第3話

初めてのデート。

白いブラウスは、羽二重のオーガンジーで、レモンイエローのミニスカートに、華奢な靴。

待ち合わせ場所の駅前で藤倉くんを見つけた。

(私服…かっこいい)

どうってことないTシャツにロングベストと黒いジーンズとスニーカー。

でも背が高くて筋肉が綺麗についていて、物凄くかっこよかった。

(目立つよ、藤倉くん)

それなのに藤倉くんは私を見るなり、子犬のように駆け寄る。

「新川さん!」

「は、はい!」

「はあああ…かわいい~」

「へ?」

藤倉くんは私の足を見て固まっている。

「ほそっ!」

「はい?」

心配そうに私を見る。

「折れちゃわない?」

「え?」

「壊れちゃわない?」

「はいい?」

聞き返すと、またまた深い溜め息。見ると涙目になっている。

「…俺、ずぅっと新川さんを遠くから見てたから」

「…」

「合格発表の日に初めて見てから、かわいいなって思ってた」

「…一年以上前…」

「…うン…」

藤倉くんは小さく頷く。

「文化祭はピアノ演奏してた。綺麗だった」

「…」

「バザーで、クッキー焼いてたでしょ」

「うん…」

「俺、買い占めたもん」

「…」

「新川さん、割と裏方担当で、隙間からしか見えなかったけど」

「…」

(気づかなかった…)

藤倉くんは、相当私を見ていてくれたらしい。

「近くで見るとちっちゃい」

「え、私、平均より身長あるよ」

「俺よりちっちゃい」

「…」

バスケ部の次期エースと比べたら確かに…。

(ていうか、藤倉くんと私は男と女だし)

「俺…手ェつなぎたい」

「え」

「でも壊しそう」

「こ、壊れないよ!」

「うん…知ってる。前、新川さんは友達がナンパされて泣いてた時、相手に跳び蹴りくらわして、逃げてたし」

「…」

「体育祭もかっこよかった。クラス応援団長。男らしくて、でも料理うまかったり、友達を助けたり、色んな雑用したり、だけどピアノも綺麗にひけて、いつも笑顔で元気良くて」

「…」

「俺はバスケしか出来ないバスケ馬鹿だけど、新川さんは、完璧だなあって…ずっと見てた」

藤倉くんは私の手をじっと見てる。

「こんなちっちゃな手が、あんな大きなことをしてたんだな」

藤倉くんは不思議そうに私の手を見続けている。

「俺はあなたに憧れてた」

「…」

「最初は、かわいいなって。でも、だんだんスゲエなって」

「…」

「ホントは告白するつもりなかったんだ。だけど、新川さんをいつか誰かにとられるなら、一度でいいから、俺を見てほしくて」

「…」

藤倉くんはうっすら笑った。

「デートなんて夢みたいだ」

藤倉くんは私の手を見ている。やがて意を決したように指を伸ばし、そぉっと私の爪にふれた。

「…やっぱ、ちっちゃいな」

そのまま、私の手を取る。大きな手がふんわりと私の手を包み込んだ。

(…わあ…)

すぐに手が外れる。小指だけ絡められた。

「新川さん、ちっちゃくて迷子になりそうだから」

「…うん」

でも

どんなに迷子になっても。

藤倉くんなら、私を見つけてくれる…

そんな気がした。


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