第22話エクスティーナ

 ─強い。

 俺がこの村人と戦いながら素直に感じた感想だった。


「なあ、名前聞いてもいいか?」


 俺は打ち合いの合間に質問を投げ掛けた。


「…ジェイム」


「ジェイムか、俺はリデルだ」


「…別に聞いてない」


 なんだろう、無性にイラッときた。


「そうか悪かったなッ!」


「ッァ!?」


 俺が抜刀術スキル一閃をジェイムに放つと、ジェイムは一閃を受けて大きく後ろに吹き飛んだ。

 しかし、ジェイムは一閃をしっかり剣で受けており、大きく吹き飛びはしたが衝撃は巧く流しており、見た目ほどダメージを受けてはいない様だった。


「…エクスティーナ」


「ん?誰だ?」


「・・・」


「掴み所のないやつだなぁ…」


 俺は軽口を叩いているが、その間にも俺達の戦いは激化していく。

 俺達の剣がぶつかり合うたび、轟音を響かせながら大気を震わせる。


 ドクンッ


「ッ!エクスティーナッ!」


「なっ!?」


 心臓が脈打つ様な音が聞こえたあと、ジェイムが急に叫びだし、持っていた剣を地面に突き刺した瞬間、地面が徐々に漆黒に染まっていった。

 漆黒は徐々に範囲を広げていき、俺を呑み込もうと迫ってきた。


「ック!」


 漆黒に染まった場所は全てなにも残らず、漆黒に触れた瞬間に消えていった。

 そして俺は迫りくる漆黒から逃げるように後ろに下がった。


「お、おい息子よ、あれは大丈夫なのか?」


「…リデルさんなら多分大丈夫だと思います」


 俺は漆黒から逃げるが、俺の逃げる速度より迫ってくる漆黒の速度の方が速く、追い付かれるのも時間の問題だろう。


「抜刀術スキル弐の太刀『花月』!」


 俺は逃げながらで体勢も整っていない状態で放った攻撃だったが、それでも俺の放った攻撃は圧倒的な威力を発揮し、迫りくる漆黒を真っ二つに切り─


「裂けてねぇッ!」


 俺の放った攻撃は、漆黒に触れた途端別次元に呑み込まれるように消えていった。


「息子よ、大丈夫じゃ無さそうなんだが?」


「・・・」


 漆黒が俺に足に到達する直前、俺は空を蹴りあげて浮かび上がり、そのままジェイムに向かって加速しながら近づいて行った。

 ジェイムの半径1メートル以外の地面は、殆ど漆黒に染まってしまっているので、地面には降りずジェイムの肩に着地して、そのままジェイムの首に刀の刃を当てた。


「…なんで動かないんだ?」


「…この技を放っている間は動けない」


「それじゃあ俺の勝ちでいいか?」


「…僕の負けです」


「それじゃあその技解除してもらっていい?」


「…制御不能」


「おい!」


「…剣が地面から離れれば解除されます」


「なるほど、せいっ!」


 俺はジェイムの肩の上から、地面に突き刺してある剣を地面ごとくりぬいた。

 剣が地面から離れた瞬間、辺りを覆っていた漆黒は一瞬にして消え去っていた。


「よいしょ。それじゃあ無料で食料と宿を頼むぞ」


「クソッ、まあ良い。宿と食料はそこの小屋にあるから自由に使え!」


 俺はジェイムの肩から飛び降りた後、村長に約束の物を要求し、村長がそれに応じて指差した先を見ると


「鶏舎じゃねぇか!ふざけてるのか!」


「鶏舎でも寝れるさ、それに鶏の餌も案外旨いかも知れんぞ?」


「村長の家吹き飛ばしてやるから、村長が鶏舎を使うと良いんじゃないか?」


「じょ、冗談じゃないか、本気にするな」


「次ふざけたら本当に吹き飛ばしてやるからな」


「っち。宿は私の家の客間を使え、食料は後で用意させよう。手配してくるから少し待ってろ」


 村長は俺を睨みつつ、悔しそうにそう言った後、そのまま何処かに向かって歩いていった。


「ああ、それとジェイム、その剣少し気になったんだけど、それは何なんだ?」


「…これは魔剣エクスティーナ」


「なんで魔剣がこんな村にあるんだ?」


「…前のエクスティーナの持ち主が、魔物に追われてこの村に逃げ込んだ時に、何故かエクスティーナが反応して僕に引き継がれた」


「そうなのか」


「…リデルさんは何者なんですか?エクスティーナはリデルさんに凄く反応していて、いつも以上に力が解き放たれていたにも関わらず、僕はリデルさんを倒すことが出来なかった」


「何者って言われてもただの冒険者だとしか言いようがないんだが…」


「…何か流派にでも入っていたりはしないんですか?」


「俺は我流だよ、ジェイムは流派に入ってるのか?」


「…入っていると言うより、祖父が作った剣の流派を教えてもらってたんです」


「へー、凄そうだなその流派」


 魔剣を持っていたとはいえ俺と打ち合うことが出来るのだ、そんな人物は今まで殆ど出会っていない。


「…開祖の祖父は魔剣を持つ僕より強いですよ」


「まじかっ!会ってみたいなぁ」


「…祖父なら流派を広めるため、獣人の国アルマーニに向かいましたよ」


「そうなんだ、でもなんで獣人の国に?」


「…二ヶ月後に開催される闘技大会に出場して名前を売るためらしいです」


 二ヶ月後に闘技大会か、急いでラグル火山に行って用事を済ませれば間に合うかな?


「…リデルさんは後どれくらいこの村に居るんですか?」


「明日の朝に出ようと思ってるけど?」


「…それじゃあ少しの間村の事お願いしても良いですか?」


「クィーンオークを倒しにいくのか?」


「…はい、リデルさんが居るなら安心して村を離れられます」


「まあ別に少しの間村を守るくらいなら問題ないよ」


「…ありがとうございます、今から行ってきますね」


「ああ、気を付けて行ってこいよ」


 ジェイムはそのままクィーンオークを倒しに向かい、俺は1人で村長が戻ってくるのを待っていた。


「待たせたな。食料は明日の朝に届く、今日の分の飯は癪だが家の飯を食うといい」


「有り難く頂くよ」


 俺は村長の顔を見てニヤリと笑い、そう答えた。


「くっそ、ムカつく奴だ!まさか息子のジェイムが負けるとは」


「残念だったな、それじゃあ俺は村の中を周ってくるよ」


「飯は3時間後に出来る、遅れて帰ってきて無くなっていても知らないからな」


「分かったよ」


 俺は村長と別れた後村の中を周っていき、村の周り全体見渡せそうな木を見つけて、その木に登ってそこで座った。

 それから暫くすると誰かが近付いて来て声を掛けてきた。


「ねーねー、そこの木の上のフードの人」


「ん?俺か?」


「そー、なにしてるのー?」


「見張りしてるんだよー」


「見張りって何の見張り?」


「村に怖い魔物が来ないか見張ってるんだよ」


「へー、そうなんだー。でも魔物はジェイムの兄ちゃんが倒してくれるよ?」


「今ジェイムは出掛けてるからその代わりだよ」


「それなら僕達も一緒に見張ってあげるよー」


「ははっ、それは嬉しいなぁ」


 俺は木の上から降り立つと、下に集まっていた子供達に顔を向けた。


「飛び降りたー、すげー!」


「お姉ちゃんカッコイイ!」


「凄いだろー、でも危ないから真似しちゃ駄目だぞ」


「わかったー、それで見張りってなにすればいいのー?」


「そうだなぁ、別に見てなくても魔物が来たら大体分かるからなぁ。じゃあ、もし魔物が来たら村の皆に知らせてくれるか?」


「「わかったー!」」


「よし、じゃあそれまで何かして遊ぶか?」


「「遊ぶー!」」


 俺はその後村の子供達と一緒に遊んだのだった。


「囲めー、お姉ちゃんを捕まえろー!」


「せこい!お姉ちゃん速すぎるよ!」


「遊びにも全力で望む!そして、大人とはせこい生き物なのだ!」


「くっそー、絶対に捕まえてやる!」


「フハハハハー!捕まえれるものなら捕まえてみろ!む?」


 俺は村の子供達と遊んでいる最中、村に近付いて来る気配をスキルの直感が感じ取った。


「捕まえた!」


「あ…」


「お姉ちゃん急に止まってどうかしたのー?」


「ああ、みんなに手伝ってもらう時が来たかもしれない。ちょっと待っててくれ」


「「はーい!」」


 俺は子供達をその場で待たせた後、空歩を使って上空に飛び上がり、空から村の周りを見渡した。


「西に4体か…すぐ終わりそうだが一応村の人に伝えてもらうか」


 俺は上空から魔物の位置と数を確認したあと、そのまま降下していき子供達の前に降り立った。


「お待たせ。それで、西から4体魔物が近付いて─」


「「と、飛んだー!」」


 俺が子供達に説明しようとしたとき、子供達は俺の言葉を遮って食い付いてきた。


「お姉ちゃんお空飛べるんだね!」

「僕も空飛びたい!」

「私もお空に連れていってほしー!」


 子供達は怒濤の勢いで喋り掛けてきて、俺は勢いに気圧されて少しの間呆けてしまった。


「わ、わかったから、やり方は上手く説明出来ないけど、後で空飛ばせてやるから先に魔物の対処をしよう」


「約束だよー?」


「わかった、約束する。だから君達は大人の人に、西から魔物が来てるって事を伝えてきてくれるか?」


「「わかったー!」」


「ありがとう。伝え終わったら大人の人と一緒に待機しててくれ、それと西側には近付かないように」


「はーい、じゃあ行ってくるねー」

「お姉ちゃんも頑張ってねー」

「約束、忘れないでね!」


「ああ、じゃあ頼んだよ」


 俺は子供達の後ろ姿を見送った後、近付いて来る魔物に対処するため、村の西側に向かったのだった。


「なんだこいつら…」



 俺が村の外に出て見つけた魔物の見た目が異様だった。

 全身が真っ黒で、人型だが全身ドロドロで形は安定していなかった。


「とりあえず倒すか」


 見たことのない魔物だったが、何か嫌な感じがするので俺は即座に排除に動いた。

 知性は無いようだが、明確にこの村を目指して進んできたことは確かだろう。


 俺は目の前の4体の敵に向かって駆けた。

 俺が動くと、真っ黒なドロドロの魔物達も動きだし、お互いに距離を縮めていった。

 先に攻撃を仕掛けてきたのは魔物達の方で、俺の攻撃の射程内に入る直前に、4体同時にもとの長さの数倍の長さまで伸ばした腕を、まるで鞭のようにしならせて振り下ろしてきた。

 俺はその攻撃を紙一重で躱したり、空中で切り落としたりしながら先頭の魔物の懐まで潜り込み、一刀で胴体を真っ二つに切り裂いた。


「後3体か、って合体!?」


 俺が先頭の魔物を倒した後、すぐさま残りの魔物達にも斬りかかろうとしたが、俺が動き出す前に魔物達は1ヵ所に集まって重なりあった。

 重なりあった魔物は、体の大きさが3倍になっており、腕は複数に裂けて触手の様になっていた。

 そして、両肩から数十に伸ばした触手で、俺の全方位を囲むように攻撃を繰り出してきた。


「抜刀術スキル弐の太刀『花月』」


 俺は迫りくる触手ごと、魔物本体も同時に切り飛ばした。

 魔物の上半身は下半身とずれていき、上半身は地面に落ちてそのまま横たわった。

 その後、真っ黒なドロドロの魔物は、地面に吸い込まれるように溶けてなくなってしまった。


「さて、これでとりあえず大丈夫かな?」


 俺は魔物を倒し終わって村に戻ろうとしたとき、真っ黒なドロドロの魔物が地面に消えた後、魔物の後ろに隠れていた人物が視界に写った。


「あれは…ジェイム?」


 魔物の後ろから姿を現したのはジェイムで、その表情は先程会ったときの無表情ではなく、ニタリと嫌らしい雰囲気を纏った表情であった。

 ジェイムの手には魔剣エクスティーナが握られており、何故か目が赤く光っていた。


「お帰りジェイム、何してるんだ?」


 ジェイムの様子がおかしいと思ったが、俺は一応普通に喋りかけてみた。


「お前は妾の依り代に相応しい」


「は?」


 ジェイムが何かを喋った後、そのままこちらに走ってきて、手に握っていたエクスティーナを振り下ろしてきた。

 俺は振り下ろされた剣を受け止め、そのまま鍔迫り合いの状態で相手に質問を投げ掛けた。


「お前何者だ!」


「妾は悪魔のアガリアレプト。まあアガリアレプトでは1度死んでおるから、今はエクスティーナとでも呼ぶがよい」


「っち、また悪魔か」


「さて、そなたの素晴らしい肉体を妾に献上するがいい」


「誰がするか!」


 俺は鍔迫り合いの状態からエクスティーナの剣を弾いて距離を取り、次の攻撃の為に刀を納刀した。


「ふむ、やはり珍しい戦いかたよのぉ」


「そうかよ、かかってこないのか?」


「そう焦るな、物事にはタイミングと言うものがあるのじゃ」


 俺は何時でも攻撃に移れるよう、納刀した刀に手を添えて、エクスティーナが動くのを待った。


「─お姉ちゃん?」


「なっ!?来ちゃダメだ!村の中に!」


「今がそのタイミングと言うものじゃ」


「クソッ!」


 エクスティーナは剣を地面に突き刺し、地面に刺さった場所から、先程ジェイムとの戦いの時にも見たあの漆黒が再び現れて、こちらに凄い勢いで伸びてきた。

 そして、エクスティーナの放った漆黒は、俺ではなく村から出てきてしまった男の子に向かって伸びていた。


「うおぉぉぉああああ」


 俺は漆黒が男の子に接触する直前に、男の子を突き飛ばした。

 男の子が漆黒に呑まれなかった代わりに、リデルは地面から浮き出てきた漆黒に全身を包まれその場から姿を消した。

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