KEEP OUT

有刺鉄線

KEEP OUT

 人には出来ないこと、苦手なことがある。

 例えば。

「うわあ、トマト入ってんじゃん」

 あたし佐藤理華はトマトが苦手だ。

「いいじゃん、トマトぐらい」

「理華、好き嫌いはだめだよ」

「マジかあちゃんふざけんなよ、ということであげます」

「やめてよー」

 いやがる友人の弁当にむりやりトマトを放り込む。

 そんで、何だかんだ文句言いつつ、友人は食べる。

 マジ感謝です。

「あの、佐藤さんいいですか?」

「はい?」

 珍しい人があたしに話しかけてくる。

「なんすか、田中さん」

 同じクラスの田中さん。

 黒縁メガネにでっかいマスクでいつも顔を覆っている。

 それと、いつも白い手袋つけている。

 なんでも、田中さんは度の超えたきれい好きで、いわゆる潔癖症ってやつ。

 男子がふざけてて、田中さんにぶつかった時すごかったな。

 この世の終わりみたいな顔して、早退したんだもん。

 しかも3日間学校休んでたし。

 どんだけだよ。

「先生があとで教務室来てください、だそうです」

「りょー」

 田中さんはいかにも冷たく、あたしを毛嫌いした目で睨み、後にした。

「なにあいつ、感じ悪くない」

「まあ、しょうがないんじゃない、あたしの存在自体がもうアウトなんじゃね」

「そんなことないよ~、理華は綺麗だよ」

 そういって、肩つかんで揺らすのやめてくれ。

 こういうスキンシップはやはり慣れんな。

「じゃあ、あたし先生のとこいってくるわ」

「いってらー」



 ◇


「佐藤このままじゃ、退学になるぞ」

「はあ」

 一応学校には毎日来てんだけどな。

「はあ、じゃないだろ授業の1コマ1コマ積み重なって、こうなってるんだぞ」

 このままじゃ、出席日数が足りなくてやばいと……。

 いやあ、あたしもそうなると思わなかったわ。

「先生、どうすれば?」

「当たり前のことを言わすな、授業はサボるな金輪際な」

「へい」

「返事はハイだ」

「ハイハイ」

「ハイは一回、幼稚園で習わなかったか」

「あたし保育園です」

「どっちでもいいわ、全くおまえといい田中といい、このクラスは厄介なやつばっかだな」

 あたしそこまで、問題児じゃないと思うな、ギャルだけどあんまし目立たない程度の茶髪だしピヤス片耳一個しかつけてねえし。

「でも、毎回体育の後だな、授業サボるの、体育の授業でなんかあったのか?」

「別に……、何もないっすよ」

「まあ、話は以上だ」

「失礼しました」

 教務室を出てあたしはため息吐く。

 何にもないって嘘ついちまったけど、先生には言った方がよかったかな。

 でも周りに迷惑かけるのはな、どうも気が引けちまう。

 教室に戻るとクラスみんながざわざわしていた。

「どうしたん?」

 とりあえず友人に話しかける。

「山口がまたやらかした」

「またって?」

 友人の話によると、山口と他3人でプロレスごっこしてたら、運悪く山口の後頭部が机にテクニカルヒットしたらしい。

 高校生になってプロレスごっこすんなよ、小学生じゃねえんだから。

 まあ、山口はピンピンしてるから、大丈夫だろうけど問題がぶつかった机の持ち主が不味かった。

 その持ち主はあの潔癖症の田中さんなわけで、田中さんは必死になって机を拭いている。

 ついでに山口は横で土下座して田中さんに謝ってる。

「山口」

「ひっ」

 あたしは山口を猫の首根っこ掴むようにワイシャツを掴む。

「女みたいな声出すんじゃあねえよ、田中さんこいつも十分反省してるからさ、許してやってよ」

「ホントマジでごめん、ごめんなさい」

「てめえは、黙れ、それから田中さん以外の机直せ」

 山口を離し、突っぱねる。

「田中さん、大丈夫?」

 よく見ると、メガネの向こう側は涙目になっている。

「……、汚い」

 いや、何回も拭いてんだからもう綺麗だろって思うけど、田中さんにとってはまだ汚いと感じているらしい。

「う、もう無い」

「どうしたん?」

「いや、何でもない……」

 手には空になったウェットティッシュの入れ物。

「チョット待って」

 あたしは、自分の席から新品のウェットティッシュの箱を取り出す。

「はい、これ使っていいよ」

 田中さんに渡す。

「でも……」

「新品だし、なんならあげるよ」

 ためらいつつも、田中さんは受けとってくれた。

「あり……がと……」

「いいって」

 自分の席に戻り、次の授業の準備をした。

 後ついでに、山口がまたふざけそうになったから、シメた。


 ◇



 翌日の放課後。

 帰り支度していた時だった。

「佐藤ちょっといいか?」

「はい?」

 先生に呼び止められる。

「なんすか、せんせー」

「頭悪そうな呼び方するな、田中にこれ届けてくれないか、結構重要なプリントでな今日中に渡さんとダメなんだ」

「えー、そういうのせんせーが行けばよくない?」

 なんであたし?

 ついでに今日田中さんは、欠席。

 多分昨日のことがショックだったんだろうな。

「先生これから、会議やら何やらで忙しくてな、お前田中に結構話しかけてるだろ、昨日だって昼休みトラブったのも、なんとかしたんだろ」

 別にあたしは大したことしていない。

「まあ、とにかくお前以外に適任いないだわ、これ住所な」

 むりやり押し付けて、そそくさと去っていく先生。

 マジかよ。

 ていうか、生徒の個人情報さらっとメモして教えてるし、今の時代ダメでしょこういうの。

 まあ、田中さんと仲良くなれるチャンスだと思っていこう。


 ◇


「うわあ、でけえ」

 田中さんの住むマンションの前についてつい呟く。

 ていうか、学校からほぼ5分って、近くない。

 とりあえず、オートロックだから、番号押して呼ぼう。

 ピンポーンと軽快な音が鳴る。

 しかし、反応なし。

 いないのかな。

 もう一回、鳴らしてみる。

 無反応。

 やっぱしいないのかな。

 うーん、でも聞こえてないのかも。

 ということで、迷惑承知で連続で鳴らし続ける。

「新聞は結構です」

 やっと、反応したかと思えば新聞の勧誘かと思ってる。

 新聞の勧誘がここまで来るわけ無いじゃん。

「ああ、あたし同じクラスの佐藤です、佐藤理華、先生に頼まれてプリント届けに来たんだけど」

「……、ポストに入れてください」

 不機嫌な声で、田中さんは答える。

 まあ、そうなるよね。

「田中さん、ちょっとだけ会わない?」

 ふと思いつきで、言ってみる。

「嫌です」

 即答ですか!?

 腹が立ったので、また連続ピンポンで鳴らす。

「佐藤さん、怒りますよ」

 もう怒ってんじゃん、激おこじゃん。

「プリント直接渡したいしさ、あと、田中さんと話したいし」

「私は話すことないですから」

「じゃあ、出てくるまで、ピンポン鳴らしつづけていい?」

「迷惑だから、やめてください」

「じゃあ、出てきてください」

「ああ、もう、ちょっと待っててください、行きますから」

「はーい」

 自分何してんだろ。


 ◇


 エントランスに出てきた、田中さんは長袖パーカーにゆるいズボンだった。

 部屋着かな、物珍しさに見てしまう。

 まあ、相変わらず、伊達メガネとマスクと手袋はつけている。

「佐藤さん」

「あ、はい!?」

 不機嫌そうに睨む田中さん。

「これ、プリント」

 プリントの入ったクリアファイルを渡す。

「ありがとうございます」

「ねえ、いつからなの?」

「え?」

「潔癖症」

「もしかして、話したいことってそれですか?」

 マジギレのトーンだ。

 怖え。

「うーん、なんていうかさ、田中さんのことよく知りたいんだよね」

「どうして?」

 どうしてと言われても。

「気になるから」

 ああ、いうセリフ間違えたかも。

 田中さん黙ちゃったよ。

 本気でやばい。

 嫌われたかも。

「私の事、気になっても無駄ですよ」

「えっ」

「迷惑なだけですよ、現にクラスじゃあ周りに迷惑かけてますし」

「そんなことは、ないよ」

「そうですか、私こんなんだから、みんな腫れ物扱いじゃないですか、佐藤さんだけですよ私接してくるの」

 うつむき加減で吐き捨てるように田中さんは言う。

「みんな単に、気遣っているだけだよ」

「それでも、私の存在は邪魔でしかないじゃないですか」

「うーん、田中さんはずっとこのままでいいと思ってる?」

「生活に支障がなければ、いいですけど……」

 伏し目がちに言う。

「でも、時々辛いんですよ、周りが怖いんです、汚くて汚くて、でも周りはそれでも平然としている。私だけですよこんなの……」

 じゃあ。

「克服しようよ」

「へ?」

 田中さんの頭からどういうことと言わんばかりに、はてなマークが出てくる。

「潔癖症克服すれば、多少は楽になると思うよ」

「簡単に言わないでください」

「私も田中さんと昔似たような感じだったからさ、うまくいけばみんなとも打ち解けられると思うよ」

「佐藤さん今なんて?」

「だからみんなと……」

「いやその前のセリフです」

 その前のセリフ?

「佐藤さんも潔癖症だったんですか?」

「ああ、いやあたしの場合は汚い綺麗関係なく、人に触れられるのが怖いんだ」

「でも、クラスの人と、スキンシップとかしてますよね」

「むかしいろいろな人に荒治療受けたから、それこそ近所のお兄さんに護身術教えてやるからって組手やらされたり、女優志望の同級生に演劇の練習付き合わされたり、そしたら多少はね人に触れられても平気になったんだ」

「もしかして」

「ん?」

「体育の後、授業休んでいるのって」

「まあ、多少平気になっていっても、時々キャパシティオーバーしちゃう時もあるんだよね」

 体育は競技によっては人に触れることが多い。

 そのせいで、次の授業が受けられないほど、身体や心に負担がのしかかってしまう。

「まあ昔よりも今のほうがマシなんだけどね」

「私も佐藤さんみたいに、出来ますか」

「出来るよ、あたしが協力する」



 ◇


 翌日の放課後

 教室は田中さんとあたし以外いない。

「あの、佐藤さんどうしてわたしたちが残ってるんですか?」

「ん? 今から二人で掃除するから」

 田中さんは固まる。

「あの、掃除当番の方は?」

「ああ、今日だけ二人でやるからっていったら、喜んで帰ったよ」

「でも、先生とかになにか言われたりは?」

「田中さん掃除当番のとき、こっそり帰ってるって聞いているよ、だから先生も田中がついに率先してやるのかって、感心してたよ」

「いや、率先してしようとは」

「とにかく、掃除するよ」

「もしかして昨日いってた荒治療って」

「何度も言わせないの、ほら箒もって」

「う……」

 あっそうだ。

「田中さん、手袋はずして」

「なんで」

「それじゃあ、意味ないと思うからさ、あえて素手で触ったほうがより克服できるよ」

「じゃあ、除菌していいですか」

「だめです」

「う……」

 やっぱ抵抗あるかな。

「わかりました」

 田中さんは、おもむろに手袋をはずす。

 田中さんの手は美術で使うキャンパスのように白く。

 雪のように綺麗な手をしていた。

「あ、そうだ」

「今度はなんですか」

「いや、掃き掃除するから、机片付けないなっと思って」

「それで」

「最初に二人で机後ろのほうに移動しよう」

「人の机に触るんですか!?」

「宙に浮かべて運ぶ」

「出来るわけないじゃないですか」

「だよね」

「あ……」

 喋ってばっかだといつまでたっても終わらないから、あたしはさっと机を運ぶ。

 田中さんは、なかなか動かない。

 顔をしかめ、苦しそうに目を閉ざす。

「ちょっと、一人で運ばせる気ですか」

「こんなはずじゃ、なかった」

「帰ってもいいけど、明日も同じことやるから」

「帰りませんよ、こんなんで帰ったら……」

「じゃあ、運んで」

 最後にっこりと笑う。

 田中さんは手が震えながらも、机に触れる。

 そして持ち上げた。

「あのこれ、すごい重いんですけど」

 震えてる、むっちゃ震えてる。

「普通だと思うよ」

「そうですか……」

 若干の不安感があるが、まあ第一関門突破かな。

 二人で(といっても9割あたし)机を後ろにやったところで、箒をもって床を掃く。

「佐藤さん」

「なに」

「埃が舞って、ひっい」

 今度は埃が怖いみたい。

「田中さん言っとくけど、朝から放課後まで埃だらけで授業してんだよ、だから毎日ちゃんと掃除しないとドンドン汚くなるでしょ、それは田中さん嫌でしょ」

「そりゃ、そうですけど」

「ていうか、自分の部屋掃除すんの」

「しますよ、聖域は常に清潔保つようにしてますから」

「じゃあ教室も同じぐらい清潔にしないとね」

「う……」

 ゆっくりと小振りながら床を掃きはじめる。

 メガネとマスク外せって言わなくてよかった。

 だって、発狂して克服どころじゃないもん。

 今だって、埃にビビってるし、田中さん。

「田中さんそんなんじゃいつまでたっても終わらないよ」

「わ、わかってます」

 ある程度綺麗になったから、あたしは机を並べ始める。

 田中さんは引き続き掃き掃除をやってもらう。

 だって、田中さんに運ばせるとガチで終わらなそうだし。

「あの、終わりました」

「ああ、今度はゴミまとめてゴミ置き場に行ってきて」

「な……」

「ごめん、前言撤回、机並べたらあたしがやるわ」

 さすがにそこまでさせると発狂するかもしれん。


 ◇


「重いわ、これ」

 そう呟くほど持ってるゴミ袋が重い。

 一日でこんなにゴミ溜まるかよ。

 大丈夫ゴミ置き場まであともう少し。

 がんばれ、あたし。

「あれ、佐藤」

「げっ、山口」

 なぜここに。

「ゴミ捨て、重そう手伝おうか」

「いいよ」

「遠慮すんなって」

 山口はひょいっと軽々と持ち上げる。

 腐っても男子、力あるな。

「今日委員会でさ、超大変だったマジ」

「あれ、委員会入ってたっけ」

「ええ、俺美化委員会だぜ」

「そうだっけ?」

 よく、覚えてない。

 ついでにあたしは、学級委員だ。

「佐藤が無理矢理俺にやらせたんじゃん!」

「ああ、そうだっけ?」

 ホント、何も覚えてない。

 体育館裏のゴミ置き場までやっと辿り着く。

 山口は扉を開けた瞬間、ゴミ袋を放り投げる。

「ありがと、山口」

「えっへへ」

「笑い方、きめえ」

「がーん」

 わざとらしく凹む仕草をした。

 無視して、教室戻ろ。

「なあ、佐藤」

「なによ」

「好きな人いる?」

 そういきなり聞かれて、ふと頭のなかである人物が浮かんだ。

 いや、ないないつーか同性だし。

 頭を横に振り一旦消し飛ばす。

「いないよ、いるわけないじゃん」

「じゃあ、俺と付き合ってよ」

 一瞬、フリーズする。

 こいつ何って言った。

「俺さ、クラス一緒になった時からさ、すげえ佐藤のこと気になってたんだよね」

 と言われても。

「ごめん」

 目をそらす。

「はあ、何でだよ」

 山口は人が変わったかのように豹変し、キレだす。

「俺お前に、見て欲しくて、クラスで騒いだり、入りたくもない委員会に入ったのにさ、ふざけんなよ」

 山口があたしの手首を掴む。

 鳥肌が立った。

 それをなんとか振り払う。

「なあ、俺佐藤のこと好きなんだよ、わかってくれよ」

 そんなこと言っても。

 ていうか、アプローチの仕方間違ってるだろ、あたしに構って欲しくて騒ぐって小学生かよ。

「頼むぜ、付き合ってる奴とかいないんだろ」

 今度は両肩を掴まれる。

 やばい、もう限界。

「山口くん」

「あ゛」

 田中さん……。

 スプレーの噴射音がした。

「う、目が……、痛って」

「佐藤さんから、離れてください、今度は大声で叫びますよ、痴漢だって」

「はああああ」

 やばい今度は田中さんが危ない。

「はい、もう一回」

 また、山口の目をめがけてスプレーをかける。

「う……」

 山口は地面に倒れ、痛みに苦しむ。

「山口くん、今苦しいと思いますが、佐藤さんは今のアナタよりもずっと苦しい思いしているんですよ、それからアナタを美化委員に推薦したのは私です、佐藤さんは、それに賛成しただけです」

 では、そう言って去る。

 あたしも後に続いて行く。

「ありがとう」

「いえ、ちょっと遅かったので心配で来ただけですから」

 田中さんがちょっとだけかっこいいと感じた瞬間だった。

「ところそのスプレーって」

「ただの除菌スプレーですよ」

 マスク越しだけど、笑ってるのがわかる。

 きっとかわいいんだろうな。

 マスクで見れないのが残念だった。


 ◇


 あれから、あたしのクラスは少しだけ変わった。

 まず、山口が大人しくなった。

 とはいっても、単に度の超えた馬鹿騒ぎを起こさくなっただけだけど。

 それでも、クラスの雰囲気が変わった。

 あの一件から頭が冷めたのか、申し訳無さそうにゴメンとあたしに謝ってきた。

 まあ、反省してるならいい。

 それと、田中さんが掃除当番の時に勝手に帰らなくなった。

 むしろ、積極的に掃除している。

 そのためか、クラスのなかに徐々にだけど、溶け込めるようになりつつあった。

 潔癖症は、まだ治らないみたいだけど、それは少しずつ克服すればいい。

「佐藤さん」

「はい」

「あの、あれから少し元気がないような気がしますよ」

「そうかな、いつも通りだよ」

 そう、いつも通りだ。

 クラスの中では。

「佐藤さん、無理しないでください」

「してないよ」

「してますよ、クラスの人と一緒にいても、若干距離置いてますよね」

「ああ、バレちゃったか」

 あの一件以来どうも、人の接し方が分からなくなっていた。

 人に触れられるとなると恐怖があたしを支配する。

 あたしがあたしでなくなりそうだった。

「あの、私佐藤さんと一緒に掃除してから、変わったんですよ」

「へえ」

「手洗う回数が減ったんです、一日最低でも20回だったのが、10回になったんです」

「あっそう」

「人から見たら、どうでもいいことかもしれませんけど、私の中では、すごい変化なんですよ」

「よかったね」

 もう、やめてよ。

「佐藤さんのおかげなんです、ここまで変われたのは」

「あたしとは、大違いだね」

「どうして」

「だってそうでしょ、あんだけ大口叩いといて、自分は未だに人に触れられのが克服出来てないって、これじゃあ田中さんのこと言えないじゃん」

 やばい、泣きそう。

「じゃあ佐藤さんが私に協力してくれたように、私も佐藤さんに協力します」

「へ?」

「一緒に頑張りましょ、私佐藤さんがいなかったらきっと、潔癖症治そうと思いませんでした、佐藤さんがいてくれたから今の自分がいるんです、だから」

 だから。

「私と友達になってください」

 まるで、一世一代の真剣さで、告白してきた。

「いいよ、ただし条件が2つあります」

「え?」

「まず1つ目、連絡先交換しよ」

 スマホをポッケから取り出す。

「ちょっと待ってください」

 田中さんもスマホを取り出し、お互い連絡先を交換する。

「そして2つ目、これからは下の名前で呼んでね、千香」

「は、はい、あれ下の名前教えましたっけ? さと……、理……華……」

 名前ぐらいで、恥ずかしがってる。

 かわいい。

「クラス一緒なんだから、知ってるのは当然でしょ」

「そうですか!?」

 嘘だ、さっき連絡先を交換した時に確認しただけ。

「それじゃあ、今日一緒に帰ろう」

「はい」

 後にあたしは千香に恋心抱くことを今のあたしはまだ知らない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KEEP OUT 有刺鉄線 @kwtbna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ