幽冥に惑うは、人か魔か。青春幻想怪異譚

 王道を往く青春伝奇です。
 日常と異常。人と人外。
 交じり合わない筈の二つの世界が交錯する、その瞬間を見事に描いています。
 よく練られた世界観、設定に圧倒され、その中で躍動する怪異達に魅せられること間違いなし!
 現代伝奇としての暗澹とした雰囲気もしっかりと表現されており、不吉で不穏で不気味な怪奇譚に仕上がっています。
 そしてそれと同時に、主人公を始めとする少年少女達の真っ直ぐな青春面の描写もバッチリ。相反する日常と異常のコントラストが互いを引き立て合う。これぞ青春伝奇といった具合。
 ダークな世界観の中、善悪正誤の違いははあれども、登場人物達が皆真っ直ぐなのも好印象。読者が安心して読めるようになっていると思います。
 文章力も世界観を表現するのに足る確かなもので、しっかりとした物語に仕上がっています。(禁則処理が甘い所もありますが……)
 気になったのは序盤の立ち上がり部分。世界観等の解説が延々と続き、正直詰め込みすぎです。初見だと目が滑らざるを得ないかと。
 ですがなんとかそこを乗り越え、作品の中に入ってゆければ、人と妖が綴る幻想譚が読者を待っています。
 完成度の高い作品です。もっと評価されるべきだと思いました。
 この先の物語を楽しみにさせてもらいます。



 ………………ただ、主人公が『倍加』を使う度に某地球生まれの戦闘民族がチラつくのは自分だけではないはず(笑)