プロローグ~始まり~

気持ち悪いのと朝からとても気分の悪い夢を見て、テンションががた落ちの俺は、ノロノロとした粘りつくような足取りで、首を回しつつ、一階へと降りていくと風呂場へ直行した。


脱衣場にて、慌ただしく風呂に入る準備をする。


近くにあったラックのかごの中に、持ってきた下着と制服を無造作に投げ入れて、汗でびっしょりなパジャマと下着を脱ぎ捨てぐるぐると丸めて洗濯機にダンクシュートする。


素っ裸になるとそそくさと引き戸を開けて風呂へと入っていた。


タイル貼りの壁に、シンプルなプラスチックの床。

バスタブとシャワー…


出来たらゆっくりとバスタブに浸かりたいが今日は学校があり、後一時間ほどで朝御飯を食べて支度をしないと遅刻になるので、俺はその気持ちを抑えて、その目の前のシャワーの詮をひねる。


一番最初のシャワーは水で、少しばかり待たないとお湯にはならない…

手で、まだかな?と当てながら、不意に思った。


――隼人、今頃何処にいるんだ?


どうしても悔やんでも悔やみきれない、悲しい記憶を思い出した。

あの日、電脳世界で起きた事故に因り、隼人は行方不明になったのだ。


燃え盛る町並み、空や俺達の足元のコンクリートにノイズが走り、パカリと割れた亀裂から、真っ赤なビジョンが見えた。


救助船の滑る梯子…


バランスを崩して落ちそうになりながらおぼつかない震える手足を必死に動かして上がろうとしているところ…。俺は足を滑らした…。おぶっていた女の子と俺までを救助隊員は掴んだが、隼人は燃えて爆発を繰り返す空間へと落ちていった。


俺がバランスを崩したせいで、俺は隼人を蹴り飛ばしてしまって、隼人は大きく梯子から投げ出された。


あの時、なりふり構わず隼人に手を差し伸べていたら、きっと隼人は助かっていた。

無理だろうとか思うやつもいるかもしれないが、やってしまった加害者の俺が犠牲になっていれば、隼人は梯子に残れていた筈だった。


非力の癖に、誰かの命を背負えるほどの器量がないくせに隼人の、女の子は俺に任せろ!と云う言葉を無視し、下らないプライドを盾にして、俺がやると頑なになったせいで起きたことだった。


はっとして首を振り、悔恨の念がじわりと胸を締め付けた。


おもわず瞑目する。


ーーつまらない意地さえ張らなければ、隼人が落ちることはなかった…


そうあれは、電脳空間。『デジモノファーム』で起きたエラー…

コンピュータウイルスの一種、破壊ソフトが侵入してきて俺達が住居地区として使っていたエリアで起きた出来事だった。


まさしくそれは俺と隼人で作り上げた、世界ーー。


電脳世界の仲間や警備の人達は、悪くないと慰めてくれたが、俺は俺自身をいまだに許せていなかった。


一番守りたかった、助けたかった大切な友人を守れなかった愚かな自分が…


守りたかったのに最後の最後に、裏切ってしまったといつまでもいつまでも苦しくつきまとっていた。


その痛みが胸を急に締め付けてきて、俺は拳を壁にドスッと一回入れる。


痛みからそれとも苦しみからなのか、目頭が熱くなり、涙がこぼれてきた。


俺はおえつしながら、頭をそのままちょうど温かくなったシャワーに突っ込んだ。


誰もいないはずなのに見られている気がして、男の泣いている姿を隠すためにお湯にと一緒に涙を流したのだった。


そうあの日から、俺は心に決めていたのだ。


必ず自分の手で隼人を見つけ出すと…


それが俺のけじめであり、親友への一番の謝罪てはないかと思っていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る