第10話Eランクを目指して

「お断りします」


「はやっ!即答!?」


「いや、だって色々忙しいし」


「少しでいいんだ!」


「生活費稼げるかも微妙なのに弟子なんかとれるか!」


「え?そうなの?」


 俺の試験結果は61点でFランクであった。

 先程少しクエストを確認したが、どれも雑用等の仕事しかないので報酬ももちろん低いものばかりだ。

 最悪魔物を倒して素材を売ろうと思っていたのだが、ギルドではEランク以下の討伐行為は危険性を考慮して原則禁止となっている。

 勝手な討伐行為があまりに危険だと判断された場合除名もあり得るらしいので、できるだけ正規クエストでお金を稼ぐしかないのだ。


「ああ、だから弟子はとれない」


「あ!そうだ!それなら僕の家に空いてる部屋があるから弟子にしてくれるならタダで貸してあげるよ!」


「いや、でも…」


 魅力的な誘いだがここで誘惑に負けるわけには…


「それと、朝晩の食事も出すよ?」


「仕方ないなぁ、少しだけだぞ?」


 こうして俺は誘惑に負けたのだった。


「じゃあ僕の家に案内するね」


 日が落ち暗くなり始め外灯が照らす街を人混みをかき分けながら俺とマルクは進んでいった。


「ここが僕の家だよ」


「へー、結構良い家に住んでるんだな」


 マルクに案内された先には、煉瓦造りの外壁は白い漆喰で綺麗に塗られた庭付きで二階建ての大きな家があった。


「うん、僕の親が結構小金持ちで一人暮らしするって言ったらこの家を買ってくれたんだ」


「一人暮らしでこの家?」


「そうだよ?」


「いや、一人で住むには大きすぎるだろ」


「僕の両親はメイドをつけるつもりで建てたんだけど、僕は一人でなんでもやりたかったから断ったんだよ」


「…なるほど」


 ひょっとしてこいつの親は結構偉い人なんじゃなかろうか。


「とりあえず家に入ろうか、お腹すいたし晩御飯すぐに作るね」


「ありがとう、お邪魔します」


 ご飯を食べ終わった後家を案内して貰い、その後マルクの実力を見るために庭で模擬戦をすることにしたのだった。


「木刀か何かない?」


「木刀は1本しかないなかな」


「そうか、じゃあ俺が木刀使うからマルクは剣を使ってくれ」


「いや、でも危ないよリデルちゃん?」


「大丈夫だ、後ちゃんずけやめろ」


「じゃあなんて呼べば良い?」


「リデルさんかリデル様かリデルで」


「じゃあ…リデル様?」


「なんでそこいくんだよ、リデルでいいよ」


「分かったよリデル、じゃあ本当に良いんだね?」


「ああ、俺の心配じゃなく自分の心配した方がいいぞ、大きな隙があったら打ち込んでいくからな」


「じゃあ、行きますっ!」


 始めの踏み込みは中々良いな。

 だが、筋肉が無いのだろう、良い踏み込みの割りに速度とキレがあまりない。

 とりあえず軽く体をずらして躱し、通りすぎ様にマルクの頭を木刀で軽く叩いた。


「あ痛っ」


「良い踏み込みだが斬り込み方が甘いぞー。それと避けられたら反撃するか防御に徹しないとカウンターを喰らうぞ」


「は、はい!」


 ふむ、太刀筋は型に嵌まった良い太刀筋だが、如何せん剣に振り回されている感じだなぁ。

 剣術は習っていたっぽいし、筋肉さえつけたらそこそこ強くなると思うんだよなぁ。

 そんな事を思いながら、マルクの剣をのらりくらりと躱していき、大きな隙ができた瞬間木刀を叩き込むということを10分ぐらい続けるとマルクの体力が尽きたので模擬戦を終了した。


「い、一回も掠りもしなかった…」


「まあ、太刀筋とかは良かったけどマルク、筋肉が無さすぎ」


「やっぱり、筋肉がいるよね…」


「そうだな。でも、剣術とかを習ってたならもうちょっと筋肉があっても良いと思うんだけど?」


「僕、少食で肉とかあんまり食べなくて。後、剣を振るのは好きだけど走ったり筋トレしたりするのは嫌いで…」


「よくそんなので冒険者になろうと思ったな」


「冒険者やってたらそのうち勝手に筋肉つくかなって」


「つくかボケ!その前に死ぬぞ!師匠とか以前に肉食って筋トレしろ!」


「はい…」


「そう言えばマルクは試験結果はどうだったんだ?」


「67点でFランクだったよ」


 地味に負けてる…


「そうか、じゃあ明日から朝から夕方までクエストをこなして夜に筋トレと稽古をつけてやるよ」


「分かったよ!」


 さっさとDランクに上がって師匠から解任されなければ。


「あれ?そう言えばランクってどうやってあげるんだ?」


「あー、そう言えばリデルちゃ…リデルは寝てて聞いてなかったね。ランクはある一定量のクエストをこなすと、三つクエストが渡されてそれを達成するとランクアップ試験の挑戦権が得られるよ」


「へー、それで試験に合格するとランクアップするのか。それって試験に合格出来なかった場合すぐにもう一度試験を受けたり出来るのか?」


「いや、それはできないよ。試験に合格出来ないともう一度三つクエストを渡されて、もう一度試験を受けるにはまたクエストをこなさなくちゃいけないらしいよ」


「へー、Fランクは何個クエストをこなせばEランクに上がる試験を受けれるんだ?」


「えーっと、確か20個かな?」


「ふむ、じゃあ一日クエスト3個がノルマで」


「いっ!む、無理だよ一日3個なんて!」


「大丈夫だって、始めは間に合わない分は俺が手伝ってやるから」


「しかも僕一人で!?」


「当たり前だ、これも修行の内だ」


「そんなぁ…」


「明日からクエストやるからさっさと風呂入って寝ろよー」


 俺はそう言い残して、風呂に向かったのだった。


 翌朝、二人で冒険者ギルドに向かい、適当なクエストを三つ選んでパーティとして受注したのだった。


「それじゃあクエスト始めるぞー」


 本日受けたクエストは、荷物の運搬、壁の漆喰塗り、倉庫内清掃の三つだった。

 まず、荷物の運搬クエストからこなしていくが、やはりマルクだけだと丸一日掛かりそうだったので俺も手伝って昼までに終わらすと、昼御飯を食べた後すぐさま次の壁の漆喰塗りのクエストに向かった。

 先程のクエストで少し時間が押し気味だったので今回は始めから俺も参加してすぐに終わらせ、休む間もなく最後の倉庫内清掃に向かったのだった。

 今日の三つのクエストを終えて家に帰ると時刻は20時であった。


「も、もう、死ぬ…」


 家に着いた頃にはマルクはもうフラフラで、扉を開けて玄関に入った途端に倒れてしまったのだった。


「おーい、約束の晩ご飯と食べ終わった後に筋トレと稽古やるんだからまだ寝るんじゃないぞ」


「鬼か!死んじゃうよ!」


「こんなことでへこたれてたら強くなれないぞ!今日は稽古は無しで軽い筋トレだけにしといてやるから飯だけは食え」


「分かったよ!やればいいんだろー!」


 やけ糞気味に動き出したマルクはご飯を作り始めた。

 俺はその間に風呂の準備をやりに行き、終わった頃にはご飯が用意されていたのでご飯を食べたのだった。


「マルク、ご飯の量が少ないな、明日からはもう少し増やさないと持たないぞ。後肉と野菜が少な過ぎるから肉と野菜多目で」


「分かったよぉ…」


 その後、軽い筋トレをこなして風呂に入って寝たのだった。

 翌日からも同じ事を繰り返し行っていった。

 普通なら毎日そんな事をしていると倒れてしまうが、この世界にはポーションというものが存在する。

 毎日稽古を終えた後にポーションを飲ませてから寝させることで、翌日に前日の疲労を殆ど残さ無いことが出来るのだ。

 まあ、完全に疲労を消すことは出来ないので少しずつ蓄積されていくんだけどね。

 そんな生活を一週間続けると、ランクアップ試験の挑戦権を獲得するためのクエストを受けることが出来るようになった。

 なんかややこしいな…


「マルクとりあえず、お疲れさまと言っておこう。明日三つのクエストを受けてランクアップ試験に合格することが出来たら二日間クエストは休みにしてあげよう」


「本当に!絶対に合格してやるっ!」


 そんなにしんどかったのか可哀想に。

 とりあえずそろそろ休息を入れないとマルクが体を壊してしまうので、適当に理由をつけて休息を与えようと思ったのだった。


「まあ、クエストはやらなくても夜に筋トレと稽古はやるからな」


「はーい」


 一週間で大分ラフになって来たな。

 まあ別にいいけど、師匠と弟子って言うか友達みたいな感じだな。

 色々と文句は言っていたが、マルクは毎日クエストと稽古をこなしていたので、すぐに効果は出てないだろうがEランク試験には合格出来る位には努力していたと思う。

 試験内容は分からないがとりあえずマルクなら大丈夫だろう。

 逆に筆記試験があれば俺の方が危なかったりする。

 翌日、俺達はランクアップ試験を受けるための三つのクエストを受けたのだった。


「クエスト内容が庭の芝刈りと商人の行商の準備の手伝いと教会の鐘の清掃か」


「行商の準備は昼からだけど、どっちからいくリデル」


「午前中で芝刈りと鐘の清掃を終わらせるぞー」


「えっ!?なんでいつもそんな無茶な事ばっかり言うのさぁー」


「めんどくさいから芝刈りは俺がやるから鐘の清掃やっててくれ、終わったらすぐ行く」


「いや、でも庭の面積凄く広いよ?」


「大丈夫大丈夫、一瞬で終わらせるから」


「まあそう言うなら出来るんだろうけど、リデルってやっぱり規格外だよね」


「まあそうだな、分かったらさっさと行ってこい」


 俺はマルクと別れて芝刈りをする庭の持ち主の所に行き、簡単な説明を受けてから作業を開始した。


「さて、始めるか」


 俺は重心を落とし、腰に下げている刀に手を当てて抜刀術の構えをとった。


「弐の太刀『花月』」


 俺は抜刀術スキルの花月を発動すると、俺を中心に周りの芝が一定の長さに切り飛ばされたのだった。


「よし、どんどんいこー」


 そんな調子で芝を切り飛ばしていき、3㎞程の庭の芝を一瞬で切り飛ばしたのだった。

 どちらかと言うと、切った後の芝を集める方が時間がかかった。

 一時間半程で芝刈りを終わらせた俺は、依頼主に確認のサインを貰った後にマルクのもとに向かったのだった。


 マルクのいる教会に着くと、マルクは鐘を地面に下ろし拭いている所だった。


「マルク、調子はどうだ?」


「あ!リデル本当に早く来たんだね。こっちはさっき鐘を下ろしたばかりで今拭き始めた所だよ」


「そうか、じゃあ俺も拭くのを手伝うよ」


 鐘を拭き始めたのが9時で、拭き終わるのに二時間半掛かってしまった為、鐘をもとの場所に戻すのは俺が急いで行い次のクエストに向かった。


「やっと終わったか。マルク、急いで次の場所に向かうぞ」


 ランクアップ試験の受付が16時までなので、今日中に試験を受けようと思うと、後4時間程でクエストを達成しなくてはいけない。

 俺達は急いで商人のもとに向かい、クエスト説明を受けてから急いで作業に取り掛かった。


「終わりましったぁー」


「は、早いねぇ。夜まで掛かると思ってたんだが、まあとりあえずクエストは完了だよ、ありがとうね」


 現在の時刻15時30分

 クエストの報告等の時間もあるので今から急いで向かわないといけないのだが、距離的にマルクの走る速度じゃ間に合いそうにない。

 仕方ない、せっかく急いでクエストを終わらせたのに間に合わなかったじゃあ意味がないからな。


「マルク、ちょっと歯食いしばってて」


「え?なんで?」


「舌噛まないために」


 そう言って、俺はマルクを抱き抱えた。

 小脇に抱えても良いのだが、全力で走るつもりなので片手だと落としてしまいそうだったのでお姫様だっこをしたのだった。


「ちょっ!リデル!下ろし─」


 何か言っていたようだが時間が無いので俺は全力で走り出した。

 人混みを走ると危ないので、空歩で家の屋根に飛び乗り飛び移りながら冒険者ギルドを目指した。

 10㎞以上の距離を5分程で駆け抜け、クエスト報告に10分程掛かったが無事に達成し、そのままランクアップ試験の受付も終えたのだった。

 試験の開始は17時かららしいので、その間に控え室でご飯を食べながら休憩をとった。


「し、死ぬかと思った」


「まあ、間に合って良かったじゃないか」


「いや、そうだけど、なんて速度で走ってるのさ!」


「ははっ、楽しかっただろ?」


「一ミリたりとも楽しくないよ!」


「そんなに怒るなよ、間に合ったんだから良いだろ?」


「うるさい!なんで僕が女の子にお姫様だっこされなきゃいけないのさ!」


「細かいやつだなぁ」


 そんな会話をしていると、控え室の扉がノックされた。


「すいませーん、そろそろ試験が始まりますので訓練場に来てもらっても良いですか?」


「はい、今行きます」


 そうして俺達は訓練場に向かったのだった。

 訓練場に入ると、一人のジャージのような服を着た男の人が立っていたのだった。

 この世界にジャージがあるのか、欲しいなぁ。


「君達が本日のランクアップ試験の参加者か」


「はいそうです」


「ふむ、君達の名前は?」


「僕はマルクです」


「俺はリデルだ」


「む、可愛い声なのに男っぽい喋り方だな」


「うるさい、ほっとけ!」


「どちらとは言ってないのに、やはり自覚があるんだな」


 この野郎!1度黙らせてやろうか…


「リデル抑えて、殺気出てるよ」


「分かったよ…」


 これじゃあどっちが弟子か分からないな。


「それじゃあ試験を始めようか、試験は簡単な戦闘だ」


「あんたを倒したら良いのか」


「はっはっはっ、それでも良いが、それではAランク試験になってしまう」


 てことはこいつはAランクかそれに準ずる強さって事か。


「それでAランクになれるなら是非今すぐにでも受けたいね」


「リデル、止めなって」


「力だけでなれるほどAランクは甘くないさ、実績を積み重ねて挑戦しに来るといい。さて無駄話はこれくらいにして試験を始めようか」


「それでなにしたらいいんだ?」


「君達には僕のペットと戦って貰う。見事倒せたら君達は晴れてEランクだ」


「なんだ、それだけか」


「まあ、頑張ってくれたまえ」


「リデル、どっちからいく?」


「マルクから行きな」


「分かったよ!」


「マルク君からでいいのかな?」


「ええ、武器とかはどうしたらいいですか?」


「自分の持っている物を使うといい」


「そうですか」


「さて、では始めよう。おいで、ワーム」


 きもっ!なんかウネウネしてるしよくあんなのペットにしてるな。

 召還された魔物はワームという下級の魔物だった。

 強さ的にはスライムより少し強い程度の最下級と言ってもいいほどの雑魚モンスターだった。

 Eランクでこの程度か、俺が思ってる以上にこの世界の水準は低いのかもしれない。


「では、始め!」


「キュイィィイイイイ」


 試験官の掛け声と共に、奇声をあげながらマルクに向かって突進していくワーム。


「フッ!」


 マルクが小さく息を吐きながら剣を振り下ろすと、向かってきていたワームにクリーンヒットし、ワームは真っ二つに引き裂かれながら気持ち悪い色の体液を撒き散らして送還されていった。


「凄いな!合格だマルク君!」


「あ、ありがとうございます」


「下級の魔物とは言え、一撃で真っ二つにするとは、なんで君がFランクなのかがわからないよ」


 こいつ、自分のペットを真っ二つにされたのにペットに対してなんの感情も無いのか…

 まあワームは知能が低いし、ペットは召還中は殺されても実際には死なないんだけどさ…


「さて、次は君の番だリデル」


 俺は呼び捨てかよ!


「真っ二つにされるのは予想外だったが、僕はもう一体ワームを飼っているから問題ない。おいでワーム」


 そしてまたウネウネしたワームが召還された。


「よし、じゃあ始め!」


「キュ─」


 ドオオォォーン!!

 ワームが奇声をあげて突進し始める前に、俺は縮地を使ってワームに近付くと、触れたくもなかったので体術スキル烈破の爆発だけでワームを跡形も残らず消し飛ばしたのだった。


「え?」


「これで合格でいいのか?」


「今何をした?」


「何って、近付いて吹き飛ばしただけだけど?」


「なんだと…」


「それで、合格でいいのか?」


「あ、ああ、もちろん合格だ、おめでとう。今日中に更新は終わらせておくから明日からはEランククエストも受けれるようになるぞ」


「それじゃあ帰るか」


「そうだねリデル」


 こうして、無事にEランクにランクアップを果たしたのだった。

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