佐竹少年の消失

 さて、それから数日後のこと。少年妖怪探偵団の団員のひとり、佐竹武雄くんはぶつぶつと独り言を言いながら学校の帰り道を一人で歩いていました。

「ちぇっ。せっかくあこがれの探偵団に入れたっていうのに、団長からはまったくお呼びがかからないとくらあ。うちの団長、やる気がなくなっちゃったのかなあ。くわっぱ」

 探偵団に入ったことで、毎日がスリルある大冒険活劇のように一変することを期待していた佐竹くんは、すっかりあてが外れてしまったようでした。

「はあ、僕は小学六年生にして、すでに凡庸なこの世界に飽きはててしまった。せめて探偵団のお仕事が、束の間でも僕にスリルを味あわせてくれると思ったんだけどなあ。でもしょうがない。探偵団は開店休業の状態だから、僕は僕で、いつもの方法で自分の心を慰めるしかないぞ」

 そう言うと、ちびっ子ハート・ロッカーの佐竹くんはあたりをキョロキョロ見回して警戒し、誰もいないことを確認すると、公園の公衆トイレに飛び込んでいきました。お腹が痛いわけでもないようでしたのに、大変なあわてようです。さらにおかしなことには、佐竹くんの入っていったのは男子トイレではなく、なんと女子トイレでした。佐竹くんは突然おなかが痛くなり、男女の別を確認する余裕もないほどのお腹の痛みにさいなまれたとでもいうのでしょうか。


 しばらくたって、女子トイレの個室のドアが開く音がしました。しかし、出てきたのは佐竹くんではありませんでした。現れたのは、佐竹くんと同じ黒のランドセルを背負ってはいますが、いがぐり頭の佐竹くんとはまるで似つかない、甘ロリ系のお洋服を着たツインテールの美少女でした。しかし読者のみなさん、これは非常なにへんてこな出来事ではありませんか。ツインテールの美少女がいつからここのトイレでふんばっていたのかは定かではありませんが、佐竹くんが女子トイレに入っていったのはつい十分ほど前のこと。そして今、少女が出たあとの女子トイレの個室は、すべてドアが開いており、つまりは誰もいないのです。すると、佐竹少年はどこに消えうせてしまったのでしょうか。まさか、れいの怪人「説教入道」にかどわかされてしまったのでしょうか。あるいは、別の怪人や妖怪による神かくしのたぐいでしょうか。それとも、体の小さな佐竹くんは汲み取り式のトイレに落っこちてしまったとでもいうのでしょうか……?

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