十徳スマホのひみつ
佐竹くんがスマホカバーの角のスイッチを押すと、なんと刃渡り5センチほどのするどいナイフが飛び出しましたので、怪老人はじりじりと後ろに下がりました。
「おお、まさかスマホが武器になるとは思いもせなんだ!」
「ははは、これでおじいさんを殺すことはたやすいけど、そんなことはしないから安心して。なぜって、今度はぼくがおたずね者になってしまうもの。このナイフは、悪漢に捕縛された時に縄を切って脱出したり、スイカのような皮の硬い果物を切って食べるときなどに使うものだよ」
「そうか、君が良識ある少年、いや、女装少年でよかった。命拾いしたわい。それで、他にはどんな機能があるのかね」
怪老人の言葉に釣られて、佐竹くんは十徳スマホの機能を次々に披露していきました。
「ここを引っ張ると、ホラ、透明のテグスが出てくるでしょ。これは脱出用の縄ばしごになったり、敵の逃走ルートに設置してすっころばせたり、歯みがきの時にはフロスの代わりにもなるという寸法さ」
「なるほど。歯のケアは大事じゃもんね。わしぐらいの歳になると、健康な歯のありがたみというものを強く感じるよ。80歳になった時に、自分の歯が20本残っておるとよいみたいね。さて、他には?」
「それからホラ、ここをスライドさせると、ホイッスルが出てくるよ。もしもの時はこれを吹いて、仲間に危機を知らせるんだ」
「なるほど、たしかに便利なアイテムじゃのう。もし君をわしのアジトに監禁するような機会があれば、防音の特別室に閉じ込めなければならないね。さて、他には?」
「ええと、あとはねえ、カバーの中にICチップが埋めこまれているから、スマホなのにおサイフケータイとしても使えるのさ!」
「ええっ! スマホなのに! おサイフケータイ! すごい! わっ、すごい!」
スマホについて深く学んだ怪老人は、今までの機能の中でこれに一番おどろきました。
そんなこんなで、十徳スマホの機能解説は続き、とうとう最後となる十番目の機能がおひろめされました。
「あとはなんだっけ……ああ、そうそう、ここにふりかけを入れておくスペースがあって、いつでもあつあつご飯にふりかけをふりかけて食べることができるのさ。なにしろ僕たちは食べざかりだからね」
「ふむ、なるほど。後半は本当にどうでも良い機能ばかりだったね。くだらんのう。実にくだらんのう。ワハハハハハ」
「ムッ、いったいなにがおかしいのだ」
「十徳スマホというから、どんなに危険な殺傷兵器かと思えば、最初の刃物をのぞけば大した機能がないじゃないか。ただひとつ危険なそのナイフも、先ほどちょいとおサイフケータイ機能を見せてもらうフリをして、松ヤニを流し込んで刃が切れないようにしてやったぞ。つまり、わしにとってお前さんはもう何も怖くないというわけだ、ワハハハハ」
「あっ、しまった」
自分の手の内を敵に明かす大失態を犯してしまったことにようやく気づいた佐竹くんは、あわてて十徳スマホのホイッスルをくわえて思いっきり息を吹きました。しかし、ホイッスルにも松ヤニがたっぷりとつめこまれており、悲しいかな、なんの音も出ません。
「うわあ、ペッ、ペッ、なんてことだ」
うすら笑いの老人はすばやく佐竹くんに飛びかかり、ロープで体をぐるぐる巻きにして、横抱きに抱え上げました。
「ワハハハハ。きみをわがアジトに招待しよう。女装、みちくさ、銃刀法違反……きみのような悪い子は見たことがない。たっぷりとお説教をしてあげるからね」
なんということでしょう。探偵団のホープ、佐竹くんが賊にからめとられてしまうとは、一体だれが予想したでしょう。
しかし読者諸君、安心してください。佐竹くんもただやられっぱなしだったわけではありません。賊にとらえられた時、佐竹くんの手には十徳スマホが握られたままだったのです。佐竹くんは連れ去られていく際に、スマホのふりかけケースのフタをそっと開けて、地面に少しずつふりかけをまき続けました。彼は、仲間がこのふりかけの跡をたどって自分を助けに来てくれることを期待していたのです。しかし果たして、そのような大海から一粒の砂を見つけるようなささやかな手がかりに、狸林少年たちは気づくことが出来るのでしょうか。
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