転落


 道連れにするつもりなど、最初から無かった。


 きっと、彼女を殺すつもりさえ無かったに違いない。度々湧き上がった激情は、ただの醜い嫉妬だったのだろう。


 当然だ。あんなに格好良いカレシが居るのに、テュランのことばかり気に掛けるのだから。


 アーサーだったら、きっとサヤを見捨てることなんてしないだろう。


 ああ、それに比べて自分はなんて酷い男なのだろうか。


 正義などという、大それたものすら持たず。恋人を殺して、大切な人を傷つけて、喜んで。でも、それを素直に認めることも出来なくて。結局、アルジェントという国を壊して、大勢の人を殺してしまった。


 それは、あの研究所に居た人間と何も違わない。最低だ。さっさと死ぬべきだ。それも、出来るだけ無残に。誰からも同情される余地なんか無い程に。


「……ごめん、ヴァニラ」


 出来ることなら、もう一度だけ彼女に会いたい。文句でも何でも聞くし、何なら殴られても良い。何を今更、自分で殺しておいて笑わせる。


 ……でも、もし。


 もしも、また会えて。そして、許して貰えるのならば。


「今度こそ一緒に、遊園地に――」



 ――儚い願いは、呆気なく砕け散り、跡形もなく消えた。

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