10の宝玉(ミスリルストーン)

リョウ

第1話

 おれこと卑弥剛ひみたけるは普通の高校2年生。

 何の取り柄もなく強いて言うならば、少しスポーツが出来ることくらいだ。


「なあ、剛」


 クラスメイトだ。おれは普通に返事をする。


「知ってるか、次の授業。小テストあるって」


「ええっ!?マジで?」


 聞いてないぞ、そんなこと。てか、こいつはどこからそんな情報を。



「だろー? 先生が俺に特別にって教えてくれたんだぜー」


 あっ、そういうことか。こいつはクラス1バカだから先生が情けで教えたんだな。でも、こいつはバカだから……


「先生って、俺にだけ優しいんだよなー。もしかして俺にホレてる??」


 とか言ってるんだよな。


 ピンポンパンポーン。チャイムの前に放送時の合図音が鳴った。


「生徒の皆さん。至急体育館に集まってください」


 校長先生の声だった。いつもとは雰囲気の違う切羽詰まった声をしていた。


「何かあったのかな」


 おれの囁きのような独り言にいちいち意味の無い言葉で返事を返してくる。

 廊下にいた次の授業へ向かっている途中の先生ですら何がなんだか分かっていない様子。

 これはかなりの大事が起こっているのかもしれない。




 体育館に集まったおれたちに校長先生が舞台にも上がらず、おれたちの前に現れる。そして、礼すらせずに慌ただしく話し始めた。


「みなさんは今日、この場所から動かないでください。お願いします」


「校長先生、なぜ動いてはいけないのですか?」


 少し歳のとったベテラン女教師が強い口調で訊く。


「そ、それは……」


 わかりやすくテンパる校長先生はどういった言葉で説明しようかと口をぱくぱくさせ、短い言葉で告げる。


「き、危険だからです」


 その言葉で生徒たちはざわつく。


「もっと詳しくお願いします」


 そのベテラン女教師は顔を引き締めさらに訊く。


「日本各地に、いや世界各地に化け物が現れたのです」


 震えた声で言う校長先生に生徒教師含め、きょとんとした顔をする。

 いきなり化け物なんて言われても……、なんて思った。でも、次の瞬間おれは……いやおれたちは信じざるを得なくなった。


 体育館のドアが激しく音を立てる。外には誰1人いないはずなのに……。

 そして、音を立てたドアは人間ではありえないほど大きな拳の形に歪められた。

 女子生徒たちは悲鳴を上げる。その悲鳴を糧にするように外にいる何者かは咆哮を上げる。

 無機質な声で耳にするだけで悪寒が走る。そんな雄叫びだった。


「し、静かに! おっ、落ち着いてください!」


 体育館の蛍光灯を反射し、脂汗でびっしりの額がテカっている校長先生が、マイクを使って震えた声で口早に告げる。


「あいつが1番落ち着けって感じだぜ」


 クラスの誰かがそう言ったのが聞こえる。

 そんな中でおれはビビっていた。そんなこと言えるクラスメイトが凄いと思った。虚勢でも強気な発言はできないほど恐怖に陥っていた。


「おい、大丈夫か? 顔真っ青だぞ?」


 教室から一緒にここまで来たクラスメイトが心配そうに訊いてくる。


「ああ、大丈夫だ」


 やっとの思いで出した声はかすれ声だった。心をかき混ぜるような気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。


 刹那。雷が落ちたような、耳の鼓膜に大きな振動を与える音がした。それは、体育館のドアが破壊された音で見たこともない生物が侵入してくるきっかけとなった。

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