第27話 しゅうけつ

 真・甲機精霊マキナ・エレメド・ガイアス・ドラグーン。


 アリーチェを想うドラちゃんの祈りが起こした奇跡。


 最強機体の予感をひしひしと感じる。


「多少のマイナーチェンジを施したところで!」


 ライオールの言葉はもはや負け惜しみにしか感じられない。


 俺は鉄球ガイアスハンマーをそっと置く。

 こんないかつい武器が無くたって。戦える。


飛翔ドライブユニットの制御はこっちでするわ!」


 アリーチェの意識がダイレクトに伝わってくる。

 ガイアスとドラグアスがひとつになったということは。

 俺とアリーチェの思考も繋がっている。


 俺の意思もアリーチェには全て伝わっているだろう。


「ああ!」


 以心伝心。

 俺の想いがアリーチェに伝わり、ガイアスを飛翔させる。

 上空へではなく低空を。

 機械武神マキナゴッデスを凌駕する速度で。


「なっ! 丸腰で!」


 新たなガイアスに武器等いらないということを俺は感じ取っていた。

 ガイアスの背中から広がる大きな翼。飛翔のためのユニット。

 だが、それは翔ぶためだけの装備ではない。

 その翼から漏れ出る光。

 それは俺の意思で敵を切り刻む刃と化す。


竜翼ウィング光刃ブレィド!!」


 機械武神ライオールの周囲を二周三周と円を描いて周回する。

 それだけで十分だ。

 ガイアスが背負った刃に切り裂かれ、機械武神の装甲がバラバラと剥げ落ちる。

 さらに、二周。

 機械武神の両腕の肘から下を粉砕する。


「うぬう!」


 ライオールが憤怒の吐息を漏らすのを聞いた。




◇◆◇◆◇




「この速度! この攻撃力……」


 ライオールは感じ取っていた。

 ガイアスとドラグアスの合体によって得た力のすさまじさを。

 甲機精霊マキナ・エレメドの力を100とするならば。

 自分の創り上げた機械武神はその数倍の力を持つと見込んでいた。

 が、それをさらに、遙かに上回る性能。


 和ではなく乗、あるいはべき

 甲機精霊マキナ・エレメド同士が融合することでこれほどの力を発揮するとは。

 それを実際に目にしてライオールは脅威ではなく興奮を覚える。

 彼の元にも二体の甲機精霊マキナ・エレメドが存在する。

 ファイスとマーキュス。


 今は、その二体を融合させる術式はわからない。

 が、いずれ……。

 甲機精霊マキナ・エレメド部隊を結成した暁には。

 それぞれを融合させることで新たな力を得ることができる。

 それはこの世界、そして異世界をも掌握するという彼自身の野望にとって大きな力となるはずだ。


 ライオールはただ堪えていた。

 機械武神の体を小さくし、表面積を減らす。

 それでも、攻撃の前に徐々に機体は解体していく。

 表面が削り取られ、機械武神は機械武神ではいられなくなりつつある。

 このままで瓦礫塊ジャンクと化すのは時間の問題と思えた。


「まだだ! まだ!」


 ライオールは召喚陣を描く。イメージではなくばらばらに散らばった機械幻獣の部品を使って。

 それが、この召喚不能地帯、無魔の小径こみちにおける必須の手続きだ。

 通常の召喚士では、地面に召喚陣を描くという作業が必要だ。

 それを省く方法を編み出せたと言うのもまたライオールに与えられた才である。


「何をする気だ!?」

「なんなの?」


 シュンタが叫ぶ。アリーチェが叫ぶ。


「機体の性能で敵わないのなら!」


 ライオールは機械幻獣を再構成する。また破棄されたその部品を集める。

 必要最小限。動作すればいい。

 彼のとった作戦は特攻による自爆。さらにいえば物量作戦。

 爆発力を持つ魔力の込めれた炸裂弾とそれをガイアスへとたどり着かせるための機動力。噴射口。

 ただそれだけの能力をもった特攻兵器エクスプロ―ジョンマシンを多数創り上げた。


 この状況においてそのような発想を抱くことができる。

 彼もまた戦いのセンスに満ち溢れている天才なのだ。


 三桁に迫る数の特攻兵器が一斉にガイアスに向っていく。


「数は多くてもこんな不細工なやつらに!」


 シュンタはガイアスに回避行動をとらせた――実際にはその想いを感知したアリーチェの制御による――が、なにしろ相手の数が多い。

 数体が、ガイアスの装甲に辿り着く。刹那、自ら爆裂する。


「自爆!」

「なんて無茶な!」


 シュンタは憤る。アリーチェは同じく憤りとさらには悲しみを感じる。

 心のない機械だとはいえ。機械幻獣もれっきとした幻獣であり精霊なのだ。

 それらを無慈悲に消費する。自らの意思で破壊する。

 ライオールの冷徹さにアリーチェは震える。


「お前が!

 そんなことばっかりやってるから!

 ドラちゃんが居なくなり!

 戦いは続き!

 アリーチェが! みんなが悲しむんだ!」


 アリーチェの想いを感じたシュンタはガイアスの姿勢を再制御する。

 迫りくる速攻兵器から逃げるのではなく、ただ、ライオールの元へ、機械武神のすぐそばへと近づく。距離を詰める。


 ガイアスが躱した特攻兵器の何体かが機械武神に激突して爆発する。

 それでも、ほとんどはガイアスに激突して至近で爆裂する。


「こうなってしまえば我慢比べだ!

 帝国軍の魔力が尽きるのが先か! それともお前達の魔力が尽きるのが先か!」


 消費されては再生産され、次々と生み出されていく特攻兵器に対処しきれずにガイアスは徐々に消耗していく。傷ついていく。

 爆発の余波に機械武神を巻き込むことで、攻撃の手が緩まることを狙ったシュンタだったが、それでは相打ちを狙うライオールの思惑にひきこまれることとなる。


「このままじゃまずいわ!

 ドラちゃんがせっかく集めてくれた魔力が尽きる!」


「その前に!

 こいつを叩きのめせばいいだけだ!」


 一度ガイアスは機械武神の傍から離れる。

 態勢を立て直すために。それともう一つの意図をもって。


 が、その時に不吉な光景を目にする。


「ファイス! マーキュス!」


「ライオール様。さしでがましいようですが」


「僕らも黙って見ているわけにはいきません」


 アクエスとゼッレは自らの機体にそれぞれ武器を構えさせる。


「来るまでもないと言ったはずだ!」


 ライオールはあくまで自身の優位を疑わず、二人を咎める。


「ですが……」


 アクエスは言葉に詰まる。が、ゼッレは強い意思で、


「それでも!

 ライオール様の力となるのが僕の使命なんです!」


「シュンタ、三対一になる!

 一度分離を!」


 アリーチェの提案はもっともだとシュンタも感じる。

 ただでさえ多勢に無勢。

 機械武神に加えて大量の特攻兵器の相手でガイアス・ドラグーンは消耗している。

 活路が見いだせないでいる。

 さらに、ここで二体の甲機精霊マキナ・エレメドが敵の戦力に加われば。

 袋叩きにあうのは明白。

 それよりはガイアスとドラグアスの二体でそれぞれ戦うほうが目があるとも思える。


「だけどアリーチェ!」


 瞬間的にシュンタは取るべき行動を見つけていた。


甲機精霊マキナ・エレメドごとき!

 誰が相手でも!」


 ガイアスの背後から漏れ出る光の翼が大きくなる。


 二体並んで立つファイスとマーキュスの間にガイアスが飛び込む。


「これが!

 無双って奴だ! 覚えとけ!」


 一瞬の出来事だった。

 光の刃はファイスとマーキュスの頭部を胴部から切り離す。

 二体の脇を通り抜けたガイアスはそのまま上空へと飛び上がる。


「な!」

「きゃあ!」


 直後にファイスとマーキュスは消滅し、ゼッレとアクエスがその小さな姿を見せた。


「馬鹿な! 甲機精霊マキナ・エレメドを一撃でだとっ!」


 ライオールが叫ぶ。


「戦場における覚醒主役補正ってのはな! そういうもんなんだ!」


 ガイアスは再び舞い降りる。戦場を低空で飛び続ける。

 背後からは特攻兵器が追いすがるが、ガイアスの速度は追撃者を凌駕して接近を許さない。

 ガイアスが旋回する。

 ある地点を目指して。

 決着のために。

 それに必要なものを手に取るために。


「ガイアスハンマー!

 お前の力を貸してくれ!」


 ガイアスは天高く上昇する。

 その手に握られるは鉄球と繋がった鎖。

 腕を振りガイアスハンマーに円を描かせる。

 鉄球はガイアスの掲げた右腕を中心に見る間に加速していく。


「当たりどころが悪くて!

 死んでも俺を恨むなよ!」


「いくよ!」


 アリーチェが飛翔ユニットを制御する。

 さらに上昇。限界まで。


 そして、ライオールの乗る機械武神目がけて一気に降下。

 ガイアスハンマーの遠心力と。

 ガイアス自身の自重による重力と。

 そして、翼の煌めきが生む加速。


「食らえ! ガイアスMTアルティメットボンバー!!」


 横殴りの鉄球の、渾身の一撃を受けて機械武神は崩壊した……。

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