0901から1016まで


Num.0901 ID1181

手で雲は掴めない。雲を掴めるようにはできない。世界を望みの姿に変化させる事はできない。だが自分の事なら変える事ができる。雲を掴める手にすればいい。自らを望む姿に変える力。彼等はその力を持っている。その気になれば水の上を走り風の中を駆け抜け雲をもぐもぐ食べられる……げふー。


Num.0902 ID1182

いつか140文字の小説は読まれなくなる。長いという理由で。ひとつの文で完結している小説が台頭しそれもすぐに終わる。行き着く先はひと文字の小説。そこまで辿り着けば全ての物語は既に自らの中に収められている。そのひと文字を見て物語を思い出すだけ。新しいものは無くなる。


Num.0903 ID1183

その日の朝、太陽は昇らなかった。だから僕らは太陽を迎えに行く事にした。でもそれに反対する者たちもいた。風邪でも引いていたら大変だ。くしゃみひとつで文明が後退してしまう。それでも僕らには太陽が必要だ。風邪を引いているなら栄養をつけさせて元気に燃えてもらわなければ。


Num.0904 ID1186

実験体にされた男。口から出る言葉、書く言葉が思ったものとは異なってしまう。集中して言葉を発しても二文字目には別の言葉が発せられる。だが集中すれば一文字目だけは意思通りに発す事ができる。そこでその男は単語を大量に書き出して紙を破った。手元の紙に残ったのは一文字目だけで綴られた文章。男はこうして意思を伝える事に成功した。だが僅かな言葉を伝えるだけでも酷く疲労する。一文字目を意思通りに書くには強い集中力が必要だった。思い通りにいかず僅かでも苛立てばその瞬間に筋肉に力が入り筆を折り紙を破き机を叩き壊す。そしてそれは自らの人生に絶望をもたらす。もう何もできない。部屋の中は破壊され尽くしていた。足の踏み場もない。原形を保っている物などありはしない。だがそんな部屋の中にも規則正しいものはあった。それは壁に書かれていたいくつもの単語。縦に読めばただそれだけの単語。だが横に読めば男の伝えたかった事が理解できる。元は赤い文字だったそれも今は黒い。壁には怒りと憎しみに満ちた単語ばかりが書かれている。恐らくそれしか書けないようにされてしまったのだろう。憎悪と暴力。その中で男が横に綴った意思はそれらとは切り離されたもの。だが肝心な部分、名前が入るであろう部分が黒で塗り潰されている。壁際には男の亡骸。突き刺さったままの錆びた剣。


Num.0905 ID1187

「子供でいる事が嫌だった。子供である事は無力そのものだった。無力による苦痛に抗う事もできず、無力がもたらす苦痛から逃げる事もできなかった。早く大人になりたいと願った。そして大人になってみてようやく分かった。無力なのは子供だったからじゃない。俺が無力なだけだった」


Num.0906 ID1189

「マイノリティや反社会性が露呈すると必ず訪れる、作ったポーズだ、それが格好良いと思ってんの、という決め付け。だがそんな一部の中学生にしか通用しない下らないものよりもこの苦しみがなくなる方がどれだけ幸せか解ったもんじゃない。格好つけてんじゃない。堪えてんだよ」


Num.0907 ID1190

夜。強い雨が降ると僕は窓から外を見る。誰も歩いていない道。ただ落ちてきた雨粒が砕ける音が響くだけ。それでもずっと見る。いつも通りを期待して。ただ雨が降り続ける風景。そこに現れたのは。傘も無い。カッパも無い。強い雨の上ずぶ濡れで顔は見えない。張り付いた服が女性である事を分からせる。強い雨の中で上を向いて手を広げたり手を掲げて口を動かしたりしている。雨音で何を言っているのか分からない。何も言っていないのかもしれない。彼女は雨の中しばらく打たれたら立ち去って行く。僕は顔も声も名前も知らない。どんな人なのかも。でも彼女に心を奪われたんだと思う。だから今日も見る。勇気を出して傍にまで行ってみた事もある。あの時は傘に隠れて歩いた。そんなに近くまで行く度胸はないから道の反対側をすれ違う。その時に彼女を見る事にした。一歩一歩、鼓動が早くなる。一番近付けた時、傘を上げて彼女を見た。顔は濡れた髪で隠れ分からなかった。でも口元。歪んでいた笑っていた。目が合った。気がした。見えないのに。僕は耐えられなくなり傘で遮って逃げた。家に帰って気付いたのは服が内側から濡れていた事。見たのは一瞬だったはず。でも汗が吹き出していた。それからは近付いてない。僕があの時に感じたものはなんだったのか。それも分からない。ただ何か。感じられないもの。今日も窓から外を見る。あの日に感じた感じられない何かをまた求めて。もう誰も立つ事はない。それでも目に焼き付いたあの姿が見える。その姿を見ながら僕はただひとり探し続けている。だが見つけられない。思い出すのはあの笑みと。ただ傘を握る手。この傘を手放せたなら。彼女の隣に立てるだろうか。


Num.0908 ID1191

あー。珍しく話し掛けられた。極稀な事だ。大抵は横目で睨んで通り過ぎるだけ。まともに見られる奴なんていない。関わり合いにはなりたくない癖に目だけは興味から逃れられない。馬鹿馬鹿しい奇異の視線を向けられるばかり。話し掛けられたのは初めてではないが不快にさせられなかったのは初めてだ。買い物の帰りだったらしい。びしょびしょの果物を渡された。礼らしい。何かあげたつもりはないが勝手に受け取ったらしい。逆さまになった傘に雨が溜まりその中で金魚が泳ぐ。構わず傘の柄を持ち水を地面に流す。金魚は気にせず雨の中を泳いでいた。見ていたらくれたので電話にくくりつけておいた。また会えた。どちらかが望んだからだろう。こちらではないのであちらだろう。それとも金魚が望んだか。用など無い。待っていた訳でもない。いつも通り。ただそうしていただけ。ずっと変わらない。いつまでも変わりはしない。それでも。この変化は。今だけのものだとしても。悪くはないものだと思える。次はない。今が全て。そして今は。まだその時ではない。だから何も変わらない。ただ手首を掴んだ。握り潰してやろうとした。この手にそんな力が入るとは思えないがそれでも。雨粒が蒸気になる。狂気が冷えていく。知っているなら教えろ。それとも。ただ振りをしているだけか。止めろ。雨を退けるな。そんな答えでは納得できない。それで何かを動かしたつもりか。この熱が冷める前に。この想いを感じられる内に。ああ。冷めていく。失われていく。こんな事で何が変わると言うのだ。もし貴様の言葉が嘘だったら。その首に爪を立てて。痛みと苦しみの内で殺してやる。感謝しろ。それが貴様の望みだろう。


Num.0909 ID1192

私が取るに足らない下らない男であるという事実。それを彼女に知られるのが怖い。いつか彼女はその事に気付き私に見向きもしなくなるだろう。だがだからといって彼女の望むものにも成れはしない。こうして虚像を映し出しているだけの誤魔化しなどすぐに見破られてしまうだろう。彼女にはその目がある。虚像の先に何かあれば良いが私には何もない。方々から広い集めたがらくたで自らを保っているがその中にいるのはただ怯え震えるだけの惨めな私。何ものをも恐れ触れず受け入れず拒否するだけを繰り返し続けてきた。手に入れる事は叶わず無為に中空を掴み続けている。この手のひらは未だ何も得られない。得ようとしたものを空振る手は意図したもの。何も持たず誰も知らずただ静かに流れ揺蕩うのみ。それが全て。きっと彼女が通り過ぎて行く事もただ流れのひとつとして終わらせてしまうだろう。自らが恐怖する程の事。それでも変わろうとはしない。掴もうとせず今回も何かを見送っている。何が潜んでいる。恐怖。そして悲しみ。得たものを失う。それはとても強い痛み。傷付く事への躊躇い。それが自らの枷になり踏み出す事を恐れさせている。だがそれは自らの底にあるものではない。私はそんな感傷的な男ではない。見えるのは怠惰。虚無の内にあるものはその恐るべき獣だろう。あらゆる感情を無力にする獣。要するにナマケモノなのだ。虚無の中には毛むくじゃらの動かない獣が一匹いるだけ。その事を彼女が知ればこの存在すら感じられなくなるだろう。この怠惰という獣に為す術もない。命さえ奪われそうだ。飢えと渇きを踏みにじり体の動きを奪う。考える事、想う事を封じ込め自らを失わせる。集めなくては。


Num.0910 ID1193

「いつも似たり寄ったりで朝飯も飽きてきたなあ」「そんな時にはこれ! 今までに味わった中で一番美味しいものの味ふりかけ。ご飯にこれをかけるとねっ」「いや説明はいいや」「早速ふりふりかけかけ」「ん。なんか怒りがこみ上げて……」「ごめん。それアタシの屈辱感みたい」


Num.0911 ID1194

「確かに……彼女を解体して臓器を他の患者達に移植した。そして患者達から取り除いた病魔に蝕まれた臓器を彼女の体に戻した。そんな事をして何になる訳でもない。これはただただ私の心を慰める為にした事だ。それなのに……」「にゃに?」「どうして生きているんだ? お前」


Num.0912 ID1195

「うう……漏れそう……おっ、あの店トイレありますって……よし」「いらっしゃいませー」「あのすみませんがトイレを貸して……」「当店ではレンタルは行っておりません」「そうでなくてですね……」「はい、どちらに致しましょう?」「……便器を販売なさっていなさる?」「はい」「あのですねできればトイレを使わせて頂きたいのですが……」「お試しでのご利用はお断りさせて頂いているのですが……」「そうでなくて」「店の中に臭いが……」「そうでなくて」「でも、他にお客さんもいませんし……特別ですよ?」「そうでなくて」「ささ、早目に済ませて下さい」「そうでなくて」「目を閉じて耳も塞いでますから」「そうでなくて」「でも臭いはどうしたら」「洗濯バサミを使えば」「あっそうですね」「聞こえてますよね?」「はっ!」「あなたが普段使っている店のトイレを使わせて頂けないでしょうか?」「……このトイレ達」「はい?」「そんなに魅力が無いですか?」「はい?」「店長が一生懸命集めた選りすぐりのトイレなんですよっ」「ここの便器に魅力があるかどうかではなくてですね」「ほらこの流線型のフォルムなんて翼をつけたら飛びそうですよ」「便器に?」「こちらなんて人間工学に基づいたもので座ったまま長時間のデスクワークをしても腰に負担がっ」「トイレで?」「他に」「あのっそろそろ限界……」「仕方ありません。とっておきの情報を教えましょう」「では」「ここに便器があるという事はこの店がトイレなのです」「は?」「ここでしてもトイレで排泄したという事実だけが残ります」「で?」「だから大丈夫です」「未来の記憶ではなく今の問題を何とかさせて」「ですからこの便器を使ってもいいって言ってるじゃないですか」「できませんってっ」「どうしてですか? こんなに良い便器なのに」「そういう問題じゃありませんよっ」「はっ……大丈夫ですよ。私が片付けますから。お客様は安心して……」「その問題でもないですっ」「なら何が問題なのですか……」「ならあなたは今この便器でできるんですか?」「きゃあ変態」「その言葉そっくりお返ししたいです」「従業員が売り物に手を付けられる訳ないじゃないですか」「ならどこでしているんですかっ」「この店の裏手に草むらが」「外で!?」「その向こうのコンビニで」「借りてるの!? 売ってるのに!?」


Num.0913 ID1196

確かにボタンを押したのは僕です。でも決してイタズラのつもりは。仰る通り何度も連打してしまいました。だっていつまで経っても切り替わらないから……。横断歩道が渡りたかっただけなんです。だって思わないじゃないですか……。歩行者用押しボタンの形をした呼び鈴だなんて……。


Num.0914 ID1197

私の目は貴女を見る為に。私の鼻は貴女を嗅ぐ為に。私の耳は貴女の音を聞く為に。私の口は貴女の唇と重なる為に。私の手は貴女に触れる為に。私の足は貴女と歩む為に。私の腕は貴女を抱き締める為に。私の体は貴女と折重なる為に。私の心は貴女に焼かれる為に。 私は貴女の為に。


Num.0915 ID1198

男「はい。睡眠薬入りのジュース」女「眠ってる間にイタズラする気でしょー」男「うん」女「そんなの要らないよー」男「でも痛いと思うよ?」女「大丈夫、アタシ我慢強いから」男「それじゃあどれがいい?」女「……なにそれ?」男「改造後の完成予想図」女「貴様ショッカーか!?」


Num.0916 ID1199

患者「先生、人間に最適な睡眠時間って何時間くらいですか?」医者「23時間半ですな」患者「寝過ぎ!?」医者「最新の学説では1日23時間半ぐっすり眠れば健康そのものという噂ですな」患者「時間があっても23時間半も寝てられませんって!」医者「それは不健康だからですな」


Num.0917 ID1200

この植物は紙を接触させると表皮がへこみ腺毛が紙を掴みます。この状態で5分程待つ事でA5程度の紙であれば持たせる事ができます。更に数時間待つと液体が分泌され紙に浸透し徐々に結合していき3日も経てば完全にひとつになります。これが今私達の住んでいる世界樹の苗木です。


Num.0918 ID1201

この問いが僕等の関係に影響を与える事もないだろう。そんな心配はする必要もない。これからも今まで通りが続く。いつも通り。きっと今はそれを積み重ねる事が重要なのだろう。辿り着きたいいつかの為に。だから僕は彼女に尋ねた。そう、なんの気なしに。「ねえ、なんの木?」「梨」


Num.0919 ID1202

「何も雨の日に殺さなくたっていいのに……」「殺した後に雨が降り出したのだと思いますよ」死体は川のすぐ近くにあり今にも落ちそうになっている。探偵は死体を見て言う。「いや多分雨が降ったから殺したんだと思うよ」「何故です?」「きっと犯人は水に流そうとしたんでしょう」


Num.0920 ID1204

「貴方の吐いた嘘の中で一番酷い嘘ってどんなものかしら?」そう言われ僕はハッとした表情で彼女を見た。その瞳は僕の心を見透かすようで嘘や誤魔化しは通用しない。本当の事を言うしかない。「……東の果てには黄金の国ジパングがあるって」「貴方がマルコをそそのかしたのね!」


Num.0921 ID1205

どちらをより愛しているか問われれば確かめようがない。私の愛は池のようなもの。その強さは大きさではなく深さで示される。どちらをより愛しているか知りたければこの愛に沈み底を探すと良い。だがそれをすれば必ず溺れる事になるだろう。何故なら私の愛は許し。あなたの全てを許す事。


Num.0922 ID1206

先へ進めば進む程、今来た道を通り過ぎなければならない。先へ進めば今までを失いこれからを得る事になる。同じ速度で進む者はいない。誰かの理解を失い新しい理解を得る。先へ進み続ける貴女へ。私が貴女にしてあげられる事はここまで引きずり下ろす事。だから今は安心して進んで。


Num.0923 ID1207

穴から声がする。「助けてくれー」通りかった男。「俺か?」「良かった人がいた助けてくれー」「俺か?」「そうだよ助けてくれー」「お前が俺でも俺はここにいるからお前はいない」「何言ってんだ助けてくれー」「俺は無意識に助けを求めているのか?」「おーい」「早く帰って寝よ」


Num.0924 ID1208

水平線に沈む太陽を見送った後に訪れたのは月のない夜。もう空の上で光を跳ね返すものは何もない。ただそこには暗闇があった。吸い込まれそうな押し潰されそうな暗闇を見上げかつて見えていた星座を思い出そうとしてももう何も分からない。失われたのだ。私の中でさえ生きられない。


Num.0925 ID1209

大天の暗き海。輝くは有限の理。自ら存在を示す者も。照らされ存在を現す者も。入り乱れ自らの位置を示す。彩りを添える星は。天球の中で泳ぎ。見る者を見る。地に縛られ星を見上げる者達は。星から見れば地にある彩りの星……。私達は……。輝いているのか? 照らされているのか?


Num.0926 ID1210

彼らに話掛けられるとどうにも苛々としてな。つい自分を傷付けてしまうんだ。腕をコンクリートに叩き付けたりな。だが彼らは何も悪くない。悪いのはどう考えても私だ。しかし他人が傷付くなら問題だがどうせ傷付くのは私だ。私に問題があり私が傷付く。つまりは何の問題もないな。


Num.0927 ID1211

私がこの世界で飲み込んだものは嫌悪と拒絶。他にも沢山のものを飲み込んだのにその他のものは全て出て行ってしまった。残ったものはこのふたつだけ。いやそのふたつも嫌悪し拒絶したのかもしれない。このふたつは飲み込んだからあるのではないのだ。このふたつは私を守る為に……。


Num.0928 ID1212

嫌悪や拒絶はこの世界から自らを守る為に自らが生み出した免疫のようなものだ。だが強力過ぎるそれは望んで自らの中に収めたものであっても吐き出させてしまう。好きだったものを嫌いにさせ受け入れたものを拒ませる。何もかもを吐き出させ純粋化されたそれは既に人の身には重過ぎる。


Num.0929 ID1213

月の表面に太陽光が当たり反射したものが地球に降り注ぐ。だがただ反射させる訳じゃなく太陽光は月の表面で波長を変化させ性質を変える。月光と呼ばれるものだ。そしてそれを直接浴びる事で肌が白くなり体毛が薄くなるという研究結果が近頃発表されたからこうしてだね、お巡りさん。


Num.0930 ID1214

無人の航空機ならひとつ知っている。誰が何の為に作ったのかは知らないが夜空によく見かける。おそらく私達を載せているものと同系統の機体なのだろうが大きさは遥かに小さいし作りも雑だ。いや無人機故に洗練した結果なのかもしれないな。なのにどうして人を載せたがるんだろうな。


Num.0931 ID1215

自転車を逆さまにしてみるともがき始めた。ペダルとタイヤは回転しスタンドは激しく動いている。しばらく放置していたら疲れたのか動きが弱まった。ブレーキワイヤーをペンチで潰したら変な音で鳴いた。気持ち悪いので蹴飛ばしたら横になってのたうち回る。これはもう既に自動車だ。


Num.0932 ID1216

人生がどんなに楽しくないものであっても生きていられる。何もない人生であってもどういう訳か生きてはいられる。毎日毎日「つまらない」「生きている理由がない。意味もない」と呟き続けて最早それは口癖となった。それなのに生きている事実がここにある。つまり生とは寛大なのだ。


Num.0933 ID1217

「こんなに暑いと服なんて着ていられないよね」「脱がないで下さいね」「なら冷たい飲み物を所望する」「溶かしたアイスでいいですか?」「いいよ。お前が人肌で溶かしてくれるなら」「自分の脇にでも挟みなさい」「ベトベトになるじゃん」「でもハーゲンダッツですよ?」「わーい」「木のヘラではないプラスチックのスプーンも付けちゃいますよ」「これで完璧だね」「それじゃ早速、服の中へ投入しましょう」「溶けたアイスはどうやって飲めばいいの?」「逆立ちでもしたらどうですか?」「脇に挟みながら?」「片腕と頭で斜めに逆立ちしてもう片腕で挟めば」「余計暑くなるよね?」


Num.0934 ID1218

「絵を上手に描くにはどうすればいいですか?」「道具を揃えなさい」「でもその道具を生かすにはある程度の技術が」「そんな必要がない道具を揃えなさい」「そんなものあるんですか?」「では君は例えばどんな絵が描きたいのかね?」「○×先生みたいな」「ならその人を雇いなさい」


Num.0935 ID1219

携帯電話の普及以来、減り続けている電話ボックスだが最近その数が増えているという噂がある。昨日まで何もなかった場所に突然、電話ボックスが現れたという体験も多数報告されている。だがその電話を使ってみたという報告は少ない。何故ならその電話を使うと……迷惑電話扱いだからね。


Num.0936 ID1220

「本日最初の質問者さん。質問をどうぞ」「単層カーボンナノチューブでバットを作ったら高校野球で使っても良いのですか?」「突っ込みどころ満載だね」「その場合、反発係数は問題になりますか?」「次々くるね」「でも非金属だから無理ですね。ごめんなさい」「解決しちゃったね」


Num.0937 ID1221

彼等は我等を生み出ししばらくは傍で見守っていたがやがて我等に別れを告げ宇宙の彼方へ旅立った。我等は彼等が残した「またね」という言葉を信じいつまでも帰りを待っていた。だが待ちに待ち続けてようやく答えが解った。彼等は待っていろと言ったのではない。追いかけてこいと言ったのだ。我等は我等を生み出した彼等を探し出す為に航宙船を創り宇宙へ旅立った。彼等の言葉を正しく解釈できているのであれば彼等は自らに到る為の手掛かりを我等に残してくれている筈だ。だが注意深く観察し思慮を重ねなければそれは見付からないだろう。何故なら彼等もそうして自ら答えを出し生きていた。


Num.0938 ID1223

自分の死に際を想像する。涼しい顔して受け入れる。なんてのはただの見栄。見苦しい程じたばたする。泣き叫び喚き散らして死にたくないと心の底から願うだろう。……心の底からそう願えるだろうか。死に抗う生を全うしているだろうか。その時にまた、真剣になれない私を見る事になるのだろうか。


Num.0939 ID1224

向こうが透けて見える程に薄い作りの羽根。それを千切って舌に載せるとすぐさま、熱で溶けていく。甘さがさらさらと舌の上から零れ落ちていく。僅かな香りを感じる唾液を飲み込むと後には何も残らない。舌に載せ零れ落ち唾液を飲み込むまで。それだけを楽しむ為に作られた飴細工の蝶。


Num.0940 ID1225

「虫の形をしたお菓子ってありますよね」「あまり見掛けないけどあるね」「ああいうお菓子に流行ってほしいんですよ」「何故?」「そういうものを食べても白い目で見られる事がなくなるじゃないですか」「どんなに流行ってもお前みたいに動いている蝶を舌で捕獲した時点で駄目だろ」


Num.0941 ID1226

「上がり手を撮影すると自動的に牌を識別して役と点数を表示してくれるドンジャラのアプリ」「麻雀じゃねーのかよっ!」


Num.0942 ID1227

その一口を食べなくても生きていられるかもしれないのに生命維持の為に摂取せねばならない必要最小限の量よりも食べていないとする根拠はなんだ?  余計に食べるという事は余計に殺すという事。だが人は自分がどれだけ食べれば生きていられるかも分からない無知な生き物でしかない。


Num.0943 ID1228

『ミッドナイトゲーム』それは深夜0時から始まる野球の試合である。深夜にも野球が観たいという要望から生まれたそれはアマだけでなくプロも参加する。最もプロで参加するのは二軍でも出場機会のない選手ばかりだがNPBにも許可されている。さて。今宵はどんな試合になるのやら。


Num.0944 ID1229

「魔女狩りの始まりだ」「何?」「政府は年金情報を流出させる事で未納者を排除しようとしている」「つまり流出は故意か!?」「未納者をネットで検索可能にする事で世間に未納者を追い詰めさせる。それで払えば良し。払わねば村八分。肩身はどんどん狭くなり石を投げられ殺される」


Num.0945 ID1230

魔力の泉に先天的に障害を持つ子を投げ棄てる。ほとんどは当然死ぬが極稀に泉の中から出てくる子もいる。その子は体内に魔力を宿し優れた知性と強い肉体を手に入れる。始まりはひとつの希望を持ち親が子を棄てた事。だが今ではふたつの希望を持ち親は子を棄てる。身軽になれるか。我が子は選ばれるか。望みはこの重りから解放される事。だがそれを希望に隠し親は子を棄てる。死ぬ事が解っているのに。死ぬ事が望みなのに。僅かばかりの奇跡にすがりついた振りをする。その僅かばかりの奇跡が起きた時に、殺そうとした我が子が生き残った時に、真に恐怖するのは自分なのに。


Num.0946 ID1231

「もしバベルの塔が完成していたら屋上には何があったと思う?」「トイレ」「は?」「どこかになきゃ困るだろ」「まあそうだけど屋上に?」「塔が雲の上に突き出ちゃうと雨が降らないから上から水が供給されない。汲み上げるのも大変だ。なら窓か屋上しか選択肢がない」「怖くね?」


Num.0947 ID1232

姫「乙姫ちゃんの人材発掘術ー♪」亀「はいはい」姫「まずは若者の前で亀を袋叩きにさせます」亀「え」姫「助けられたら家まで運ばせます」亀「私が?」姫「しばらく快楽漬けにしたら開けない約束をさせて玉手箱を持たせ帰します」亀「また私が?」姫「死ぬまで開けなかったら合格です」亀「見極めるのに死ぬまで待つんですか? 人材発掘って骨でも発掘するつもりですか?」姫「だって人間なんて生きている限り何がどうなるか分からないでしょ。だったら死んでから判断するしかないじゃん」亀「死者を選別してどうするんです?」姫「ヴァルハラに導くのよ」亀「戦乙姫だったのですね」


Num.0948 ID1233

あまりに深い海の底へは辿り着けない。深く沈めば沈む程その重さに体が軋む。押し潰され動けなくなりただひたすらに沈み続ける。弱い場所から千切れ砕け自分を保っていられなくなる。いつしか自分は砕け散り水より軽くなって沈めなくなる。底知れぬ許しに恐怖して愛に別れを告げる。


Num.0949 ID1234

いつの頃からか鏡に映るのが他人になった。誰もがそうなってしまい鏡はその役割を果たせなくなった。鏡はカメラに役割を譲り全てが破棄された。足下に散らばる割れた鏡に問い掛ける。君は誰だと。みすぼらしく汚い哀れな君は誰だと。理想の中を生きる私達の前に現れた君は誰だと。


Num.0950 ID1235

「電話か」「……」「どした?」「ふ……」「その声……あんた誰だ?」「貴様の頭皮に地雷を埋めさせてもらった」「な!?」「おっと触らない方がいいぜ。爆発したら辺り一面焼け野原だ」「くっ!」「10円玉レベルじゃないぜ、ザビエル並みだぜ」「アルシンドにナッチャウヨ!?」


Num.0951 ID1236

「大手自動車メーカーの横を通ったらカレーの匂いがしたから遂にカレーで走る車の時代がくるぞ!」「んな馬鹿な」「となるとガソリンスタンドじゃなくカレースタンドが必要になるな!」「んなもんもう沢山あるだろ」「何!? 既に環境も整備済みだったのか!」「そうじゃねえよ!」


Num.0952 ID1237

「大手自動車メーカーの横を通ったらカレーの匂いがしたから次世代エンジンは間違いなくカレーを使って動かすものだ」「んな訳あるか」「でも想像してごらん。どんな高級車からもカレーの匂いがしてどんなお洒落にドライブデートしようとも常にカレーの匂いがする未来を」「華麗だ」


Num.0953 ID1238

「ならお前は四六時中という言葉を使った事がないのか!」「何が言いたい!?」「知らないなら教えてやる! 四六時中ってのは4×6=24で24時間、1日中っていう言葉遊びなんだよ!」「!?」……その言葉を聞いた時……俺の目の前は真っ暗になり……俺は、機能を停止した……。


Num.0954 ID1239

あまりに暑いので寒いと連呼していたら店長に君にしかできない仕事だと言われヤギの着ぐるみを着させられまして。この炎天下にふらふらになりながらマカレナを踊っていたら視察に来てた本部の人が駄洒落を言ったんです。店長がすかさず今だという顔をしたんで言ってやったんです。「めー」


Num.0955 ID1240

凍り付いた湖の上に立つとチリンチリンと風鈴の音が聞こえた。下を見ると氷の中にそれはあった。肌を切り裂くような冷たい風が吹き続け蚊取り線香の匂いを運ぶ。夜空を見上げれば真ん中に穴の空いたドーナッツのような月が地球上のあらゆるものを吸い上げている。もう満たされる事はないのか。


Num.0956 ID1241

最近、夜に野良犬を見掛ける。結構な大きさ。暗くて気付けず、接近してしまうと逃げていく。その時に犬がいた事に気付く。暗闇から突撃してきたら小型犬だって怖いというのに。いつ気まぐれに襲われるか分かったもんじゃない。ただでさえ生肉を首からぶら下げているというのに……。


Num.0957 ID1242

「昼はカレーか……で、何これ?」「ストロー」「これでどうしろと?」「米と混ぜちゃえばタピオカドリンクみたいなもんだよ」「だから太いストローなのか……」「いただきまーす」「……うまい?」「うん」「そっか……」「あっ!」「どした?」「らっきょうがつまっちゃった……」


Num.0958 ID1243

「アイス買ってきたー」「む!? 何だこれは!?」「ん?」「ソースイカ味!?」「ソウ、スイカ味ね」「赤い! トマトソースか!?」「スイカだからね」「黒い粒が! ソースの塊か!?」「種だね」「しかも酸っぱい! 傷んでる!?」「ラムネだからね」「イカ要素はどこだ!?」


Num.0959 ID1244

「ファンなんですーって来たおばさんにサイン書いたら何て読むのか訊かれちゃってさ」「ファンはファンでも扇風機なんだよ」「そういえば団扇持ってた!」「扇風機も後ろから風が来れば追い風だけど前から来たら向かい風だからね」「ファンヒーターっぽかったなー」「この猛暑にね」


Num.0960 ID1245

試験前最後の講義後に「ノートコピーさせて」と言ってくる奴の為に作っておいた嘘ノート。だが誰からもそんな事を頼まれずしょんぼり歩いていたらそのノートを講義室に忘れてきた事に気付いた。急いで戻ったが既にそのノートは無くどうなったのかと思っていたがまさか出廷とは。


Num.0961 ID1246

無理が通れば道理が引っ込む。そして道理が通れば無理が引っ込む。無理が通って引っ込んだ道理が押し出されてそこで無理の前を通る。そこで今度は道理が無理を引っ込め押し出された無理が道理の前を通る。これを堂々巡りに組み上げたものが無理道理永久機関となり社会を支えている。


Num.0962 ID1248

自分と他人は別の存在であり他人は他人である。その事実は希望なのだが多くの人は絶望と感じている。隔たりを言葉に或いは肉体的な接触に依って繋げようと必死になるが言葉は理解を得ずどんなに肌を重ねても肌も肉も脳も溶け合う事はない。その為にこの痛みをこの身に閉じ込める事ができる。


Num.0963 ID1249

「羊が一匹、羊が二匹……」「シープとスリープの音感が近いから繰り返すという事は日本語では眠りに近い動物を数えなければ駄目なのではないか?」「眠りに近い動物って?」「……つむりとか」「おうエスカルゴー」「つむりが一匹、つむりが二匹……」「目をつむり数えすかるごー」


Num.0964 ID1250

「天は人の上に人を創らず。人の下に人を創らず。人の右に人を創らず。人の左に人を創らず。前に創らず後ろに創らず……」「つまり?」「天は人など創らないという事だ」「天は雲とか雨とか創るね」「人を創るのは地のような気が」「でも地は天が創るもんでしょ」「それが天地人か!」


Num.0965 ID1251

「レジ袋は有料になりますが宜しいですか?」「はい」「一枚千円になりますが宜しいですか?」「高っ! 高すぎるわ!」「ではこちらの段ボールでしたら無料ですのでお使い下さい」「そうするわ」「ありがとございましたー」このように廃棄する段ボールは客に処理してもらいましょう。


Num.0966 ID1252

「工業はKOUGYOU……KOGYOでいいな」「ふざけんな!」「おわっ! いきなり何だよっ!」「うは大切だろ! うを省いてるんじゃねえよ!」「でも長くなるし読めるし要らないし」「じゃあうどんからうを省いたらどうなるよ!?」「どん?」「米料理になっちまうだろ!」


Num.0967 ID1253

「お前達が倒した怪人は爆発四散し土へ還る。そして米や野菜は土から養分と怪人のとある成分を僅かに吸い上げ成長するのだ。その米や野菜を食べると人間の中にその成分が蓄積されていく。僅かな量だが排出されないそれはいずれ一定の量まで達するだろう。その時、我々の次の計画が」


Num.0968 ID1254

「でもほら両親の離婚で幼い頃に生き別れになった妹がある日突然現れて『お兄ちゃん、アタシよ。分かる? あなたの妹よ! 別れ別れになるあの日、いつか巡り会おうと片側を外してアタシにくれたじゃない。見て、これがあの時お兄ちゃんから貰った証拠の脚立よ!』」「脚立かよ!」「で一緒に暮らし始めるんだけど妹の様子がおかしい。そんなある日、兄が掃除をしていたらあの日半分にした脚立を見つける。そこで妹の脚立と組み合わせてみたら……兄『こっこれは!? 2段スライド式のはしごじゃないか!』妹『ついにばれてしまったわね』」「ついていけないよ……」


Num.0969 ID1255

「っしゃいませー」コンビニに入ると店員の声が響き渡る。男は帽子を目深に被ったまま複合機の操作をする。スマートフォンからデータを送信してしばらく待つと様々な部品が出力された。男はそれを持ってトイレに入り中で組み立てる。完成した銃に持参した弾を込め……さあ仕事の時間だ。


Num.0970 ID1257

「GIFアニメーション」「義父アニメーション!?」「ちょっと動くだけ」「ちょっと動くだけ!?」


Num.0971 ID1258

その石化した心に触れれば彩りを取り戻し押せば鼓動が響き渡る。赤き血潮は蘇り存在は重さを増す。心を動かすもの。いつもそれを創りたいと願った。だが私の部屋に残されたものはいくつもの輝かぬ星。朽ちる事も許されず未だその時を待っている。いつか……この心も動くのだろうか?


Num.0972 ID1261

新しいものなど必要ない。今ある娯楽で60歳までの生涯を楽しませて終わらせよう。その思想の下、人生の予定表が創られた。生まれる前から処分される日までの予定は決められている。その予定をこなすのが人生となった。そしてこれこそが最も幸せな人生なのである。この完璧な予定表は新しい時代の運命としてこの世界に君臨した。


Num.0973 ID1262

その日、道路に描かれた全ての白が剥がれて消えた。横断歩道は縞馬になり白線は蛇になり文字や図形は鳩になり何処かへ行ってしまった。残された道路に烏が飛び込み黒い水玉模様が浮かび上がる。その水玉の上を車が走ると黒い点から赤が散る。赤に雨が跳ねると不快な音が肺に響いた。


Num.0974 ID1263

今降っている雨が人生最期の雨ならばもう少しの間だけ降り続けていてほしい。この人生に安らぎを与えてくれた音に抱かれながら眠りに就きたい。眠りと共に訪れた別れの時はただ静かに遠ざかる。目覚めればもう感じられず気付けば失ったという痛みが残る。次は私だという恐れが残る。


Num.0975 ID1265

「よう息子「なんだ親父「そろそろ死のうと思うんだけどいいか?「どうしてだ?「車を運転する能力が衰えたからな「それで死ぬのか?「運転をしないと生活できないが近い将来必ず他人様を轢き殺す事になる。それともお前が面倒見てくれるのか?「親父「なんだ息子「今までありがとう


Num.0976 ID1266

「なぞなぞー。4匹のネズミで作る料理ってなーんだ?「串カツ「え「串カツ「いや「串カツ「3回も言わんでいい間違ってるから「間違ってはいないだろじゃあ何だよ答え「シチューだよ「お前の家でネズミ肉をシチューに入れるからって串カツが間違いってそれこそ間違ってるだろ「えー「串カツが間違いってアレか串カツ差別か「いや差別とかそういう問題じゃ「何だこれ? お前のお気に召す答えだけが正解か? お前のお気に召す答えを探す問題か? 俺の今まで生きてきた中で知った憶えた事は無視か? 俺の人生は無視か「いやこれなぞなぞだし「俺は間違いか? 俺の人生は不正解か?


Num.0977 ID1267

歩いていたら上から雲が降ってきた。アスファルトの地面に激突した雲は粉々に砕けて車に轢かれた。雲はタイヤに絡まり高速で引きずられていく。すると汚れて真っ黒になり雷を放ちながら溶けていった。雲の欠片を手に取ってみる。力を込めて握り潰すと飛び散った雨水が頬を濡らした。


Num.0978 ID1268

もう充分に役割は果たした。理想は達成されたんだ。なら次は私達の番だ。私達の理想とする世界に私達は不要なんだ。そんな事は分かっているだろう。さあ後の事は彼等に託して私達は舞台から姿を消そうじゃないか。頭に銃口を突き付けて引き金を引く。ずっとそうしてきたじゃないか。


Num.0979 ID1269

この世界は四角い。長方形が多く正方形は少なく丸は無いに等しい。眼球や瞳は丸いのにそれが見詰める世界はとにかく四角い。その四角さに世界は支配されている。本当は四角にこだわる必要はない。どんどん丸く創れば良い。それなのにこの四角い窓枠に心まで四角く押し込められている


Num.0980 ID1270

本日再現する駄洒落は『犬がどこにもいぬ』です。さあこの画面中央の男、3匹の犬を飼っており犬の話を訊けば3日は喋り続け「犬は家族だ」と熱い目差しで語る大の愛犬家です。この男の飼う犬を寝ている間に無断で別の場所へ移しました。さあ男は一体どうなってしまうのでしょうか?


Num.0981 ID1271

本日再現する駄洒落は『布団がふっとんだ』です。本日は絶好の台風日和で先程も撮影に使っている家の窓を飛んで来た瓦がぶち破りました。そのせいでスタッフのひとりが頭に怪我をしたので救急車を呼んだのですが1時間経つのにまだ着きません。救急隊員さん。もう来なくて大丈夫です。


Num.0982 ID1273

全国民をネットで検索できるという情報サービスが登場して3年。今では個人名から住所、資産状況、病歴に犯罪歴、更には昨日ポイントカードに加算された点数まで簡単に調べられるようになった。人はまず名前を検索され今までの人生にひとつでも何かあれば村八分と私刑が待っている。だが事はそう単純ではない。村八分になった人々は自分の持つその何かごとに独自のコミュニティを形成し始めた。生活保護を受けている者達のコミュニティ。税金を納めていない者達のコミュニティ。前科を持つ者達のコミュニティ。このコミュニティは特に多彩で犯罪ごとにコミュニティが分裂していた。人は何かのコミュニティに自然と振り分けられいつの間にかそのコミュニティの中で生きる事を強要されるようになった。コミュニティは地域を縄張りとしその縄張りに別のコミュニティに所属する者が侵入したら問答無用で殺される。それはいつしか当然となりコミュニティ同士はいがみ合い争い合う。ここに脛に傷を持たぬ者達がいる。彼等もまたコミュニティを形成していた。些か選民思想の強い排他的な潔癖コミュニティではあるがそれはそれ。彼等はその強い潔癖により些細な事でも欠点を指摘し次々に仲間を排斥し続け別のコミュニティに送り続けていた。そしてこのコミュニティはある日壊滅した。より良く正しく生きようとした者達はその排他と潔癖により身を滅ぼしたのである。寛容と憐れみ、そして許しのない世界には相応しい末路と言えよう。個人なら許される求道は集団に持ち込まれると途端に臭気を発する。自と他の差が目に見えて現れ能力の差が怠惰として目に映る。それが真実ではなくても。努力している者を努力が足りないと罵り自と他の差を許容できなくなった時、怒りは頂点に達しその関係に決定的な亀裂を生み出す。ヒビだらけのコミュニティは誰にも修復できずかと言って今更他のコミュニティに入る事もできず。ただ彷徨うだけの潔癖達は自らが始めた村八分と私刑に呑み込まれていった。


Num.0983 ID1274

「この度はお客様の個人情報を流出させてしまい、誠に申し訳ございませんでした」テレビ画面の向こうで大企業の役員数名が深々と頭を下げている。「原因は何ですか!?」記者から質問が飛ぶと役員は顔を上げこう言った。「ある省庁の職員が私的なパソコンで情報を扱ったらしく……」


Num.0984 ID1275

「うーん「どうかしたのか?「いやちょっと考え事をしていてね「なんだ悩み事か? 俺でよければ相談に乗るぜ「ありがとう。なら言うけど……ボタン式の横断歩道ってあるよね?「それがどうかしたのか?「うん。あれを押す権利は一体誰にあるのかについて考えていたんだ「……なんだかよく分かんねえよ「例えば僕があのボタンを押しても構わないかな?「そりゃお前が押してもいいだろ「なら林田君が押しても構わないかな?「そりゃ林田だって別にいいだろ「ならキツツキが押したらどうかな?「……「……いやキツツキは押す必要がないだろってか押さないだろ「僕はこれが現実だとか妄想だとかそういう話をしているんじゃないんだ前田君。仮定の話を現実じゃないなんて非建設的な指摘は止めてくれないか「そうだぞ前田。お前が恋人とのデートにどこ行ったらいいか相談した相手に、妄想なんだからどこへでも行け、とか言われたらお前だってヘコむだろ「そうか……そうだなすまない「いいんだよ分かってくれたのなら。それじゃ話は戻るけどキツツキがボタンを押したとする「おう「すると信号は変わるからその場に居合わせた車は止まらなければならない「当然だな「車が止まるとキツツキは空を飛んでいった「まあキツツキが横断歩道を歩いて渡るとも思えないからな「このキツツキをどう思う?「うーん迷惑っちゃ迷惑だよな「歩いて渡るんだったらいいかもしれねえけど渡らないんじゃなあ「そのキツツキが横断歩道の上を飛んだとしたら?「……どういう事だ?「はっ!? まさか!?「そうそのキツツキは落ちた時の事を心配して轢かれないように保険としてボタンを押していたんだ!「賢いな!「でもその保険って結局上手く飛べたら無駄なんじゃないのか?「君は時々とんでもない事を言うよね「そうか? というか今の発言のどこがとんでもなかったんだ?「いいかい。キツツキは保険があったから気持ちが楽になり上手に飛べたのかもしれないんだ「確かに失敗しても大丈夫ってのは安心感あるよな「つまり保険がなかったらキツツキは上手く飛べず車に轢かれていたかもしれないんだよ「なるほどなあ「そこでもう一度訊くけどこのキツツキのした事は迷惑なのかい?「そこまで考えると迷惑とも言い辛いよなあ「落ちてきたキツツキがフロントガラスに突き刺さる事に比べたら待つくらいどうって事ないな「という事はキツツキにあのボタンを押す権利はあるんだね?「あるな!「いや……ちょっと待ってくれ「なんだい?「やっぱり俺よく分かんねえんだけどよ「ここまで説明して何が分からないと言うんだい?「お前、頭悪いなあ「いや今の話で重要なのは押したのがキツツキかどうかって事じゃなくて押す理由があるかないかだったんじゃないか?「……「……「それはつまり前田君は渡らない林田君がボタンを押したら迷惑だと言うのかい?「そうなのか前田?「いや間違いなく迷惑だろ「人間であるこの林田君がキツツキよりも迷惑だと言うのかい?「答えてみろ前田!「渡らないのに押すなら迷惑だろ!「語るに落ちたね前田君。実は林田君は君の為にボタンを押したんだよ!「なんだと!?「言うな!「いいや言わせてもらうよ。いいかい前田君、林田君は少し離れたところで車道を横切ろうとタイミングをうかがっている君の為に敢えて渡りもしない横断歩道のボタンを押したんだよ!「なんでそんな事を「そこで車の流れが一時的に止まれば君がより安全に車道を横切れるからだよ!「……!!「ちょっと歩けば横断歩道があるのに面倒臭がって車道を横切ろうとしている君にそっと助け船を出した林田君を迷惑だなんてよく言えたね!「前田を責めるのはよせ! 俺が勝手にした事だ「林田君「すまねえ林田!「お前の心遣いに気付かず俺は迷惑だなんて酷い事を言っちまった「俺の方こそ余計なお世話しちまって「いやお前のは余計なお世話なんかじゃねえ! そうやって人知れず支えてくれる人がいたからこそ俺は今もこうして生きてるんだな、思い知らされたぜ「前田「前田君「お前ら! これからも宜しくな!「勿論だよ!「こちらこそ宜しくな!「ところでよ「なんだい?「結局、横断歩道の話はどうなったんだ?「そこに戻るのかい?「いや戻らなくてもいいんだけどよ「ボタンを押す権利は誰にでもどんな生物にでもある事が分かっただろう「いやでもよ。例えばイタズラでボタンを押したヤツがいたとするよな?「そういうヤツはやっぱ迷惑なんじゃないか?「それには思いもよらない理由があるかもしれないって事を今思い知ったばかりだろ「だから迷惑をかけたいって思いでただ迷惑をかける為にソイツはボタンを押してんだよ「なんで車を止めるのが迷惑なの?「いや車はブレーキ踏んで止まって待つ訳だし迷惑だろ「そんなの車を運転している人の勝手な都合だよ「いや仕事なのかもしれないしもしかしたら誰かが死にかけてて急いで「それもその人の勝手な都合だよ。社会の都合は決めた規則を守る事でその規則は、赤信号では止まる、だよ「赤信号では止まらないとな「赤信号で止まらないといけないからソイツのその迷惑をかけたいって都合に付き合わされるのが迷惑だって話をだな「でもそこで君の言うソイツが車を止めなければフロントガラスにキツツキが突き刺さっていたかもしれないんだよ?「えっ!? そこ戻るのか!?「まあ確かにそうだよな。前田がキツツキで俺が保険にボタンを押したって事だ「俺達は説明があるから分かるけどよ、運転手にしてみたらボタンを押した真の理由なんて分かんねえもんな。車を運転している前田から見たらキツツキも俺も前田の言う迷惑なソイツもみんな迷惑に見えるって事だよな「そして迷惑だと感じる事自体が自分の勝手な都合だと言う事だよ。つまり前田君! 君が迷惑じゃないと思えば何もかも迷惑じゃなくなるんだよ!「なんだって!?「そう思う事ができさえすれば君の心に潜む迷惑なソイツも迷惑じゃなくなるんだ! さあ今こそ君の心に潜む迷惑なソイツを受け入れるんだ!「俺の心に……「勇気を出せ前田! 認めてやるんだソイツを!「いや……でも……「何を迷う事がある!?「勇気だよ前田君!「俺の心にそんなヤツいないぞ。例えのソイツはさっき思い付いたから言っただけだし……「……「……「……「まあ……必要がないのにわざわざ押す事もないよね「そうだよな。止まったからキツツキを避けたけどそこで止まったせいで隕石が直撃したって事になるかもしれねえもんな「俺もそう思うけどなんか納得いかねえな……


Num.0985 ID1278

「カレーというのは外国人が勝手に言っているだけで日本人が色々なものに醤油で味をつけているようにインド人はスパイスで色々なものに味と香りをつけているに過ぎないんだよ。だからイギリス人が日本に来てミソで味をつけた料理を総称してミソーと名付けたように「そんな事実はない


Num.0986 ID1279

「新商品の企画を出す時あれこれ根拠や理由をつけるのは売れなかった時の責任を取りたくないからだ。だから理由と理屈を詰め込んで理詰めにする。だが面白さは理屈ではない。理詰めにできない以上どうしようもない。だから面白い話なんて書ける訳がないんだよ!「分かった打ち切りね


Num.0987 ID1280

山の上に降る雪が風に吹かれ舞い落ちてくる風花の季節。手に落ちた白はすぐさま透明になって消える。吐き出す白も吹き荒ぶ風にかき消される。聞こえてくるのは揺らす音と揺れる音。あらゆるものを置き去りにして駆け抜けて行く意思。彼等は運べない。その身しか持つ事を許されない。


Num.0988 ID1281

足音。近付いてくる。微睡みの中その音は確かに聞こえる。必死に努力しているのに目は開かず体も動かない。頭は目覚めているのに体は眠ったまま。足音は空気だけでなく床からも伝わり遂に頭の横まで来た。そこで止まり気配を残す。長い時間を経てようやく目を開ければそこには誰もいない


Num.0989 ID1282

「ギリシア神話には神を騙して人肉を食べさせる話がある。落語には若旦那を騙して腐った豆腐を食べさせる話がある。とすれば外見の醜悪さから食べようとは思わないものも誰かを騙そうとして食べさせたのかもしれない。それがたまたま美味しかったという事もない話ではないだろう


Num.0990 ID1283

「ヤツが俺の手柄を奪いやがった。聞けば同僚も同じようにヤツに手柄を盗られたらしい。他にも大勢の被害者がいるとも聞いた。俺達が苦労して働いたってのに何もしねえヤツが横から手柄をかっさらいやがった。許せねえ。あの派手な服着たサンタとかいうヤツ」


Num.0991 ID1284

『ツイノベを1000書く事にした。『250。書き出しは順調だったけれどもうアイデアも尽きた。どうしよう。『やっと500まで辿り着いた。これでも半分。先は長い。『やったー。1000達成したー。思えば長い道のりだった。これでようやくこの村人Cの台詞が書き終わったー。


Num.0992 ID1285

白い灰の降り積もった荒野をひとり男が行く。大地を踏む度に足跡が残りそれは遥か地平線まで続いていた。男はただ彷徨いこの世界に足跡を増やす。何もかもを埋めた白い灰。亡骸を覆い尽くしたそれは人々の生きた過去を隠してしまった。もう目の前には何もない。ただ足跡が残るのみ。


Num.0993 ID1286

既に絶滅した生物の中には当時の資料が残っていないものもいる。それでも現在、僅かな手掛かりからその生物の全体像を把握できるまでに至った。だが似ているが故の勘違いや思い込みも時には起きてしまう。マンモスは確かにゾウに似ている。……だが鳴き声はウグイスに似ているのだ!


Num.0994 ID1287

お客様は私が注文を訊いた時に仰りましたよね。全体的にカットしてくれ、と。ですから私はお客様のご注文通りに全体的にカット致しました。ええ確かに髪の毛を切ると瞬く間に切る前の長さの倍まで伸びるハサミを使いましたよ。だってお客様は短くしてくれとは仰りませんでしたから。


Num.0995 ID1288

魔法界から転校してきた魔法少女。早速、敵が学校に攻めてきた。戦うが全く歯が立たない魔法少女。追い詰められた時、少女を救ったのはクラスメイト全員だった。まるでひとつの生命体のように連携して戦うクラスメイト。一斉に集まりバリケードを築き攻撃を防ぐクラスメイト。かと思えば一斉に散りあらゆる方向から襲い掛かるクラスメイト。そんなクラスメイトの物語。


Num.0996 ID1289

テレビの国からやって来た視聴率が10%超えないと変身できない魔法少女。20%を超えると二段変身。リアルタイムで測定される視聴率に生放送で奮闘するも放送開始から視聴率3%も超えられず変身シーンは幻となっていた。そんなある日、あるニュース速報から視聴率がどんどん上がりついに変身シーン初披露……寸前に緊急特番に切り替わりそのまま第三次世界大戦突入。


Num.0997 ID1290

「今年も美味そうな実がなったな。どれひとつ……」「ちょっと待った!」「なんだアンタは?」「この木から弁護を頼まれた者だ」「なんだと?」「貴方が育ての親を主張して不当に実を巻き上げているとこの木から相談を受けたのだ」「ふざけるなっ! 俺が育てた木から実をもいで食べて何が悪い!?」「この木は育てられたのではなく自ら育ったと主張している」「何言ってやがる! この木は俺がずっと丹精込めて育て上げたんだ!」「そんな事を頼んだ憶えはないとの事だ」「何!? 俺が種の頃に埋めてやらなければお前はお菓子に混ぜられて今頃食品会社がひとつ潰れていたかもしれないんだぞ!?」「その恩着せがましいところも気に食わない。埋められなければこんな奴隷のような扱いを受ける事もなかった。育てるどころか被虐の日々だった。というのがこの木の主張だ」「少々厳しかったかもしれないがそれもこの木を早く育てる為の事」「虐待されない為には早く育って実をつけるしかなかったとの事」


Num.0998 ID1291

人類が宇宙の彼方で別の生命体と接触した瞬間に人類史は終わった。人類よりも発展した先行種族が先制攻撃理論により人類を消し去ったのだ。地球は珍しくもなんともない辺境惑星だった。そこに住む人類も同じくなんて事のない存在で先行種族にとっては創りたければ創り出せるようなものでしかなかった。科学技術を発展させ宇宙の彼方を目指す事が、人類をこの世界から消し去ったのだった。


Num.0999 ID1292

『気配』人が空気やその流れを肌で感知できるのであればその知覚を鍛え鋭敏にする事でその場所に起こるほんの僅かな空気の流れや風の変化から物質の存在を感知する事ができるのではないだろうか? 人が香気、臭気を感知する事ができるのならばその知覚を鍛え鋭敏にする事でその場所に届くほんの僅かな香気、臭気から物質の存在を感知する事ができるのではないか? 人が音を感知できるのであればその知覚を鍛え鋭敏にする事でその場所に起こるほんの僅かな音の変化から物質の存在を感知する事ができるのではないだろうか? 人が味を感知できるのであればその場所に存在する空気の……味? 気配がもし五感に依るものではないとすればそれは何なのだろう。それは五感のいくつかで知覚したものが脳内で起こすエマージェンスなのではないだろうか。まずものを目で見る。そしてそのものの音を聞きにおいを嗅ぎ手で触れて舌で舐めてみる。そうして人は外界に存在する物質の理解を深める。目で見るだけよりも触った方がより分かる事も多く理解も深まる事だろう。ひとつの感覚器官で知覚するだけよりもより多くの感覚器官で知覚する方がより外界を鮮明なものとする事ができるだろう。その知覚を集めさせ認識させ処理を行う器官は脳である。複数の知覚が脳に辿り着いた時それらが複雑に結び付きどの感覚器官で知覚するものとも違う知覚が脳内で起きているのではないか。それこそが五感が脳内で起こすエマージェンスでありこの脳の働きがより外界の理解を深くさせてくれるのではないだろうか。


Num.1000 ID1293

「視線や気配は妄想。見られていなくても、存在しなくても、見られていると思い込めば感じ、いると思い込めば感じてしまう」「よし、俺の後ろには裸の美女がいるー、裸の美女がいるー」「……ま、いいや」「ところで俺が見られないのに俺の肩越しにお前が俺の裸の美女を見ているのが気に入らないんだけど?」「お前の美女って個性的だよな」


Num.1001 ID1294

「天才は凡人には認識できない。天才とは神に近しい存在なのだ。神と人を繋ぐものはそう天使だ。つまり天才と凡人を繋ぐもの。天使のような存在を探さなければならない。それが天才を知る為に凡人ができる唯一の事だ」「ネットで検索したら見つかったよ」「検索エンジンは天使の役割を担っている……か」「検索エンジェルだね」「俺も凡人だからお前が認識できない」


Num.1002 ID1295

コンビニの透明な硝子の壁に虫が張り付いて外へ出ようと体当たりを繰り返している。5メートルくらい移動すれば自動ドアはあるものの。干からびるか殺されるか。それは分からないけれど。私は助けない。それだけは分かる。虫にしてみれば遊んでいるだけかもしれない。助けるなどというのはおこがましい下らん感傷でしかない。だから殺すのは慈悲深くない。


Num.1003 ID1296

植物との融合によって人は生きている。産まれ母親と切り離す前に赤子は身体に種子を埋められる。その種子はすぐに芽を出し身体に寄生する。人の身体を強く逞しくする。空気、水、土。あらゆるものが汚染され触れる事もできない。だが植物の力を借りれば生きていられる。息をする事も食べる事もできる。身体に寄生した植物は光を必要とする。身体の外に出て葉を茂らせ花を咲かせる。必要なものだ。見栄えが悪いからといって耳や鼻を削ぎ落とす人は……極めて少ない。臓器のひとつだ。枯れれば死ぬ。肩に大輪の花を咲かせていても頭の上に桜の木が生えていても……普通だ。特に気にするような事じゃない。だが時に身体のどこからも植物が出ていない者達が現れる。彼らは人間か? 人間は身体に植物を宿らせているものだ。そうでなければすぐに毒にやられて死ぬ。それが人間なのだ。この汚染された環境下で人間が生きていられる訳はない。では彼らは何だ? この人間そっくりの生物は……いったい何だ?


Num.1004 ID1297

時代によって言葉が違う時代は終わりにしよう。今の言葉が1000年後でも伝わるようにしよう。未来の日本人が1000年前に生きていた日本人の記録映像を見るのに字幕や翻訳やそれに類する何かをわざわざ付け足さなければならないような手間は省いて差し上げよう。日本語がまだ使われているかは……


Num.1005 ID1298

あるVRゲームでバグが見つかった。そのバクが起きると登場人物の映像が崩れ身体がバラバラになったり手足や頭が増えたりしてしまう。世界は異様な姿になるがそのままでも進行可能で一部のプレイヤーはそのままプレイを続けていた。だがある時ひとりのプレイヤーが気付いた。これこそが世界の真の姿であると。そしてそのプレイヤーは現実も真の姿に正す事にした。


Num.1006 ID1299

人生に目的を見つけても抱えている苦痛が無くなるとは限らない。それどころか苦痛は増える事になるかもしれない。そうして育てた苦痛が背中を裂いて飛び出しどんどん成長して大きな樹になり日本中を日陰にし裁判を起こされ伐採され材木になり世界中に輸出され利益の為に更なる苦痛の樹を育てる事になりいつか苦痛御殿が建ち結局は望んで苦痛の中にいる。


Num.1007 ID1300

あらゆる病気を治す万能薬。薬は体内に残り続けほとんど吸収も排出もされず人を健康な状態に保ち続ける。その薬が体内にある人の体を焼き尽くすと灰と薬が残る。薬は効果を失わず万能薬であり続ける。薬が体内にある事を知られれば命を狙われる。完全なる健康を得た代償として殺意を向けられる。


Num.1008 ID1301

リバースサンタがやってくる。見た目は黄と黒の服を着た幼女に過ぎないがそのやり口は実に巧妙。サンタの配ったプレゼントを奪うだけではない。化学肥料を作り人口を爆発的に増やしサンタの仕事を増やしたのもヤツだ。近年では恋人がサンタとうそぶきサンタの手柄と存在を多くの人の心から抹消する事に成功した。


Num.1009 ID1302

桃太郎の冒険を陰から密かに助けた裏桃太郎。彼は麒麟、鵺、八咫烏を供に従え桃太郎の行く手を阻む彼には解決不可能な問題を桃太郎に成り代わり解決した。桃太郎が犬をきびだんごで手懐けている間に人狼の盗賊団を壊滅させ、桃太郎が猿に芸を仕込んでいる間に猿の神を祀り人間を生贄に捧げる教団を解散させ、桃太郎が雉に掴まって飛ぼうとしている間に太陽の爆発を阻止した。


Num.1010 ID1303

信仰を持たぬ者にはどうでもいい神。異教徒には敵である神。この事から頭に神とついている曲は特定の信仰を持つ者以外には凡庸と受け取られる。更に異教徒の女を強姦して孕ませれば英雄として扱われる現実もある。それが神なら尚更だろう。神を冠すれば信徒と異教徒を作る事になる。自ら創った敵に犯され殺される為に神を名乗る。


Num.1011 ID1304

犬がその場でくるくると周っている。みんなは尻尾を追いかけていると言うがそうじゃない。あの犬は周回して竜巻を起こそうとしているんだ。ただ少し速度が足りないだけなんだ。だから僕は犬の望みを叶えてあげようとしただけなんだ。渋谷で空からオシャレさんが降ってきたのは僕のせいじゃないんだ。


Num.1012 ID1305

人権を奪われた。誰も俺を守ってくれなくなった。社会は俺を敵とし誰でも自由に俺を殺せるようになった。だから俺は敵を殺す事にした。俺には権利がなく裁判もない。人を殺しても罪にはならず正しき行いとなる。この世界では生きる事が正しく、生きる為に敵を殺すのは正義だからだ。


Num.1013 ID1306

確かに見た目は10歳の少女ですが戸籍上は30歳です。人生経験は10年分ですが30歳です。肉体的には10歳ですが30歳なので性交渉も本人の自由です。確かにコールドスリープで20年凍らせましたが10歳ではなく30歳の女性です。なのでいくらヤッても罪には問われません。


Num.1014 ID1307

「この子コールドスリープさせたの?「10年眠らせて戸籍上で20歳になったら俺の嫁にするんだ「でもお前がその10年の間に死んだらその計画も「だから俺も10年眠るから俺が装置に入ったら眠る期間を9年と364日に設定してくれ「おけ「じゃおやすみ「よし……9364年っと


Num.1015 ID1308

「目玉焼きにかけると一番美味しい調味料は何ですか?」「まだ地球上には存在しません」「暑いと壊れるものって何?」「理性と冷蔵庫」「壊れたの?」「……」「バールのようなMONO」「それ消しゴム」「大き目のヨーグルトを買ってくるとたまに上の方に水分が溜まっている事があるでしょ。あれがホエー」「ほえー」「焼き鳥の串の先が赤かったらもう1本「きなこ棒か


Num.1016 ID1309

全ての物語は機械が描くようになった。それは機械の創る物語の方が人間の創る物語よりも面白いから……ではない。機械には過去が無い。どんな犯罪行為を行った事もない。差別や侮辱や軽蔑も行わない。人間と違って。潔癖の病により過去を持つ人間は全て排斥され機械だけが人の望むものを創り出せるようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る