも、なんて言ったらそれこそ不合格どころかトロノ支所にいられなくなるよ。私は瓶を机に置いてゆっくりと栓を抜く。

 「単騎突破で力に振り回されてるけど、良い関係だって言われた」

 「………」

 ブドウ酒をグラスに注ぐ。まずは半分より多めくらいでいいかな。

 「はいっ」

 「どうかしたのか」

 注いだグラスを受け取りもしないでレブは私の顔を見上げている。その大きな瞳に映る自分はどう見えたからそんな質問をさせてしまったのか。

 「え……?」

 「……いや。貴様の事だ、念願の召喚士になれたとすればもっと浮かれていると思った」

 やっとレブがグラスを受け取り、ゆっくりと中の液体を回して覗き込む。

 「なりたかったよ。それで、やっとなれたの」

 召喚陣は入っていない空の腕輪に嵌められた応石を指差してレブに見せる。しかし彼は首を傾げた。

 「ならば何故、そんなに落ち着いている」

 「……あぁ。うん、話すから飲もうよ。ね?」

 聞かれて、なんだか何を聞かれたか分かってきた。私が勧めるとレブはブドウ酒を口に寄せ傾ける。

 彼がブドウ酒を一口飲んだのを見届けてから私も、もう一つの椅子に座った。

 「実感がまだ湧いてなかったからかな。応石はもらったし、試験監督にも合格と言ってもらえた。さっき、ソニアさんやライさんにもお祝いしてもらったんだけど」

 「困ったものだな。貴様の持つ力、無自覚に振るわれては困るのがこの世界だ」

 そう、人より特殊な力を持つのはどういう事か召喚士ならば分かっていなければならない。レブは中身が減ったグラスを切なげに見ながら呟く。

 「……あのさ、それで……お願いがあるんだけど」

 「聞こう」

 レブがグラスから手を離して私を見た。注ぎ足そうとしても、先に話してほしいみたい。

 「あの……レブにね、おめでとうって言ってほしいんだ」

 「………」

 自分でも何を言っているんだとは思っている。だからそんな目で見ないでよ。

 そう、戦ったのはレブで私は指示を出していただけ。この前こちらからお礼を言っても、レブからは休めと言われたんだ。だから、その……。

 「よく頑張った」

 「……レっ」

 私が俯いた時を見計らったのかレブの口が動いた。顔を上げた時にはもう遅い。レブはブドウ酒の瓶に手を伸ばしていた。

 「ね!もう一回!」

 「その手を離せ」

 レブの手より先に私が瓶を押さえる。そこにレブの手が重なった。

 「………」

 「………」

 目が合って、レブの手が動く。私の手をそのまま包み込んで、少しずつ瓶から離させた。しかし、手は握ったままで変わらない。

 「筆記は貴様一人の戦いだったのだろう。私は何をしたでもない。自分に力があったから成し得たのだ。ならば私と二人で勝ち取ったその資格……貴様の物だ。誇って良い」

 「……」

 あぁ、他の誰でもない、彼に言われてやっと辿り着けたと思う。自然と私の方からレブの手を握り直す。

 「ありがとう……!ありがとう!」

 「数日前に言われたばかりだ」

 「でも!」

 レブは苦笑するが私の気が治まらない。だって、私が一人前の召喚士って認定されたんだもん!浄戒召喚士になったならニクス様とも同行できる!

 「先程までとは随分機嫌が異なるな……」

 「レブに褒められたんだもん!当たり前だよ!」

 「まるで人を滅多に褒めない鬼みたいに言うのだな……」

 そこまで怖い存在とは思ってないよ。他の人はどうか分からないけどね。でもぶんぶん振っていたレブの手はそろそろ離してあげないと。

 「ごめん!はい、お詫びとお礼にブドウ酒です!」

 「敵わんな……」

 本当、レブはブドウ酒が好きだもんね。私が注げばレブはすぐに飲み干した。

 「……酔わずとも、酒宴は続きそうだな」

 「今日はやっと始まるんだよ!今までの見習いじゃない、一人前としての召喚士になれた日なんだもん!レブだって、すぐには寝かせないよ!」

 前と同じ様に直接瓶を口に付けようとしていたレブの目が一瞬据わる。

 「貴様に寝かせないと言わせる日が来るとは……成程、確かに今日は特別だ」

 「だったら、もう少しゆっくり飲んでよ。……ご飯、部屋で二人で食べよう?」

 「うむ」

 私が立ち上がるとレブも瓶から手を離してくれる。早く戻らないと我慢できなくなるだろうから、私は速足で部屋を出た。

 「頑張った……だって!」


 他の人に言われても嬉しかったのに戸惑った。だけど彼が言った事ならすんなりと受け入れられる。人からの言葉を受け取るのに差なんてあるのは良くない。

 だけど、やっぱり私にとって彼は特別だった。特別に、なっていたんだ。もう、とっくに。

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