十 大玉転がし
テレビの中では、実況のフルダーテと解説のコロ・ガッシが出場選手の紹介に移行していた。
「では、今回の出場選手紹介です。今回は大玉が異例の七つということですが」
「なかなか思い切ったことをしましたねえ」
「ええ。実は現在、世界にはトンガリ王国を除いてちょうど七つの国があるんですよね」
「確か、新しくできたのがガニマタ王国とか」
「はい。新参者とはいえやる気は十分ですよ! 実は私もガニマタ王国の一員なのです」
「ほう、それはそれは」
「ガニマタ王国、デップリ王国、シットリ帝国、マッタリ共和国、ウットリ連邦、ハットリ国、そしてウンザリ諸島。今回の大会は、この七つの国から一組ずつ出場しています。開催国のトンガリ王国は国内のゴタゴタにより不参加。つまり」
「国対抗大玉転がし大会、というわけですか! 史上初ですね」
「これは燃えますねえ」
「燃えますねえ」
「では、出場選手一覧です。ご確認ください」
テレビ画面に一覧表が大きく映し出された。
「さて、コロ・ガッシさん、注目の選手はいらっしゃいますか」
「そうですねえ、まずはマッタリ共和国、パワータイプのオダマ選手。鍛え抜かれたその腕は、ひと突きで大玉を数十メートル弾き飛ばします」
「数十メートル! 水とワカメの詰まった大玉は、ひとつが百キロを超えます。それを弾き飛ばすとは、恐るべき腕力ですね」
「ええ。そして相方のコダマ選手はテクニックタイプ。一見地味ですが、その勢いを殺さずに大玉を方向転換する技術に長けている。私が引退したあとにめきめきと頭角を現してきた、お互いがお互いを支える非常にバランスの良いペアです」
「なるほど。噂に聞く『剛腕のオダマ』と『匠のコダマ』ですね。優勝候補の一角として健闘が期待されます」
「次に堂々の優勝候補、ハットリ国のゴロゴロ選手。彼はその天才的なセンスを活かし、たった一人で大玉をゴールまで運びます。彼は道を一目見るだけでその凹凸や障害物の位置などを全て把握し、最速、最短ルートを選び抜く。大玉を運ぶその勢いたるや、まさに稲妻の如し。非の打ち所のないオールラウンドタイプです」
「大玉の申し子、『イナズマのゴロゴロ』の名前は今や全世界の知るところでしょう。かくいう私もファンの一人です」
「その端麗な容姿から、ファンも少なくないようですね。そして相方のドロドロ選手はトリッキータイプ。ひたすら相手の妨害に専念します。ゴロゴロ選手あってのペアと言えますが、ドロドロ選手も相当な実力派。このペアとの対戦は私でも嫌ですね」
「ドロドロ選手の妨害あってこそ、ゴロゴロ選手が活きるのかもしれませんね。それにしてもコロ・ガッシさんにそこまで言わしめるとは……やはり優勝候補、さすがの一言です」
「そして今大会のダークホース、ガニマタ王国のディーン・ファイン選手。パワータイプ。彼はなんと、デップリ王国投げ槍選手権大会の王者です。他競技からの参入ですが、そのポテンシャルは計り知れない」
「今大会の台風の目ですね」
「そして相方のシリム・チーリ選手ですが、ユニークタイプということで、能力はまったくの未知数。経歴には『グラビアアイドル』と書いてありますが……? 今大会唯一の女性選手ということもあり、期待が高まりますね」
「なるほど、ありがとうございました。おっと、現場から中継です。たった今、選手たちがスタート地点に到着したようですよ。では選手紹介はひとまずここまでにして、現場の映像をご覧ください」
カメラが動き、居並ぶ選手たちを映し出す。選手たちを一目見るべく、押し寄せたファンたちの嬌声が響いてくる。大玉のルートとなる大通りは一般人の立ち入りが禁止され、警官たちが物々しい装備でテロを警戒している。
「今回の大玉は新仕様ということですが……?」
「はい。実は、今回の大玉には水ではなく炭酸水を使用。より弾力に富む大玉となっています。おまけに大玉になる前は全員がBMI18以下という、骨ばった体の持ち主。さあ、選手たちはこの仕様変更に対応できるのでしょうか」
「イレギュラー尽くしの大会、選手たちの自力が試されますね」
「さあ、いよいよ選手たちがスタート位置に着きました! スタート時刻は全世界標準時にしてPM1:00です。あと十五分……いよいよ迫ってきましたね!」
「選手たちも緊張の色を隠しきれていないようです」
その頃現場では、ディーン・ファインとシリム・チーリが最後の打ち合わせをしていた。
「いいか、俺が大玉を適当な位置まで転がすから、スタート位置で待機しておいてくれ。あの洞窟でゲラゲラヘビを倒したときのことを思い出すんだ」
「わかったわ……なんとしても優勝しましょう。ガニマタ王国の知名度を跳ね上げて、訪れる観光客を増やすのよ」
「よし、頑張ろう」
気合を入れる二人。それを虎視眈々と観察しているのは、優勝候補ペアのドロドロ選手である。彼はその観察眼で敵の弱点を見抜き、容赦ない妨害を仕掛ける。
その向こうではオダマとコダマペアが精神統一している。
その他の国の、名前さえ書いてもらえないペアも、とりあえずはスタートに向けて最後の調整をおこなっていた。
各自の思惑が交錯する世界大会。
そしてとうとう、決戦の火蓋が切って落とされた。
「一時になりました! 全選手、スタァァァァーートッ!」
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