第21話魔剣に選ばれし村人A

「さて、ラグナードまで来たのはいいが、ラグル火山に行くには戻らないといけないんだよなぁ」


 またグリルドを使ってもいいが、今度こそ騒ぎになりそうだし。

 因みに、昨日グリルドを使ったことはあまり騒ぎにはなっていなかったりする。

 俺は騒ぎになっていないか気になってお爺さんに話を聞いてみると─


「ドラゴン?ああ、そう言えば昨日見たと言っとった人がいたのぉ。じゃが、ここら辺は火竜が稀に飛んでくるから然程騒ぎにはなりゃせんよ」


「ああ、それならよかっ─」


「しかし、今回のドラゴンは異様だったとも言っておったのぉ。まあ、街の外に行くなら一応気をつけて行くんじゃぞ」


「そ、そうなんだー!忠告ありがとう、じゃあ!」


 ─と言うことがあったので、次にグリルドを呼び出すと流石に騒ぎになる。

 それと先程の会話に出てきた火竜。

 こいつもFUOの時は敵としては存在しなかった魔物だ。


 俺が今造ろうとしている火之迦具土ヒノカグツチの素材に、炎劉神鉄と言うものがある。

 これは火之迦具土ヒノカグツチの刀身の元になる鉄なのだが、これをドロップする魔物は居らず、クエスト報酬でのみ入手が可能なのだ。

 あまり深く考えていなかったのだが、システムの支配領域が曖昧な今、果たしてクエストを受けることが出来るのだろうか?

 もしクエストが受けられないとすれば、その素材は自分で探すか造り出すしか方法が無くなってしまう。


 そして先程の火竜の話に戻るのだが、炎劉神鉄のクエストの話を飛ばして聞いていた俺だが、確か話の中に昔火竜を倒したときに腹の中から出てきたとかなんとか言っていたはずだ!言っていた気がする!言っていたよな?


 まあとりあえず、1回火竜を倒しに行くのも良いかもしれない。

 幸いこの近くに居るみたいだしね。


 システムの事を考えていたので、何となくメニューウィンドウを弄っていると、あることに気がついた。


「あ、レベルが上がってる」


 レベルの上限も上がっていたのか。

 俺はゲームの時と同じように、ステータスポイントを振り分けていった。

 その後、街の中やギルドに足を運んで、火竜の生息域を調べていくのだった。


 翌日、大体の生息域に目星をつけると、俺はラグナードの街を出発した。

 火竜は、ラグナード山脈を根城にしているらしく、ラグナード山脈はラグナードの街からオンシィーンの街の手前まで続く山脈で、距離にして約550㎞程の長さを誇っているらしい。

 その山脈の中で、ラグナードの街から約10㎞範囲内に根城が絞られている様だ。


「10キロか…もっと手軽に召喚できるペットが欲しいなぁ」


 グリルドを召喚するわけにもいかず、俺は山脈に向かってとぼとぼと歩き出すのだった。

 普通に10㎞を移動するだけなら簡単な事だが、山道を辺りを探りながら1人で進むのは中々の苦行だった。


「最近誰かといること多かったからなぁ」


 火山地帯だから暑くてマント被ってると蒸れてくるし、風呂入りたいなぁ。

 あ、火山地帯なら掘ったら温泉出るかもしれないな。


「む?」


 しょうもないことを実行しようか悩んでいると、俺の上を何かの影が通り過ぎた。


「あ!いた!」


 俺の上を通過した影は、探していた火竜であった。


「グルアァ」


「まてこらーっ!」


 高速で飛行する火竜を見失うまいと、俺は全速力で火竜を追いかけたのだった。


 しばらくすると、火竜は根城に到着したのか、段々と高度を落として地面に降り立った。

 俺はなんとか追いつき、地面に降り立った火竜に近づいていくのだった。


「やっと追い付いた…」


 俺が降りて来た火竜に近付くと、火竜は俺の存在に気付き鋭い眼光で睨み付けてきて叫んだ。


「グルアァァアアアア」


 火竜は叫ぶと同時に俺に襲い掛かってきた。


「うおっ!」


 俺は振り下ろしてきた火竜の腕を躱すと、腕を斬りつけて距離を取った。

 結構深く斬りつけたのだが、火竜はそれをものともせず苛烈な攻撃を繰り出してきた。

 俺は全てを躱していき、腕や足や尻尾や頭や翼等の部位を斬りつけていくが、火竜の気迫は衰えるどころか少しずつ増していった。


「何かおかしい気がするな…」


 戦闘中に余計な事を考えてしまったせいで、俺は火竜にブレス攻撃を許してしまった。


「くっ、らぁ!」


 俺は咄嗟に火竜のブレスを弾くと、ブレスは火竜の寝床らしき巣穴に向けて飛んでいった。

 しかし、そこで火竜は俺の予想外の行動を起こした。

 火竜は自分で吐き出し、俺に弾かれたブレスの進行方向に体を割り込み、ギリギリで巣穴を守ったのだった。


「お前まさか…母親なのか?」


 火竜は自分のブレスに焼かれ、ブレスが当たった部分は自慢の鱗も剥げてしまっていた。

 そして、そこまでして守った巣穴の中には、産まれたての様な小さなドラゴンが3匹顔を覗かせていた。


「グッグルァァ…」


 火竜はもう戦えるような体ではないのに、無理矢理体を起き上がらせて俺に敵意を見せた。


「悪いことをしたな…」


 俺はそう言って刀を鞘に納めて、火竜に背中を向けて巣穴から逆方向に歩き出した。

 火竜は巣穴の前から俺が去るまで睨み続け、俺が振り返らず歩き続けるとその場で倒れた。


「あっ!」


 大きな音を立ててその場で倒れたので、俺は思わず振り返るが火竜はしっかり呼吸をしながら体を休めていた。

 傷も致命傷では無いようだ。

 俺は火竜の子供達が親に寄り添っているのを見て、その場を去るのだった。


 この世界は現実なんだ。

 ゲームの様に時間が経てば再び同じ魔物が生まれるわけではない。

 魔力から生まれてくる魔物もいるが、魔物も家族をつくり繁栄しているのだ。

 俺はやはり心のどこかでゲームだと思って、魔物でも命を軽んじていたのかもしれない。


 俺は再び火竜の親子の元を訪れた。

 火竜は弱々しく体を起き上がらせてこちらを睨み付ける。

 俺は火竜が動き出す前に素早く近付き、火竜の口に薬を流し込んだ。


 こんなことは偽善に過ぎない事は分かっている。

 俺は今後も魔物を殺すだろう。

 魔物も生きるために他者を殺す、それが必要なことだから。

 俺は自分が必要な事のために殺す事は躊躇わない。

 だが、子供を守ろうとしたこの魔物を殺す理由を俺は持ち合わせていない。

 それはちっぽけな人間心なのかもしれない。

 だが、偽善でもちっぽけな人間心でも、それは人間にとって大切なものなのだろう。


「だから、この偽善だけでも受けてくれ…」


 火竜は動かず俺を睨み続けいたが、唐突に俺に向けて何かを吐き出した。


「これは…!」


 火竜が俺に吐き出した物は炎劉神鉄の塊であった。

 火竜は吐き出した後、子供のドラゴン達と共に振り返って巣穴に戻っていったのだった。


「…ありがとう」


 俺はその後、ラグル火山に向けて進んで行った。

 俺は道中もこの世界での生殺等について考え続けていた。


「グダグダ考えるのは俺らしくないか、どのみち俺の自己満足だ。殺す時は殺す、元の世界でも今の世界も弱肉強食だよな…」


 自己満足のために、情けや哀れみを掛けるのは相手を見下しているからだろう。

 魔物からしたら、情けを掛けるなら最初から殺されろ、哀れむなら最初から戦うなって感じだろう。


「やっぱり俺は自分勝手なんだなぁ」


 ─それでも、なんだかスッキリした気がする


 今宵の月は綺麗だった。

 俺は月明かりに照らされ、眠りにつくのだった。


───────────────────


 翌日の俺は、昨日の葛藤は何だったのかと言うほど、普通にラグル火山方面に向かっていた。

 魔物避けがあるとはいえ、街道にも少なからず魔物は出るのだが、俺は何の躊躇いもなく倒していった。


「あー、遠い…今度からは馬車を借りるか、移動用のペットを仲間にしないといけないな…」


 俺は雲1つない晴天の中を、1人ぶつぶつ言いながら歩き続ける。


「あ、村だ」


 俺が発見した村は、丁度ラグナードとオンシィーンの間辺りにある村であった。

 俺が村に入ると、村の入り口付近にある畑で畑仕事をしている村人らしき青年がいた。

 別にそれだけだとなにも変なところは無く単なる村人Aなのだが、なぜかその青年は背中に剣を背負いながら畑仕事をしているのだ。


「なんで剣背負いながらやってるんだ…って言うかなんか禍々しいなあの剣」


 よく見てみれば、青年が背負っている剣は禍々しい造形で異様な魔力まで纏っていた。


「・・・」


「…どうも」


 畑仕事をしていた青年が、こちらに気づいたようなので挨拶をしたのだが、青年は無言でこちらを見つめ続けていた。


「・・・」


「あの…なにか?」


 こいつ、なんで無言で見つめ続けてくるんだよ…

 なにも喋らない村人Aは放っておいて、俺は村へと足を踏み入れた。


「ようこそいらっしゃいました冒険者様、私はこの村で村長をやっとりますモンドと申す者です」


「どうもリデルです、少しの間ですがよろしくお願いします」


 俺は村に入り冒険者だと告げると、村長の元に案内されて凄く歓迎されていた。


「それで、リデルさんの冒険者ランクはいかほどのものかお聞かせ願えますか?」


「今はDランクです」


 俺がDランクだと言った途端、村長は先程までの優しそうな顔から一変し、顔を歪めてこちらを見下した様な目つきで溜め息を吐いた。


「なんだDランクかよ、使えねぇな。用事終わったらさっさとこの村から出ていけよ、ペッ」


 この村長いきなり態度変わりすぎだろ!

 しかも俺の横に唾まで吐きやがったし、きったねぇ!


「おい!いきなりなんだよその態度!」


「久しぶりに冒険者が来たから期待したのによう、Dランクごときじゃ役に立たねぇじゃねぇか」


「話聞けよ!」


「うるせぇよ、お前がなんとか出来るような話じゃねぇんだよ」


「なんだよ、話すだけ話してみろよ」


「っち、この村の外れに魔物産み出す女王豚が居るんだよ、そいつのせいで困ってんだよ」


 魔物を産み出す豚?


「クィーンオークか?」


「お?知ってるのか?」


「なんだ、クィーンオーク程度で困ってるのか、可哀想な村だな」


「ま、まさか倒せるのか?」


「ふっ、クィーンオーク程度なら楽勝だよ」


「先程までの無礼をお詫びいたします!どうか!村の為に戦っていただけませんか?」


 変わり身はやっ!?


「誰が戦うか、ボケ!」


「そ、そこをなんとかお願い出来ませんか?」


「あんた、さっきまでの態度忘れたとは言わせないぞ!」


「まさかDランクごときが…おっと、Dランクのお方がクィーンオークを倒せるとは思っておらず、自棄になっておりましたどうかお許しくだされ」


「じゃあ、土下座☆」


 俺は満開の笑顔で地面を指差した。


「は?」


 村長のモンドは目が点になって硬直していた。


「だ~か~ら~、土下座したら許してやるって言ってんだよ」


「こ、この、クソガキがぁぁあああ!下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」


「はははっ、クィーンオークを放っておいて村が襲われても知らないぞ?」


「ふっ、村は我が息子が守ってくれるからな!」


「ん?息子ってあの外で畑仕事してた奴か?」


「そうだ、私の息子はお前じゃ相手にならんくらい強いんだぞ!」


 俺の実力も知らないくせに言い切ったな…


「じゃあそいつにクィーンオーク倒してもらえよ…」


「それは無理だ、息子はこの村の守護神だからな、村から離れることはできん」


「まさか、クィーンオークを倒すのが遅すぎて村の周りが魔物で溢れかえってるとかじゃ?」


「…そんなことはないぞ?」


「じゃあなにも問題ないな、食料買ったら出ていくよ」


「ま、待て!戦わぬなら、この村はお前に宿も食料も提供しないぞ!」


 う、うぜぇ。

 いっそのことグリルドでこの村を焼き払ってやろうか…

 しかし、村の住人は関係ないしなぁ。


「…どうしたんですか父さん」


 俺が村を焼き払うか真剣に考えていたとき、部屋に先程畑仕事をしていた村人Aが入ってきた。


「おう息子よ、丁度良かった。この冒険者がこの私に土下座しろと言ってくるんだ!」


「おいジジイ、そこだけ切り取ったら俺が悪いみたいじゃないか!」


「…この村の村長になんて事を言うんですか」


「先に、その村長がふざけた事を!」


「じゃあこうしよう。リデル、お前が私の息子と戦い、勝てば食料と宿を無償で提供してやろう。ただし、負ければ無償でクィーンオークを討伐してもらおう、ついでに増えた魔物も」


「クィーンオークの討伐が食料と宿だけじゃ釣り合わないんだが…」


「嫌なら食料も宿も無いまま過ごすといい」


「まあ別に俺は勝負を受けてもいいんだけど、そっちの息子さんの承諾は取らなくていいのか?」


「もちろんやってくれるよな息子よ?」


「…いいですよ」


「では、外に出て勝負といくか。今更やめるとか言っても遅いからな」


「ふっ、こんなガキ軽く捻ってやれ」


「・・・」


 そして、俺達は村長の家から外に出て相対した。


「村長、木刀とかないのか?」


「ああ、それなら倉庫に─」


「いらないです、僕はこの剣でやります…」


 村人Aは、村長の会話に被せて会話を打ち切った。


「そ、そうか…だ、そうだがどうするリデルよ」


「うーん、そうだなぁ…」


 俺は真剣での勝負でもいいんだが、相手の実力は未知数だし、何よりあいつの持っているあの剣が気掛かりだ。

 恐らくあの剣は魔剣と呼ばれるものだろうだろう。

 なんでこんな村に、そして目の前の村人が持っているのかは知らないが、魔剣を扱うからには最低限の技量は持っているだろう。


「気絶させるか降参させるか、致命傷になりそうな攻撃は寸止めってルールなら俺もいいぞ」


「…僕はそれで構いません」


「それじゃあ、やろうか」


 村人Aは背中に背負っていた魔剣を引き抜き、眼前に構えて一息吐いた。


「…いつでも」


 俺は目を閉じたあと腰に差した刀に手を当て、俺も一息吐いたあと目を見開き叫んだ。


「いくぞッ!」


「・・・」


 こうして、俺と魔剣を持つ村人Aとの勝負は火蓋は切って落とされた。

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