前を向いて走れ

@kosame

第1話

「はぁ………。なんで俺が陸上部の顧問なんかやらなきゃいけないんだ……」

拓海は面倒くさそうに呟いた。陸上競技部の短距離顧問に就任したのだ。拓海は高校時代にインターハイに出場するほどの強さだった。だがそれ以来、陸上からは距離を置いていたのだ。

就任したからにはやらなければならないので、それなりに頑張るつもりでいる。いまは陸上部の部室前。入ってしまったら本当に始まってしまう、そんなこと思いながら意を決して忘れ部室に入る。

「全員集まってるかー?」

そこには16名ほどの部員がいた。1つのブロックで16人は多く、とても競争が激しい。部長らしき生徒が部員を集め拓海の周りに集める。

「えー、今日から短距離ブロックの顧問に就任した水瀬拓海だ。水瀬先生でも拓海先生でも好きなように呼んでくれ。前の顧問と練習方法とか違うかもしれないが、そこんとこは勘弁してくれ。てことでよろしく。」

よろしくお願いします。と生徒が返答する

「そうだな、とりあえず部長以外はトラック移動して準備しておいてくれ。アップの方法はこの紙に書いてあるから。」

部長以外の部員は荷物を持って早々と部室を去った。

「さて、名前は?」

「はい。自分は東城貴明です。専門は100mです。」

「まあ、そう固くなんなって。普段の部活の雰囲気ってどんな感じなんだ?」

「皆、やる気はありますよ。ですが、去年までまともに練習できなかったので……」

「それはどういうことだ?」

「うちの学校って今まで他の部活が占拠してたんですよ。前の顧問の先生おかげで今年度からトラックができたんですけど」

「ふーん……。わかった、じゃあそろそろ行くか」





ーーーーーーーーーーーー





「よし、アップは済ませたな。全員の今の実力知りたいから100のTTやるぞー。1年から並べー。マネージャーは俺の手伝いな。」

生徒達は急いでスタート地点へと向かった。拓海が聞いた話では飛び抜けて速い選手は1人くらいで他は普通らしい。見てみないとわからないため、走らせてみる。

「いきまーす!On your mark! Set!」

号砲が鳴り響き選手はスタートする。

「ふーん……、メモメモっと。」

そこから2組目、3組目、4組目と記録を取りどういうフォームかをメモする。全員が走り終わり、まとめたデータを見返す

「2年の小鳥遊がずば抜けてんな。その次に東城が喰らいついてる。後はほぼ大差ない、か。まあ、全員12秒前半はいったからよしとしよう。」

少し満足したのかホッとしたのか、少し笑みをこぼした。その後は個人面接それ以外は自主練習にした。選手一人一人の気持ちをマネージャーにメモしてもらっていた。

「すまないね。えーっと名前は?」

「大空美海です。美海と呼んでください。」

「あ、名前呼びいいんだ。よろしくな。………この部活自体に不満を持ってる奴はいない。だがやはり出れないことに不満を持ってる奴は多いな……」

「それは仕方ないことですよ……。スポーツは弱いものは落とされますから。」

「違いないな。1年からは1人も大会に出れそうな奴はいないのかー、辛いな」

「どうしてですか?」

「一年全員11秒台入ってないんだよ。悪いとは言わないが1人は欲しかった。まあ、ここから完璧に鍛えてやるから……へへへ」

「そうですね!……そろそろ練習終わりにしましょうか」

「そうだな……。よし!全員集合!」

拓海はメモしたことは特に言わずにこれからのことを手短に話して終わった。部員を見送り、車に乗って帰宅した。

「あ!おかえりー!たっくーん!」

「おっと……、毎度毎度あぶないだろう…。」

拓海に勢いよく飛びついた女は同棲中の彼女である常盤咲那だ。低身長で人懐っこいため、男女構わず仲いい人が多い。LI○Eのフレンドは500人を超える。なんでこんなにいるんだと拓海は日々思っている。

「今日の晩御飯はー……、じゃじゃーん!カルボナーラwithサラダでーす!」

「別にwithじゃなくていいだろ…。にしても本当にうまそうだな!さすが調理師免許取得者」

「へっへーん!最近私料理長になったよ!」

「23歳の新入りに料理長任せる店ってなんだよ……」

「まあまあ!それじゃあいただきます!」

「いただきます」







「あ、そういや俺陸上部の短距離ブロック顧問に就任した」

「え?栗上手の短距離ブロッコリー?」

「おいなんだよ栗上手って。あとブロッコリーでもない!陸上部の短距離ブロック顧問だ」

「へー、また陸上やる気になったの?」

「違う、強制だ。」

「まーたそんなこと言ってー。本当はやりたかったんでしょ?実業団いけなかったから」

「おい、俺は大学やってないぞ」

「でも記録会は出てたじゃん」

「むぐ……」

「まあ、今日はもう遅いし寝よ?明日土曜練習なんでしょ?」

「ああ……そうだな。おやすみ」

「おやすみ〜♪」

これからの部の目標はどうしよう。どういう練習をさせよう。そんなことを考えながら夢の世界へ旅立った。



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