君の首を絞める夢をみた

@Mura

第1話

君の首を絞める夢を見た。そう言ったら妻はどんな反応をするだろう。朝ご飯を食べる手を休め妻の後ろ姿を見つめる。妻は何も言わず、料理を作っている。結婚した当時は思わなかった。思いもしなかった。妻と何を話したらいいのか分からなくなるなんて。

妻からもらった弁当を提げ会社に向かう。弁当の中身は多分揚げ物。僕が好きなことを知ってかここ数年毎日のように入れてくれる。優しい、妻だ。

それなのにー昨日、見た夢、妻の首を絞めた感覚を思い出す。細い首が波打つように動いて、妻の大きな目が僕をじっと見つめていた。妻の口がわずかに開いて、何かを言いたげに、開いて、妻は死んだ。

僕は自分の手が震えるのを感じた。リアル。妻を夢の中で殺した感覚がこんなにもリアルに蘇ってくる。

会社の勤務時間も、休憩時間も妻のことが頭から離れなかった。最近会話をしていない。いや、何を話したらいいのか分からない。顔見知り程度にしか仲の良くない同僚と二人きりにされたような、そんな居心地の悪さを感じる。

一応、恋愛結婚をした。と、言ってもそんなロマンチックなものではない。

僕も妻も容姿にはそこそこ自信があったのだがお互い恋人がおらず、仕方なく余り物同士の恋愛を始めた。大学までエスカレーターの私立校に通っていたため、別れる機会も理由もなくそのままズルズルと付き合ってー今に至る。

だからだろうか、妻と会話がなくなったのは。だからだろうか、妻といてもどこか穴を開けられたような気分になるのは。


家に帰る。妻は珍しく家にいた。最近は『友達と遊びに行くの』

『バイトはじめたんだ』そう言って家を空けることが多いのに。

『ねえ』妻が話しかけてきた。笑顔で。久しぶりに妻の笑顔を見た。

『お風呂、沸いてるよ』

『ああ、了解。ありがとう』

風呂に入る。妻はいつも熱めにお湯を入れる。そこに浸かっていると不意に涙が出てきた。妻に心を開けてないのは自分だったんじゃないか。妻はこんなにも俺のために尽くしてくれているのに。

『ごめんな……』

そう呟いている自分がいた。今度、あいつをどっかに連れてってやろう。ドライブして、海を見て、10年前、僕らがまだ恋人だったときみたいに。


風呂から上がる。妻は背を向けて料理を作っている。細い首筋が見えた。不意に昨日見た夢をまた思い出した。妻の細い首を絞める夢。あれは夫婦関係がうまく行ってない不安から見たのだろうか。でも、もう大丈夫だ。

『なあ、今度の休み二人で』

『話があるの』僕がいい終わらないうちに妻が口を挟んだ。それと同時にリビング近くにあるクローゼットが開く音がした。

『お前―誰だ?』クローゼットから出てきた見知らぬ男は無言で僕の頭を掴み首を締めあげた。なかなか僕は死ねなかった。苦しみにもがく間 妻と男の声が聞こえる。

『これでやっと死んでくれるわ。油もの食べさせたり、熱い風呂に入れたりいくら努力しても全然病気になってくれないの』

『そりゃこんな若い奴は早々 心筋梗塞なんて起こさねえよ。怖い女だ。お前は』

妻が僕の顔を見る。

『あなた、まだ意識あるなら聞いて、あなた私のしょうもない嘘にすら気づいてくれなかった。友達と会う?バイト?嘘に決まってるじゃない。私、ずっとこの男とあってたのよ』

空気がない。痛みと苦しみとなぜか眠気が一緒くたに襲ってくる。

『私、愛が欲しいのーこの男の愛がね』

僕の首を絞める男が下卑た笑い声をあげる。目の前が暗くなっていった。


終わり

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