第51話 妖精さんみたいです

 俺たちは今、ダンジョンの中に居た。


「あーあ、ダンジョンって薄暗くて嫌な感じだな…なんか台所の黒い悪魔が出そうだ。」

「…黒い悪魔?」


 アイラが首を傾げている。

 あぁ、そっか…こっちの世界には台所っていう観念がないのか。


「黒い悪魔っていうのは、黒い色をした虫で、かなり速い速度でカサカサと走ってきて、一匹いたらその周辺には百匹いると言われるほどの虫だ。しかも、そいつらはどんな環境でも適応できるし、壁を登ったり、飛んで来たりするんだ。…うぅ、思い出しただけで鳥肌が立つぜ。」

「…えぇ、あのツバサにそこまで言わせるなんて、いったいどれだけ強いのよ…。」

「俺は、正直言ってあいつらに勝てる気がしない…。」

「…ツバサ、大丈夫。もし出てきたら私が全部切り刻む。」

「あ、ありがとう…」


 まったく、アイラは頼もしいぜ。

 そういえば、さっきから全くルーフがしゃべらないのだが、どうしたのだろうか?


「なぁ、ルーフはそこにいるか?」


 俺は後ろにいるはずのルーフに問いかけてみた。


「…」

「あ、あれ?」


 ルーフは一体どこへ行ったんだ?


「アイラ、ルーフを最後に見たのはいつだ?」

「…ん、ダンジョンに入る前?」

「イズナは、どうだ?」

「…」

「あれ?イズナもいなくなったのか?…って、アイラもいなくなってるし!」


 どうやら、ひとりぼっちになってしまったようだ。

 三人はいったいどこへ行ったのやら…。


「三人とも落とし穴に落ちちゃったみたいだよ。」

「ん?そうなのか…。教えてくれてありがとうな。」


 なんだ、落とし穴に落ちちゃったのか、だったらさっさと助けないと…え!?今俺に話しかけてきたのって誰!?


「…あ、あのぅ、一つ聞きたいことがあるのですがよろしいですかね?」

「いいよ!」

「貴方は誰なのでしょうか…?」

「うーん、説明がちょっと難しいね…簡単に説明すると、妖精っていう種族だよ。世界で一番長寿な種族なんだ~。」

「なるほど、じゃあ、この世界で一番色々な情報を知っているってわけか。」

「うん!そういうことになるね!!」


 妖精は、そう言うと太陽のような笑顔で笑った。

 笑うとなかなか可愛いじゃないか。見た目は完全に小学生だが。


「なぁ、妖精の大きさって人間と同じくらいなのか?それともお前が特別なだけなのか?」

「妖精は元々小さいんだけど、自分の意思で大きさを変えられるんだよ~。私は、お兄さんたちを見て、怖がられないように大きさを買えただけだよ。」


 ふむ、妖精も苦労してるんだな。

 …おっと、アイラたちを助けるんだった。急いで向かわないと。


「俺は、アイラたちを助けに行くから、お前はもうダンジョンから出ていろ。このダンジョンはあんまり雰囲気がよくないから、何が起こるか分からないぞ。」


 妖精が、俺のせいで怪我をしたとか言って争いが起こったら、俺は全国のロリコンにぶっ飛ばされるんだろうな…。

 と、思った俺は、妖精にこのダンジョンから避難することを勧めることにした。だが


「うーん、私も一緒に行くよ!いいよね…ツバサ?」


 あぁあああ!!その潤んだ瞳で俺を見るんじゃない!…可愛すぎるぜぇ!

 …ハッ!?俺にはアイラやイズナ、ルーフという大切な嫁がいるんだ!これくらいは耐えねば…。


「…ダメなの??」


 ごめんなさい、幼女の可愛らしい瞳には勝てませんでした。


「わかった、そのかわり危なくなったらすぐに逃げろよ?」

「うん、ありがと!」


 まったく、俺はなんでこう女に弱いんだろう…。まぁ、こんな可愛い幼女の頼みを断れるのは、一部の人たちだけだろう。


「そういえば、お前の名前はなんていうんだ?妖精って呼ぶのはなんか虚しいから、もし良かったら名前を教えてくれないか?」

「いいよ!私の名前はフェルだよ!よろしくね!!」

「あぁ、ヨロシクなフェル。…よし、じゃあアイラたちを助けに行くか…。」

「はーい!」


 俺がアイラたちの方向へ駆けだそうとしたとき、肩に何かが触れる感じがした。

 気になったので、肩の上を見てみると、肩の上に10センチくらいの大きさのフェルが乗っかっていた。

 そういえば、大きさは変えられるんだっけか…。まぁ、こっちの方が勘違いされにくくていいか。

 俺は気にしないことにした。



 道中はフェルが案内してくれたので、簡単に落とし穴の場所に辿り着くことができた。


「…ここにアイラが落ちたのか。」

「そうだよ~、ここの落とし穴は全部の落とし穴と直結してるみたいだから、ここから降りれば3人とも助けられるよ!」

「ふむ…じゃあ、降りてみますか。」

「行ってみよー!」


 俺は、躊躇うことなく穴へ飛び込んでいった。

 うわ~、この内臓がひっくり返るような感じは、さながらジェットコースターに乗ってる気分だ。

 …そういえば、俺はジェットコースターが嫌いだったのに、いつの間にか平気になってるんだなぁ。

 そんな呑気な事を考えながら、俺はアイラたちの元へと降りて行った。

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