下
首の一本を失った飛竜。その苦痛の叫びが街中に響く!
カザンは大剣を引き寄せ追撃の剣を振ろうと力を込めるが、そこに飛竜の尻尾が死角から迫った。
連続して迫る攻撃!
しかしカザンは大剣を巧みに扱い防いでいく。
すると飛竜は前屈みになりその四肢で地面を力強く蹴ると、斜め後方へと大きく飛び上がった。
飛竜がその大きな両の翼で力強い羽ばたきをする度、その巨体が上へ上へと上昇して行く。
もしかして、逃げるのか!?
そんな心配をよそに、飛竜は太陽の光がその姿をくらます辺りまで昇ると、空中で旋回をしたのち突然急降下を始めた!
その両足に並ぶ鍵爪をカザンに向け!
しかし、奴はその自慢の鍵爪を使おうとはしなかった。その代わりに急降下中に開いた口から、何か液体を飛ばす。
生意気にもフェイントをかけたのだ、しかも太陽の逆光を利用して!
カザンは飛んでくるそれをステップで躱す。
と同時にシグナにも向けて飛ばされたそれに、完全に意表を突かれてしまった。そのため避ける事が出来ず、咄嗟にコートを広げる事でなんとかそれを防ぐ。
押される衝撃。と共にねっとりとコートにへばり付いたそれは、すぐに白い煙を上げ始め焼け爛れるようにしてコートに穴を空け、そしてなおも垂れてきている。
このままでは不味い!
飛竜が下降のスピードそのままに弧を描き目の前で上昇をしていく中、シグナは一張羅のコートを脱ぎ捨てなんとか体に付着するのを逃れる!
しかし野郎、何て事しやがる!
ぼろ雑巾のようにして地面に転がるシグナのコート、魔法のコーティングがされている結構高めのコートなんだがボロボロである。
どう頑張って着ようとしてみても、あーなってはもう使い物にならない。
自慢ではないが、シグナはお金をあまり持っていない。それは豪遊をしているわけではなく、ただ単に安月給なのだ。
因みに給料日までは、……まだまだ遠い。
「こう飛ばれてはかなわんな。シグナ、行けるか?」
一人絶望に打ち拉がれていたところ、カザンの声で現実に連れ戻された。そしてフツフツと燃え滾る負なる感情!
「もちろんだ!」
奴は八つ裂きである。
そのための準備に、シグナは唯一使える呪文の詠唱にとりかかる。
そこへ再度、飛竜が急降下を開始した。
来るとわかっている攻撃を躱せない程、未熟ではない!
呪文の詠唱と同時進行で、足首に嵌めている輪っか型の風の魔具に、濃厚な風のイメージをする。
そしてその魔具を中心に両足首付近に風を発生させると、瞬時にその風を解放!
風を弾けさせる事により通常よりも素早いステップを行い、悠々と飛んできた毒液を躱す。そして上昇していく奴の首に狙いを定めると、今まさに唱え終えた呪文を口にする。
「
巻き上がる砂塵!
地表から空へと身体ごと打ち上げられるシグナ!
凄まじいスピード、の中で両腕でしっかりと握り締めた剣を飛竜の残る頭部がある首へと狙いを定め、一直線に突き進む。
そして到達する瞬間、こちらへ振り向く飛竜。咬みつこうと開く口。
喰らえー!
その開かれた口に差し込んだ長剣は、深々と突き刺さると反対側から外へと飛び出した。
長剣を握る拳が飛竜の口の中にまで入ってしまっていたシグナは、空中で剣を引き抜こうとするがビクともしなかったため一度剣から手を離す。そして再度魔具に風のイメージ、からの解放をする事により、空中を蹴り近くの建物へと飛び移った。
建物に捕まりながら飛竜を見やると、その巨体が重力に引かれるままに落下を始めていた。そして激しい地響きと共にそのまま地面へと激突。
激しい衝突音に混じり、ポキッという音も、……聞こえた。
なっ、なんてこってす!
剣が、武器屋で購入した耐久性に優れた名も無き40万Gもした我が愛刀が、今、ポキッと音を立てて目の前で折れちゃいました!
はっ、ははは。
シグナはその後、カザンの隣に戻ってくるのが精一杯で、カザンに肩を叩かれたのを機に思わず膝を突いてしまう。
じと目で双頭の飛竜を見やるがピクリともしない。目を見開き絶命しているようだ。
たっ、倒せたのは本当にいいと思う! けどこのままでは新しいコートと剣を買わないといけないため、全財産が限りなくゼロに近づいてしまう。
次の給料日まで、本当にどうしよう?
いっそこの街で亡くなった者の武器を、新しい剣が買えるまで借りておくか?
……やっぱり罰当たりかな?
なんか涙が出てきそう。
失意の底に浸っていると、カザンが双頭の飛竜のそばでしゃがみ込み、やたらとペタペタ触っている事に気がつく。
カザンは飛竜の残された首から体、そして長い尻尾までを素手で一通り触り終えると、尻尾の先端から少し体の方へ進んだ辺りで足を止める。
そして仮にだが、この場に人の髪を買ってヅラにしているような人がいれば、そのヅラが簡単に吹き飛ばしてしまいそうな程の殺気がカザンからガンガンと放たれ始め、呼応するかのように握られた大剣に力が集まりだすイメージを肌が感じとった。
『ズドンッ! 』
そこから振り下ろされたカザンの一撃が、硬い双頭の飛竜の尻尾を綺麗に切断する。
カザンは切れた尻尾を持ち上げると、こちらに振り向き笑みを見せた。
「シグナ、魔竜を倒した記念に私からのプレゼントだ」
「……え?」
その言葉の意味がわからず、飛竜の尻尾って高く売れるのかな? とか考えていると、カザンが言葉を続ける。
「この尻尾を使って剣を作ったら、良い一品が出来るぞ」
剣……だと!
しかも魔竜の一部を使って作った剣だと!
名前はやっぱり
くぅーー、あぁなんて格好良い響きなんだろう! 格好良いのでもう一度心の中で叫んでみる。
不味い、とろけそうである。そして声にも出してその名を呼ぼうとした時に気がついてしまう。
オーダーメイドの剣なんて、一体いくらするのだろう?
やっぱり市販の剣の倍はくだらない、よな?
自然と肩を落としてしまっていると、またしてもカザンが声を掛けてくれる。
「もちろん料金は私が持つぞ、
えっ、いいんですか!?
そう心で叫びながらカザンを見つめると、大きく頷いてくれた。
あなたに一生ついて行きます!
なにかあったとしても奥さんには全て内緒にします! と言っても、カザンは浮気なんてするような人間ではないのだが。
…………!
そして気が付く、カザンがシグナの事を『
「カッ、カザン、俺が魔竜殺しを名乗ってもいいのか?」
「あぁ、トドメを刺したのはシグナだからな。念願の二つ名だな、おめでとう」
「でも俺は、本当にそこだけで……」
「細かいことは気にするな! 」
そう言うと鷹揚な態度で笑い声を上げるカザン。
その時思うのであった。妹が大人になったら、カザンに色々と奉仕をさせようと。
その後シグナ達は、第二師団の連中と共に亡くなった人達への黙祷を捧げた後、次の任務であるお届け物をするため、その日の内にこの街を離れた。
そして二日後、カザンお薦めの鍛冶屋さんがある王都寄りの街に寄った際、魔竜長剣の製作依頼と安価のコートの購入を行い、それから二ヶ月後、シグナは晴れて出来上がった魔竜長剣を受け取るのであった。
そしてその更に二ヶ月後、別の任務でセスカの町へと向かったシグナ達は、その帰りに王都へと久々に帰郷するのであった。
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