探偵団結成

 阿頼耶三十郎にかわって事件を解決する「妖怪少年探偵団」を結成する……なんてすてきな思いつきでしょう。狸林くんは自分のアイデアにすっかり夢中になり、生活能力のない阿頼耶先生に昼ごはんを食べさせるのも忘れて熱心に探偵団結成の準備をすすめました。そうして、なんとその日のうちに団員のスカウト活動まで始めたのです。


「攻めに四人、守りに三人。合計七人は団員がほしいので、団長のぼくのほか、あと六人は団員がほしいところです」

「なーる。『七人の侍』ならぬ、七人の少年探偵ということだね。しかし、きみは義務教育期間にもかかわらず学校に籍をおかぬちんぴらな身の上。同世代の友だちなど一人もいないだろうに、団員のあてなんてあるのかい?」

「先生、いまはなにごともネットの時代です。ぼくはネットまわりの交友関係を活かし、Facebook、Instagram、Twitter、2ちゃんねるでそれぞれ一人ずつ団員をつのり、ひとまず四人の団員スカウトに成功しました」

「ほう、さすが狸林くん。ネット世代の申し子だね。やんや、やんや」

「その四人はここに呼んであるので、これから先生にご紹介します。さあみんな、部屋に入ってきて、あこがれの阿頼耶先生にごあいさつしたまえ」

 狸林くんがドアのむこう側にむかって声をかけると、コンコンというノックの音がして、それから緊張のおももちの少年が四人、ぞろぞろと入ってきました。四人の子どもたちは、狸林団長にうながされ、じゅんばんに自己紹介を始めました。


「はじめまして。ぼく、長尾金之助っていいます!」

「彼はぼくより年上の中学一年生ですが、団長のぼくには敬語を使い絶対ふくじゅうするという条件で入団をみとめました。長尾くんは山姥の子どもで、怪力自慢ですがIQも高いという文武両道の逸材です。英語もたんのうなので、外国人への聞き込みや、先生が海外のプレイヤーとボイスチャットする時などに重宝するでしょう」

「なるほど。それはすばらしくグローバルな人材だ。さてはFacebookで見つけてきたな。長尾君、これからよろしく頼むよ」

 そう言って、名探偵は長尾君と固い握手を交わしました。


「こんにちは、ぼくは佐竹武雄です!」

「彼は背の小さい小柄な少年ですが、これでも小学六年生です。飛脚狐の血をひくだけあってかけっこが速く、おまけにチャメスケで、あいきょうもので友だちも多いのです。その機動力と顔の広さはきっと捜査の役に立つでしょう」

「なるほど、しょうらい立派なリア充になりそうな好男子だね。さてはInstagramで見つけてきたな。佐竹君、これからよろしく頼むよ」

 そう言って、名探偵は佐竹君のいがぐり頭をくりくりとなでました。


「あっちはジョン・ウェイン? こっちはぼく? なんちゃって、ぼくは三条貫一です」

「この冗談ずきな彼氏は小学五年生の飛頭蛮一族です。ジオングみたいに頭部だけの飛行形態になることができるので、あやしい人間の身辺調査などにかつやくしてくれることでしょう。彼のほうがよっぽどあやしいですが、それは言わぬが花です。おふざけ二等兵なので、ジョーカーというあだ名で呼ぼうと思います」

「なるほど。情報収集はお手のものというわけか。さてはTwitterで見つけてきたな。気に入った、家にきて妹を《検閲不許可》していいぞ」

 そう言って、名探偵とジョーカー君は互いにかかとをそろえ敬礼をしました。


「あ……どうも。えへへ」

「いつもしまりのない顔で笑っているこの少年は、五年生の安部与市くん。ひょうすべ族の出自です。いつもにたにた笑っているのであだ名はニタリノフ。なんの役にも立たなそうですが、水泳だけはまあまあ得意なんだそうです。ダメもとで確変の可能性に賭けてみました」

「なるほど。さては2ちゃんねるで見つけてきたな。とりあえずその、人をイラっとさせるにたにた顔を消すよう早く顔面に伝えてくれたまえ。くれぐれも僕の障害物にはさわるなよ」

 そう言って、名探偵はニタリノフくんがかくし持っていたジェリードーナツをとりあげて彼の口に押し込みました。


「いやあ、しかし、よかった。よかった。まじでよかった。君たちゆうかんな妖怪少年探偵団しょくんが、僕の代わりに事件を解決してくれれば、僕にとってこんなに楽ちんなことはないよ。さすがは狸林くんだ。妖怪少年探偵団、イエスだね!」

「いやあ、先生にそんなにほめてもらえるなんて、ぼく光栄です」

「そうだ、諸君。探偵団の初仕事として、みなで屋上庭園にあがり、青空の下で狸林くんのばんざいをとなえようじゃないか」

 なるたけ仕事をひとにまかせ、自分はゲームと映画とカフェーの女給に囲まれてあそび暮らしたいとつねづね考えている阿頼耶先生は、まったくもって超ごきげんでした。

「狸林くん、ばんざあーい」

「狸林団長、ばんざあーい」

 ブロードウェイをゆるがすばかりの快活なばんざいの声は、いつまでも、いつまでも中野の晴れた青空にこだまするのでした。

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