第27話 ライバルの屈折した考え・苦悩 6

 玉野が、今度は自分の番だとばかりに自分の父親に対して攻勢に出る。そして自らの力で、父親を精神から追い出すことを成功させた。

『そ、そんなことあるはず……ぐっ、ぐわああーっ』

 現実世界では玉野が一人でもんどりうって苦しんでいるようにしか見えなかったが、現実とは違って玉野には精神を乗っ取られていた時のダメージが残っていたのだ(玉野の親父は大ダメージで別部屋で倒れていると考えられる)その影響もあって市斗には嫌な疲労感や不快感が残っていた。

「はあ、はあっ、やったぞ。これで自分の心の弱さを少しは克服できたはず」

「お帰りっ、玉野君。少しは気持ちが楽になったかい?」


 玉野市斗は幻悟の心配をよそにそっぽを向いてしまう。きっとあわせる顔がないとでも思っているのだろう。

「琴葉幻悟君、また俺は……」

「気にする必要なんてないぜ、人間なら誰しも弱い部分を持っているものさ。そんなことより君も知りたがっていたあの事を伝えてやるよ」

 玉野が自分を責めているのと対照的に、幻悟には玉野の暴走事件を気にしている様子は無い。むしろ玉野市斗を気遣っている程だ。


「せいじん、みんな、当然玉野君も聞きたかったら聞かせてあげるよ。別にどうだっていいと思うなら聞き流してくれても良いぜ」

 幻悟はこの場にいる全員にそう告げて、言葉力について語り始める。

「言葉力はなっ、全世界の人達が少しでも考えている思いを言葉に変えて、それを増幅させたものなんだ。もう一つの使い方は限界があったりするが、特定の個人の気持ちを増幅させるというものだ」

 結局、この場にいる全員は言葉力の話を聞いていたが、分かりやすい説明を求めて道也が口を出す。


「悪い考えを増幅させちゃう事も出来るのか? 幻」

「やろうと思えばねっ。でも、俺は自分が子ども時代の時にこの能力が開花して落ち着いたら悪いことはしたくないと思った。だから自分に言葉力で誓約をつけて悪どい考えの大半を永久封印したんだ。そうしたおかげで悪い企みを増加させる事なんてしたくもないし、することもないのさ(誰でもしそうなイタズラ程度の事は別)←したことないが」


 幻悟の説明に、奈美は重要そうな言葉を再確認しようとこのように話を切り出した。

「思いの増幅ってどう理解すればいいの? 幻悟さん」

「うーん、そうだな。例を上げると、俺が体力の増強を望むとするね。その場合は病気の子どもとか(体力を戻したいと思っている事が多いから)体力をつけようと努力している老若男女全ての人達の思い=気持ちを少しだけ分けてもらう事で、その思いを膨らませるという話さ」


 奈美が幻悟に対してさっきの話で湧いた素朴な疑問を聞いてくる。

「でも、そうしたら考えていた人の思いが消えてしまうってことは?」

「それはないよ、奈美ちゃん。思いのごく一部を気付かれる量より少なく分けてもらうだけだから。言い方が適切ではないかもしれないけどそれが言葉力の適正なんだ」


 そこで成人が一旦幻悟の話を止める。

「ちょっと待ってね、幻悟君。今までの話をまとめてみると、悪い考えは幻悟君自身の中で大半は削除されているという事と、全世界の人達の思いの力を必要に応じてもらっているということだよね? その使い方は想いの力をもらう事で、その状況によって必要な想いのみを集中してもらって使っているという事で良いの?」

 成人はとても真剣にそれでいて純粋に言葉力を知ろうとしている。


 それから幻悟を手助けするための手掛かりを見出そうとしているのだ。

「おおまかにはそういう解釈で良いよ、せいじん。他に聞きたいことはあるかい?」

「せっかくだからもう一つ確認の質問させてもらおうかな。言葉力に限界は本当にあるの? 万能な力の感じがあるけど」

 幻悟はしばらく思案顔になる。そんな事なんて考えることはそんなになかったからだ。小一時間程度したところで幻悟は一つの解釈を導き出す。

「それは全世界の人による思いの増幅の場合はたぶんないと思うよ。今まで無理な使い方なんてした事はないけど、言葉力は悪い事以外には無限に使えるはずだからなっ」


「うん、よくわかったよ。さぁ、みんな。これ以上聞くことは無いね? 幻悟君を休ませてあげたいからさ」

「ありがとう、成人。玉野君も結構理解してくれたと思うんだけど、どうだい?」

 幻悟は説明を終えて、一息ついたところで玉野に訊ねてみる。彼はただ一言だけ『わかった』と答えるだけだった。

「みんな、ゆっくりしていこう。いろいろなことが積み重なったら疲れちゃったよ。用事とかあるなら無理には引き止めないけど」

 幻悟がすぐそばの草原でみんな一緒に寝そべることを提案する。ここにいる成人達小海兄妹と道也、そして玉野市斗も特に反論はないようだ。


 この春から夏へと移り変わり始めたかのような五月中旬の春の陽気がみんなを眠りへと誘う。丁度いい風とぽかぽか陽気と表現できる太陽の恵みの光が、みんなを眠りに誘う暖かさを地表に照らされている太陽が割り出して気持ち良さを演出しているかのようだった。 まさに幻悟や玉野にとって戦士の休息というやつだ。幻悟を中心とした彼の親友三人と玉野は思い思いに今のこの時間をくつろぐ。そして、それぞれの意思で帰宅しようと考えついたものからこの場を去っていった。



 次の日、幻悟は成人に奈美ちゃんを連れて自分の自宅に来てくれるように電話で話している最中である。彼は用件だけを成人に短く伝えると、電話を終わらせる。そして今は成人と奈美小海兄妹を待っている最中なのだ。

「やぁ、幻悟君。急ぎの用だった? どことなく慌てているように感じたけど」

 随分と急いできたように見えるのにも関わらず、成人は疲れを見せる感じもなく、さわやかな笑顔で幻悟に訊いてくる。

「ちょっと戦いの後に残る興奮がなかなかとれなくて。そう感じても無理は無いかもね。それより奈美ちゃんを連れて来てくれたかい?」

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