夕刻: ギフテッド [須佐政一郎]
「壱係長の許可は要らない、そう言っているだろう! 前もって出してある指示を早めるだけだ!」
「ですが、せめて高木局長か課長に報告しなければ……!」
「高木翁には話は通してある! 後、次発の部隊に犬飼君を加えるのを忘れないでくれ!」
「犬飼さん、ですか!? 今、何処にいるのか私は存じませんが!」
階下とのやり取りを止め、意識を集中させ<思い出す>、今朝承認した局員の部隊変更届と各隊の行動計画書を相互参照させる。
まだ六時半の鐘は鳴っていない。ならば、
「君が全速で中央広場に走れば、彼女はまだ北門付近にいる! とにかく急いでくれ!」
「りり、了解しました!」
走り出す姿は遠くへと消える。
今朝、鳳珠と警備局員の立ち合いの場に幸運にも私の政務室と前の廊下が選ばれた。
その結果、散々たる有様だ。床に穴は開き、壁は無い。隙間風が吹き荒び、本棚の残骸から散らばった紙片がそこかしこに舞い上がっている。上の階が抜け落ちないかどうか不安だ。
しかし、そのお陰か、こうして政務室にいながら地上にいる彼らとも話ができるようになってしまった。
高慢な者と愚者は高所を好むと言うが——夕暮れに染まりつつある鳥上島の絶景を眺められるなら、多少愚かになるのも良いだろう。
「警戒レベルの引き上げはどうした!? それと島内各所に配置している人員に警戒を怠るなと伝えるんだ! 学園周辺の警備人員を中央広場から回すよう伝令に走ってくれ!」
「レベル引き上げには少なくとも局長クラスの二名の同意が必要です!」
「全部隊への警戒については、順次伝達者が回っています!」
「学園の件、了解しました! 不詳この高田めが任されました!」
空が染まり、夜が訪れる。
今夜は間違えなく昨晩よりも荒れるだろう。
全く、大したものだ。それとも我々の不手際を自笑すべきか。ひび割れた床に腰を下ろし、右膝を立てる。
思考する——旧遠呂智屋敷跡には壱係の二部隊を向かわせたが足りるかどうかは正直、不明だ。
犬飼君の探索部隊も加えたが、敵の状態も分からずに戦力の逐次投入をしているだろうか?
いや、仮にそうだとしても、所詮は戦も知らぬ文官政務官の命令だ。その男は、<カードの兵隊>の一兵卒の棍棒の一撃で昏倒した醜態をさらしている。命令の意図は武官の皆も理解してくれるだろうが、彼らなりの最適解に変更して動いてくれるはずだ。
警備局第壱係、通称『羽々斬』衆は鳥上島随一の精鋭部隊だ。それは伊達ではないと私は思う。黒騎士にのされたり、鳳珠には弄ばれたりしているが、依然我々のエースだ。
文官のバカな命令をただ従うのではなく、状況に応じ対応してくれるだろう。例えそれが、警備局お荷物の伍係の救助だとしても。
問題は、封印が現時点で何本残っているか、だ。
須佐一族の血を使う『存在強化』の結界は遠呂智一族が作り上げた封印とはあくまで無関係だ。どちらが破綻すれば残る一方が自動的に消滅することはない。
が、良いことばかりではない。封印を強める役割を担う結界ではあるが、封印が弱まってしまった場合、弱まっている状態を強化する可能性がある。弱体の強化だ。
「ふむ……」
この地に結界を敷いてから、遠呂智の封印が破られたのは今回が初めてだ。少なくとも私の記憶にある限りは。
封印の質が急激に弱まっていることは、この地で怪異が湧き始めてから察しはついている。
「問題は、どこからが弱まっているか、の判定か……」
眼下を走る局員を目に、思いを口にする。
前例は無いが、推測できる。
八本の首を抑える要石への封印刀と、本体を繋ぎとめる儀式的な一振り——単純計算すれば、五本残っていれば安全であり、五本破壊されれば島にいる者の避難を考え始めるべき、と言うことだ。
さて、今残っている本数は——
「政務官、お連れいたしましたぁ!」
階段を大げさに登るドタバタと言う足音と、それに負けぬ大声が響く。
やれやれ、頭が痛くなるのはこれからか。
立ち上がり、服についた埃を払う。
「鳳様、こちらであります!」
「ご苦労様。下に回って弥生君を手伝ってくれ」
「はっ! 了解であります!」
「なんぞ熱苦しいのぅ。む、饅頭娘はおらぬのかえ」
鳳珠がのんびりと室内に入ってくる。右手に持っているのは……<思い出す>——地下の文書保管庫にある鳥上島島民基本台帳の一冊か。しかも、遠呂智、緋呂金、青江の鍛冶三家専用の書ではないか。当然ながら極秘、中央の役人が来たとしても見せるかどうかは私個人では判断できない代物だ。厳重に封をしていたはずだが、私の部屋の扉の鍵同様、力技でこじ開けたか。
「鳳様、お立場は分かりますが、この島の機密文書を保管する書庫を勝手に破って立ち入っては困ります」
「妾は困らぬぞ。ほほっ、逆らえば縄にするかえ?」
「貴女様が仰ると、こちらとしては邪魔をすれば斬ると言う脅しにしか聞こえません」
「うむ、脅しておるのよ。この血生臭い島は一度湖の底に沈めるべきか分からのうての」
私に見せつけるように、手にした台帳をひらひらとはためかせる。
知っているぞ、と言うことか。
「ふぅ、皇国護鬼とはもっと人道的かつ人徳のあるご立派な御方達の集まりだと思っておりましたよ。私の気のせいでしょうか?」
「なんの。人一人か国全体を見るかの違いじゃよ。小言を吐くために妾を呼んだのかえ?」
「いえ。現在、怪異と交戦中とおぼしき部隊がありましてね。救援部隊を送っているのですよ。日が暮れる前に怪異が出現するのは、この島では常ならざるところ。今夜は奴らがこの島の各地で積極的に出現するでしょう。ご助力をお願いできませんか?」
「助力のぅ……」
早い話、仕事をしろと言いたいのだが……。言えぬのは立場のせいか、それとも染み付いてしまった性分のせいか。
「ほぅ、あそこかえ?」
彼女が手にした書で示すのは、壁に開いた大穴の先、旧遠呂智邸の方角だ。
「ご覧になれるのですか?」
「何やら煙が上がっておるのぅ。森も騒がしい」
私には遠すぎてさっぱりだ。
大穴からは島を一望できる。建物や河川、木々の緑が広がっており、夕暮れに染まる町の光景と体を撫でるようなよそ風と相まって、例え難い心地良さがある。
遠く離れた向こう——方角にして、北北西、距離にして一キロメートルは超える先にある地にて、人と怪異との闘争が起きている。私に届いている報告によればまず間違いない。
鳳珠は左手で軽く首を叩くと、右手に持つ帳簿を私へと押し付ける。
「どうれ。そこのけ、そこのけ」
「は?」
「妾の内じゃ。
彼女が離れていろと手で合図する。
私は台帳を受け取り、今朝から昼までここで繰り広げられた乱闘を振り返る。腕試しに挑んできた者達全員と立ち合い、彼女は刀を一度も抜かず、血の一滴も流さずに制した。
見事な体術であったが、肝心なものを見ることは叶わなかった。そして建物への被害は、彼女自身ではなく、立ち合った警備局の者達がもたらしたものだ。給与から天引きしようにも計算がややこしくなることこの上ないだろう。
さて、ようやく見られるのか……。
彼女が口を開き、紡がれる——十七音の戦歌が。
「移りゆく、伝える香り雪桜」
遠呂智が鍛えた兵装に必要とされる五七五は、何万回と唱えられているのだろう。そっけなく、何気なく放たれたその短い歌が持つ言葉の旋律は、私の胸の奥にまで突き抜けてきた。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、それぞれに訴えかける変化があった。紅褐色の甲冑と桜色の衣が翻り、鼻腔をくすぐる香りがほのかに漂う。肌を撫でる静かで厳かな威圧感、舌から脳髄まで操られるような甘い味——見事な、私の知識では言い表すことのできない感動があった。
遠呂智三工の一人にして、現代最上大業物名工の一人とされる遠呂智三代兼長の最高傑作<鬼哭桜花>——冬の残り物を背負いながらに咲く美しき花桜——その一振りが、皇国を守護せんと人にして人ならざる業を得た人外の鬼によって、その秘められし想いを世に現したのだ。
同様に間近で見た黒騎士の持つ他を圧倒する威圧感や、テレジア嬢のまとう白い鎧兜の輝きとも趣が違う。
白鞘の彫り物の優麗さに目を奪われるばかりだったが、違う、それは誤りだったのだ。
殺意、純全にして一点の濁りもない殺意の塊がそこに展開されていた。
それ故に、それだからこそ紛れもない美がそこにあった。
私の目の前で繰り広げられようとしている——ここより遠く離れた戦地へと、
「
人鬼が繰り成す居合の妙技が、今ここに姿形を見せる!
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「明かりだ。おい、萌、聞こえているか? 出口だぞ」
背負う彼を少し揺するが、彼は未だ目覚めない。安らかな吐息が私のうなじにかかっている。何時かの夜と同じだ、身に迫る危機を除けばの話ではあるが。
森へと抜ける洞窟のでこぼこの地面に足を取られぬよう、慎重に、だが素早くかすかな明かりを示す出口へと移動する。
どうするか? 森に出るとなると次の一手を決めねばならない。
何よりも、彼には起きていて貰いたい。背負うのが億劫な訳ではないが、心のモヤモヤは彼を起こせ、彼の姿を見ろと囁き続けている。
「ここで、いいか。よし、っと。萌、おい、萌、起きれるか?」
地面に下ろした彼に声をかける。今、見られる限りでは傷は塞がっているようだ。行動に支障ない程度にまで治っていてくれると助かるのだが……。
——うぅぅ……むにゃむにゃ。
眉間にシワが寄った。
人の気と状況も知らずに何と幸せに満ち足りた寝顔か。
「起きるん、だ」
——ぅ、あ……痛っ!
む、流石に<破壊光線>で穿たれた傷はまだ痛むか。一度途中で治癒を施したとは言え、あれ程の傷を受けてなお刀を振り続けた彼は無鉄砲と呼ぶべきか、流石と呼ぶべきか。
「すまないが緊急だ。体はどうだ?」
——え? え? え? えぇと……あたたた! よく分かりませんけど、節々が痛いです……。て、あれ? 僕、何で刀を握ってるんですか?
「それは君がどうしても離さなかったからだ。鞘には勝手に入れさせて貰ったぞ」
——はぅぅ、すいません……。
彼が消え入りそうな声を出しながら、ようやく手を刀から離す。そして頭を抱える。
謝られても私は立つ瀬がない。
「萌、頭はどうだ?」
——え? うぅ、少しズキズキします……。
彼に知られぬよう唇を強く噛む。この状況でなければ、彼が見ていなければ、私は血が出るまで洞窟の壁面に頭をぶつけて続けていただろう。
「覚えていないのか?」
——えぇぇ、と、その……あのぅ〜……。
短期的な記憶の喪失か。静の屋敷の時も、昨晩の巣との戦闘でも、刀を抜いて斬った記憶があいまいだと言っていたな。
力を引き出す代償か。萌は記憶を失うようだが、操者の支払うものが常にそれだけとは限らない。
自身の犠牲によらなければ力が得られない——そう言った類いの恩寵兵装は多くある。それが剣の形を取るならば、こう呼ばれる——魔剣、と。
使用者に勝利と栄光をもたらすが、最後に必ず破滅を与えるものだ。
私の目に映らない傷が彼の中に既にあるのだろうか?
——え、え!? リ、リズさん!? くくく黒騎士とあの子は!? そそそ、それにここはどこ、って国司さんと日鉢さんさんはどうし、しししあたたた! 痛!
「萌」
——は、はい!?
「落ち着け」
——は、はい……。えっ!? えぇー!? 落ち着いていられる状況にゃんかにゃ!?
騒ぎ始める萌の頬へ自然と手が伸びる。掴み、伸ばす。おお、見事なプニプニ具合ではないか。
——はにょの〜?
いかん。離さなければ癖になってしまいそうだ。
「うむ、落ち着いたようだな」
——は、はい……。あれ、リズさんがお師匠様みたいになっちゃったよぅ……。
「まず、黒騎士達は去った。残念ながらこの洞窟内にあった封印は破壊されてしまったが……」
——封印? あの水色の蛇がかじってたのですか?
「そうだ。あの蛇は、撃破した」
——そうですか……。あの、その前に戦った武器を持ったヒトガタの中にいたのってやっぱり……?
「間違えなく私達が探しにきた壱係の人間の遺体だ。彼らに与えられた本当の任務は、あの封印の確認と守護だったのだろう」
胸の前で十字を切り、亡くなった戦士達の魂の救済を祈る。
——え? でもそんなこと須佐さんに言われてました?
「隠していたんだろう。私が井戸で開けた隠し扉は、『中にあるものを知っていて、かつそれに用がある者』でないと現れないものだ。遠呂智がこの島で担っていた役割を考えれば、封印が刀の形になるとあの時まで考えつけなかった私のミスだ」
私の内面が少しずつ変わりつつあるよう感じる。私の目ならば全てが見通せる、だから情報を選ぶ——ではない。目には映らないが存在するはずのもの、それを自分から見なければならない。
ただ待つのではなく、自分から手を伸ばして探さねばならない。
——そ、それで国司さん達は!?
「……不明だ。ご無事だといいが……」
黒騎士達が去っていったのは、私達が来た方向とは別だった。あの遺体の主達が私と萌の通った井戸の扉を通ったかは定かではない。あの広場へは複数の入り口が存在するのだろう。
——う……。大丈夫! きっと大丈夫ですよ! だってあの国司さんと日鉢さんなんですよ! 絶対切り抜けてますよ!
「ああ、そうだな」
不安なのは萌も同じか。無理に力づけようとしてもバレバレだぞ、私には。
「萌、手を出してくれ。これからのために共同祈祷による治癒を君にしておきたい」
——共同、祈祷ですか? でも僕、聖教の信徒じゃないですけど……?
「信仰心に依存はするが、萌の場合はあてはまらないだろう。何せ私の独唱でも目を見張る回復だ」
私をかばったせいで、彼には無駄な怪我を負わせてしまった。この共同祈祷で少しでも痛みを和らげてあげなければ。
私は首から下げているロザリオを手に取る。彼の前で両膝をついて跪く。彼も自然と私を真似る。
「手を合わせてくれ」
——は、はい……。
ロザリオを握った私の右手を彼の左手が掴み、彼の右手に私の左手を絡める。
装甲で覆っているはずなのに、繋いだ両手から彼の優しい温もりが伝わってきた。
私の心臓が大きな音を立て始める。
「次は頭を前に」
——え、ぇ!? は、はい……。
頭を突き出し合うと、互いの額を守る装甲がぶつかり合う。
「む?」
内心の動揺を彼に悟られぬよう、私は冷静を装う。
——うぅぅ……。
しまった。共同祈祷は肉体的接触をしながら同じ音の聖詞を唱えなければならない。感応できる装甲で互いを覆っているとはいえ、原則は絶対だ。そちらの方が優れた効果を発揮するからだ。彼の手は籠手で、私の手はガントレットで包まれている。手もダメ、額もダメとなると——
「鼻か」
——えぇぇ!?
そこしかあるまいか。
額を合わせながら鼻を突き出し、萌の鼻と接触させる。緊張からか、彼が震えている。
純粋な光を放つ彼の黒い瞳が信じられないほど近くにあり、私の鼓動が一際高く跳ね上がった。
「わ、私の息がかかってこそばゆいと思うが、我慢してくれ。あとは目を閉じて聖詞を言うだけだ」
——あぁあ、あののの!? リズさ、ん——?
上ずった声を落ち着かせる。
「心配するな、日本語訳ぐらい覚えているさ。『マタイによる福音書』六章九節からだ。私の後を続いて復唱してくれ。いくぞ」
——は、はヒぃ……!?
萌が大きな音を立てて唾を飲み込む。
私は目を閉じ、精神を静め、意識を集中させる。彼と繋がる両手、額、そして鼻先から伝わる萌のことを感じながら——萌が何度も深呼吸を繰り返し神経の高ぶりが収まるのを待ってから、唱える。
「『天にましわす我らの父よ、その名があがめられますように』」
一節で区切り、萌が復唱するのを待つ。目を閉じているが、私には彼の言葉が聞こえた。
「『その国が来ますように。その心が天に行われるとおり、地にも行われますように』」
私が目を閉じている以上、萌の言葉は見えやしないし、耳に聞こえる訳もない。
私の右手と萌の左手の中にあるロザリオが、私達の祈りに反応するようにはっきりとした熱を帯びる。
「『私達の日ごとの食物を、今日もお与え下さい』」
互いの吐息が勝手に相手にかかる。くすぐったいが心地よい。
「『私達負債のある者を許しましたように、私達の負債をもお許し下さい』」
萌の体が神聖な温もりに包まれていく。彼の負う傷や痛みや苦悩を取り除くかのように。
「『私達を試みに会わせないで、悪しき者からお救い下さい』」
最後の節を祈る。
「『国と力と栄光は、永遠にあなたのものです。——アーメン』」
彼の復唱が終わると、一層綺麗な強い光がロザリオから彼の全身を駆け巡るのを感じた。
私達のいる洞窟が耳をうつ静けさを取り戻す。私は、言葉には表せない不思議な名残惜しさを感じながら、彼から鼻、額、左手、右手の順に離し、目を開ける。
「——どうだ萌? 傷の具合は?」
——うぅぅ〜、えぇぇと、そのぉ〜……。
数分ぶりに見た萌の顔は真っ赤に茹であがっていた。体を治そうとする力が中を巡っているのだ、火照っているように感じられるのだろう。
そんな彼の様子を見て、さっきまで彼と触れ合っていた箇所を知らず知らずの内に指でさすっていた。もう少しあのままでいたかった——そんな訳も分からない感傷が胸に湧いていた。
彼は私と目を合わせずにうつむきながら、腕を回し腰をゆっくりと捻る。
——えぇぇっとその……少し楽になりました、はい……。あ、ありがとうございます……。
消えてしまいそうな小声で萌が礼を言いながら私に何度も頭を下げる。
「完治した訳ではないぞ。私にできる精一杯のあくまで応急処置だ。この場を切り抜けたらこの町の医師か、管区長殿にきちんと手当して貰わないとな」
私の治癒で急場の手当をした以上、管区長殿に診て貰うのが良いか。
両膝をつく礼拝の姿勢から足を崩し、腰を下ろす。<氷の貴婦人>の兵装がふわりと広がりながら地面と接触し硬質な高音を立てる。
冷静に見れば随分と変化している。
以前は貴婦人の華やかなドレスと無骨な鎧一式だった。ドレスはさほど変化は見られないと思っていたが、三重のスカートや上着のガウンやショールには薄っすらと花柄の刺繍がなされている。装甲部は大きく様変わりした。ガウンの上に肩当、腰当の装甲が新たに現れている。どんな体格にも沿うように何枚もの板を曲げながら鋲付けされ模様が彫り込まれている。
靴のヒールが高くなっている。無論、装甲はしっかりとしており、動く分に何の問題もない。ガントレットもソルレットも肩当や腰当と同じく、板金を重ねた形状のものに変化している。
胸の前にペンダントで止められている背を覆うショールや、サリットから伸びるヴェールなど、戦には無用の長物もあるが、体を動かし剣を振るう分には何の支障も無いことは既に証明済みだ。
恩寵兵装の秘めたる想いに共感できたからこそ、より正しい形でその想いを外部へと展開できたのだ。
今の私の姿が<氷の貴婦人>の正しい展開装甲具なのだろう。女性的なドレスと男性的なアーマーの組み合わせではない、どちらもが高貴な婦人が身につけるに値するドレス・アーマーなのだ。
私が思索にふけっていると、萌がようやく落ち着きを取り戻し、体勢を直す。膝を両手で抱えながら腰を下ろす。
彼の具足は所々凹み、ひび割れ、穴が開いており、痛ましい限りだ。しかし——
やはり、か。彼の目の奥には何かがある。決して揺るがぬ戦いへの意志、と言えば良いだろうか。
萌の灯火は消えていない。いや、刀を持った萌が燃え盛る火を身にまとっていたのも、彼の内にそんな意志があるが故ではないか?
そんな思いが私の頭を巡る。
ただの推測だ。確固として得た情報を基盤にした推測ではない。岩の上から手を伸ばし、夜空にきらめく星まで何キロメートル離れていると見て知るのではない。泥の上に立ち、手を伸ばしてもまだ届かぬのならばと宙を飛ぶ——着地し飛び散った泥の汚れすら誇らしいと今の私なら思えるだろう。以前の私ならばバカバカしい行為と笑っていたものを。
「ふっ、しかし、君には到底及ばない、か……」
——?
「気にするな、何でもない。さて、」
本題はここから、か。
——これからどうするか、ですか?
「ああ。助けを待つか、国司殿達を探すか、森を抜けて逃げるか——」
叩き込まれた行動の三原則、私の教わった剣の基本原理だ。最低でも三つの手を常に考え三手先を予想し、冷静さを保つ。敵の行動も三手を考え、こちらが優位になる手を選択し実行する。
何もしない行動は決してない。戦場は絶えず変化する。変化の中でただじっと立ち、取り残された者に待つのは死しかない。実行する悪手は、行動しない無に打ち勝つのだ。
——国司さん達を探しに行きましょう、リズさん!
「はぁ……。君は本当にアレだな、萌」
頭に浮かぶ『おバカ』の三文字を『一本気』で置き替える。
「そう握り拳を作り力説されてもな。なら聞くが、国司殿達は何処にいる?」
——ええっと、さっきの屋敷ですか?
「今、私達がいるのは?」
——森への出口、です。
「侵蝕された、な。ついさっきまで派手に怪異が出ていたんだ。それにもうすぐ夜になる。この森一帯から怪異が溢れ出るぞ」
——は、はぃ……。
「国司殿達が屋敷にいる保証はないし、合流できるとも限らない。ヒトガタで埋め尽くされていれば、私達では打つ手はないぞ。日鉢殿ならともかく、萌や私、それに国司殿の力はあくまで対人クラスだ。対群レベルの力を持ち得ない私達では、奴らを相手にするのは難しい。それに、だ」
——ぅ。
「日鉢殿達と合流できれば、とは希望的観測だ。君は自分の体調が万全だと勘違いしてないだろうな?」
——うぅ……はい、まだ節々が痛みます。
黒騎士とあの少年が力を貸してくれたのなら……いや、私達を見逃して貰っただけで良しとすべきだろう。
——リズさん、その、気になってたんですけど……。
「何だ?」
——もしかして、僕、ヒトガタに狙われてます?
「……」
伝えるべきか、伝えないべきか。いや、彼は私が思うよりずっと強いはずだ。
「ああ」
努めて平静を装いながら続ける。
「祖国の修道院で保管していた旧史時代に書かれた文献にこうあった、『怪異は人を襲うと』」
——?
「旧時代に書かれたものだ。今風に直せば、旧人類を優先的に襲う、と言うことだ」
——そっか、僕の恩寵は何も無いから……。
「君は体質的には旧人類に最も近い人間なんだろう。その資料には、力に目覚めた気絶している少女を無視し筋骨優れる兵士へ襲いかかった、とあった」
あの少年は萌を餌と呼んでいた。異端審問局に属する者ならば、怪異の持つ特性を私より知っていよう。バチカンのネットワークを駆使して集められた英知を知り尽くしているはずだ。
萌と一緒にいれば、普段何気なく通り過ぎる道が怪異溢れる難所へとなり得るのだ。
その彼と共に、侵蝕された地を歩くのだ。しかも時は夜、奴らの活動する時間帯だ。
——そっか……。だからだったんだ……。
「ん?」
彼の呟きからは不可解な重みが感じられた。
——なら、こんなのはどうです? 僕が囮になっている間にリズさんが、きゃん!
「一体何だその声は?」
——うぅ、リズさんがいきなりチョップするからですよぅ。
「暴力はいかん。が、君は例外、と言うことにしておいてくれ」
——何ですかぁ、それ?
「元はと言えば萌が変なことを言うからだ。己の言動には責任を持て、責任を。不用意な発言は死を招く……かも知れないぞ」
——そんなバカな……。うぅ、僕の知ってるリズさんがお師匠様に近づいてく……。
「君の師とて、弟子が無謀な発言をすれば修正するのは当たり前だろう?」
——えぇと、僕のお師匠様なら、『ガハハハハー、それでこそ俺の一番弟子だ。行ったれー!』とか本気で言っちゃう人ですよ。
「目眩がするな……。と、ともかく、国司殿を探すのは下策だろう」
——うぅ〜、でも救助を待つにしても、僕達の位置って誰も知りませんよね?
少なくとも三人は知っていそうなのだが、黙っておこう。黒騎士、少年、そして彼らに封印のことを教え手引きした者だ。
「知らせる方法はある」
——え、何です?
「夜になればこの出口の外にもヒトガタが出る。異常にな。私達の帰りが予定より遅ければ須佐政務官は捜索隊を出すだろう。なら怪異と戦闘していれば、私達の場所は自ずと知れるはずだ」
——……。
「な、何だ、その眼差しは?」
——リズさんって、やっぱり凄いですね。
「私からすれば君の方が十分凄いのだがな、萌。さて残るは……、て、おい、照れるな、コラ!」
——だ、だってリズさんが褒めてくれるから、恥ずかしいですよぅ……。
「萌、い、い、か!? 私達は敵陣真っ只中にいるということを忘れるな!?」
——は、はいぃ……。
「残るは、逃走だな」
——この森を走って抜けるんですよね? 下手に動くと迷っちゃったりしないですか?
「私の目がある。侵蝕されているが、木の最上部には及んでいない。恐らくは全ての葉まで侵蝕すれば外部から見られ対策を取られてしまうからだろう。カモフラージュのつもりだろうが、私の目で見れば、木の立っている場所と葉の向いている方位が分かる」
——なら、南か東にずっと走れば森を出られるんですね?
「おとなしく出してくれるとは思えないが、な。私が君を追って井戸に入った時、ヒトガタが屋敷跡へ向かうのが見えた。君がいる以上、奴らは必ず出現する」
——……。
「最悪なのは、逃げている最中に包囲され身動きが取れなくなることか。敵と戦うのならここの方が良いだろう。森への出口と地下の広場への入り口を押さえておけば良いのだから」
——ここで待つ、ってことは、ヒトガタは一杯来ますよね?
私は萌に頷く。
待つか、探すか、逃げるか——どれにも一長の利点があり、一短の欠点がある。
迫り来る夜の帳、侵蝕された地での孤立、奴らにとっては餌となる萌の存在——諸状況を考えれば、私達の生存確率が高い手は……。
私は傍へ置いていた<氷の貴婦人>の柄を握り、立ち上がる。
呼吸を落ち着けてから、萌へと手を差し出す。
彼は私を見ると、唇をきゅっとしめてから私の手を握る。
萌が立ち上がると、私と同じく深呼吸をして息を整える。
私達はお互いを見つめ合い、
「行くぞ、萌」
——はい、リズさん!
離れ離れになったお二人の無事を祈りつつ、強く足を踏み出す。
萌はまだ刀を振るえないだろう。
だが、私は彼を以前のように庇護すべき者だとは思わない。
萌は、東雲萌は、私の——共に戦う、大切な友人なのだから。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
——はぁ、はぁ!
足が地面に着くたびに、体に痛みが走る。ある所は刃物で刺されたような鋭く短い痛みで、別の所では重いもので叩かれたような衝撃が波打つ痛みだ。
——はぁはぁ!
それでも僕は、前を走るリズさんに遅れまいと痛みを堪え、両手両足を車輪のように動かし、肺と心臓を収縮させ口から酸素を取り入れる。
リズさんは左肩に大剣<氷の貴婦人>を担いで、上下左右に目を配らせながら、舞うように走る。灰色に染められた怪異に侵蝕された森の中を。
後どのくらい走れば、この森を抜けられるんだろう?
違う。後どのくらい、何て考えたらダメだ。僕にできるのは今なんだ。一歩、正しく足を踏み出す、草に足をとられないように。痛みを感じながら、腕を振る。そして息を吐き吸うのと体の動作を合わせる。
できることを一つ一つ、今の一つに全神経を集中させ、次の一つができるように気力と意志を振り絞るんだ。
僕はリズさんと走ってるんだから、みっともないところは見せられない。どんなに辛くて苦しくても!
リズさんは超がつくほど真面目で不器用で——冗談のセンスが僕とかなりずれてて困っちゃうけど、全てを自分で背負おうとする人なんだから——そんなリズさんに少しでも心配かけちゃだめじゃないか、僕!
——はぁ、はぁ、はぁはぁ!
少しは、格好つけたって、
『まーなー、ガキンチョの萌ちゃんにはまぁだ分かんねーとは思うんだけどよ〜。男の子つーもんはだな、おう復唱だ、復唱。さんはい』
いいですよね、お師匠様?
『好きな女の子の——』
「萌! 来るぞ!」
前からのリズさんの声が、大地のざわめきよりも早く僕に異変を知らせる。
灰色の木が、草が、土が、葉が——目に映る全ての灰がざわめき出す。
来る、そう本能は分かっていた。くぐり抜けた夜の経験が、自然と僕の両手を刀に、<獄焔茶釜>の柄に伸ばしていた。
——っ!!
殺意の眼差しが、僕をあらゆる方角から突き刺そうとする。
灰色の中から何本もの、無数の鎌首が持ち上がり、大小全てから濁った赤い二つの瞳が出現し、僕を視認する。
「ジジャァァァァァーーーーー!!」
「ジャァーーーーーーーーー!!」
森が咆哮する。
木々が、頭上の葉を打ち鳴らしながら、蛇の首を、人に模した刃の腕を、二本の足を生やす。何本にも枝分かれした根を尻尾へと変貌させ、その全てがうねうねとうねり独自の意志を持ち土を払いお互いに打ち合う。
「侵蝕された木自体がヒトガタ化したか!!」
数にして既に十、もう一分待てば五十か百に届いてしまうかも知れない。
リズさんが、笛を吹いた。呼び子の笛だ。怪異の出現を知らせる音が周囲へと伝わる。それは同時に、怪異に僕と言う餌がいることを知らせる。
「萌、いいな!? このまま走り抜けるぞ!」
——はい!
僕達が待機、捜索、逃走の中から選んだのは逃走だった。
一刻も早く危険地帯から逃げ去り、国司さん達を探しに戻る——そのための逃走だ。
リズさんが先頭に立ち、目で周囲を警戒しながら走る。僕はリズさんより足が遅いし、体の痛みはやっぱり無視できない。
「シャァァァーーーー!」
それは声と言うより衝撃波! 体内にまで響き獲物の心と体を破壊し喰わんとする!
十メートルはあろうかと言うヒトガタ化した木々が、僕達へと枝を——腕を振り下ろす!
「ハァ!」
貴婦人の蒼き一閃が、灰色の流れを横へと吹き飛ばす!
小さな氷の破片が、僕の周囲に飛び散る。微かに顔に当たるそれの輝きに目を奪われながら、僕も自分の刀を、
——はぁはぁ! くっそぉ!
抜けない! 何時の間にかくっついていた鍔の二つの穴と鞘を結ぶ針金は、僕に刃を見せることを拒む。
「シャーーーーーー!」
木から変異したヒトガタ達が、産声を上げ終わり、僕達へと体躯をくねらせながら進軍を開始する。
「遅れるなよ、萌!」
リズさんは左構えで大剣を構えながら走り続ける。
策らしい策と言えばこれくらいだった(僕が囮になるって言うのはまたしても最速チョップで却下されちゃったから)。
リズさんの<氷の貴婦人>は刀身に沿って氷塊を発生させられる。以前より硬度が上がったと言っていた。
リズさんの大剣、<氷の貴婦人>はリズさんの身長よりも長い。刀身自体が長いって言うのもあるし、柄もそれとバランスを取るかのように長い。しかも、鍔の先に刃の無い刃元(リカッソって言うみたい)があって、その刃元と刀身の間にまた小さい第二の鍔がある。
つまり、リズさんが刃元を握らずに、両手で柄を握りながら大剣を振るうと、手元には氷塊が生まれない空間が意外に広くできると言う。そこを後に続くように走れば——<氷の貴婦人>の防御力を生かした逃走劇ができるはず。
『背中合わせで私と戦っただろう? もしや覚えていないのか?』
って睨まれちゃったけど、今はそれどころじゃないですよね、リズさん!
「ジャァーーー!!」
——わぁっ!?
灰色の暴力の雨が降り注ぐ中、僕はリズさんの後ろを一心不乱に走る。
立ちふさがる木々はヒトガタへと変貌し、僕達の命を奪うべく腕を振るう!
僕は腰に差す<獄焔茶釜>を帯の内で半回転させ刃を下にして左手で持つ。何時でも『抜き』をできるように。
「かがめー!!」
「シャシャシャシャァァーーー!!」
蒼色の闘志が迫る灰の海を押しとどめる。
「地面からも来るぞ! だがもう少しで侵蝕地帯は抜けられる!」
——はい!!
後ろからは蛇の雄叫びが絶え間なく聞こえる。横に目を走らせれば、平行するように巨大なヒトガタが迫っている。リズさんの言う通り灰色の地面からも蛇が首をもたげて僕達を睨む!
僕はリズさんの後を追い、ただ走る。あえぎながら、痛みを口で押し殺しながら、かすれてしまいそうな視界に喝を入れながら、僕は自分にできる精一杯の一歩を踏み出す! 惨めでも、これが今できる僕の全力だから!
——あっ!
「くっ!?」
微かに緑を取り戻した遠くの森の光景に、リズさんは喜びではなく、呪いの声を出す。
「ア"ア"ア"ア"ア"ーーッ!」
「ア"ア"ア"ア"ア"ーーーッ!」
「ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーッ!」
「ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーーッ!」
「ジャァァァァァァァーーーーー!!!」
僕達の行く手に、五体の大型の怪異が立ちふさがる。
土埃をあげながら、木から変異したそれらは、灰色の壁となり、僅かに見えていた希望の色は、瞬時にして絶望の灰となる。
——はぁはぁはぁ!
突破、するしかない。追っ手は後ろからも横からも迫っている。まごつけばそれだけヒトガタが数を増やし、襲いかかりに来る。
足を止めたら、止めてしまえば、僕達は何時来るとも知れぬあてのない救援を頼みに怪異の群れを相手にしなければならないのだから。
抜け——そう願いを込め、今の僕に残された精一杯で鍔を押すも、刃を封印する針金は微動だにしない。
後一分もしない内に、僕達はあの灰色の壁に突っ込んでしまう。リズさん一人なら突破できるのかも知れない。でも今の僕と一緒なら——
——はぁ! はぁ!
倒れてしまう、僕のせいで、リズさんが。
刀を持ち、幾度となく味わってきた苦い敗北感が胸の内でぐるぐると回り出す。
だけど、それだけでは、抜けない。
確信がある。己を燃やさなければ、僕の技量では<獄焔茶釜>を抜くに足る資格はないと。
炎へくべる想いがなければ、もっと燃やさなければ、前よりもぬるい火などこの刃は認めない。欲するは、炎、全てを燃やす、地獄の業火なのだから!
時間はどこまでも冷静に現実を突きつけてくる。
前方に立ちふさがる巨大化した奴らの射程距離に入るまでもう十秒もない!
「——!」
前を走るリズさんが決意を込めた何かを叫び、速度を落とす。
僕にはそれが聞こえない。
理解した——『例え自分の首が斬り飛ばされても、俺は抜かなかったぞ』と言えるのは、刀を抜けない僕が言う資格などないことを。
怒った——僕自身に。全てが足りない僕に。
でも、
願わなかった——神様に、助けて下さいとは。
思わなかった——こんな時、どうすればいいですか、お師匠様って。
止まらなかった——ここで止まれば、また見えてしまうはずだから。僕のせいで大好きな人が傷つき涙する姿が。
だから、
——キィィィェェェーーーーーッ!!
僕は叫ぶ。全てを、傷の痛みも走る息苦しさも、心の悔しさも全部乗せて。
刀を振り上げる。帯から抜き上げる<獄焔茶釜>を鞘に入ったままに。何千何万何億回と稽古した蜻蛉へと。
心を決める。できるか、できないか、じゃない。僕はやるんだと。あの敵達を、斬り捨てるんだ。
前へ出る決意をした僕と、迎え撃つ意思を固めたリズさん——当然の結果、前後を走る僕達は、最後の最後、最大の危機を前にして横一直線になる。
「なっ!? あれほど無茶をするなと!!」
僕を叱咤するリズさんの声と、宝石のように輝きながらも憂いを帯びた彼女の紅の瞳が、僕の脳に届いた刹那、
三つの音がした。
一つは懐かしい声だ。
『知ってっか、萌ちゃん? 示現流開祖の東郷重位は剣速だけじゃなく運歩も雲耀だったって話だぜ?』
存在するけど存在しない、そんな時間や速度と言う枠の外の剣を振るう剣士のおとぎ話をしてくれた——けどこの人だったらきっとやっちゃうんだろうなぁ、って人の声と、
もう一つは悲嘆の声だ。
(燃やせ燃やせ燃やせぇぇぇーーーー!!)
きっと、僕と同じで大切な人に捧げられた最後の絶叫、
そして最後の一つは、
とても、とても綺麗な、美しく澄んだ心洗われる鈴の音だった。
三つの音は互いに混じり合い干渉し、高め合い、
僕の中に残るただ一つ、リズさんへの想いをはるか極限の高みへと導く!
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
深紅の光の激流が、灰色の空間を斬り裂いた。
流れと言うには遅すぎだ。始まりを視認した時に、それは既に終わっていたのだから。
緋の炎は、灰色の壁に穴をこじ開けてこれを斬った。その炎が通った跡に火の粉がかすかに舞い上がる。
熱せられた気流が大気に渦を作り、螺旋状に舞い上がる。その大気の暴威は、私は元より、斬撃から逃れることのできた四体の壁を左右に薙ぎ倒す。
揺らめく火炎と大気の先に、彼は緋に燃える抜き身の刀を手に立っていた。
彼が私へ振り向き、手を伸ばす。その姿が、膝から崩れ落ちる前に、私の手は彼に届いていた。
私は彼の通った後へ己が身を踊らせ、彼の一刀が巻き起こした高音の熱風を装甲で感じながら、彼を抱えて走った。
壁を、彼が切り開いた道を、剣を振らずに走り抜ける。
私の装甲が氷に起因するものだからなのか、私は灰色の壁に開いた亀裂を通り抜けることに成功した。灰の森に荒ぶる赤き火の暴力も私を止めることはできなかった。
だが、いや、当然と言うべきか、彼の状態が再び見えなくなってしまった。
「おい、萌!?」
—— 。
彼は少し口を開き、そして崩れ落ちる。
ダメだ、分からない。また私の<強制視>が通らない。彼の体がどうなってしまったのか、確かめる術は無い。くそっ!
私は意識なく刀を離さない彼を右肩に担ぎ、再度、呼び子の笛に大きく息を吹きかける。
走る——今はそれしかない! 怪異達は止まらないのだから!
侵蝕された森を抜けたら、怪異が出ないなど都合の良い話はない。
「シャァァァァーーー!!」
いや、むしろ、木々の枝から、草むらから、視界の陰から体躯を伸ばし、私達を切り刻もうとしているではないか!
「どけぇぇぇーーーッ!」
己の怒りが口から声となる。
左手に握る<氷の貴婦人>はその蒼き輝きを増し、灰色の敵対者を次々に虚無へと斬って帰す。
「ジャァァァァーーーーー!!」
一層甲高い大気を揺らす大音量の狂声が背後から聞こえた。視界の隅に、夕日でできた微かな陰が私に変異を伝える。
先程の四体が合体したのか!!
振り返った私の目に映ったのは、
齢百年はあろうかと言う巨木のような体躯とそこから生えた何十と言う蛇の頭! そのどれもが口を開き、よだれを垂らしながら、私と萌を喰わんと迫る!
舞うように体を回転させ三百六十度全ての脅威を一秒で視る。そしてもう一秒でそのリスクを計算し、
体を反転させ左手の大剣の切っ先を、背後から襲い掛かる蛇の腕へと向ける!
目で読み取れる敵怪異の攻撃線は複雑にして単純! 迫る経路は無数なれど、唯一の目的は我々、いや萌を喰らうとするのは同じなのだから!
私が迎撃と反撃の算段を立てる間、
「——えっ?」
怪異の腕が、そこより生える蛇もろとも、切断された。
腕が地に落ちるより早く、第二撃が加えられた。再び腕へ、次々に飛来する斬撃は瞬時にして音も無く、私がこの目を持たなければ<
はるか遠方からの斬撃! ヨーロッパ圏で『飛剣』と類される遠隔攻撃だ! 威力は目標までの距離の二乗に比例して減衰するとされるが、いかな遠方からこれだけの力を有する剣技を放つ人間がいるのか!?
「——っ!」
私の思考を叱るように、頬を掠めて斬撃が飛来した。
怪異を、木を、森を、大地を斬る剣撃は、その存在を斬られた物体からしか見ることができない。萌とは別の意味で理解できかねる剣技だ。
私は体を反転させ、進むべき方向へと体を走らせる。そうだ、今は考える時間ではない! この場を切り抜け、逃走するのが第一義だ!
飛来する斬撃は森ごとヒトガタを斬る。走る剣筋すら見えない。暗殺者の投げる不可視のナイフよりも性質の悪い——いや、優れた技だ。
まるで狙いのつけられていない弓兵達の乱射のようだが、私の目には、さっさと走れと耳元にて大声で怒鳴りつける鬼教官のしごきにしか映らない。このような技を使える剣士、それは一体——!?
不意に飛剣の雨が止む。
急な援軍の急な中止に私は首を傾げるよりも心の中で礼を言うしかない。もう少しで森を抜けられる!
間隙をぬい、蛇達が一気に姿を現わす——これほどまでにいたのか!?
新緑の森が瞬時にして圧倒的灰色に塗りたくられる!
彼を抱える右手と、<氷の貴婦人>を持つ左手に緊張が走る! しかし、
「————乱れ苦幡蜂!!」
彼女の朗らかな声は、この窮地にあっても底抜けに明るかった。
女王の号令に従う火蜂達が爆発し、分裂しながら加速し、敵体躯内へと自らを潜行させ——私は彼を下に地に伏せる。
連続した爆音が、周囲からこだまする。
黒煙が立ち込める中、私は大剣を片手に直ぐに身を起こす。爆発が近かったせいか、耳鳴りがする。一時的な聴覚の障害、だが安心などはできない。何故なら——
「シャァァー!!」
「ジャァァ!!」
私が対峙しているのは蛇! 視覚の他に体温や振動で獲物を探知する生物を模した怪異なのだから! 聴覚が機能不全に陥ろうと、捕食行動を止めはしまい!
ヒトガタ達が煙を破って出現し、彼へと襲い掛かる。私は蒼い大剣を操り、何匹もの首を斬り飛ばす。
突如として煙が晴れた。
そのお方の操る刃が、方円の水の如く変化し、煙そのものを切り刻んだのだ。
全くこのお人は、
「おう。そっちの姫様は生きてっか?」
どんな修練を積み上げて槍術を芸術にまで高めているのか。
「気を失っています。大丈夫、とは言えません。お二人こそご無事ですか?」
「ごめんね。巌サンの髪の毛はもう……」
日鉢殿の顔と鎧は血と泥に塗れていた。展開している装甲の右手首と両腿にも傷が見られる。だが彼女の笑顔は失われていない。
「髪は関係ねぇだろ、髪は! 生きてる部下を見てちったぁ喜べ!」
「今のね、毛が無いと怪我無いをかけた、」
「アホはほっといて走るぞ、ヴォルフハルト!」
「なるほど、これこそが日本ジョークなのですね!」
「感動してどうする!? お前までアホになったら収拾がつかねぇだろ!」
国司殿の着る外套は薄汚れているが、以前と変わりない。日鉢殿と同じ激戦をくぐり抜けたのに不自然だ。いくらこのお方の技量とて違和感がある。しかし、今は考えるより体を動かす時だ!
萌を再度右肩に担ぎ、先頭を走る。日鉢殿は、
「だぁー〜ほんとしつこい!!」
黒弓から火矢を射ち、怪異を爆散させる。
「あんのでかいのってリーゼちゃんをおっかけてるの!?」
「はい! 小回りが効かなかったので発生当初は逃げる余裕はあったのですが——!」
「今じゃ身体中そこいらからウネウネ蛇出してるわよね! お姉サン、あーいうグロいのは、生理的にムリ!」
彼の残す深紅とは違う赤を持つ火が、森を行く私達を追う怪異にぶつけられる!
「おう、そうだ、忘れねえ内に」
殿を走る国司殿は、首を伸ばすヒトガタ達が貪る森の中を行く。その槍は、迅速にして精密! 萌とは真逆、人として手に届く域にあるからこそ決して届かないと分かる技術により操られている!
「ほれ、とりあえずお前がとっとけ」
その左手には黒い鞘が握られていた。
「え——? 萌の、ですか?」
あの一刀を放つ際に、萌が抜いて何処かへ投げていた鞘を回収しているとは……!
「借りもんだろ? なくしちゃまじいし、それにだ、」
国司殿がその鞘で未だ意識を取り戻さない萌の頭を小突く。
「鞘を捨てるなんぞ百万年早え。後で説教すっから叩き起こしておけ」
「リーゼちゃん、今の、巌サン的にカッコ良く決めたつもりだから感動しといてあげて!」
「うっせぇぞ、行き遅れ娘! そんな性格してっから貰い手がこねぇんだ!」
「抜けた髪の毛のこと気にして私に当たらないで下さい! 燃やしますよ、燃やしますよ? 残らず燃やしちゃいますよ!? 私、どっかの四十路のオジさんと違って青春真っ只中なもんで! ほいっと!」
爆音が後方から三度聞こえ、生じた風が私達を前へと押す。
「毛髪と怒りやすさに因果関係があるとは——セイ! 聞いたことがありませんが!?」
「手だ手! 口は閉じてろ、そこの二人! 変に笑いやがったらそこの眠り姫と一緒に説教すっぞ、オイ!」
国司殿が放り投げる萌の鞘を受け取ると、笑みが自然と湧いてきてしまった。
「ふふ、では萌の隣に正座させて頂きたいと思います!」
これまでの疲れが嘘のようだ。体は軽く、剣自体が意識を持つかのように振るっている——ただ萌の温もりを感じられるだけなのに、これほどまでに力強く私は戦えている!
「へっ」
「んんっ〜、若いっていいですね〜。さーて、邪魔よ邪魔邪魔ー!」
「森を抜けるぞ!」
木々が開け、黒く染まり始めた夕焼けと草むらが私達を出迎える。
国司殿が呼び子の笛を三度短く、一度長く、そして再び三度短く吹く。
「これから何処に!?」
我々の後ろにいる怪異の軍隊は、勢いを殺すことなく夕日の下、私達を追いかける。
紅の日の明かりに体躯を焼かれて煙を異臭を発しながら、
「ギャァァァジャァァァァーーー!!」
より大きい絶叫と殺意を放ちながら追い続けてくる!
「初日の橋んとこに逃げ込むぞ! あそこでまとめて迎撃する!」
「うっへ! あそこって御手口サンが主任してませんでしたっけ!?」
「知るか!」
国司殿が再度笛を吹く。
すると、呼応するように、剣撃の雨が降った。
「——うぇ!? 何これ!?」
森の中では視界が悪く見れなかったが、飛剣の一振りと呼ぶには長すぎるほどの切断面が私達の後ろを追う怪異、大地、そして森にまでも増え続くではないか!
私達の驚きなど度外視に、剣の雨は降り続ける。
日鉢殿の爆音伴う射とは違う。あくまで無音、聞こえるのは斬り刻まれた怪異達の悲鳴だけ! 音を全く立てず、直線的な剣閃による破壊行為が圧倒的な殺戮劇を私達の後ろで繰り広げている!
「誰かは存じませんが、『飛剣』による攻撃です! 恐らくは、島の入り口にある建物、政庁の上階からです!」
「飛剣って飛刀のことよね!? 何それ!? ウチの局員にこんな眉唾な剣技を使えるのなんて誰がいるんですか、巌サン!?」
「何で俺だ!? 俺は外様だぞ! 島のことならお前さんの方が詳しいだろ! それに一人いるじゃねえか、桁外れの剣士サマっつーのならよ!」
「剣士、ってまさか皇国護鬼!? いやいやいや、これの何処が居合なんですか!! 軍隊の射撃じゃないんですよ!!」
「本人が居合つーなら居合なんじゃねぇのか!」
角を曲がり、橋までの一直線の道に出る。
「ななな、何事だ、国司ィ!!」
橋には防御陣形ができている。八名の人員が私達を出迎える。
「御手口サン、名誉挽回の機会、持ってきましたぜ! ——燈ィ!」
「はいよっ! ——疾!」
日鉢殿の右手に出現した三本の火矢が、瞬く間に黒弓に番えられて上空へ飛ぶ。
破裂音と共に、三本の火矢は空中で爆発し——無数の火炎蜂達が追っ手のヒトガタ達へと降り注ぐ!
「ジャァァァァァーーーッ!!」
怪異達は苦痛の叫び声を上げ、僅かにだが追撃の速度が緩まる。
「何だ、あいつらは!! ヒトガタか!? 何故あそこまで変異している!? どっからあんな大群連れてきたんだ!? それにその小僧はまたやらかしたのか!? くそ! 総員、迎撃態勢だ! 山口、手塚は日鉢と一緒に櫓から十字砲火を浴びせろ! 他は橋に一匹も通すな!」
「はっ!」
「了解しました、隊長!」
「いや、一度に聞きすぎですって! 指示は分かりましたけど!」
「おい、外国人の娘! 小僧はどうした!? やったのか!?」
「そいつはお察しの通りです」
防御陣形へと移行する衛士達を通り抜け、私は萌を橋の中央付近に下ろす。国司殿から受け取った黒鞘を、未だ彼が握りしめる<獄焔茶釜>の刀身へと収める。
くそ! まだ見えない!
「この先の森に怪異に侵蝕された一帯があります。調査のために訪れたところ、ご覧の通り、逆襲にあいました」
「侵蝕だと!? 聞いとらんぞそんなことは!!」
動揺が走る。眼下には私達を追ってきた怪異達が続々と集結してくる。見渡す限り怪異達の大海原! 絶景である!
「くそ! 外人娘! 中央広場まで行って至急の件だと応援を呼んでこい! それと浄化油をありったけだ!」
「それダメですわ、御手口さん」
「何ィィ!?」
「侵蝕はマジですが、んなもん伍係配属の学徒が言ったところで誰も信じませんって」
「もう日が暮れます。怪異が島中に溢れるでしょう! 島全土の警備を変更するのは得策ではありません! あの敵はここにいる私達だけで対応しなければ!」
誰かが唾を飲む。
「国司殿、御手口殿、侵蝕された大地を破壊し尽くす力を持った人物はいますか!?」
「いねぇな、残念だが。燈が本気で森ごと燃やしきるなら、あるかもしれねぇが」
「キラーん! 燃やしちゃっていいんですか!!」
「そ、そこまで深刻なのか!? なら志水の当主も——」
「この中で一番足が速いのは誰ですか!?」
彼の言葉を遮り、この場を切り抜けるための策を皆へ問う。
飛剣は二度、私達を助けてくれた。だが、侵蝕された大地を破壊するのは難しいだろう。あれはあくまで剣撃! そして剣撃とは得てして人や物を斬るためのものなのだから。
「足が速いって言ったら——」
「そらもち——」
国司殿や日鉢殿、そしてここにいる衛士の方々の目がある人物——この場の指揮官である御手口殿へと注がれる。
「シャルロッテとテレジア殿をここに連れてきて下さい! シャルロッテは学園、いえ、部活終わりに吉屋のあんみつを食べると言っていましたからそこかも知れませんが、」
「待て待て待て待て! 何だそれは!?」
「テレジア殿は修道院にいるはずです! シャルロッテも透子と静と寄り道をしていなければ修道院でしょう! 二人がここに来てくれれば、あの怪異達は問題ではありません!」
「あン? あの嬢ちゃんそんな凄えのか!?」
「だから貴様らは何を言って、」
「ちょいと皆さん、あいつら来ますよ!」
怪異達が行軍を開始する。押し寄せる波の如く着実に。
櫓の上に登った日鉢殿が射撃の体勢に入る。
「御手口サン、ここは黙ってパシられて下さいや。こいつの目は俺が保証します」
「お願いします、一刻も早く!」
「ぐ、ぬぬぬぅーー!! 覚えておけ、国司ィ!! 貴様に後で決闘を申し込む!」
「全力で拒否るんで。すんません」
「ぐぬぬ! 田口ッ! 俺が戻るまでこの阿呆共に阿呆なことをさせるな! お前が俺の代わりに指揮をとれ!」
「承知」
「小娘、小僧を貸せ! どうせお前が応急手当したのだろう? テレジアとやらを連れてくるついでに教会へ下ろしておく!」
「はい、恩に着ます!」
「ぐ——そんな言葉は上官に使うな、バカモンが! もっと大和言葉を勉強しろ!!」
首から下げるロザリオを取り外し、彼の左手へと握り込ませる。
‘主よ、彼をあらゆる苦難から守り給え、アーメン’
短い祈祷を捧げ、彼を送り出す。手が離れる一瞬、彼が握り返してくれたような気がした。
「射撃班、山口さん達は近づく敵への狙撃と前衛への援護を。日鉢君は誤射が怖い、敵後方を爆撃してくれ」
「了解だ、副隊長!」
「釈然としませんが、了解でっす!」
「前衛は、私と国司さんを中心に。君は私達の後ろで最後の防波堤になってくれ。奈良原さん達は存分に暴れて下さい。あの外人の女の子に敵を斬られるようでは恥ですよ」
「応!」
怪異達の牙が見える。口から垂れ流される唾が、生理的な嫌悪感を催す。
「頼んだぞ、お前ら! いくぞ小僧! 落ちるなよ!」
数日前の夜、この場所で口にした誓いが思い出される。
状態は悪い。だが、一つ思い出せた。
聖コンスタンスに剣を捧げる者の戦う理由——
それは全ての怪異を倒し、弱き者を守ることだ。
私は怪異を斬るに足る剣を持ち、
守りたい存在が、沢山できた。特に、萌のことだ。
『貴様は何故戦う?』
その答えは、きっと私の剣の中にある。
「ウォォォォォォーーーー!!」
剣を震わす声が、自然と口から漏れる。
「オオオーーッ!!」
「ウォォーーーッ!!」
「燃やしちゃいますよぉー!」
私に賛同してくれるかのように、周りにいる方々から気合の雄叫びが上がる。
「誤射だけは勘弁しろよ、燈!」
「はいそこ! やる気なくさせるようなこと言わない!」
剣よ、
剣よ、
戦いへ——赴こう。
戦いへ——赴かれるのですね。
この刃で——大切な人を守りに行こう。
この刃で——大切な貴女を守って下さい。
我が愛しき——
我が愛しき——
“——<氷の貴婦人>よ——!!”
刀身から発せられる蒼の輝きが、私を包む。
どこまでも美しく、凛々しく——何よりも、力強く。
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