第2話

靴箱を見たら、手紙が入ってた。

手紙といっても、ノートの切れ端。

〈メアド聞きはぐれた。

自転車置き場にいます。

一緒に帰らない?

藤倉彗〉

「…かわいい字…」

綺麗で素直で読みやすい字。

(でも今何時?)

クラス委員をしてる私は雑用も多く、今日は遅くなっちゃったのだ。

いつも一緒に帰るユキや沙夜香、真実もとっくに家についてる筈。

私は慌てて、自転車置き場に行った。

「あ」

「あ」

お互い目が合う。

その瞬間、藤倉くんの顔がぱあああっと笑顔になった。

「よかったあ」

不安げな羊みたいにしょんぼりしていたのに、満開のひまわりみたいに輝いている。

「遅くなってごめんなさい!」

「なんかあったかって心配したあ」

そのあと、藤倉くんは、はにかむように「ふられたのかとも思った」とつぶやく。

私に会えて心の底から嬉しそうな藤倉くん。

胸が熱くなる。

「帰ろっか」

藤倉くんが自転車をだす。

「新川さんはいつも電車だよね」

「う…うん」

(そんなことも知ってるんだ)

「じゃ、駅まで送る」

「う、うん」

藤倉くんが自転車を押す。長い体を折り曲げて。窮屈そうだ

「藤倉くん、乗っていいよ」

「え?」

藤倉くんが私を振り返る。例のまん丸でかわいい目をした。

「後ろ乗る?」

「…え?」

藤倉くんが自転車をまたぐ。そして座席をペンペンした。

「乗って」

「…」

(ま…またぐのかな…横座り?)

いつもユキとはまたぐし、背中に手を回すけど。

(え、どこにつかまるの?)

座ったら藤倉くんが振り返った。

「落っこちちゃうよ」

「あ」

藤倉くんの手が私の手を取る。

私は藤倉くんにしがみつく格好になった。

「わわわ」

藤倉くんが真っ赤になる。背中にぴったりと張り付いてしまった私も真っ赤になった。

藤倉くんはよろよろと走り出した。

「お…重い?」

「まさか。安全運転!」

藤倉くんの声がうわずる。

「新川さん、乗ってるから!」

後ろから見たら、耳も首も真っ赤だ。


駅にはあっという間についてしまった。

「…」

「…」

駅前のロータリーで固まる二人。

「今度さ」

藤倉くんが言った。

「どっかいかない?」

「?」

「あと」

小さい声でつぶやき、携帯を出してきた。

「メアド…教えて」

大きな体を少し丸める藤倉くん。

私を見る目が潤んでて、きらきらしてる。

(この人、こんなに私のこと好きなんだ)

そう思うと不思議な気がした。

私は今日初めてまともに会ったのに。

藤倉くんは私をずっと好きだったと言う。


私は携帯を差し出した。

赤外線送受信。完了の音がした時、藤倉くんが嬉しそうな顔をした。

(こんなに喜んでくれるなんて)

告白をオーケーして良かったな、と私は思った。

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