七 空中戦

「完成しましたぞ」

 四日後、プリンプリンが皆を集めて宣言した。そこにあったのは銀色に輝く巨大な円盤であり、荷馬車の面影は影も形もなかったので一同びっくり仰天、これは何だと博士に詰め寄った。

「諸君、円盤状の物体が高速で回転すると少し軽くなる……というのは知っているかね。私はそれを応用し、とてつもなくものすごく高速で回転させることでとうとう重力の楔を脱することに成功した。つまりこの乗り物は重力の影響を受けぬ。名付けてUFO。名付けた理由はあのカップ焼きそばに形が似ているからじゃ」

 全員がどよめいた。

「もちろん、内部は回転しない。乗り心地は快適そのもの。しかもユニットバスではなくバス・トイレ別、キッチン付きの個室がそれぞれにあるぞい」

 全員がその性能と部屋の広さに驚き、それを四日間で完成させたプリンプリン博士への賞賛の拍手がどこからともなく湧き上がった。

「ありがとう、ありがとう。では乗り込みたまえ」

 こうしてアダムとその部下たちはUFOに乗り込み、空へ舞い上がって亀裂の上空をふわふわ進み始めた。

 アダムたちの乗った円盤は銀色であるため日光を反射してギラギラと輝き、それは遠くデップリ王国からも見えるほどであった。そして、それは当然、空を舞う女王の目にもはっきりと映った。

「あんぎゃおう」

 女王竜は一声喚くと、その円盤に向かって飛び始めた。女王竜の角は「アダムセンサー」としての役割を果たし、その中にアダムがいるという確信を女王竜に与えていたのである。愛憎入り混じった複雑な視線を銀色の円盤に投げかけつつ、女王は空を駆けた。

 そして、その姿は操縦席に座るプリンプリンの目にもしかと見えていたのである。

「アダム殿!」

 焦燥に満ちたプリンプリンの叫び声にアダムは全速力で円盤内を走り抜け、博士のもとへ駆け付けた。

「何事だ」

「竜、それも大きな竜がこのUFOを追ってきているのじゃ」

「!?」

 滅多に動揺しないアダムだが、この時ばかりは我が目を疑った。

 モニターに映し出されたのは確かに竜である。ねじくれた角、骨ばった翼、てらてら光る鱗に覆われた肌、棘の生えた尻尾。それはどこからどう見ても竜であった。そしてアダムには、その竜の顔立ちにぼんやりと見覚えがあった。

「あれは……まさか!」

 どことなく、女王の面影があったのである。

「まさか、何です! アダム殿、攻撃許可を!」

「う、うむ……許可しよう」

 あれが女王であるという確信はなかったが、このまま追いつかれるとまずいということはアダムにもよくわかっていた。悩みながらも攻撃を許可したアダムの声を聞くが早いか、プリンプリンは壁のボタンをぽちりと押した。

「バタートースト発電装置により発電した電力によって円盤を回し、そして回った円盤によって再びピストンを動かして発電する。無限の発電サイクルによる電力を全て集約したこの砲身より放たれる電磁光線はその名も」

「波動砲」

「その通り! チャージ完了! 撃てえ!!」

 プリンプリン博士が再度ボタンを押すと、UFOからにょきっと突き出した砲身からまばゆい白光が迸った。

 それは寸分違わず女王竜に命中した……はずだった。

 光が収まると、無傷の女王竜が姿を現した。実は女王竜が人間であったとき、落下したシャンデリアに押しつぶされて感電したのだが、それによって女王竜の皮膚には電撃に対する耐性が備わっていたのである。おまけに女王は常に無能な部下や逃げたアダムに対する怒りに身を焦がしていたので、鱗は耐熱性にも優れていた。この鱗はセラミックでできており、現在ではスペースシャトルの外装にも使われているほどの素材である。よって、鱗から少しの白煙を上げつつ、何事もなかったかのように女王竜はUFOに迫ってきた。

「もう駄目じゃ、あの鱗には波動砲から発する高電圧も高熱も意味を為さぬ。我々は竜に襲われて墜落死する運命なのであったか」

「馬鹿を言うな」

 アダムはぐいっと操縦桿をもぎとると、全速力で森へとUFOを移動させ始めた。

「穴に落ちれば助からんが、森に落ちれば助かる可能性はある。追いつかれる前に森の上空まで辿り着くのだ」

 全力を出したUFOにはさしもの女王竜も距離を縮めるだけで精一杯、なかなか追いつけず、UFOがやっとのことで森の上空に差し掛かったとき、とうとう女王竜は痺れを切らして新たな攻撃手段に出た。

「うぎゃおう」

 叫び声と共に口からぼ、ぼ、ぼ、と吐き出した火炎弾がUFOに迫り来る。

「わ、わ、わ」

「避けろ!」

 情けない声を上げて尻餅をつくプリンプリンを尻目に、アダムは操縦桿を操って火炎弾を避けた。

「あわわわわ」

「少し黙っていろ!」

 迫り来る大量の火炎弾を、上下左右にひらりひらりと躱していく。とうとうアダムの精密な操縦によって飛来する火炎弾を全て避け切ったと思ったのも束の間、女王竜の姿はいつの間にか消えていた。

「まさか!」

 視界を埋め尽くす火炎弾を隠れ蓑として、女王竜はUFOの上空に接近していたのだ。

「全員、身を守れええええ」

 アダムの叫びの一瞬後、女王竜の放った特大の火炎弾がUFOを直撃した。

 UFOは森の上空で爆発四散し、中にいたアダムとその部下たちは、UFOの破片と一緒にてんでんばらばらな方角に飛び散り、森の中へと落ちていく。アダムは落ちながら、ぼやくように呟いた。

「プリンプリンが造った乗り物というのは爆発しないと気が済まないのだろうか」

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