'ekahi、エカヒ。ハワイの言葉で1の意味。

 三十七歳の私。

 最初の夫と別れて、六歳の娘と猫と一緒に暮らしていた。

「絶対犬派だと思ってたよ」

 初めて私の部屋に入った湘くんの、丸まって眠っているフィガロを見る目には、少しの好意も感じられなかった。私は猫も犬も殆どの動物が好きだし、犬派、猫派、などと分類するメリットが分からない。でも歳を取ったフィガロを愛していた。湘くんと同じくらいに。

 私の可愛いフィガロは、同時期に愛猫を亡くした父の部屋に連れて行かれた。湘くんと同棲することになり、それまで娘とフィガロと暮らしていた部屋を引き払った。新居は湘くんの実家がある葉山のテラスハウスを選んだ。湘くんが地元に密着した形で自営をしていたからだ。

 二階は子供部屋と二人の寝室ともう一部屋。一階はリビングとキッチン。引越しの一週間後に入籍と養子縁組をした。娘は湘くんの養女として新しい町の小学校に転入し、二学期の始業式から通う事になった。


 引越し当初から、広いリビングに二台の水槽が置かれていた。湘くんが作り続けるアクアリウムが水槽用のLEDに浮かび上がっていた。まるで自然の川底のような流木や水草のレイアウト。細かい気泡のカーテンが水槽内に立ち昇り、透明な水の中ではアフリカンランプアイと言う小さな魚たちと何十匹ものビーシュリンプたちが泳ぎ回っていた。毎日、いつまで経っても見飽きない二台の水槽。一階の専用庭には小さいビオトープを作ってくれた。そこには可愛らしいヨーロピアンクローバーという水草を選んで植えてくれた。実家の池に花が咲く水草があると聞いて欲しがると、そのウォーターバコパという水草も取って来てくれた。そして実家で繁殖したというヒカリメダカを連れて来て放してくれた。

 ヒカリメダカは俯瞰で背中のラメのような一筋が美しかった。私はビオトープの管理を任せてもらった。ヨーロピアンクローバーもウォーターバコパもヒカリメダカもとても可愛かった。

 私はもう猫と暮らそうと思わなかった。今でも猫は大好きだ。ただそれ以上に水草と魚たちに魅了されていった。

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