3話

 案外時間が掛かっていた様でクラスに戻る頃には昼休みになっていた。

 早速出た時にいた人達に囲まれ何の用件だったのか聞かれたので概容を説明する。自分の趣味の事は言わないが。

「ふーん。結構面白そうじゃない。」

「リスクも高いけど強いんじゃないかなぁ」

「……頼りにしてる」

 随分と信用されてるな、俺。

 おっとそういえば、さっき学園長が不穏なことを言っていたな。

「なんかFクラス、この教室が狙いとか聞いたんだがなんかあった?」

「はぁ?DクラスならともかくFクラスがAクラスに勝てると思ってるの?」

 如何だろう。テストの点は試召戦争における重大な要素だけどそれが全てってわけじゃない。他にも戦略戦術計略何でもござれだ。

 そんな中霧島さんが断言する。

「……今日の戦争はFクラスが勝つ」

 えっ、確かにDクラスが勝つとは限らないけど、そこまで言えるほどか?

「代表、わかるように説明して。なんでそこまでいえるの?」

 木下さんが俺たち三人の意見を代表して言う。

「……まずFクラス代表の雄二。雄二は頭がいいから油断できない。」

 雄二ってあの『悪鬼羅刹』の噂の坂本雄二か?確かに昔は神童とか言われてたらしいが、今も頭のキレるやつなのか?

「……それにAクラスうちに姫路が居ない」

 そういえば!急いで辺りを見回すが、確かに秀才で知られた姫路さんが居なかった。彼女ほどの人が大ポカをやらかすとは思えない。ということは……

「……おそらく姫路はFクラスに居る」

 振り分け試験の未受験か途中退席。それしか考えられない。途中退席も0点扱いだからな。

 ということは学年次席級の戦力がFクラスに居ることになる。確かにそれなら、余程姫路さんの投入タイミングを間違えなければDクラスに勝てるだろう。代表さえ倒してしまえばいいのだから。

「というと案外Aクラス狙いっていう話が現実味を帯びてくるわね」

「でも、何で一気にうちを狙わなかったんだろう?」

 木下さんの言葉に工藤さんが疑問を浮かべる。

「大方確実に勝てる敵を倒してクラス全体の士気を上げるためだろう。戦争で士気があるのとないのじゃ雲泥の差だ」

 歴史を遡っても兵士全体の士気は馬鹿にできない。それだけでも勝敗を左右する。

「これは”戦争”なんだから戦力だけでは勝てないし、戦力が最低限でも戦略や戦術でいくらでも補えるよ」

ベトナム戦争や冬戦争がいい例だ。

 

 

「皆さん。今回の試験召喚戦争はFクラスが勝利しました」

 そして放課後のSHRショートホ-ムルームに霧島さんの予言は的中することとなった。



(まっさか本当に勝つとはな。これは本格的に狙ってくるかもな。)

 帰宅後に高橋先生の言ったことを思い出しながら自分の部屋でエアソフトガンを弄る。ちなみにこれはARアサルト・ライフルタイプだが10歳以上用のやつなので問題ない。

「零夜、ちょっと来なさい。」

 下のリビングから母さんの呼ぶ声がする。母さんはかなり俺の趣味を嫌っている。正直かなり行きたくない。

「あと30秒以内に来ないと貴方が買った変な懐中電灯、売りに出すわよ」

 そんなばかな!?何故母さんが俺がこっそりバイト代を奮発して、軍用実物フラッシュライトを買ったことを知っているんだ!?家に持ち込む時も細心の注意を払って机の鍵付引き出しの二重底に隠したのに!ミリタリーショップのセールでも3万超えたんだぞ!

 もの質を取られ、しぶしぶリビングに下りると、母さんが仁王立ちしていた

「今日クラス振り分けの発表でしょ。結果出しなさい。」

 ああ。そういうこと。この流れなら大方……

「Dクラス以下なら貴方の趣味の無期限停止を言い渡します!」

 ですよね~。母さんは毎回ことあるごとにこう言ってくる。しかもテストが終わってから言い出すから性質が悪い。今からじゃどうこうすることも、テスト前に目標も設定できない。

「はい、これ。」

「あら?今回は素直……ね!?!」

 まあ今回は何も文句は言われない、つか言わせない結果なのだが。現に母さんが渡した封筒の中身を見て固まっている。

「……零夜」

「何?これでも文句あるの?」

 いちゃもんはやめてほしい。

「カンニングなんて学生のクズがすることよ……」

「どうしてそうなるんだよ!!!しっかり自分で解いたわ!!!自分の息子を信じろとは言わんから、せめて学校の通知は信じろよ!!!」

 確かに自分でも信じられない結果だけど、カンニングだなんて言いがかりにもほどってもんがある。

「……まさか学校の通知を偽造するなんて……」

「アンタどんだけこの結果信じたくないんだよ!!!」

「じゃあなんでこんなにいい結果なのよ!?」

「俺の努力とそれに因る実力だよ!!!」

 あれか?俺の努力とか無視なのか?Out of 眼中なのか?

「くっ……。これで確実に止められると思ったのに……」

 あれ?案外母さんの中での俺の評価はDクラス以下だったようだ。

「つーかそんなに人の趣味のこと言うなら自分は如何なんだよ!!!さっきからリビングにBL本やら女性向け成人漫画が散らばってるんだが!!!」

 母さんの趣味、というか性癖は美男子の裸だ。そんなのがリビングに放置された現状に慣れた自分が少し怖い。つかなんで父さんはこんなんと結婚したんだ?

「いいじゃない。私の趣味よ。文句あるの?」

「ありまくりだ!人の趣味全否定しといて自分のは押し通すのかよ!」

「零夜に迷惑かかってないでしょう!」

「リビングにばら撒いといて良くそんな台詞言えるな!」

 俺も母さんが自室で読んでるならこんなに拒絶などしない。だがリビングで読むな、リビングで。

「はあ。わかったわ。見逃しましょう」

 ぜんぜんわかっているように聞こえないのだが。というか見逃すってなんだよ!確かに高校生としてはマイナーな趣味かもしれないが、『見逃す』なんて単語が適用されるような違法性のあるものじゃないだろうに。

(しかし、あのクラスだと確かに気を抜けばすぐに置いて行かれそうではあるか)

 少し趣味より勉学を優先しようかな、とは思った。

 絶対この趣味はやめないが。

 

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