第2話

 けたたましい喚き声と共におぞましい姿の化け物を見た。

 全身を紫の尖った硬そうな体毛で覆われた2メートルほどの生き物。お腹の辺りだけは黒の鉛のような鈍い色を発光させる鱗が覆っており、鋭い眼光は見るもの全てを凍てつかせる冷たさが秘められている。

 声を上げるたび覗かせる歯は鋭く尖り刃物のようで、ギラギラと光っている。

「うぉい、あれなんだよ!」


 先ほどまで強がっていたクラスメイトたちの声も恐れの色に染まる。

 そしてもちろんおれも。声を出すことすらもままならない。

 校長先生もスイッチの入ったままのマイクを放り投げて逃げる。

 化け物のけたたましい声と一緒に耳触りなマイクのぶぅおーんという音が響く。


 やけにリアルだけど、これは『夢』じゃないのか。

 『夢』じゃないとあんな化け物がこの世に存在するなんてありえない。

 体育館の舞台のあたりの空気が突然渦を巻き始める。

 これが、時空が歪む。というやつなんだ。

 『夢』なのにリアルだな。

 歪んだその場所は徐々に穴を穿ち始める。

 黒く禍々しい色の大きな穴が。

 そしてその中から白系の色で整えられたカプセルみたいなものが現れた。

 SF映画などではたまに見る近未来にありそうな車。そして、カプセルみたいなものの天井部がウィーン、という音をたてながら開く。

 その不思議な光景に見とれていた。刹那、何か液体が頬に付いた。

 赤く生暖かい液体……血だ。おれは声を上げようとするが喉がそれを拒否するように声帯を抑え込む。震える体に鞭打って恐る恐る周りを見渡す。

 次から次へと破ったドアから入ってくる2、3メートルの体をもった紫色を主体とした怪物が生徒や先生を襲っている。中には人の肉片を喰っている奴もいる。

 茶色っぽいフロアだったのがいつの間にか鮮血で真っ赤に染められていた。


「ブラスター、オン! ファースト、ゴウ!!」


 甲高いが男だとわかる声が舞台の上から響いた。

 それと同時に舞台から伸びる一筋の光が見えた。そしてその先には化け物がいた。

 その光線は化け物にヒットした。刹那、化け物は始めからこの世に存在しなかったように跡形もなく消えた。まるで全年対象のゲームの敵を倒した時のように血を出すことも、皮膚片を落とすこともなく、きれいに消えた。

 それを確認するや少年は舞台から降り、マイクを拾うと叫んだ。


「卑弥剛くんはいませんかー?」


 耳を疑った。見たこともない子に名前を呼ばれた。どこにでもいる名前じゃない、かなり珍しい名前をフルネームで、しかもこの状況で。


「いたら前まで来てください」


 戸惑いが思考を鈍らせる。前に出るか、それともこのままここにいるか。

 でも、『夢』の中だし冒険するのもありか、なんて思って前へ出た。

 少年はわかりやすくホッとした顔をし、SFじみた車に乗るように指示した。おれはこれも『夢』だからと思い、言われるがままに乗った。


 少年は先ほどと同じセリフを叫び、光線を発射する。決してよけれない速さではない。しかし、少年は化け物の次の動作を予測してか一歩前に放ち動いたところにヒットさせ倒した。

 繰り返すこと5分。遂に少年は全ての化け物を倒し終え、おれが先に乗っていた車に乗ってきた。


 見たこともない文字の書かれたボタンを押すや浮遊感に襲われる。機体が宙に浮いたのであろう。慌てふためき、あたりを見渡す。

 あまりにリアルな浮遊感に思わず声が出る。

「うぇ!? ど、どうなってんだ?」


 驚きのあまり早口になっているのが分かる。

 さらに驚きは続いた。機体が現れた時に生じた歪んだ穴に飛び込んでいったのだ。

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