飼育日記

 飼育一日目、今日は草原に触れてみる。意外に土は硬くて草は公園などでよく見るものとは大差ない。草を触っていると鋭い痛みが指先を走った。どうやら草で指を切ってしまったみたいだ。そこも普通のものと同じである。切ったところに絆創膏をはって、また土や草を触って調べていると、一匹の羊が私の指に気付いて近寄ってきた。とりあえず、モフモフしてみる。うん、普通の羊と同じ触り心地で気持ちいい。

 

 飼育二日目、今日は羊の観察をする。とりあえずモフモフする。二匹は寝ていて、他三匹は草を食べていたり遊んでいたりする。残り一匹は私のほうを見ている。キラキラした目で見つめてくる羊は、私が指を近づけると喜んで駆け寄ってくる。言えることは一つ、ただただ可愛いということである。


 飼育三日目、缶の中の草原以外に食べるものがあるか調べてみる。初めに手元にあったみかんをあげてみる。みかんといっても一房の中の一粒である。それを草原の上に置くと、羊がわらわら集まってきて一斉に食べ始めた。次はクローバーの一枚毟った葉をあげるが見向きもしない。果物のほうがいいのかと考えて林檎をあげてみる。すると、せっかくの林檎を枕にするつわものが現れた。ちょっと、というか結構硬いと思う。少し時間を開けてから、苺をあげてみる。みんな食べ始めた。若干赤っぽくなる羊を見たかったけれど、流石に枕にし始める羊はいなかった、残念。


 飼育四日目、今日は羊の休日にしてあげよう。私は見てるだけ、そう言いたかったけど缶を傾けてメェーメェーいうのを聞く。この「メェーメェー」は絶対、「あーれー」って言ってると思う。


 飼育五日目、なんだか羊は一日目よりも大きくなったみたいだ。定規で測ると一,五cmになっている。たくさん食べたおかげで成長したのだろう。


 飼育六日目、調べることが無くなった。今日までの結果としては、この羊は普通の羊と大差ないことだ。違うのは大きさだけか。


 飼育七日目、おばあちゃんから届いた缶以外も、もちろんこうなっているんだろうと思いどこで売ってるかネットで探す。……電車で三十分という近場で売っていた。私は行って買ってこようと思ったが、今日のところはやめておこう。理由は羊が指にじゃれてきて可愛いからである。


 飼育八日目、早速行ってみることにする。電車に揺られながら留守番中の羊を思い出す。メェーメェーメェー。それから三十分後目的地に着いた。着いてすぐ私はあの羊缶が売っている店に向かう。すぐに見つけることが出来たのでそれを一つ買う。見た目のパッケージは同じ、変わったところは無い。ものすごい速さで家に帰る。滞在時間約五分。家についてまず缶を振ってみる。メェーメェー。同じだ。そして缶を開けてみるとそこには、小さい羊なんてものはいなく金属の密集してるだけのものであった。ただの機械である。なんてことだ、私が貰ったものは二つとも生き物が入っていて、自分で買ったものはただの機械だったのだ。

 買ったものは仕方なく置いておく。そして私は、生きている羊たちをこのまま飼うことにした。場所もとらないしお金もかからないこの羊たちを飼うのに何も問題は無い。これからもこの子達の観察でもしていこう。

 ところで、おばあちゃんはあの羊缶をどうやって手に入れたのだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メェーメェー缶 福蘭縁寿 @kaname54

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ