金柑の軍配

瓜生 蛟

前書き

 「智明らかにして、光り秀でる。」

 歴史小説界の巨頭であらせられる司馬遼太郎氏は、著書の中で彼をこう評価させた。歴史上においてあらゆる人間が生を受け、また死を以て名を残してきた中、彼の人物に対する評価は希有と言って良いほど多岐多様に化け現在までの彼を作り続けてきた。いや、表現としては。では彼の人物の本質、彼自身はどこにいるのか。それはタイムトラベルでもしなければ出会えないだろう、それが歴史の限界であり、未来に生きる我々の限界である。


だがここで一つだけ、誰方にでも分かる真理をお教えしよう。


それは、真実や真理といえるもの、万人が万人「これが本当の事だ」と言えるものから事物が離れれば離れるほど、人はそれに対する興味、果ては愛執を強くする。これが彼の人物に対する世間であり、故になお彼の人物は止まらぬ勢いを以て描かれ続けるのではないか。それは彼の人物が持つ不可解にして万丈の生涯がそうさせるのであり、また彼が生前に行った行為の一切が、受け手となった後世すべての人間に思案を巡らす余地を残すからであろう。無論、私もそうした彼に対する愛執をもっている人間の一人であり、故にこの物語を以て彼を描こうと思い至った次第である。

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