029

 展開が速すぎて、ローラには何が何だかサッパリわからなかった。気がついたらキンスキーが首なし死体になっていた。みずからの手で復讐を果たせなかったということもあるだろうが、何だか不完全燃焼ぎみだ。

「終わった、のよね……?」

「ああ、邪魔者はいなくなった。残っているのはおれたちふたりだけ。そうとも、ようやくふたりっきりになれたんだ」

 モリスの様子にローラは怖気が走った。これまで以上に危機感を覚える。

「……さっきも言ったとおり、わたしは財宝に興味ないから。あなたひとりで好きにすればいい」

「遠慮することないぜローラ。こんなにたくさんあるんだし、財宝は山分けでもかまわねえ。財宝は、な」

 モリスがゆっくり歩み寄ってくる。舌なめずりをしながら。ローラはムダと知りつつも、ライフルをモリスに向けた。

「来ないで。近寄らないで。それ以上近づいたら撃つ」

 まるで意に介さず、モリスは足を止めない。宣言通りローラは発砲するが、当然鱗に跳ね返される。ライフルの弾が切れるとショットガンに持ち替えて、それも弾切れになったらピストルを乱射する。まるで強盗に怯える小娘だ。

 ついに眼前まで迫ると、モリスはローラを押し倒した。

「わたしを殺す気?」

「殺す? おいおい、誰がするか。そんなもったいないこと」

「だったら血? 血が欲しいの?」

「まァ、ある意味ではそうだ」

「さっきも散々飲んでおいて――いいわ。それで気が済むなら」

「いや、どっちかっていうと飲むのはそっちだ」

「ハァ?」モリスの言いたいことがサッパリわからなかったローラだが、彼がベルトを外してズボンのチャックを下ろす段になって、ようやく自分が何をされようとしているか気づいた。「冗談でしょ? ねえ」

 ドラゴンは金と同じくらい、うら若き乙女が好きだ。その呪いを受けているバンパイアもまた。だが、バンパイアが女をエサとしてしか見ないなら、バンパイアがここまで増えることもなかっただろう。

 油断していると、性病はあっという間に広まるのだ。

「世のなかには2種類の人間がいる。銃を構えるヤツと、穴を掘るヤツ」

「いやいやいやっ! この状況だとそれどっちもあなたのことじゃない!」

 モリスのヨダレまみれの舌先が、ローラの肋骨をなぞる。汗の塩味を味わうように、いやらしく愛撫するように。

「放しなさい! 放して! この金髪豚野郎ブロンディ! あなたなんか地獄へ堕ちればいい! のたれ死んで犬にでも食われればいいのよ! ――ちょっ、デカすぎるってそれ! ダメ、そんなのゼッタイ入らないからァ!」

「知らなかったか? おれはドラキュラのほかに、串刺し公とも呼ばれてる」

 ローラは涙目になって必死に懇願する。「ごめんなさーい! 今までのことは全部謝るから! だからお願い許し――アッー!」

 モリスに散々好き勝手され、ローラは絶頂のあまり意識を失ってしまった。

 出すもの出して満足したモリスの興味は、手に入れた財宝へと向かう。あまりにも膨大な黄金の山だ。すべて運び出すのに何往復もしなければならないだろう。ひとまず適当にいくつか見繕い、フタのなくなった棺桶に詰めた。

 物色しているうちに、だいぶ時間が経ってしまった。時刻は真夜中を1分過ぎているミッドナイト・プラスワン。モリスはそろそろ山を下りようとしたが――ふと思い立ち、気絶しているローラのもとへ歩み寄ると、その左手薬指に指輪をはめた。最初にイングリッドから奪った、あの黄金の指輪だ。

「とりあえず分け前だ。とっとけ」

 それだけ言い残し、モリスは洞窟をあとにした。

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呪われた黄金の飢餓【パイロット版】 木下森人 @al4ou

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