第10話 父の悪戯

 西日本に潜入し、平穏無事な日々を過ごして……それからどうする。


 あの後カノンは姉のイブキと面会したらしいが、何でも説得にてこずっているらしい。

 その間、俺は暇を潰しながら西側の現状を視察しようと随時思っていたのだ。


 随時、例えばこんな時。

「お前は男を知らないだけ、なんだよな」

 俺が窓辺で西の景色を眺めていたら、マリーはチルルを諭していた。

「では訊いてもいいか」

「どうぞ」

「男って美味しいのか?」

 チルルの天然発言に、マリーは失笑を隠せない。

 そう言えば赤毛の麗人と巷で評判のマリー・火影は下ネタに弱かったんだ。

「あぁ、男の蜜は最、高に、美味しいぞ」

 この時俺は、(西は東よりも桃色パライソの傾向が強いんだろうな)などと思い。

 娘のチルルと一緒になって発情していた。

「待てお前等、この部屋から一歩も外に出るなと、私は言ったはずだが?」


 だけど俺達はマリーからお預けを喰らい、娘の手前、自家発電すら侭ならない。

 言わば俺達二人はマリーから軟禁されている、と言えばマリは―。

「心外だなダディ……それに、西日本は東日本とそう大差ないぞ」

「……マリー、俺は、でも俺には分かるんだ」

 俺が伊達に彼女達の父親をやってはいないことを証明してやる。

「俺には分かるんだ、お前達の嘘ぐらいなら瞬時に分かる」

「へぇ、そんなダディが愛しくて、キスしたいキスしたいと私は惚けちゃうものだ」

 ――これは嘘か実か、本当に分かってるのか?

 

「……さぁ」としか、その時の俺は言い様が無かった。


 けどマリーの発言の裏を取れば、西日本に何かが隠されているのは事実で、

 やはり、色恋沙汰抜きにしてここを視察、いいや見学したいと思っていた。

「しょーがねぇ~、なら、ならこの際だしボクもパパでいいよ」

 えっ?

 チルルの奴、

 西側で理想の男を見つけるという夢を妥協しやがった。

 何かを追い求め、挫折を味わい、そうして人は強くなる。

 その先、夢理想を追い求め続けるか、違う道を模索するかは個人差があるだろうけど。

 チルルには前者で在って欲しいと思うのは俺の我儘なのか?

「優しく……して」

「なんてどうでもっ、E――――ッ!!」

 どうやら、俺は無事チルルを攻略したようだ。

 と言うかチルル√に突入し、このまま『夢を挫折し成れの果てEND』ブァットエンドぅ!


「悪いな、けどお前等を外へ出す訳には行かない……んだろう」

「どうして?」

 うん、チルルじゃないけど本当にどうして?

「言いたくない、ノーコメントを希望する」

 一方は、マゼンダ色のキャミソールとTバック姿で。

 一方は全裸、俺はどっちに目をやればいいくぅぅ、眼福ぇ、ですよね。


 すると「――ダディ」疚しい視線に気付かれ、マリーは俺の背中に飛び乗って来た。

「ダディ、因みに大鵬ヒイロのことはどう思ってる?」

「……彼女は、ヒイロ先輩には一生感謝すると思う」

「ふーん……」

 はわわ、ミオちゃんです。

「じゃあ、順番に訊いて行こうかな。モモノ先生のことは?」

「モモノ? 俺の隣で寝てるよ」

 わわわ、ミオちゃんです。

「では、チルルのことは?」

「チルルは」

 っっ、マリーの胸の感触、女子の部屋のいい匂い、そしてポルノ映画みたいな状況。

 余りの恵まれた状況に俺の理性のタガは爆発し、猛然と外へ繰り出していた。

「……人の意表を突くのは上手いな、ダディ」


 と、帰ったらマリーは先ずそこを褒めてくれた。

 その次に待っていたのは鞭による彼女の折檻だったんだな。

「アオっ!」

 窓辺からの景色、

「そこんっ!」

 マリーの部屋に辿り着くまで、俺は目隠しを施されていた事、

「ふぅ……賢者ぇ!」

 そして決定的だったのは、俺が外に飛び出て見て来た西日本の現状。

 と言うよりも、この場合東日本の現状と言った方が適切なのかな。

「ダディ、物分かりのいいお前のことだから、もう知っちゃったんだろ?」


 恐らくだが、西日本は東日本より文化レベルに於いて遥に勝っていた。 

 一言で言えば西日本はユートピアだ。

「はぁ、はぁ、で、でもさ、俺達を軟禁する理由って」

「分からないのか、朱に交われば赤くなる。東から西への脱走者は後を絶えないらしいな。丁度、西日本の噂に踊らされたダディやチルルのように、祖国を忘れてそのまま西へ寝返る連中は多い」

 だが、東日本の環境は俺の知る『日本』とそう大差ないのだ。

 西日本が驚異的な進化を遂げているに過ぎない。

「あぁ、軍事力では東西に差はなし、だが生活レベルで言うと西の方が圧倒的なんだよ」

 西の方が快適で住みやすく、利便性が高い、それに比べて東側は野蛮とマリーは言う。

 そこで俺は思い切って、彼女に問い質した。

「……そして君は、俺達の知ってるマリーじゃ、ない?」

「……何だと? そこまで理解していたのか」

 彼女は初めて俺を瞠目した。

 人はその反応を窺い、優越感を得ようとして、悪戯を働くのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る