デミえもん、愛してる!

@demiai

第1話 気がつけば、そこは異世界だった

 はー……もう疲れた


 わたし--加藤那智は、1人住まいには広すぎる我が家のリビングのソファに、倒れるように寝転んだ。


 魔法使いはいなかった。

 年齢=彼氏いない歴のわたしは30という大台にのってもう幾年すぎたろうか。


 なんとなく、結婚できると思っていた。

 誰でもいつか結婚できるものだと。

 馬鹿だった。


 わたしはなんとなくレールに乗っていただけだ。

『幸せ』に通じるというレールに。


 まず偏差値のレールからはじまった。

 お金のない親の圧力から偏差値を高める努力をしつづけた結果、公立からなんとか国立大学進学することができた。


 そして、キャリアのレールに乗った。

 大学卒業後は、公務員になりこれからは女も稼げないと!と思い働きまくった。




 結果、どうなった?




 わたしは彼氏がほしかった。


 いつのころからか愛し愛されるということに強い憧れがあった。

 両親の不仲が原因かもしれない。


 本やドラマや映画の恋愛を見て、いつか、どこかに、わたしだけを見てくれる人ができると夢見た。


 どうしたら彼氏ができるだろう?


 同じクラスの学年1位の成績男子には彼女がいつもいた。


 --これだ!勉強ができたら頭がいいことを好かれて彼氏ができるに違いない!


 それからわたしは猛勉強した。

 学年256位だった成績は全国模試で6位まで上がった。


 さあ、カモン!!

 と、心の中で全方位に向かって彼氏求むオーラを放った。

 が、効果はなかった。


 なぜだ!

 廊下に張り出された成績表でも、一目でわかる成績になったというのに……!!


 男子は、わたしのガリ勉してすべての時間を勉強に投入した結果、頭ボサボサ服装適当になったわたしより、すっぴんと称したナチュラルメイクの露出度の少ない女子に群がっていた。




 泣いた。




 でも、きっと、いい大学に行けば今度こそ彼氏ができるはず!


 意気込んだわたしはさらに勉強にはげんだ。そして、念願果たして旧帝大に合格。

 努力は実った。


 さあ、これからだ!とネット検索し、清潔感重視おとなしめ服を身につけ大学デビュー。同じコマをとってる女子に誘われた人生初の合コンにのぞんだ。

 数時間後、わたし以外の他の女子メンバーに男子は群がっていた。

 なんだこれ、前にも見たことあるぞ。


 わたしの周りに男子は一人も集まらない。

 一言、二言会話を交わすと、

「あ、飲み物が……」

「ちょっとトイレ……」

 と席を立って戻ってこなかった。


 なぜだ。


 意気消沈しながら帰宅。





 泣いた。





 それからモテない原因を究明するため分析。

 考えられる理由は多々あるが、まずわたしはコミュ能力がほぼ欠如していた。レポート発表のような専門用語説明はできても、日常会話による対話は壊滅的だった。


 だって、1日19時間勉強していたんだよ!


 いくらマルチリンガルで28ヶ国語が話せても、合コンではなんの好感エフェクトももたらさなかった。


 そして学歴ハンデ。


 合コンの男子メンバーは主に早稲田、慶応、青山、東大。

 女子メンバーは、フェリス、お茶の水、日本女子。

 男子は、彼女に東大学歴は求めない。

 むしろ学歴コンプを刺激してさけられる。


 だが、わたしを合コンに誘った子は、同じ東大生なのに男子と話が盛り上がっていた。

 なぜだ。

 はっ!顔か?顔なのか?そうか、顔か……。


 その後、何度か合コンする機会に恵まれるも、「東大女子」ということや、自分を知ってもらおうと頑張って自分の意見をはっきりいうとひかれた。

 心が折れたわたしは合コンに参加するのをやめて彼氏ができないまま卒業した。


 だがしかい!まだ、あきらめない!


 時代は少子化。そして不景気。

 男は女にも稼ぎを求めるはず。

 稼ぎのいい女になれば、より良い生活を望み結婚したい男はよってくるはず……ふっふっふ。


 大学卒業後、公務員キャリアになって働きまくった。

 恋愛向きな会話はできなくとも、年功序列、派閥配慮、他人をたてることは得意だったわたしは、ご年配の方にやたらと好かれて出世した。

 そして100億単位のお金を動かすことが当たり前のポストにおさまった。


 これくらい稼げば……!顔やコミュハンデなんて……!愛する夫と可愛い子供達と心地よい家がわたしにやっと……!





 --できなかった。


 出会いはあっても、自分より稼ぎもポストも上の女は嫌厭された。

 いわく、「可愛くない」そうだ。けっ。

 可愛くなくて結構。愛し愛されるなんて、理想を現実に求めたのが間違いだった。

 現実にいるのは、わたしをネグレクトしたくせに借金の無心してくる親と、わたしには見向きもしない男たちと、結婚したことを鼻にかけて見下してくる女たち。

 もういい。

 わたしは現実に希望を抱くのを諦めた。



「はあ……」



 わたしはため息を吐きつつ、リビングのサイドテーブルに置かれた愛読書「オーバーロード」を手に取り読み始める。

 この本はわたしの心の癒しなのだ。


 読み始めのキッカケはよく覚えていない、おそらく旧与党の税金使用問題の火の粉がこっちにまで飛んできて対応に追われ泊まり込み徹夜が4日過ぎて「思いで人が殺せたら……!」と追い込まれた頃だったろうか。


 帰宅後ふらふらとソファに半ば倒れこむように埋まり、手だけを動かしたつけたテレビに困っている骸骨キャラのアニメーションが映っていた。骸骨の困りよう、周りからのプレッシャーとストレス、それが自分とかぶったような気がして、なんとなく原作を探してストレス発散に読み始めた。






 --そこで『彼』に出会った。


「はああああん!!かっこいい!かっこいい!デミウルゴス!なんでこんな色々できちゃうの!モモンガちゃんのフォローはさりげなくて、外交、内政、軍事は完璧なくせに、モモンガちゃんの言葉を深読みしすぎて勘違いしちゃうピュアさ!ああーん!!!」





 --わたしの運命の出会いだった。






 ***







 現実に疲れたわたしのこころにオーバーロードの万能悪魔デミウルゴスはすっと入りこんだ。


 ああ、彼のような部下がいたら。

 ああ、彼のような上司だったら。

 ああ、彼のような彼氏がいたら。


 え……彼氏……だと、……彼氏……!?わたしは何を考えているの!だって彼は現実にいないのに。


 はっ!?これが『もえ』というもの?『にじげん』に恋をすると『もえ』なのよね、たしか……。

 いままで出会わなかったはずだわ、だって、彼は三次元(現実)にいなかったんだもの……。


 ああ、わたしの心の(勝手に)彼氏デミウルゴス。


 旦那様にしたい。


 心はモモンガちゃんを思うアルベドのよう。


 はっ!

 ということは愛してるってこと?




「やだー!やだ!わたしったら!」



 おい考えろ年齢、とうっすらおもいつつもわたしは突っ走るコトにした。好きなものを好きと言って何が悪い!!


 それから私はすぐに書籍全巻を5セット注文した。

 リビングと、キッチンと、お風呂と、ベッドルームと、保管用だ。


 アニメーションのBlu-rayも注文した。

 モモンガちゃん、いえ、アインズちゃんが、シャルティアの戦うシーンで激怒するデミウルゴスにキュンとした。


 通勤途中に、勤務中休み時間に、寝る前に、半身浴中に、何度再生したことか。


 冷静沈着、クールキャラにみえて誰よりも至高の41人を、ナザリックを大事に想っているのよね。そんなギャップもたまらない。

 私もアインズちゃんのようにデミウルゴスに大事に想われたい。はぁ。

 私がナザリックにいたらデミウルゴスの助けがしたいわ。国家運営ならいまやってるし、少しは役に立てると思うのよね。

 書籍とアニメはアルベドがいるから少しは楽かも知れないけれど、アルベドはアインズちゃんのためにやってるから。


 web版なんて完全にデミえもんだより。過労で死んじゃうわ。悪魔だけど悪魔だからって働かせすぎはよくないと思う。

 でも、きっと、デミウルゴスは、役立てることが自身の存在証明だとか、価値だとか考えてるから、気にしないのよね。

 こんなにナザリックを想っているデミウルゴスのこと考えてくれてるキャラいないなんて。


「私がいたら支えてあげたい、手助けしたいのに。おやすみなさいデミウルゴスちょっとは休んでね」


 今日もデミウルゴスを愛して電気を消して就寝するためにベッドにもぐる。

 彼におやすみの挨拶をするようになって、ちゃんと睡眠時間を取るようになった。

 ほら、他人には休めっていうのに自分は休まないって、説得力ないでしょ。

 わかってるよ、こんな風に『にじげん』のキャラに挨拶するのはおかしいことなんだって。


 でも、それでも、好きだから。



 《さすがアインズ様!》


「あ〜さすアイデミウルゴスおはよう〜朝からアインズ様ベタぼれデミえもんかわいい〜よーし今日もがんばろー!」


 ぶくぶく茶釜ウォッチを真似て、モーニング音にアニメのデミウルゴスの音声をセットした時計を作って大正解ー朝からみなぎるわー。


 わたしは毎日、運転手がくるまでに朝のランニングをしている。もう食べて寝てるだけで、燃焼されるほど基礎代謝高くないからね。

 人気のない早朝の公園を、イヤホンでオーバーロードのエンディングを聞きながら走り抜ける。


「う〜ん、この歌詞のアルベドの気持ちとっても共感できるのよね〜。わたしもこんな風にデミウルゴスを「ドスッッ!!」……て、えっ」


 突然の横から衝撃にわたしは横に倒れた。一体なに……。


 ぬるっ


 え……。なに、こ、……。


「なんで!なんで!あんたたち公務員は!!!検討しますって!!口先ばっ、か、り!!」


 ドス!ドス!ザク!ザクザク!ザクザクザクザク!!


 あ、熱、熱い、身体中、、あつ、、、。なに、。


 音が聞こえなく、あれ、イヤホンはずれた?


 イヤホンが耳からはずれたのを戻そうとしたけれど手が持ち上がらない。


 あれ、え、、、……。


 声も、で、な……。


 ……。








 ***









「美代ー!朝から鏡みるのやめなさい!はやく学校に行きなさい!」

「この角度が一番いいなあ、ホロ写のこしとこ」

「美代!!!」

「はーい!」


 行ってきます!と母に言いながら出かけます。


 わたしは加藤那智……ではなく、高崎美代です。

 端的に言えば、加藤那智は死にました、多分。

 すぐ意識なくなったからわかりませんが多分あれは刺されました、いやー、不景気は政府のせいですから、仕方ありません。気がかりになる愛ある家族もいませんし、仕事で過労で死にそうだったので、さほど痛みなく意識をなくして死んたこともあり、未練も恨みもありません。


 それより赤ちゃんに生まれ変わってパニくりました。

 だって、身体は自由に動かせないし(首もすわってない)、

 言葉は話せないし(バブー)、

 よく見えない(焦点が定め慣れてない)。

 まわりはでっかいものがうごめいてたし(病院で大人の看護婦たち)。こわいこわい。


 生まれ変わってラッキーて思いました。だって彼氏いないまま処女でアラフォー突入しそうだったから、やり直しできるならやり直したかった。

 現世の情報を集めたら、生まれ変わった世界が前世と同じ世界のちょっと未来だとわかって、前世での失敗の経験をもとに今度こそ彼氏獲得のため有効手段を選択してやる!て思ったのです。

 前世はー。

 男の脳みその考え方?女と全然ちがうということがわかってませんでした。

 男はぶっちゃけ学歴なんか見てません。もっと別のところ見てます。男同士で自慢できる女を嫁にしたいと思っています。だから女は外見が一番重要。見た目8割。ううん、9割で判断されます。

 なので、前世では彼氏獲得したくて料理教室行ったり着付け教室、茶道教室にいって自分磨きしたけれど、努力する方向間違ってました、婚活には何の役に立ちません。

 料理できてもブスじゃだめ。逆に可愛ければ料理なんかできなくてもいい。


 わたしはこれから外見を磨きまくます、幼稚園の今からやればのびしろはいっぱいありますし。

 見た目は、清楚っぽく、黒髪基本。ナチュラルメイクばっちり。脱毛は小学生から。足が長く細い方がいいから、正座はしない、余裕があればバレエを習います。話し方の声のトーンも大事です。可愛く見える角度は鏡でチェックは欠かせません。


 え?あざとい?

 ところが男が可愛いって思うような女子は全員やっていることなんです。そんなことない!きっと全部計算なんかしてない!て?

 そうですね、男は、女はそのままのありのままの素が可愛いところがあると信じたいですよね、でもそんな女は一人もいません。


 いい例があります、前世のわたしはどうだったでしょう?

 自分でいうのもなんですが、素のわたしって性格可愛かったと思います、勉強ができて頭がよくなれば、お金をたくさん稼げれば、パートナーを助けお互い支え合っていけるはず、と単純でした。

 だけど、そんなわたしの素の単純さを重要視した男はいませんでした。役に立つかどうかじゃなかったんです、性格より見た目や、話し方。

 特にみーんな見た目の可愛い女、外見がまずあってそれからプラス女の実家に権力か金があるのに惹かれてました。

 それでわかりました。

 女と男のカップルは、釣り合いが取れないと成立しないって。

 釣り合いっていうのは、別に顔面偏差値が同じくらいという意味ではなく、お互いに求めるものを相手に提供できるか?ということです。前世のわたしの外見はブス。

 彼氏がほしいなら、まず外見磨き、うんがんばります。

 男の脳みそ言語、それにあわせた話術、あと男の劣等感を刺激しない程度のお金と学歴、トロフィーになるような見た目の評価、あとそれから……。


 あって困るのは男より抜きん出る部分です。

 相手の男に寛容さを期待できない場合(大体期待できないと考えたほうがいい、これは女も同じ)劣等感を刺激するようなところは相手より抜きん出ないようにします。

 容姿はいくら飛び抜けてても困りません、女の優れた容姿は男のトロフィーになります。


 女のすべてを受け入れられるような男は存在しません、女だって同じことが言えます。自分の劣等感を感じさせるような相手とは誰だって結婚したくないでしょう。


 だからわたしは問題ない見た目を磨いて努力します。いくら努力してもやりすぎにならないいいところがあるっていいですよね。

 そして今度こそ理想の彼氏を獲得するんだ!

 


「おはよー」

「おはー、ね宿題やった?」

「まーた?」

「お願い!美代様!このとーり!ちょっと昨日ゲームやりすぎちゃって」

「あれ、鈴ってゲームしないでしょ、親に止められてなかった?」

「それが、面白くってさ〜。親戚のうちいったらすごいんだよ。

 新しいの、体感型ってやつ?

 アトラクションみたいに入るところがあって、

 なんかゲームとは思えないくらいよくできてた」

「……それって」


 まさか、


「DMMORPG?ておじさんいってた」



 --まさか。




 学校では、ホロW(時計型ホログラムスマートフォン)の使用は禁止されているので、じりじりとお遊戯や昼寝やご飯が終わるのを待って、待って、終わったら一緒に帰る家族を急かして急かして家に帰りました。


 母が夕食の支度をしている間に、母のホロPCを外部ホロモニタに切り替えこっそり検索します。幼児は直接接続できません。身体基礎が出来上がるまで子供を有害な情報に接触させないよう法律で決められています。


 だから知りませんでした。


「……DMMORPGがあるなんて」


 --まさか。


 ははっまさか。

 うん、なんか、わたしの早とちり。

 そう、早とちりだよ、やっだなー、あるわけないじゃん、ユグトラシルなん、て……。




「あった……」


 検索結果には、

 〈Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game『ユグトラシル』来年春βテスト募集開始!!さあ神話と混沌の世界へ誘おう〉そう、表示されていました。


 焦る気持ちをおさえながら、ホロWのホロコンソールキーボードを叩きまくりながら高速検索します。

 公式サイトには、来年βテスト開始とあるだけでまだ公開情報はすくないよう、だから確信は持てません、でも、


「そうだ、あれは何年開始だった……?

 今は……2125年だから……」




 本物のユグドラシル?




「うっそ……ほんとに!?」


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