第23話 二つの屋敷と帽子屋


━━徐々に増え続けるパーティ。前回同様、纏まるような人はいない━━


鬱蒼とした雑木林を掻き分け、進んでいく。何組かのパーティが来たらしい痕跡もあったが、目立つものではない。微かに、人が押し退けたような痕跡がいくつかある程度。一部は引き返したのではないだろうか。

だがその作業をしているのは、男性、それもアリスと3月ウサギがメインだ。帽子屋は、汗をかいてまでもやらない。

徐々に拓けた場所が見えてきた。しっかりとした獣道が現れ、一安心。大半は何もしていないが歩くのも、長ければ重労働だ。


道が近場で、二又にわかれている。左に行けば竹藪。右にいけば蔦のような壁道。近いので両方を覗いてみよう。

右を見ると、手入れのされていない古ぼけた木造の洋館が見える。左を見ると、竹藪に囲まれた変わった作りの屋敷。


「……どっちなの?」


屋敷が二つあるだなんて話は聞いていない。ラプンツェルたちも首を傾げる。どっちかが正解?それとも、両方正解?下手に決めつけることも出来ず、皆黙ってしまう。


「……人数いることだし、二手に分かれる?何もなかったり、早く終わったら終わっていない片方を手伝う」


「一緒の方がリスクは少ないけど、七人もぞろぞろ行ったら、逆に狭いかもしれないわね」


今回は七人。取り敢えず考えなくてはならないのは、。いつ噂を聞きつけてくるかわからないし、あの話が予想通りなら……どちらかにいるはずだ。慎重にことは進めなければならない。


「……どちらも間違いなく依頼場所なら、人形の種類と捉えるべきじゃないか?」


おもむろに話し出す帽子屋。


「あっちの洋館には、フランス人形やらの西洋人形があると仮定する話な。だったら………、こっちのには東国人形があると仮定出来ることに……ならないか?」


皆に見られていることに、ちょっと躊躇した。


「……水を指すようですみません。前回から不思議に思っていたんですが……」


口ごもるリーゼロッテ。


「あなた、なんで関係になると詳しいわよね。前回はが読めた。今回は、あの建物をと断定した」


別に推理しているわけではない。言いながら何となく察したが、本人が言わないことには勝手な憶測に過ぎない。


「ああ、そんなことか。おまえらに俺の身の上を自ら話す意味がないから、してなかっただけだ。何せ、俺は出身だからな。知っていて当然だろう」


一々とげのある言い方をするナルシスト。


「あのは、向こうの文献で似た形式のものを見たことがあったんだよ。こっちは近代化が進んでも、こういう家屋は国内各所に点在している。……これでいいか?」


丁寧なんだか、やる気がないんだか。いや、両方だ。仕事には、金になることには前向きな汚いナルシストに間違いない。


「じゃあ、あなたはがいいわね」


中の構造は、民家には代わりないからそれぞれだろうが、作りなどは知っている人間がいた方がいい。


「俺は!美女美女といく!」


協調性のない、節操のない変態がラプとルクレにすすすと歩み寄る。


「……バカを一人、盾役にいくから、あなたたちはそちらをお願い」


ルクレ、完全に相手にするつもりはないらしい。


「……三人で大丈夫ですか?」


「そっちも四人じゃない♪」


確かに割るなら妥当だ。


「……私たちもではないの。安心して」


女性陣、誰も純粋な人間がいない。


「……ちっ、またお守りかよ」


「あなた前回、あたしを投げただけじゃない。偉そうなこといってるんじゃないわよ、どさくさに紛れて殺すわよ?」


見えてない瞳が、まるで見えているかのように、帽子屋の瞳を睨みながら凝視する。


「……あの二人よりマシなんだよ!」


ちょっと後ずさる。力では勝てないと認識はしているようだ。


「じゃあ、赤ずきんは俺が守るな!」


忘れられていたバカがしゃしゃり出す。すぐにローゼリアの瞳はアリスにシフトチェンジ。


「……スミマセンデシタ」


可愛い衣装で土下座を始める情けなさ。


「はいはい!寸劇はそこまで!別行動開始よ!」


ラプンツェルの掛け声とともに、七人は二手に別れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ローゼリア&リーゼロッテ&アリス&帽子屋T

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


竹藪竹藪竹藪竹藪竹藪竹藪竹藪竹藪竹藪………。屋敷は見えているのに竹藪は、間隔の狭い、見えているのに中々先に進めない迷宮だ。花園のような壁迷路と違って、バランスを崩したら竹に当たる。痛い。またよろめいて竹に当たる。エンドレス。時折、無駄にでかい声で竹に当たる声がする。竹に当たって、竹に当たる。


「いってぇよ!柔らかくなりやがれ!」


「植物に当たるな、バカが移る」


バカはナルシストに任せながら、向こうの三人は無事、洋館に辿り着けただろうかと考えていた。リーゼロッテが。ローゼリアが考えるわけがない。


小一時間、根気よく竹とぶつかりながら、ようやく屋敷前についた。


いくつもの人工的で均一な石がカーブした三角にも思える屋根は、『瓦屋根かわらやね』と言うらしい。屋敷に使われているのは、『檜木ひのき』と呼ばれる、良質な木材。細い連続した四角いものについている紙は『和紙わし』という、東国で手作りされている紙なんだそうだ。繋ぎ目のない建物に、素直に驚嘆してしまう。廃墟になって久しいのに、まだまだキレイだった。竹藪は積み石の壁と、違和感なく寄り添っている。石壁の防御壁を守っているような……。

屋敷の建物に入っていないからだろうか。持ち主がいないだけの廃屋にしか見えない。


「すげー!すげー!こっち来いよ!」


姿が見えないと思ったら、角から頻りに手招きしている。こいつに来いと言われる筋合いなどないのだが。


「ギャーギャー叫んでんじゃねぇぞ、クソガキが!」


しかし、そんな帽子屋の足取りは普通、至って普通。アリスの元へ、真っ先に歩いていく。


「「…………………」」


二人は顔を見合せ、ゆっくりと後を追う。

角を曲がった先に見えたものは…………。


「……静かね」


「あ!砂のお池!」


「『枯山水かれさんすい』(注釈アリ)。今じゃ、として指定されているらしい」


侮れない大人。自分にしか興味がないという、最大にして最悪なナルシストでなければ、欲しいときに教えてくれるマニアはモテるだろうに。


「泳いでいいか!?」


砂の池で泳ぐアリス、想像に苦しくないので却下。すぐさま、帽子屋に首根っ子を掴まれる。


「風情や詫び錆びもわからねぇ、クソガキが!大人しくしやがれ!」


砂時計のような仕組みの、竹で作られたものは『鹿威ししおどし』。静寂に響くその音は、何とも風情。

風情もへったくれもないアリスだけが悩みの種だ。





。.:*:・'°☆


(注釈)ウィキペディアティーチャーより一部抜粋

日本庭園や日本画の様式・風のひとつである。仮山水かさんすい故山水ふるさんすい乾泉水あらせんすい涸山水かれさんすいともいう。

枯山水は水のない庭のことで、池や遣水などの水を用いずに石や砂などにより山水の風景を表現する庭園様式。例えば白砂や小石を敷いて水面に見立てることが多く、橋が架かっていればその下は水である。石の表面の紋様で水の流れを表現することもある。

砂を用いず石組だけで風景を表現する枯池式と呼ばれる枯山水も存在する。


。.:*:・'°☆

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