第11話マルクの両親と盗賊と

「ふぁー、こんなにゆっくりした日は久しぶりだよ」


「そうだな、最近は毎日クエストと特訓の日々だったからな」


「本当に死ぬかと思ったよ…」


「まあ、明後日からまたクエスト再開するけどな」


「はぁ、憂鬱だなぁ」


「あの!マルク=ベオウルフ様で間違いないでしょうか?」


「え?そうですけど、どうかなさいましたか?」


 マルクの家名はベオウルフって言うのか、ちょっとかっこいいな。


「落ち着いて聞いてください、私はベオウルフ家に雇われておりますシルフィと言うものでございます。昨晩マルク様のお父様とお母様が屋敷に侵入してきた者に誘拐されました」


「なんだって!?」


「落ち着いてくださいませ。それで屋敷に侵入してきた者は雇われた盗賊であることが分かりました。雇った人物は以前ベオウルフ様と取引に来た男で、その時少し問題が起こりましてそれの逆恨みによる犯行と言うことがわかっております」


「そんなことで父さんと母さんをっ、そいつはどこにいる!」


「場所はわかっておりますが下手に手を出すと奥様と旦那様の命に関わります、それに盗賊はかなりの手練れですのでそんな危険な所にマルク様を行かせられません。もう既に冒険者ギルドに要請は出しておりますのでどうか大人しくお待ちくださいませ」


「ふざけるな!両親が拐われて大人しく待っていることなんかできるか!」


「マルク様、これは大変危険な事なのです、クエストもAランク以上の者しか受注できない高ランククエストです。まだマルク様の実力では危ないのです、厳しいことを言うようですが無茶だけはしないでください」


「そんな…」


「諦めろマルク。俺達が行っても足手まといになるだけだ」


「そうだ!リデルなら盗賊達を倒せるんじゃないの!?」


「倒せるかもしれないな、でもお前の両親を盾にされた時俺はなにもできない。俺は成り立ての冒険者なんだよ、だからこういう状況は俺達が行っても足手まといになるだけだ」


「くっそぉぉぉおおおお」


「マルク様…」


 その後マルクは一人になりたいと言い、家に帰り部屋の中に閉じこもってしまった。

 俺もマルクのことはそっとしておき、夕方位になると部屋の前にご飯を置きに行った。


「マルク、部屋の前にご飯置いておくぞ」


 中から返事が無かったのでそのまま自分の部屋に戻ろうとしたとき、マルクの部屋からカーテンのなびく音が聞こえた。


「あいつまさかっ!」


 俺はマルクの部屋の扉を蹴破り中に入ると窓が開け放たれており、マルクのベットの上にはAランククエストの紙が置いてあったのだった。


「あのバカっ!」


 俺は窓から飛び降りて、マルクが向かったと思われるバルゴ洞穴に向かったのだった。


_____________________


 僕は走る。

 日が落ちて月明かりだけが辺りを照らす草原を駆け抜けていた。

(リデルごめん、でも黙って待ってることなんかできない!)

 マルクが草原を走っていると、走る道の先には3体のゴブリンが立ち塞がっていた。

 ゴブリンはマルクの存在に気付くと、奇声をあげながらこちらに向かって走ってきたのだった。


「邪魔だ!どけぇぇええええっ!」


 こちらに向かって走ってくる3体のゴブリンに向かって、マルクは抜き放った剣で斬りかかった。

 先頭にいたゴブリンはマルクの一撃で絶命し、残りの2体も仲間の無惨な姿を見て硬直している所をマルクによって容赦なく切り裂かれた。

(僕は戦えるんだ、僕だって強くなったんだ。お父さんとお母さんは僕の手で救い出して見せる!)

 そしてマルクは両親が囚われているバルゴ洞穴に到着したのだった。

 洞穴からは焚き火の光が漏れており、中に誰かいることは明白だった。

 そしてマルクは洞穴の中に突撃したのだった。


「おい!僕のお父さんとお母さんを返せ!」


「あ?なんだこのガキは」


「マルク!?」


「お、なんだお前らの子供か?パパとママを取り返しに来たってか、泣けるねぇ」


「ちょうど退屈してたところだぜ。アニキ、このガキで遊んでてもいいですかい?」


「好きにしろ」


「待ってくれ!なんでもするからマルクには手を出さないでくれ

!」


「手を出すなつってもねぇ、自分からやられに来てるようなもんだからねぇ」


「舐めるな!お前らを倒してお父さんとお母さんを取り返す!」


「いいぜ、かかってこいよ」


「はぁあああ!」


 マルクは近づいて来た盗賊の男に斬りかかるが、盗賊の男の剣に簡単に受け止められる。


「おいおい、こんなもんかよ、攻撃が軽すぎてあくびが出るぜ」


「っく!」


 一旦離れてから今度は手数で攻めるが、マルクの攻撃は読まれているかのごとく盗賊の男に簡単に躱される。


「動きが綺麗すぎて読みやすいぜ、ほら避けろよ?」


「がはっ!」


 マルクは盗賊の男に蹴りをいれられ吹き飛ばされてしまったのだった。


「はぁ、全然楽しめねぇじゃねぇかよ」


(駄目だ、勝てない…)


 勝てない事を実感してしまったマルクの体に恐怖の波が訪れる。


「震えちゃって可愛いねぇ、お父さんとお母さんを取り返すんじゃ無かったのか?」


「うっあ…」


「なんだよ、はっきり喋れよ。もういいや、アニキこいつ殺してもいいですかい?」


「ああ、そいつは別にどうでもいいから殺しても構わないぞ」


「まっってくれぇええええ、お願いだ!なんでもする、お金だっていくらでも払う、だから!マルクを逃がしてやってくれお願いだ!」


「ふっ、フハハハハッ。あー、なんて愉快な顔で叫んでくれるんだ、それを見れただけで気分がいいぞ。ガス、殺れ」


「てことで、あばよガキ、ここに来なければ死なずに済んだのにな」


 そして、盗賊の男は得物を振り上げて、マルクに向かって振り下ろしたのだった。


「「マルクぅぅううう」」


 盗賊の男が振り下ろした剣の軌道は、確実にマルクを捉えるはずだったが、その刃がマルクに届くことはなかった。


「全く、勝手なことしやがって。これで冒険者資格剥奪とかになったら分かってるだろうな?」


「貴様何者だ!」


「俺か?俺はこいつの師匠だ、悪いがこいつとこいつの両親は返してもらうぜ」


「リ…デル」


 マルクは下半身を温かい液体で濡らして泣きながら俺の方を見つめていた。


「おいおい、なに漏らしてんだよ」


「だって、死ぬかと思ったよぉおおおお」


 そう言ってマルクは大声で泣き出してしまったのだった。


「おい、泣くなよ男だろうが」


「ううっ」


「おい、こっちのこと忘れてんじゃねぇか?」


「あ、ごめん、忘れてた」


「ふざけやがって、誰だか知らねぇが八つ裂きにしてやる!」


 そう言って盗賊の男は剣を振り上げ斬りかかってきた。


「なあマルク、こいつらって殺さないほうがいいかな?」


「出来るだけ殺さない方が…」


「そっか」


「ざけんなぁあああ」


 叫びながら盗賊の男は斬りかかるが、その剣は誰もいない空を斬った。

 リデルは盗賊の男の攻撃を躱し、懐に潜り込んでいた。


「襲い掛かってきたのはお前だから腕の1本は我慢しろよ」


「ガアアアアアアァッァァァァ」


 盗賊の男の剣を握りしめていた方の右腕が宙を舞った。


「俺の腕がぁあああ」


「下がれガス、こいつはお前じゃ相手にならん」


「さて、そろそろ眠たいからその人達返してもらってもいいか?」


「はっ、こっちもこれが仕事でね、簡単に渡すわけにはいかないんだよ。変に動くとこの夫婦の首が飛ぶぜ?」


「へー、じゃあ仕方ない、その二人のことは諦めるよ」


「は?」


「別に俺は弟子を回収しに来ただけだし、そこの二人がどうなろうと知ったこっちゃない。でもその二人が死んだらお前達を守るものはなくなるぞ?」


「お前…狂ってるんじゃないか?」


「狂ってるのかもしれないな、その二人を殺した瞬間俺は躊躇なくお前達を皆殺しに出来るし」


「やれるもんならやってみろガキがああああ」


「隙あり」


「なっ!?」


「体術スキル『雷鳴』」


 俺は一瞬出来た隙を見逃さず、縮地で近づき殺さないように抜刀術は使わず体術スキルの雷鳴で盗賊のリーダーらしき男の意識を刈り取った。

 盗賊のリーダーっぽいやつを気絶させた後、マルクの両親を回収してマルクの隣に置き、俺は残りの盗賊達を睨み付けた。


「まだやるか?大人しく投降すれば痛いめ見なくてすむぞ?」


「「降参します」」


 こうして、事件は幕を閉じたのだった。

 しかし、この世界に来てからちゃんとした戦いをしていないのでつまらなく感じるな。

 基本的に一方的な蹂躙だし、思った以上にこの世界の人達は弱いのか。


 後日、俺とマルクは冒険者ギルドに呼び出されていた。

 部屋に入るとオリビエのギルドのマスターが一人椅子に座っていた。

 とりあえず人とちゃんとした話をするのでマントのフードは外している。


「やあ、君がリデルさんとマルク君だね、とりあえず座ってくれ」


「失礼します」


「それで、今日呼び出したのは他でもない、先日のベオウルフ夫婦の誘拐の事件についてだ。普通はEランク冒険者の君達が勝手に街からでて戦闘を行った事は禁止事項に触れるので罰則しなくてはいけないのだが、ベオウルフ様のお言葉添えと君達が捕まえた盗賊が指名手配中の名のある盗賊でね、今回の件についての罰則はない」


「本当ですか!よかったねリデル!」


「まあ、勝手に出ていったマルクが悪いんだけどな」


「うっ、ごめんなさい」


「それともう1つ今回呼び出したのには理由がある。リデルさん、君には今回の件で特例でDランク冒険者にあがる権利が与えられた」


「そうなんですか?」


「ああ、但し少し僕と面接の様なものを行って貰いたい。なのでマルク君は席を外してくれないか?」


「はい、分かりました」


 そして、マルクが部屋から出ていった後、俺はギルドマスターと向かい合っていた。


「さて、先ずは今回の件、君の活躍は称賛に値するものだ」


「いえ、禁止事項を破って勝手に行動したことですので称賛なんて滅相もないです」


「ふむ、君は本当にEランク冒険者だったのか?いや、それより君は何者だ?」


「何者って言われましても、俺はリデルですよ」


「っふ、そうか。それと先日裏オークションにて神刀・火之迦具土ヒノカグツチが出品されたんだが、人から聞いた話だと出品した人物が君の姿と酷似しているんだが何か知らないかい?」


「あー、それは俺ですね」


「本当か!?神刀・火之迦具土ヒノカグツチはどうやって手に入れたんだ?」


「えーっと…」


 うわー、説明しづらいな…


「おじいちゃんが和の国出身で、それで譲り受けたものです」


「君はそれを売ったのか?」


「急いでお金が必要だったので、でもそのうち火之迦具土ヒノカグツチは取り戻しますよ」


「ふむ、君の言っている事は辻褄は合うが何処か信用できないな。まあいいだろう実力は本物だ、今日から君はDランク冒険者だ」


「ありがとうございます」


 こうして、俺はDランク冒険者にランクアップしたのだった。

 その後、マルクの両親が俺にお礼を言いたいらしいので、マルクの両親が入院している病院に向かったのだった。


「失礼します」


「どうも、私はマルクの父のルーカス=ベオウルフです。リデルさんこの度は助けていただき本当にありがとうございました」


「いえ、大したことはしてませんよ、それよりお体は大丈夫ですか?」


「ええ、私も妻も体は無事ですが様子を見るためにも数日間入院しているだけですので」


「なるほど、それはよかったです」


「あなたのお陰です、マルクも色々お世話になっているようで今後とも面倒を見てあげてくれると嬉しいです」


「いえ、俺はこれからこの街から出ていきますので」


「え!?そうなのリデル?」


「ああ、今日でDランク冒険者になってモンスターの討伐も出来るようになったからな」


「そんな急に出ていかなくても良いじゃないか!」


「元々こうするつもりだったしそういう約束だろ?」


「じゃあ、僕も一緒に─」


「駄目だ、今のマルクじゃあ俺の旅についてこれない」


「そんな…」


「俺と一緒に冒険者したいならもっと冒険者ランクをあげて追い付いて見せろ!」


「うん、わかったよリデル。今はまだ弱いけどいつかリデルに追い付いて見せるからその時は…」


「その時は?」


「いや、今はいいその時が来たら言うよ!」


「そうか、頑張れよ。後、病院では静かにしろよ?」


「はい、すいません…」


 こうして、俺はマルクと別れオリビエから旅だったのだった。

 そろそろ火之迦具土ヒノカグツチを取り戻しにいかないとな。

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