第弐章五話 【乱戦】


空中から爆発物が降り注ぐ。委員会の新型機による攻撃だ

地鳴りと共に革命者の機体がいくつもスクラップになる

「厄介だな」

デストロイアの上半身を傾けた。背中のミサイルランチャーが開き、中から弾頭が顔を覗かせた

噴煙が巻き起こり、ミサイルが放たれる

命中、直撃。寸分違わすミサイルは、空中の敵を花火にした。残骸と破片が大地に真っ逆さまに落ちていった

キャタピラ型によるミサイル攻撃が始まる。ゆったりと前進しながら、委員会の部隊は腕部のミサイルランチャーを前に向けた

一秒程のロックオン。横一列に並んだ人型機動兵器による数え切れないミサイルの嵐が、革命者の部隊を襲う

が、革命者も新型の機体を使用していた。その機体はミサイルを楽々と回避して、反撃のキャノンを撃つ

腕と一体化したキャノンから撃たれた砲弾は、目にも止まらぬ速さで目標の目と鼻の先に着いた

砲撃の餌食となった委員会機を尻目に、革命者機は次の敵を倒そうと歩き出す

その頭上を、委員会の新型が通り過ぎた。その飛行機体は地上にロケットランチャーを発射。地上に着弾したそれは敵を破砕し、革命者の勢いを削いでいく

「クソッ!対空砲火だ、急げ!・・・ぎゃああっ!」

死の雨に怯えた部隊長が空中にアサルトライフルを乱射するも、背後から空爆を食らい倒される

味方の盾になるように、脚の太い革命者の機体がマシンガンを構えた。連続で放たれる弾丸を、委員会の新型機は華麗に避けて見せる

その勢いのまま、飛行型が脚の太い革命者機に急降下爆撃を敢行した。機体の胸部の機銃が、下半身とは不釣り合いな細い上半身を砕いていく

穴だらけになり、後ろから倒れた味方機の横に立った革命者の新型に、委員会の新型機はロケットランチャーを発射する

しかし新型機は足を折り曲げ、腰を落とした。瞬間、革命者機が跳ねる

低空飛行していた飛行型に、空からやられた鬱憤を晴らすように反撃のキャノンをお見舞いした

空中から再び、破片が落ちてきた


扮装抑止委員会の大部隊は、がむしゃらに革命者に襲い掛かった

戦況は革命者側が不利である。決死の覚悟で襲い来る委員会の攻撃を、もろに受けてしまったのだ

空爆隊により革命者の陣形に穴が開いた。その隙を突くように浮遊型が突撃する

「怯えるな!陣形の穴に食いつけッ!」

全速力で移動し、ホバークラフトの機体はグレネードを発射した。迎撃しようとした敵機を貫き、グレネードの爆風が大地に花開く

「・・・あ、あれは!?」

委員会部隊の一機が一際巨大な敵機を確認した

それは傭兵の愛機

デストロイアが爆風の向こうからミサイルを大量に撃つ。ミサイルと正面衝突したホバークラフト機体が無様に爆ぜた

「部下の仇ィィィィッ!!!」

避け損ねた味方を振り向いた一機が、武器をデストロイアに向けて構えた

そこに、黒い人型機動兵器が飛び込む。その機体は爪先を引き、そのまま膝で体当たりをかけた。そして、銃に引き金をかけた腕を蹴り飛ばした

衝撃で明後日の方向に向けられる銃

黒い機体はそのままブースターを噴射し、蹴った機体を放って別の委員会の飛行型にガトリングを撃つ

ここで、デストロイアが右腕を向ける。そこに握られていたのは、大型のマシンガンである

鈍い音が連続した。無数の弾丸が委員会の機体に突っ込んでくる

「無念・・・ッ!」

弾幕によりもぎ取られた上半身を置き去りに、浮遊型の下半身がデストロイアに向かっていく

その時にはレールガンのチャージは完了していた

赤い機体の左手が、機械音を立てて変形する。躊躇いもなく向けられたその左手から、躊躇いもなく光が飛び出した

磁力を利用したの特殊合金製の弾が、暴走するホバークラフト脚と委員会の地上戦艦を貫通した

否、最初から目標は地上戦艦であった。たまたま射線上に、自機にぶつかりそうな物体があっただけ。一石二鳥だ

「キリがないな・・・これが人型機動兵器による大部隊戦というのか」

しかしいくら幸運が重なろうとも、戦いに勝たなければ意味がない

タナトスが近場の飛行型を粗方撃墜した頃、二人に通信が入る

メアリだ

「聞こえるか!?未確認の敵影だ、そちらに向かっている!おそらく我々とは別の傭兵のものだッ!」

「何?」

「親父、囲まれてるぞ!」

「何!?」

アレックスの警告虚しく、デストロイアは完全に包囲された。マイケルが歯軋りをしながら、立ち回りを思考する。一番手っ取り早いのは、タナトスに助けてもらうことだが

「見つけたぞ!死神ッ!」

「僕達兄弟の名を知らしめる為に、ここで死ねぇッ!」

二対一のあの状況では、援護は望めないだろう

「くっ・・・!」

マイケルが呻いた と、同時、委員会の機体が武器を向けた









「死神、無事か!?」

予想外の事態に、代理オペレーターのメアリは叫ぶ

やはり自分では無理だったのか。メアリは強くそう感じた

今回の相手は二対一。いくら死神の渾名を持つあの傭兵でも、今回ばかりは危ないだろう

メアリの額に脂汗が滲んだ

「ちょっ!ミシェルさん、無茶ですよ!」

「今は安静にしてなって・・あっ!」

その時、ディアーズとジョナスンの声が聞こえた

その直後、死神の本来のオペレーターが、ふらつきながらメアリに歩み寄る

本来なら彼女は、ゆっくりと休養しているはずだ

過労のせいで、足取りが怪しく目の焦点が合っていない

が、その右手にははしっかりとメモ書きが握られていた

「メアリ、これを・・・あの人に・・・」

「ミシェルッ!?」

ついに倒れ込んだブロンドの淑女を抱き留め、メアリはそのメモ書きを片手で受け取る

中身を見て、メアリは更に驚くことになる

「これは・・・ッ!?」

元パイロットの彼女は、自分はオペレーター向きではないと心底理解した














タナトスは追い詰められていた 青い敵機体はそれぞれタイプが違っていた

兄の機体は攻撃を、弟の機体は足止めを

まさか動き出す前に、弟の機体による網がタナトスを捕らえるとは

その網はかなり頑丈で、死神と呼ばれた機体のパワーでも引きちぎることは叶わないようだ

「捕まえた!兄さん!」

「よくやった弟よ!」

兄の機体は、全身にガトリングを備えていた。そう、まさに全身に

頭、手、腰、胸、背中、肩 そこから前方に向けて、ガトリング砲が伸びている。そのせいで機体のフォルムは歪になっていた

あの量では、タナトスと言えども蜂の巣になってしまう。食らうわけにはいかない

しかしいくら逃げようとしても、反撃しようとしても、網がその行動を阻害している。弟機が網を持っている限り、タナトスは身動きひとつできはしない

しっかりと狙いをつけ、兄の機体がガトリングを構えた。構えるというより最早体を傾けている状態だった

そこから弾が吐き出されてしまう、その寸前だった

「ロックを解除したぞ!死神ッ!」

タナトスの切り札が解除されたのは



「な、何だあれは!?」

タナトスの肩辺りから、二基のユニットが分離した。それは自立飛行しながら先端を敵機に向ける

重いガトリングを大量に装備した機体は、その場からすぐ離れることができなかった

そのユニットの名前は、『独立飛行型自立攻撃砲台』。名前通り、自分で動いて戦ってくれる小型ユニットだ

全身スラスターに続く、タナトスのもうひとつの切り札だった

二基のユニットから、ミサイルと機銃が放たれる。それは寸分違わずガトリングの機体を襲った

「兄さんっ!」

兄の方を見た弟が、一瞬網を持つ手を緩めてしまう。死神がそこを見逃すはずはなかった

別の切り札が起動する。タナトスの身体中の各部からスラスターが出てきた。点火されたスラスターが、機体に莫大な推力をもたらす

「ぐわぁっ!」

網を振り払った黒い機体が、空中へと踊る。自立ユニットも追従する

小型の独立ユニットと本体が一緒に動くその様子は、呑気にもまるでペットと飼い主のようにも思えた

眼下には、傭兵の機体が二機

「し・・・しまったぁ!」

兄弟のどちらかが叫ぶ。最早どちらの台詞かも関係ない

独立ユニットのミサイルが、独立ユニットの機銃が、ガトリングが、バズーカが、肩内部のロケット砲が、愚かに死神に楯突いた者共に向けられる

「ぬおっ!」

射線からデストロイアが逃げ出した

タナトスのカメラアイがトパーズ色に光る

殺されてなるものかと、委員会の機体が武器を撃った。弾は頭部に直撃し、タナトスの装甲を剥がした

しかし、もう遅い

ドクロの目玉が一瞬光った








そして、タナトスの目の前には灰しか残らなかった











大陸の全残存戦力を集めた委員会は、逃げる場所もなく革命者の迎撃で全滅。ここに大陸の組織は一つ消えた

しかし革命者もまたその戦力を大幅に減らし、防衛しようとした拠点を委員会の新型機による空爆で失ってしまった

死神と破壊者のコンビは、またもや敵を倒したが、同時に味方にも損害を与えてしまったのである








ベッドに横たわるミシェルの横に、椅子に座ったパイロットスーツの男がいた

彼は器用にリンゴの皮を包丁で剥く

「ねえ・・・」

ミシェルが寝言を呟いた。傭兵は構わずリンゴの皮を剥き続ける

「よかった・・・生きてて・・・」

暫くして、傭兵はリンゴを剥き終った

ベッドに近付き、ミシェルのブロンドに指を近付けた

そして、眠る彼女の頭を撫でる

静かな寝息をたてて、ミシェル・レイクは幸せそうに休息していた










「酷い目にあった。死神の傭兵は伊達ではないな」

「敵にも味方にも回したくないな、あれは」

マイケルが冗談めかして言うと、メアリは首を横に振ってそう漏らした

「お互い奴には敵わないかもしれんな」

「強すぎる、容赦が無さすぎる、徹底的すぎる・・・まさに死神だ。いい傭兵だよ、彼は」

「ほう。お前がそこまで評価するとは、珍しいこともあるものだ」

「・・・そうだな」

大仕事を達成したためだろう、通信機越しに聞く仕事仲間の声にマイケルは饒舌になっていた。彼自身も不思議に思ってしまうほどだ

気が緩んでいると自覚した

「ゴホッゴホッ!」

「ん?大丈夫かマイケル?」

本当に気が緩んでいたようだ。まさか咳をしてしまうとは

歳なのか、体調が悪くなっている気がする

数回むせ込んだ後、深い呼吸をしてからマイケルは話を続けた

「すまんな、先の戦闘で疲れた。休むとしよう」

「成程、それなら話は終わりにしようか」

「ああ、次も頼む」

そうして二人は通話を切った



メアリは無線機をテーブルに置いた

今いる格納庫では、タナトスの隣にもう一機の人型機動兵器があった。彼女はそれを見上げると、顎に手を当てて呟いた

「直るものなんだな・・・」

その一言を聞いたジョナスンが笑った

「俺たちにかかれば、これくらい朝飯前ってことだぜぃ!」

「こら、調子に乗らない!」

「いてっ!?」

ジョナスンの尻を蹴飛ばしてから、セーナはメアリに笑いかけた

「メアリさんももうすぐ現役復帰できるわよ!前に貰った部品でアリシオンは完全復旧したわ」

セーナが指差した先には、アリシオンが佇んでいた。面影を残しつつも、全体的なシルエットに変更点がみられる

「・・・ありがとう」

元々敵だった自分を受け入れてくれたこと、自分のためにアリシオンを修理してくれたこと、何よりも仲間と認識してもらえたこと

それら全ての感謝を、メアリは言葉にした

「気にしなくっていいよ!」

「そうだぜ、メアリさんは仲間なんだから!」

二人ははにかみながらそう答えた

メアリの口元も、緩んでしまった

「アリシオン・・・」

愛機を見上げて、メアリは拳を握った

「・・・私は彼等に、報いることができるだろうか・・・」

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