38 最後まで楽しく、全力で


「――ファンキー世織の、ファンキィ~~ッ……ンマンデ~ィ!」


 時刻は十六時一分前。派手なアロハにグラサン姿のお爺ちゃんのグルーヴィーなボイスが、マイクロフォンから響き渡る。

「てなわけで、月曜日のお相手は、雑ヶ谷1ファンキーなこのワシ! 久野・ファンキー・世織……とぅ!」

 空に飛び立ちそうな『とぅ!』の所で目の前のファンキーと目が合い、恭平は慌てて。

「緊急アシスタントの長江恭平でした!」

「次は水曜! ダンディー世織に会いに来てくれよな! オウイェ!」

「今日の七時からも聞いて下さ~い」

「ダッツオールラッ!」

 アロハが叩き付けたサヨナラビートとは裏腹に、スピーカーからはのんびりとした雑ヶ谷音頭の音色が響き始めた。

 途端、『イエ~イ』とハイタッチを求めて来た久野・F・世織さんと申し訳程度に手を合わせつつ。

「あの、ありがとうございます。出してもらっちゃって、宣伝まで――」

「ヤッハァ! 気にすんなってブラザー! キョーヘーが出てくれて、俺達新しい波が生まれたじゃん!?」

 グラサンの端をクイッとやりながらのファンキースマイル。

「はは、そうですね。正直、凄く楽しかったです。ファンキーSENRYU、凄い好きです」

「オウイェ♪」

「イェイイェ♪」

 次々とポーズを繰り出すお爺ちゃんに同じポーズでリスペクトを返していると、ドテドテドタタッと激しく階段を駆け下りる音が聞こえ。


「待て待て待てっ! あっ、キャッ!」


 ドタン! と入口の外で不穏な悲鳴。


「……」「……」「……」

 誰もが一瞬、目を合わせて。


「おい! 大丈夫か、ユリ坊!」

 スタッフブースからひらりと飛び降りたアスカさんが、がらりと黒塗り木製扉を開けると。


「……いった~~」

 と、おかっぱ頭を押さえて蹲っている少女。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃ無い! なんだこの階段はっ!? 私を殺す気か!」

「……良かった、無事みたいだね。ふふ、しかしまさかこの階段で転ぶ人がいるとは」

 なんて涙目の女子とわいわいし始めた兄さん達の輪に半ばほっとしながら加わった恭平は。

「あれ、尾張さんちっちゃくなってない?」

「お、マジだ! ユリカちゃんちっさ! 頭打った!?」

「んなんで縮むか! 私はもともとこの位なのっ!」

「いやいやいや、高校生でそれは無いって、ねえ?」

「あるの! キョーヘーは私の何を見てたんだっ!?」

 憤慨する小柄な少女の前、男共は『え~?』と顔を見合わせ。

「ちょっと、尾張さんこれに座って見て」

 と、皆を代表して恭平が差し出した椅子に『?』を浮かべたユリカが座ると。

「あっ、縮んでませんヨイトさん! いつもの尾張さんです!」

「……ん?」

「おおなんだ、いつも見てるユリカちゃんじゃん。ビビらすなよ~」


 ホッとした顔で一斉に胸を撫で下ろす男達。それをじろりと睨み上げ、ユリカがふらりと立ち上がった。


「…………おい、お前ら――」

「あれ? やっぱり縮んでる?」

「うおマジだ! 思ってたよりちっせえぞ!」「縮んだ縮んだ!」「これは……縮んでるねえ」

「だっ! 誰が短足じゃぁ! お前るぁ人が気にしてる事をっ! それが女子に対する態度かっ!」

 ぴこーんと背筋を伸ばして怒鳴る低重心女子高生。

「大体お前っ! キョーヘー! 私に黙ってゲストに出やがって! 何度目だこの野郎!」

 指さされた恭平は、むむっと首を傾げつつ。

「……二回、目?」

「聞いてないわっ! そうじゃなくて! 私は怒ってんの! キョーヘーばっかり狡いの!! ウチらは二人でセットだろうがっ!」

「え~……」

「チューダー片手に、いつかてっぺん取ろうって誓ったじゃんかぁ!」

 どこぞの漫画家の思い出を振りかざした相方に、キョーヘーは首に手を当て渋い顔で。

「……まぁ……言ったけどさぁ」

「言ったんだ!?」

 横から突っ込んだ高い声はヨイトのもの。

「二人で一つの名前を使って! ユーチューブに藤子不二雄の漫画を投稿して大人気になろうって言ったじゃんか!?」

「犯罪、犯罪だぞ」

 売れない俳優の突込みでリズムに乗ったユリカちゃんは。

「それがどうして!? なぜに私を裏切って一人でゲストに出てるんだよ!」

 と、まるで本番中みたいなテンションで。

「なあ、Aよ! 長江・A・恭平よ!」

 コントに入ったまま熱く語りかけてくる。そんな相方の必死顔に、恭平は首を振って。

「…………Fよ。尾張・F・ユリカよ」

「名字違うのかよ」

 仲間の笑い声を聞きながら語り返そうかと思った矢先。パンパンと手を叩く音がして。

「はいはい、そこまで。テンションは本番まで取っておこうか。せっかく早く来たんんだし、今は、今やれる事をやろう」

 村田Dが優しく微笑みながら、時計をついっと指差した。


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