act.12 『通行止め』

 国兼芳久くにかねよしひさが東館の階段を2階に上ったのは偶然ではない。大浴場から自室に戻るいつものルートなのだが、この日は通れなかった。階段を上ったところに何故か新2年生の東海林要しょうじかなめが立っていて、通りかかった芳久にこう言ったのである。

「先輩、申し訳ありませんがしばらくここは通れません」

 芳久が通う私立松藤学園とはお隣さんと言ってもいい私立英華えいか孤島学校生の彼は、去年の桜花大運動会剣道の部で、1年生ながらも大活躍。その剣の腕や著名さとは裏腹に比較的大人しい生徒で、寮でも目立つことはほとんどない。

 そんな性格とは裏腹な行動に、どういうことなのかと訊こうとした芳久だったが、彼の背後に控える2人の新3年生に気づく。要の先輩で、少し困ったように笑っている花園寿男はなぞのとしおと、犬でも追い払うような手振りをしている東山冬吾ひがしやまとうごである。

 この時芳久が不思議に思ったのは、本来ならばいるべき3人目がいないこと。そう、有村克也ありむらかつやがいないのである。

 彼はどこにいるのだろう?

 何気なくそんなことを考えた芳久は、彼らが通せんぼしている廊下のほうを見やる。廊下の片側は窓になっているが、すっかり陽も暮れた午後7時過ぎ。外は真っ暗である。

 そしてもう一方には、寮生が暮らす部屋の扉がずらりと並んでいる。

 東館2階

 すでに2年をこの第5卯木男子寮で暮らしている芳久だが、全寮生の顔と名前を覚えているわけでもなければ、部屋割りを覚えているわけでもない。それでも日頃付き合いのある寮生の部屋は覚えているし、必然的に寮長などの部屋も覚えている。

 そう、この廊下に並ぶ部屋の1つにあの2人が居るのである。そして姿が見えない有村克也。漠然と繋がりを想像した芳久は、深入りは危険だと察する。

「……わかったよ」

 溜息交じりにそう応えると、要が申し訳なさそうに頭を下げる。1階のロビーでテレビでも視て時間を潰そうと踵を返したところ、3人の寮生が階段を上ってくるのと出くわす。はしゃぎながら賑やかに階段を上ってきた彼らは、楽しさのあまり周りが見えていなかったらしく、その1人が勢いよく芳久にぶつかる。

「おわっ!」

「狭いところで暴れんなー」

「ちゃんと前見て歩けよ-」

 などとふざけ合う様子は、明らかに新入生である。謝ろうともせずそのまま階段を上ろうとするのに気づいた要が 「お前たち!」 と、上げた声が階段ホールに響き渡る。

「ちゃんと謝らないか」

 相手は桜花という場所をまだ知らない新入生である。しかも1ヶ月ほど前まで中学生だった彼らは最高学年という立場にいた。高校入学と同時に最下級生になったことをまだ自覚出来ていないらしく、ふざけた調子を改めようとしない。

「なに、あいつ?」

「ってか声、デカ!」

「めっちゃうるさー!」

「謝れと言っているのが聞こえないのか?」

 再び声を上げる要に、階段を降りかけていた芳久が苦笑を浮かべる。

「東海林、いい。放っておこう」

「ですが、国兼くにかねさんて……」

 甘やかすと彼らのためにならないと要は言いたいのだが、芳久が 「いい」 と言ったのを誤解した新入生たちは調子に乗り出す。

「ほら、いいって言ってるじゃん」

「いい子ちゃんぶってんじゃねーぞ」

「苛めちゃうぞ」

 などと言い出す始末。呆れた要はさすがに手は出さないけれど、もう一喝しようとした矢先、そのすぐ後ろから声が聞こえる。

「おい、そこの。誰が誰を苛めるって?」

 先程まで少し離れて立っていたはずの東山の声が、要のすぐ後ろから聞こえてきたのである。その低く不機嫌な声に、要の背筋を冷たいものが流れる。

「新入生が東海林を苛める? おかしくて笑っちゃうね」

 こちらは先程から立ち位置を変えていない花園。顔も声も笑っているけれど、要の前身から冷たいものが吹き出す。

「お前たち、いいから国兼さんに謝ってしばらく下にいろ!」

 少し早口に新入生たちを叱りつける要だが、その心配が全く彼らには通じない。

「なに、あんた? なんで俺たちが謝らなきゃならないんだよ?」

「人にぶつかったから謝るのが当たり前だろう!」

 怒るというより呆れる要のすぐ後ろで、先輩の東山が 「幼稚園児並みのボケどもだな」 とぼやくのが聞こえ、さらに要を焦らせる。

「あんた、何様?」

「俺様ー!」

 3人いれば怖いものなどないのか、新入生の態度は、改まるどころか一層悪びれてくる。

「国兼、甘やかすとこいつらのためにならないってわかってるんだろ? この手の奴らは最初にシメないと、あとで痛い目を見る」

「まぁ藤真ふじまに目を付けられて、2年間ペナルティーだらけになるのがオチだな」

「案外、今もどこかで見ていたりして」

 ふざけて笑う東山に、要は 「先輩、やめてくださいよ!」 と気が気ではない。

「なぁ国兼、俺たち、一応桜花最高学年じゃん。ちゃんと後輩、叱ってやろうや」

「事なかれ主義は後輩のためにならないよ」

 口々に言う東山と花園に、芳久は苦笑を浮かべるばかり。

「俺はお前たちのように強くない。事なかれ主義にもなるさ」

「よく言う」

 東山が鼻で笑うように言うと、花園が続く。

「腕っ節が強いのと心が強いのは違う。そうだろ?」

「まぁそうなんだろうけど……」

 苦笑を浮かべるよりほかない芳久が改めて3人の新入生を見ると、つられるように花園と東山も彼らを見る。相手が上級生であることは新入生たちもわかっているようだが、やはり桜花という場所がまだわからない。自分たちの置かれている立場を理解しようとせず、鼻白んだ様子で 「行こうぜ」 と声を掛け合ってそのまま階段を上ろうとするが、その前を東山が塞ぐ。

「待てや、こら。まだ話が終わってないだろうが」

「あんた誰? 何様のつもりだよ?」

 1人がそう食ってかかると、東山は待っていましたとばかりに名乗る。

「私立英華高等学校3年、東山。

 うちの東海林を苛めちゃうんだって? どうやって苛めるのか、教えろよ」

「えいかなんて知らないし。俺、違う学校だから関係ないし」

 島の外なら学校が違えば関係ないと言えるかもしれないけれど、ここは学都桜花である。

「桜花82高の1つに決まってるだろ。

 桜花じゃ、学校は違っても同じ寮なら関係ありなんだよ。上級生としてお前らを躾けなきゃならない」

「関係ないって言ってるだろ?」

「お前らさ、人にぶつかって謝るなんて、社会マナーの基本中の基本だろうが。その程度も出来なくて、よく桜花に来たな。呆れてものが言えないぜ」

「言ってるじゃねーか!」

「3年だからって、偉そうな顔すんな!」

 仲間の1人が加勢する。このまま勢いを盛り返し、この場を切り抜けられるかと思いきや、タイミング悪く、また階段を上ってくる寮生がある。他校生だが、要も良く知っている新2年生たちである。

「なんだ、喧嘩かぁ?」

「もうすぐ就寝時間だぞ」

「部屋で大人しくしてろや、中坊ちゃん」

 などと茶化しながら上がってくる中の1人に、要が何か言うよりも早く東山が声を掛ける。

「よぉ、ご機嫌だな、二宮にのみや

 すると風呂上がりらしい男子生徒の1人が 「ちゃーす」 と調子のいい挨拶をする。私立松藤学園高等学校新弐年生の二宮幹久にのみやみきひさである。すると調子を合わせるように、一緒にいた2人も東山たちに挨拶をする。

 学都桜花と府教委が特例として結んだ協定により入寮が許された、府立松林しょうりん高等学校新2年生の三木直人みきなおと木佐一裕次きさいちゆうじ。あの梶紀夫かじのりおの同級生たちである。

「あれ? 東山さんがいるから花園さんがいるのはわかるんですけど、有村さんがいませんね」

 そう言う二宮の目が要を見る。

「で、代わりに東海林がいるんですか?」

 彼は呑気にそんなことを言うけれど、気が気ではない要は二宮の後ろ、階段下の様子を伺いながら早口に問い掛ける。

「二宮、天宮は一緒じゃないのか?」

 すると二宮は不審そうに眉根を寄せる。

「……まぁ~たなんか悪巧みか?」

 思わず同級生の気安い物言いをしてしまった二宮だったが、すぐさま花園に指摘を受ける。

「人聞きの悪いことを言わないで欲しいね」

 一緒にいる三木や木佐一に小突かれつつも、二宮も自分の失言に苦笑を浮かべる。

「すいません。

 柊なら多分、向島むこうじまの部屋です。なんか話があるって、風呂で捕まえてましたから」

 それも湯船の中で捕まえ、そのまま2人で上がっていったという。

「向島? 聞き覚えのある名前だが、顔が出てこないな」

 呟いた東山は 「どうよ?」 と尋ねるように花園を見るが、花園も 「知らない」 とばかりに首を横に振って返す。

松藤うちの弐年ですけど、俺もよく知らないんですよ。クラスも違ってましたし、寮でもほとんど顔見ないんです」

藤真ふじまはどうした?」

「今日は当番で、さっき戻ってきて飯食ってましたよ。今頃は風呂じゃないですか?」

「で、先輩方、アーンド東海林君、こいつらはなんすか?」

 通りかかった時から気に掛かって仕方がなかったらしい。三木が尋ねる 「こいつら」 とは、もちろん芳久にぶつかった新入生たちのことである。立ち去るに立ち去れず、居心地悪そうにしていた彼らは物珍しそうな目で見る三木や木佐一にまで食ってかかる。

「なんだよ、お前ら」

「見せもんじゃねーよ」

「見せもんだろ?」

 三木が言うと、すぐさま木佐一も 「どう見ても立派な見せもんだろ」 と同意する。

「国兼さんまでいるのが不気味なんですけど?」

 二宮が言うと、芳久はただただ苦笑するばかり。慌てて要が説明すると、新2年生3人組は、わざとらしいほど大きな溜息を吐いて見せたり、露骨に呆れて見せたり。

「馬鹿じゃね? よりによってこの2人の前でするか?」

「どう考えても馬鹿だろ? このお2人じゃなくても普通に怒るだろ?」

「なんだったらどれだけ馬鹿か、俺たちが教えてやろうか?」

 すぐさま新入生の1人が 「いらねーよ!」 と強がって見せるも、7人もの上級生に囲まれ、さすがに置かれた立場の悪さには気づいているらしい。先程までの威勢の良さは見られない。

「馬鹿はお前らだろ!」

 それでも頑張って見え見えの虚勢を張ってみせるも、またしても要に 「お前たち!」 と注意を受ける。さすがにこれには新2年生3人組も肩をすくめてみせる。

「本物の馬鹿だな。よりによって英華えいかの前で、上級生うえをお前呼ばわりするなんてさ」

「東海林は優しいから言葉で怒ってるけど、後ろのお2人は桜花最強の武人って奴。本気で怒らせたらどうなるか、知らねーぞ」

「ってか2人を怒らせたら、東海林がこいつらのデコ割りそうじゃん」

「ああ、一刀両断ってやつ? 確か結構な段持ちっていってたもんな、東海林」

「英華の上下関係、マジでシビアだもんな。

 普段、大人しい奴ほど怒ると怖いって言うし」

「言えてる。大人しそうな振りして、次々打ち倒しやがるもんなぁ」

「そういや二宮ニノ、松藤も東海林にしてやられたんだっけ?」

 入寮はしているものの、学校が学都桜花には所属していない2人の府立校生は、他人事のように二宮をからかう。

「ほっとけ。俺、剣道部じゃねーし」

「武道系の前じゃ、挨拶だけはしておくのが桜花の基本なんだけどなぁ」

「普通の3年が相手じゃ、挨拶しなくてもいいのか?」

 ほとほと呆れる木佐一は天井を仰ぐものの、東山の鋭い突っ込みに慌てて弁解する。

「いや、ちゃんとしてますよ! 大丈夫っす!」

「あの先輩、なんか有村さん外してるみたいですから、代わりに日下部さんにでも説教してもらいますか?」

 木佐一を助けるように、横から二宮が割り込む。彼らと同じこの第5卯木男子寮の寮生、私立青嵐せいらん学院高等学校新3年生の日下部杏之介くさかべきょうのすけ。その名前を聞いて芳久と要は気の毒そうに3人の新入生を見るが、東山はニヤリと笑う。

「二宮、お前、ただのエロじゃなかったんだな。たまにはいいこと考えるじゃないか」

「AVは男のロマンです。

 これでも松藤なんで、先輩方の1年次の成績と比べたら、多分俺のほうがいいですよ」

「嫌な奴。そういうところ、天宮と似てるよな、お前」

「従兄弟ですから」

 少し自慢げに笑ってみせる表情も、少し柊と似ている。

「じゃあとりあえずその3人を下に連れて行って、何が悪くてこうなったのか、お前たちから説明してやってくれるかな?」

 そう切り出すのは花園である。

「有村の用が済んだら日下部と一緒に行くから。それから説教大会だな」

 その目がチラリと自分の腕時計を見る。

「先輩、その説教大会、俺たちは不参加でいいんですよね?」

 自分たちはただの通りすがりで、有村の用が済むまで彼らを確保しておくのが役目。慌ててそう尋ねる木佐一に、東山はニヤリと笑う。

「参加したいならさせてやる。遠慮するな」

「「「慎んで辞退させていただきます!」」」

 新2年生3人の声が見事なまでに重なる。さもおかしそうに吹き出した花園が 「お前たちの参加は自由だよ」 と言うと、3人はあからさまに胸をなで下ろす。そして長居は無用とばかりに新入生たちの腕を取り、階段を降りようとする。

「じゃ、俺たちロビーにいますから!」

「なるべく早くしてくださいね!」

 そう言って嫌がる新入生たちを強引に連れ去ろうとする。

「いいか、よく聞け。こういうことは早めに済ませておいたほうがいい」

「逃げ回ってると、どんどんまずいことになるぞ。

 今は英華だけだけど、いや、英華だけでも十分に逃げ切られないんだけど、そんでもって逃げ回ると英華以外も捕まえに来る」

「そんでもって説教する相手も増えて、内容も増えて、どんどん時間も長くなる」

 まるで経験者は語るが如く、新2年生3人は新入生に言い聞かせる。なんのことはない。かつて彼も新入生であり、実際に逃げ回った二宮だが、彼には運良く有村と縁を持つ従兄弟がいた。その従兄弟が取りなしてくれたおかげで若干説教時間は短くなったものの、説教そのものを回避することは出来なかった。

 今回はすでに青嵐学院3年生の日下部も参加予定になっている上、彼らには取りなしてくれるような縁はなさそうである。

「なんだかあいつらには、却って申し訳ないことをしてしまったな」

 新2年生3人組が新入生たちをつれて階段を降りていくのを見送りながら、芳久は呟く。

「申し訳ないも何も、やってることが幼稚園児だろう。集団生活、社会マナーを身につけろっての。高校は義務教育じゃねーっつーの!」

 今回の説教は必要不可欠だという東山の後ろで、花園はただ笑っているだけ。普段口の悪い東山だが、なんだかんだいって結局彼も真面目なのである。

「有村の用はまだ掛かりそうなのか?」

 ふと思い出したように問い掛ける芳久に、2人の上級生に従っているに過ぎない要は困ったような顔をする。その視線を受けて顔を見合わせた東山と花園は、「そうだな」 と自分の腕時計を見ながら花園が応える。

「そう長くは掛からないと思ったけど、ちょっと意外かな」

 どうやら彼にもわからないらしい。すると芳久は諦めるように溜息を吐き 「俺も下にいるよ」 と言って階段を降りていった。

 私立英華高等学校新3年生、有村克也。彼が日々の生活を送る第5卯木男子寮の前寮長、兼栄慎之介かねえしんのすけと、その親友である阪本信三郎さかもとしんざぶろうの部屋を訪れたのはこの騒ぎが起こる少し前のことである。

 彼が廊下から部屋のとをノックすると、応えたのは慎之介。その理由は、部屋に入ってすぐにわかる。

 当然前寮長の部屋とはいえ、他の部屋と広さや設備は同じ。散らかり具合も、特に散らかっているわけでもなく、かといって小綺麗とは言いがたい、高校生男子らしい散らかり具合である。

 私服姿の兼栄慎之介は、2つ並んだ勉強机の前にすわり本を読んでいたらしく、有村が部屋に入ってくるのを、椅子にすわったまま待ち構えるように戸口を見ていた。

 一方の信三郎は二段ベッドの下段に寝転び、ヘッドフォンで音楽を聴きながら雑誌を読んでいたため、有村が戸を閉めてなお来客にすら気づいていない。

「珍しい客だな」

 少し笑いながら言葉をかける慎之介に、同じように私服姿の有村だが、伸ばした背筋はいつものように真っ直ぐ。仏頂面と言われるいつもの顔で 「話がある」 と切り出す。

 すると慎之介は立ち上がり、未だ来客に気づいてすらいない信三郎の背中を軽く足で踏みつける。すると信三郎が 「何か用か?」 と問いたげな顔を上げたので、慎之介はヘッドフォンを外すよう手振りで示す。

「何?」

 ようやくのことでヘッドフォンを外した信三郎が改めて声に出して尋ねると、今度は慎之介が無言のまま戸口を指さしてニヤリと笑う。促されるように、寝転がったままの姿勢で振り返った信三郎は驚きの声を上げる。

「有村っ?」

 反射的に起き上がった信三郎は、片耳しか外していなかったヘッドフォンのもう一方も外し、改めて有村を見る。

「俺、こいつの私服、初めて見るかも」

「嘘つけ。食堂とか、風呂とかでよく見てるだろうが」

 驚き方が大袈裟だと呆れてみせる慎之介だが、有村の仏頂面が崩れることはない。

「お前たち2人に話がある」

 そう改めて切り出す。

 顔を見合わせた2人の住人は、信三郎はベッドから足を下ろしてすわり、慎之介は、窓際の机に移動し、有村に、それまで自分がすわっていた椅子を勧めるも彼は辞退。依然、ドアの前に直立している。

「やっぱり有村が来たよ」

 ニヤリと信三郎が笑うと、慎之介も大きく頷く。

「予想通りだな」

「つまり、用件はわかっているんだな」

「まぁね」

 有村の問い掛けに、慎之介が答える。

「空き巣の件だろ?」

 しかしそれだけでは満足出来ないのか、有村は、返事どころか頷きもしない。

「空き巣が何を狙っていたのか? ってことだろ?」

 少し面倒臭そうに信三郎が言うと、慎之介が続く。

「俺たちのやり方については口を挟むなよ。

 執行部そっちの要求は、空き巣の目的についての口封じだろ?」

 彼らが天宮柊あまみやひいらぎ藤真貴勇ふじまたかいさおの部屋を荒らした犯人について、どこまで掴んでいるのか。当然有村としては気になるところだが、ここで下手な詮索をすると、執行部側の手の内を明かさなくなるかもしれない。いずれ公表する事実ではあるが、まだその時ではなく、情報の拡散は最小限に留めておきたい。

 しばしの沈黙の後、有村は率直に尋ねる。

「単刀直入に尋ねる。要求はなんだ?」

「聞いたか、ノスケ? ものすげー直球で来たぞ」

 意見を求めるように話しかける信三郎に、慎之介は苦笑を浮かべる。

「下手に論理武装して、俺たちがヘソを曲げちゃ話にならないからな。事と次第によっちゃ、3年のどっちかが来るとは思っていたけど、予想通り有村が正解」

「3年 ひく 3年  ゼロ で力関係対等ってか? そりゃ3年同士のほうが話はしやすいだろうけど、どうせ竹田あたりの考えだろ? あの算盤野郎、こんなことまでたま弾いてんじゃねぇっての」

 言った慎之介は有村と目が合うと、慎之介を指さす。

「俺たちにも役割があってさ、俺は肉体労働担当。

 ノスケと話せや」

 自分はここで大人しく聞いているという信三郎に、有村は言われるまま慎之介に視線を移す。

「俺たちとしては、ラギじゃなきゃどっちでもよかったんだけどな」

 慎之介の言葉に、有村は眉間にしわを寄せて 「ラギ?」 と口の中で呟く。だがすぐに閃いたらしい。

「アマミヤヒイ?」

「正解」

 冗談めかして慎之介が言うと、信三郎に二段ベッドの下段から拍手を贈る。

「お前たち、奴とは仲がいいんじゃないのか?」

 同じ寮とはいえ、同じ部屋でもなければ早々毎日顔を見るわけでもない。それでもたまに寮内で見掛ける時、彼らはとても親しげに話している。少なくとも有村の目にはそう見えていたのだが、彼らもそれは否定しない。

「仲がいいから、交渉役で来られちゃ困るんだよ」

 黙っていると言ったはずの信三郎の差し出口に、慎之介は肩をすくめてみせる。

「頭のいいお前のことだからもう予想はついてるだろうけど、ちょっと協力して欲しいことがある」

「天宮がらみか」

 有村の問い掛けに、2人はニヤニヤ笑うだけ。しかし柊自身に交渉役で来られては困ると言うからには、彼にとって都合のいいことか不都合なことか、どちらかしかないのは容易に予想出来る。

「そんな難し顔をするなって」

 慎之介は肩の力を抜けとでも言いたかったのだろうが、すぐさま信三郎が茶化しに掛かる。

「いつもの顔じゃん」

「そうだっけ」

 失敗、失敗……と笑うも、有村は微動だにせず。

「そうやさっきから気になってたんだけど、妙に静かだよな」

 少しばつが悪そうに話題を変える慎之介に、ようやくのことで信三郎も気づいたらしい。両隣の部屋や廊下から、いつもならうるさいくらいの騒音が全く聞こえないのである。

「さっきちょっと声が聞こえてたけど、あれ、階段あたりか?」

 揺さぶりでもかけようというのだろうか? 有村の反応を伺う慎之介だが、いつもの仏頂面は微動だにせず。

「どうせ花園、東山あたりが見張りに立ってるんだろ? あの2人相手に、強引に部屋に戻ろうって奴はいないだろうし」

「え? 何? ひょっとして人払いってやつ? んじゃ今、この辺の部屋、誰もいないってことか?」

「多分」

 慎之介の返事に信三郎は感心しきり。

「相変わらずやることが徹底してるな」

「英華だからな。

 話自体、人に聞かれたくないってのもあるだろうし、聞かれてそれが外に漏れたらまた俺たちがやる。どんどん騒ぎが大きくなって、仕舞いには収拾がつかなくなる」

 慎之介が言う 「俺たちがやる」 とは恒例の晒し行為のことである。第5卯木男子寮の不名誉な名物と言ってもいいが、まだその恐ろしさを知らない新入生は何をするかわからない。有村が警戒してるのはそのあたりだろう、執行部としても、これ以上事を荒らげるのは望まざるところである。

「まぁそこまでして執行部が隠したがることがなんなのか、全く興味がないわけじゃないんだが……」

「話はそれだけか?

 ならば改めて尋ねる。要求はなんだ?」

 慎之介の揺さぶりに全く動じない有村を、信三郎は 「余裕のない奴」 と茶化す。それこそ途中から話を聞いていなかったのではないか、と思えるほど有村は淡々と話す。

「とんだ堅物だ」

 慎之介もつまらないとばかりに首をすくめてみせる。

「今日、藤家とうけのお嬢さんが入都したのはお前も知ってるだろ? 執行部はラギから直接聞いて知ってると思うけど、お嬢さんはラギの許嫁いいなずけ。いわゆる子供同士の恋愛ごっこじゃなくて……」

「前置きは結構だ」

 続く話を有村に切られた慎之介は、小さく息を吐いて肩をすくめてみせる。

「言わずもがなだっけ?

 ま、そこはいいんだけど、ラギはこのことを隠すつもりはないと言っている」

「天宮の自由だ」

「そりゃそうだ」

 信三郎が笑いながら手を叩くと、後を慎之介が受ける。

「けど、あいつを支えてる票のほとんどは女子だ。彼女がいるってことはすでに口外済みだったとはいえ、その彼女が桜花に入ってきてまで支持するかどうか。実際、すでにネットじゃ大荒れだ」

「……端的に要求を述べろ」

「お前ほどの奴がまだわからないとは、意外だな」

「次の執行部役員選挙、天宮の票集めに協力しろと言いたいのか」

 慎之介、信三郎と共に 「正解」 と少し馬鹿にしたような態度で有村に拍手を贈る。

「普段はド汚いことでも笑って平気でやる奴なのに、お嬢さんが絡むと絶対にやらない。なんか拍子抜けするくらい潔くなっちゃってさ。

 しかも執行部に未練がないと言いやがる」

「天宮本人がそう言っているのに、どうして」

 当事者が未練もなく、落選も覚悟しているのに、何故彼らは天宮柊を当選させようとするのか。その本意を測りかねる有村は眉間のしわを深くする。

「なぜって、そりゃあいつの本心じゃないからに決まってるだろ?

 実際、あいつは執行部の仕事を楽しんでる。未練がないはずがない。

 が、お嬢さんと天秤にかけるつもりはないと来た」

「俺は、何故お前たちがそこまで天宮に肩入れをするのか、訊いてるんだが?」

「簡単なことだ」

 それまで話していた慎之介に代わり、信三郎が言う。

「俺たちがラギに、執行部にいて欲しいからに決まってるだろ?」

「我が儘な奴らだ」

「我が儘で結構。俺たちは俺たちのやりたいようにやる。誰にも文句は言わせない」

 強気で言い切る信三郎だが、慎之介はちょっと違うらしい。

「まぁ文句がある奴は、勝手に文句でも難癖でも付けてくれ。俺たちは耳を貸すつもりはないけどな。

 ラギがお嬢さんも執行部の席も望むなら、俺たちはその望みを叶えてやりたいだけ。別に難しいことを要求しようってわけじゃない。汚い方法で票を集めろとか、無茶を言うつもりはないんだ。

 何しろお前は英華えいかに顔が利く。英華がちょっと動けば、武道系だけでなく運動部の男子が動く。

 ついでに執行部にも、ちょっとあいつのいいところとかプッシュしてくれりゃいい」

「英華より松藤まつふじを動かした方が、お前たちの望み通りになりそうだが?」

 裏央都うらおうとと呼ばれる松藤学園は、彼らが通う涉成しょうせい高校の姉妹校であり、本校である。まして天宮柊が通う学校でもある。

 お隣さんの英華高校より、協力を依頼するに相応しい相手ではないかと有村は言うが問題があるのだ。

「お前も根性が悪いな。

 知ってるんだろ? 松藤の松葉まつばはラギのことをよく思っていない。それこそこんな相談を持ちかけた日にゃ、落選結構とか言い捨てそうだ」

 それでは話にならないのである。そもそも話を持ちかけるきっかけが掴めない。姉妹校とはいえ、松葉晴美まつばはるみは松藤学園生徒会会長代行。片や慎之介たちは、涉成高校では1生徒に過ぎないのである。

 もちろん生徒会会長、あるいは会長代行同士の懇親会という手もある。実際、中央区ではここ数日、挨拶に名を借りた腹の探り合いが盛んに行われている。所属こそ南区の涉成高校だが、姉妹校という立場を利用すれば松葉と会って話すぐらいは出来るだろう。

「しかもうちはうちで、俺たち、十郎太じゅうろうたと仲が良くなくてさ」

 と慎之介は苦笑を浮かべる。彼が言う十郎太とは、私立涉成高等学校新参年生の村崎十郎太むらさきじゅうろうた。同高旧年度生徒会役員の1人で、現在、会長代行を務めている彼らの同級生である。

「それに今回の選挙、松藤は総代選と生徒会選で手一杯だろう?」

 松藤学園生徒会が抱える問題、それは獅子身中の虫。つまり黒薔薇派と呼ばれる前総代の支持者、新参年生の今川基春いまがわもとはると新弐年生の富士峰子ふじみねこが役員にいることである。

 しかも今川基春は前総代・高子たかいこの後継者としてすでに総代選への立候補を表明している。松藤学園生徒会は、総代選挙で今川を落選させることが出来ても、次に行われる生徒会役員選挙でも彼を落選させなければならず、息を吐く暇がない。

「比べて英華には黒薔薇派はゼロ。旧年度役員の再選は確実だから、卒業で出た欠員を新人が椅子取りゲームするだけ。どう考えたって英華に協力してもらったほうがいい」

「……簡単に言ってくれる」

 そう言う有村だが、彼自身は英華高校生徒会役員選挙には立候補出来ない。桜花自治会執行部役員を辞任すれば可能だが、そんなことは考えてすらいないだろう。

「簡単だろ? 何しろ執行部おまえたちは学都桜花最高の頭脳集団シンクタンク。看板に偽りなし、だろ?」

「去年の選挙で最下位だった竹田やブービーの磯辺ならともかく、お前、余裕だったじゃん。少しあの2人に票を分けてやってもいいくらいだったんだ。英華がラギとお前の支持を表明したって、特に問題ないはずだ」

 学都桜花最大の行事とされる桜花自治会総代選挙。その次に位置するのが毎年行われる執行部役員選挙だが、全区一斉投票の総代選挙と違い、各地区の新人のみで争われる予備選と、その予備選を勝ち抜いた新人候補に現役役員が加わって行われる本選の二段階方式。

 総代選挙とほぼ同時に行われる予備選も、その後に行われる本選も役職ごとの立候補ではなく、得票数上位8名が当選。その後、総代が役職を任命する。つまり選挙のあいだは現役役員も全員がライバルとなる。それをわかっていて2人は執行部に協力を要求しているのである。


 私立松藤学園高等学校 新弐年生 天宮柊あまみやひいらぎ

 私立松藤学園高等学校 卒業   藤原明ふじわらあきら

 私立英華高等学校   新3年生 有村克也ありむらかつや

 私立松藤学園高等学校 卒業   西松明仁にしまつあきひと

 私立瑞光ずいこう高等学校   新2年生 柴周介しばしゅうすけ

 私立松前まつまえ学院高等学校 新2年生 金村伸晃かなむらのぶあき

 私立松藤学園高等学校 新弐年生 磯辺清水いそべきよみず

 私立星風せいふう学院第一高等学校 新3年生 竹田敦たけだあつし


 これが旧年度執行部役員選挙の当選結果である。この事実を踏まえてなお案じる2人に有村は言う。

「……お前たちは天宮を過小評価している」

「そんなわけないだろ?

 あいつは優秀だ。だからこそ執行部に相応しいって思うんだ。そうでなきゃ、わざわざこんな真似をするか」

 慎之介たちにとって空き巣の目的などどうでもいいのである。二度と第5卯木男子寮に余計な手出しをしたくなくなるよう、徹底した灸を据える。ただそのためだけに制裁を加えるのである。

「俺にはお前たちの考えがわからない」

「わからなくて結構。理解なんど求めた覚えはないね」

 取引に応じるかどうか、その返答だけを慎之介は求める。だが信三郎は違った。

「有村は、どうして俺たちがここまでラギに肩入れするのかわからないんだろ?」

「そうだな、理解に苦しむ」

「言ってくれる」

 吐き捨てるように言う慎之介だが、有村は言う。

兼栄かねえは理解を求めてはいないようだが、阪本は理解を求めているように思えるが?」

 有村の言葉に、慎之介は少し困ったように信三郎を見る。信三郎は怒ったように有村を睨んでいる。

「……マジ、嫌な野郎だな」

「ザブロー」

「そもそもの原因は俺だ。ノスケは俺に付き合ってるだけだ」

「どっちかって言えば、原因は俺のほうだろ?」

「違う!」

 声を荒らげて否定する信三郎に有村も慎之介も驚きはしなかったけれど、慎之介は少しだけ、それもほんの一瞬、寂しそうな表情を見せた。

「……お前たちに何かしら事情があることはわかった。

 それに天宮が関わっているということか?」

「まぁね」

 慎之介は少し諦めたように答える。

「ここから先は執行部の代表じゃなくて、有村だから話すと思え。

 俺とザブローは従兄弟で、ラギとは遠縁。実際のところ、俺たちの事情ってやつにあいつは全然関係ないんだけど、あいつと、あいつの母親はずっと俺たちを心配してくれてて、これまでもずっと助けられてきた。あいつもおばさんも、これからもずっとそうしてくれるんだと思う。

 けどさ、俺ら、返すもんが何もないんだわ。俺たちが桜花で、こうやって平穏無事でいられるのだってあの親子のおかげでもあるのに、何一つ返せるものがない。情けないよな」

 言って慎之介は、その表情を見せまいとしてか、高くない部屋の天井を見上げる。

「人ってさ、自分がどれだけ幸せか、その時は気づかないもんだろ?

 けど俺たちはなんとなく気づいた、今、自分たちが幸せなんだって。俺とザブローは、きっとあいつらがいてくれなきゃ、こうやって普通に話せるような関係じゃなかったと思う」

「それは言い過ぎだろ? お前んの親だって十分に良くしてくれてる。そのおかげだ」

 信三郎の言葉に慎之介は少し寂しそうな笑みを浮かべるも、あえて何も言わず。その胸中にある言葉を飲み込むように沈黙を守る。そしてその視線を交わすように有村を見る。

「お前たちは天宮に恩を返したい、そういうことか?」

「うーん、そうでもあるし、それだけでもないような気がしてきた。

 普段、改めてこんなこと考えないから気づかなかったけど、多分、俺たちはラギが好きなんだろうな。だからやつの望みを叶えてやりたい、それだけかも。

 しかも俺たちが桜花にいられるのはあと1年。この1年で俺たちがしてやれることは、多分そうないだろう。ひょっとしたらこれが最後の機会かもしれない」

 最後とは言い過ぎかもしれないと、その言葉を口にする直前は思った慎之介だけれど、言葉が口に出た直後、あと1年という時間がそれほど長くはないと気づく。

「……桜花を出ても、奴のためにしてやれることはあるだろう」

「そうだといいが、俺たちはいつも自分のことで手一杯だ。俺たちにもやりたいことがあるんでね」

 肩をすくめてみせる慎之介に、ようやくのことで有村は口元に笑みを浮かべる。

「お前たちらしいな。

 では俺個人からも1つ、言わせてもらう」

 有村の珍しい行動に2人は少し驚くも、有村は構わず続ける。

「お前たちは天宮を過小評価している」

「それ、さっきも聞いた」

 信三郎が少し呆れたように言うも、有村は構わず続ける。

「そこまで天宮のことを理解していながら、次の執行部役員選挙を心配するとはな。お前たちの目は節穴だ」

「言ってくれるぜ」

「お前と違って、俺たちは自治会運営には直接関わらない1生徒。内部事情なんて知るわけないだろ」

「……話を戻す。それがお前たちの要求だな」

 2人の反論を有村はいつもの仏頂面で跳ね返すと、有村克也個人から桜花自治会執行部役員に戻る。

「だがこの話、天宮の耳にも入ることになるが?」

 2人の要求は執行部に選挙協力を求めるものだから、当然役員の1人である天宮柊もその話を聞くことになる。

 だがそれぐらいのこと、2人も承知の上である。

「別にいいぜ」

 信三郎が答えると、慎之介が続く。

「ラギが交渉役で来られちゃ、絶対にこんな要求は呑まない。

 だから奴じゃ困るだけで、話がまとまれば奴は総意に従うだけ。成立した取引に、文句は言っても逆らえない」

「つまり問題なしだな」

 最後は信三郎が締めくくる。

「……いいだろう。自治会執行部は天宮柊の執行部役員選挙に協力する」

 そう宣言した有村は踵を返すも、ドアノブに手を掛けたところで足を止めて2人を振り返る。

「奴らが探していたのは徽章きしょうだ」

 そう告げて2人の部屋をあとにする。室内に残された2人は呆気にとられていた。

「徽章って……どういうことだ?」

 先に口を開いたのは信三郎である。この時、徽章と聞いて彼が思い浮かべたのは薄紅色をした桜の徽章。そう、柊が持つ桜花自治会書記の徽章である。

 だがそんなものを盗まれたとしたら一大事。公になれば責任問題にも発展しかねない。いや、間違いなく引責問題になるだろう。

 不思議なのはそれを言い残した有村が落ち着いていたこと。それがいつもの彼のポーズだとしても、あえて2人に言い残したということは、盗難には遭っていないということだろうか?

 自他共に肉体労働担当の信三郎。半ば筋肉と化した脳はそれ以上の思考が及ばず慎之介に意見を伺おうとするが、慎之介は自分の耳を疑うような顔をして、口の中で自問する。

「あの腹黒女……いや、ちょっと待てよ? なんでラギがそんなもん……あいつら、何してるんだ?」

「ノスケ?」

 信三郎に声を掛けられ、ハッとしたように上げた慎之介の顔には明らかに狼狽の色が浮かんでいた。

「あ、ああ……ちょっと、いや、かなりマズいことになってるのかもしれん」

「徽章?」

「ああ」

「よくわからんが、今回は中断するか?」

 すでに自分で考えることをやめた信三郎の提案に、一瞬同意しかける慎之介だったが、すぐその意味に気づいて否定する。

「い、いや、ダメだ。中断は出来ない。このまま続行する。

 だが取引は成立した。奴らの要求通り、俺たちは空き巣の目的には関与しない」

「そりゃいいが、マズいならやめたほうがいいと思うが?」

「逆だ。今の有村の呟きは俺たちへの駄目押し。予定通り制裁しないと、逆に他の連中の不信を招く」

 やりかけたことを下手に取りやめると、何か裏があると疑われる。

 かといって今回に限って魔窟の主がいつもの制裁を行わなければ、それはそれでどこからか圧力が掛かったと疑われるだろう。だから執行部は 「圧力」 ではなく 「取引」 を選んだ。

「さすが学都桜花最高の頭脳集団シンクタンク

 だが奴ら、どうやって蹴りをつけるつもりだ? そもそも今、徽章はどうなってるんだよ?」

 もちろん彼らのことだから、ちゃんとわかってはいるだろうけれど……。

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