PARTⅣの5(38) 数字の神秘はパワーの源か

 その前日に東京で、日本と中国の首脳しゅのうがサイの目で「尖閣諸島せんかくしょとう」の海底油田の所有権を決するギャンブルを実施じっしし、


 その結果、それは日本のものとなったのだった。


 そのニュースを伝聞でんぶんで知った一徹はため息を深くついた。


「本当にやらかしたのか? 全く世も末だな。ギャンブルってやつは法律で原則禁止されてるはずなのに。


 まあ、マネーゲームという大規模な地球規模のギャンブルが法律で禁止されたためしはない。


 そういうとんでもないギャンブルの胴元どうもと連中が牛耳ってる狂った世の中だ、政治家がこういったギャンブルに走るのもその意味じゃまあ当然かも。


 多分、双方の首脳の頭には金のコウモリが留まっていたに違いない」


 その通り、彼らは頭に留まっているコウモリに操られていたのだ。


 一徹の知り合いの花枝財務大臣が「個人的な意見ですが、やはりあんな風にギャンブルで決まるのはいかがなものか?」と取材記者にコメントしている映像も流れた。彼の頭にはまだ金のコウモリは留まっていなかった。


 一行の中では、年長の男性で経験豊かな一徹と高志と、それから護衛隊長の神戸岩彦がリーダーシップをとるようになっていた。


 昼食のあと、彼らにレイ子と謡と奏とヒカリと山岡と大浜が加わってテーブルを囲み、今後のことを相談した。


「まず第一にやるべきことはみんなの同居の家族をここに呼び寄せることだと思う」


 と一徹が言った。みなもその通りと賛成した。


「俺達天狗でやりましょう。みんなにここの電話を使って家族に事情を説明してもらえれば、あとは俺達が神通力を使って連れて来ましょう」


 岩彦が提案した。一徹は「お願いします」と頭を下げ、他の者もそのようにした。


「それで、そのあとなんだけど、どうやって″″の中の凍えた座敷わらしを助けるか、その方法について、誰か少しでも見当がつかないだろうか?」


 一徹の問いかけに、みなは考え込んだ。奏が心の奥から響いてきたことを口にしてみた。


「ねえ、岩彦さん、広尾の小学校の体育館で八芒星はちぼうせい魔法陣まほうじんいて埴輪はにわを身代わりにしましたよね?」


「ああ」


「特別な力もないぼく達でも、魔法陣の上にみんなで並んだから、そういうことができたんですよね?」


「そう。俺は自分だけでも埴輪をみんなそっくりにの替え玉にすることはできたんだけど、


 一体一体変えてたのでは手間と時間がかかるので、ヒカリと相談して、


 魔法陣を描いてみんなをパワーソースにし、神通力を強化して一瞬のうちに全部替え玉に仕立てたんだよ」


「もう一人の座敷わらしを助けるのにも、なんらかの魔法陣を用いるんじゃないでしょうか?


 それ以外にぼくたち人間が超常的で神秘的なパワーを発揮してその座敷わらしを助ける方法はないように思うんですが?」


「なるほど、そうかも ・・・。しかし、そのために描くべき魔法陣も唱えるべき呪文も、俺はまだ見当もつかない」


 そこで、謡が心に響いてきたアイディアを口にした。


「ねえ、岩彦さん、小学校の体育館では大浜さんと山岡さん、田川さん夫妻、森野さん夫妻、あたしと奏さん、


 四組の男女のペアがそれぞれ向かい合う三角形の頂点に立ちましたよね?」


「ああ」

「なんでそうしたんですか?」


「それは、ヒカリとも相談してあれで行こうということになったんだけど、


 その八人がグループの主だったメンバーで、それぞれのペアにある種の陰陽いんようのバランスを感じたというか、


 まあ、言葉にしてみればそんなことかな」


 謡は更に話を進めた。


「それで、その八人は、その後、私のおとうさんとおかあさんのペアが加わって十人になりましたが、


 あと、主なメンバーと言えば、一徹さんがいるじゃないですか?」


「そうだね」


「一徹さんにもペアになるべき人がいて、そのペアが加わって、合計六組十二人で魔法陣の上にならぶような気がするんですが ・・・」


十二芒星じゅうにぼうせい?」


「そういうことになるでしょうね。


 私、″″に『どうやったら凍えた座敷わらしを助けられるんですか?』って尋ねたら『心の奥からひびいてくる声に耳を傾けなさい』って言われたんです。


 今あたしが口にしている言葉はみな、そういう言葉だと思います」


「なるほど。ヒカリ、君はどう思う?」

 岩彦が意見を求めると、ヒカリは答えた。


「それで行っていいと思うよ。おねえちゃんだけじゃなく、みんなも心に響いてくる言葉を口にしてみたら、それが道をひらくかも。奏おにいちゃんと謡おねえちゃんみたいに」

 

 謡は一徹に尋ねた。

「誰かご自分のペアとして思い当たる女の人はいませんか?」


 と尋ねた。一徹は躊躇ちゅうちょなく答えた。

「いる。銀金トミという女性だ」

 

 レイ子はびっくりした。謡も同様だった。


「え! それ、私のおかあさん! そして、謡のおばあちゃん ・・・」レイ子は思わず叫んだ。


「そうだったんですか ・・・」

 一徹もびっくりした。


 彼は年甲斐としがいもなく照れくさそうに頭をかきながら彼女とのいきさつや楽天人に行く前に青山の路上で再会したことなどをみんなに話した。


「愛してるんですか?」謡はズバリと尋ねた。


「ああ。走り去るリムジンを見ながら、あの時告白すべきだったとあらためて後悔した位だ。


 お互いに今は独身だし、今度チャンスがあったらちゃんと告白したいよ。これ以上後悔しないために。トミさんとまた会えるといいんだが」


「私と母の家はあの巨大なかめのちょうど真ん中あたりにあるはずです。それが、母トミが″″の司祭だという証拠のように思います。


 あれが出現した時間だと、まだ家にいたでしょうけど、司祭ならば、今頃無事にあの甕の中にいるでしょう。母はずっと操られ続けてきているのでしょう」


 とレイ子は言った。一徹は遠くを見ながら、その場にいない彼女に向かって呼び掛けた。


「トミさん、必ず会いに行くから」


 みなは沈黙した。少しして、大浜が心の奥から響いてきたことを口にした。


「私、子供の頃から神秘的なことに興味もあって、占星術なんかも自分なりに研究したことがあるんですけど、


 十二という数字で真っ先に思い当たるのは占星術の、


 牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座という十二宮です。


 それともう一つ、


 小学校の体育館の時に四組のペアが八芒星のうえに、中心を挟んで向かい合う形で立ちましたよね? 


 中心角で言えば百八十度の位置に?」


 岩彦が「その通り」と答えた。


「実は占星術上、私と山岡さんのペアの誕生日と誕生日の作る角度はやはりおよそ百八十度なんです。


 これは占星術では【対向オポジション】と言われる座相、つまり位置関係にあって、それぞれの星座である双子座と射手座も【対向オポジション】の関係にあります。


 ですから、体育館の魔法陣の上で【対向オポジション】の位置に私達が配置されたのは、占星術上、かなったことなんです」


「それは面白いな」 

 高志は感心したように言った。


「それで確認させていただきたいんですが、


 今ここにいる、高志さんとレイ子さん、奏さんと謡さん、


 それぞれのペアの誕生日と星座を教えていただけますか?」


 確認の結果、高志とレイ子は牡牛座と蠍座で誕生日の座相はおよそ百八十度、


 奏と謡は獅子座と水瓶座で誕生日の座相もおよそ百八十度だった。


 つまりどちらのペアも、星座・誕生日ともに【対向オポジション】の関係にあることがわかった。


「確か一徹会長は一月十日が誕生日でしたよね?」

「覚えていてくれたのか?」


「はい。では、レイ子さん、おかあさんのトミさんの誕生日は?」

「七月九日です」


「じゃ、やっぱり、誕生日も【対向オポジション】、星座も山羊座と蟹座で【対向オポジション】ですよ。


 山岡さん、田川夫妻と森野夫妻を呼んで来てくれませんか?」


 山岡に呼ばれてやってきた両夫妻に確認すると、


 田川夫妻は乙女座と魚座で誕生日の座相はおよそ百八十度、


 森野夫妻は牡羊座と天秤座で誕生日の座相はおよそ百八十度、


 つまりどちらも、星座・誕生日ともに【対向オポジション】の関係にあることがわかった。


 結局、六組とも星座も誕生日も【対向オポジション】の関係にあることがわかった。


 みな、この事実に神秘しんぴを感じないわけにはいかなかった。


 謡は岩彦に尋ねた。


「あたしも占星術とか魔法陣は子供のころから好きだったんですけど、


 魔法陣って、より大きなパワーを発揮するためには、より高度こうど数秘術的すうひじゅつてき構造こうぞうを必要としませんか?」


「そうだね」

 岩彦はそう答えた。大浜とヒカリもうなずいた。


「小学校の体育館の魔法陣の時は、八芒星の上に立った八人は岩彦さんの直観に基づいて【対向オポジション】という法則に従う形でそうしたと言えると思うんですけど、


 他の、え~と、八十八人の人達もなんらかの法則性に従って並んだと言えるんでしょうか? 


 結構適当に円を作って立っていたような感じがするんですけど」


「その通り、ほんとは八人が魔法陣の上にああして立っただけで用は済んだんだよ。


 でも、せっかくだから他の八十八人にもああいう風に輪になって周りを囲んでもらってたんだ」


「でも、凍えたもう一人の座敷わらしを助けるための魔法陣の場合は、


 やはり何らかの法則性を発見して八十八人に並んでもらう必要があると思うんです。八十八人の家族のみなさんにも ・・・」


「それは心の奥から響いてきたこと?」


「そうです。ですから、善は急げです、今から八十八人の人にも集まってもらって、法則性があるかどうか確認してみませんか? 


 ついでに、同居の家族の人達に電話して下さいって頼めばいいと思うんです」


 みなは謡に賛成した。早速、宴会用ホールに集まってもらって確認作業をした。その結果、次のことがわかった。


 十二の星座は火、地、風、水、四つの宮に分類される。


 火の宮に属するのは牡羊座・獅子座・射手座の三つ、


 地の宮に属するのは牡牛座・乙女座・山羊座の三つ、


 風の宮に属するのは双子座・天秤座・水瓶座の三つ、


 水の宮に属するのは蟹座・蠍座・魚座の三つだ。


 そして星座は冬至のころから順に、


 山羊座・水瓶座・魚座・牡羊座・牡牛座・双子座・蟹座・獅子座・乙女座・天秤座・蠍座・射手座の順に並んでいる。


 確認した結果、その八十八人は火、地、風、水、四つの宮のいずれにも二十二人ずつ属していることがわかった。


 更にその八十八人は、


 山羊座に八人、水瓶座に七人、魚座に七人、


 牡羊座に八人、牡牛座に七人、双子座に七人、


 蟹座に八人、獅子座に七人、乙女座に七人、


 天秤座に八人、蠍座に七人、射手座に七人、


 属していることが、


 つまり「八~七~七」が四順してることがわかった。


 岩彦は感心したようにつぶやいた。

「確かに法則性がある ・・・」


「ぼくは十二芒星の中心に入るんじゃないかな。強力なパワーソースとしての2号と一緒に十三番目の、十二+一の一として ・・・」


 ヒカリは心の奥から響いてきたことを口にした。


「十三つまり十二+一というのは、古い十二のサイクルが一つ終り、次の新しい十二のサイクルが始まることを意味しているのかしら? 


 同じように、八つまり七+一というのは古い七のサイクルが終わって次の新しい七のサイクルが始まることを意味しているのかしら?


 十二進法とか、七進法とか、そういうのをイメージしてるんだけど」


 大浜も心の奥から響いてきたことを口にした。


「十二は一年の月数、七は一週間の日数ね


 十三月目は新しい年の最初の一月ひとつき


 八日目は新しい週の最初の一日いちにち


 レイ子も心の奥から響いてきたことを口にした。


 みんなもこのような数字の神秘に感動していた。高志はみんなに、


「すると、あとは一カ月の日数か。


 みなさん、お願いがあります。


 同居の家族の方にホテルの電話で連絡して、迎えが行くからすぐにここに来てほしいと言って、必ずオーケーをもらって下さい」


 と頼んだ。


 早速解散してその作業を進めることになった。ヒカルの背のリュックから顔と手を出している2号を見ながら、謡はつぶやいた。


「2号は多分、人間以外のありとあらゆる地球上の存在を代表し代理しているように思うな」


 隣にいたと奏も「きっとそうだね」と頷いた。


 百人の人間達のうちで同居の家族を持っている者達は早速電話し、翌日中には彼らの同居家族全員がホテルに集結した。


 その中には高志の母の粟乃、森野春樹の母親の幸子、森野夫妻の娘のもみじもいた。終結した家族の総数は二百六十四人だった。


 この二百六十四人に十二人+八十八人+ヒカリを合計すると一年の日数と同じ三百六十五人になるのだった。


 ところで、二百六十四は八十八×三なのだ。だから、


 二百六十四+十二+八十八+ヒカリ


=八十八+八十八+八十八+八十八+十二+ヒカリ


=三百六十五、


 なのだ。


 この二百六十四人について誕生日と星座を確認した結果、次のことがわかった。


 その二百六十四人は十二の星座のそれぞれに二十二人ずつ属していた。


 カバラでは二十二はこの世を支配するすべての空間と時間を意味しており、また、タロットカードの二十二枚目は「世界」であり、


 そのカードの意味するところは、


「完成と統合。巨大な力が働く。自己実現。魂の完成」なのだった。


 更に、その十二星座の各々に属する二十二人に、先の八十八人の十二の星座別の所属人数「八人、七人、七人、八人、七人、七人、八人、七人、七人、八人、七人、七人」を加えると、


 山羊座に三十人、水瓶座に二十九人、魚座に二十九人、


 牡羊座に三十人、牡牛座に二十九人、双子座二十九人、


 蟹座に三十人、獅子座に二十九人、乙女座に二十九人、


 天秤座に三十人、蠍座に二十九人・射手座に二十九人、


 という結果になる。


 つまり「三十~二十九~二十九」が四順してることに。


 二十九というのは太陰暦の一カ月の日数、新月の月が満ち欠けして新月になるまでの日数だった。


 三十つまり二十九+一というのは、古い二十九のサイクルが終わって次の新しい二十九のサイクルが始まることを意味しているのではないかとみな思った。


 十二という一年の月数、二十九という一か月の日数、七という一週間の日数 ・・・ 


 古い十二、二十九、七、のサイクルが終わって新しいそれらのサイクルが始めることを示唆するような、十三、三十、八という数字。


 二十二という「完成と統合」を意味する数字。


 八十八という、無限記号を二つ合わせたような数字。


 一年の日数を現す三百六十五という数字 ・・・。


 ホテルに集まった三百六十三人+銀金トミ+ヒカリ、合計三百六十五人から作る十二芒星の魔法陣は数秘術的に高度の構造を有しているように思われた。


 かくして、どういう魔法陣を作って人間をどう配置すればいいのかが見えてきた。


 謡はレイ子に、

「ヒカリの誕生日はいつだったの?」と尋ねた。


「十二月二十一日よ。それも十二時二十一分に生まれたの。生んだあとでそれを聞いてびっくりしたわ」


 レイはそう答えた。それを聞いた謡をはじめとするみんなは体に鳥肌の立つのを禁じ得なかった。


 謡はひらめいたことを口にした。

「おかあさん、その日って冬至かその前の日くらいでしょ? 」


「ヒカリの生まれた年の冬至がどっちだったか、調べてみましょうか? もしかしたら、魔法陣を作るために必要なことかもしれないから ・・・」


「お願いしていい?」

「ええ。ちょっと待ってて」


 レイ子はさっそく自分のスマホ携帯で調べて、その結果を謡に教えた。

「二十一日が冬至だったわ」


「だったら、ヒカリの誕生日であり冬至の日である十二月二十一日を零に見立てて、そこから始めるのが自然かも。


 冬至を北に、春分を西に、夏至を南に、秋分を東に配置する感じで十二芒星を描いて。


 平面に書くなら、それらが上、左、下、右とい方向を意味することになると思うけど。


 冬至を起点に、つまり時計で言えば零時を起点に、


 反時計まわりに十二の頂点に、


 山羊座、魚座、水瓶座、牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座の順で描いていけばいいって、


 あたしの心の奥から響いてきた声がそう言っているんだけど」


「十二月二十一日だと射手座の最後で、まだ山羊座に入らないんじゃないかと思うけれど、


 それがあなたの心の奥から響いてきたことなら、それでいいとあたしは信じるわ。


 占星術で使う黄道十二宮図こうどうじゅうにきゅうずはあなたが今言った通りの描き方がされているし、


 それを十二芒星の魔法陣に応用するっていうインスピレーションは的を得ているように思えるわ ・・・」


 占星術に詳しい大浜がそう補強した。そして一同は″″と、謡と、心の奥から響いてくる声を信頼しよう」という結論になった。


「あの凍えた座敷わらしの質量は半端じゃなく大きいよ。でも、この魔方陣ならぼくのリュックに入った2号ともリンクできるから ・・・ ぼくと2号が魔法陣の中心の零ポイント、特異点とくいてんになるんだね ・・・ そして、みんなと結びつく時、零は無限・・・」

  

 ヒカリは心に浮かび上がった言葉をつむぎだした。その言葉は、富士山が見おろす本栖湖畔の静寂せいじゃくの空間いっぱいに神秘的にそして荘厳そうごんに響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る