エピローグ

第45話

 「アデルさん、もう注文頂いた台数は出荷済です……ええ、そうです……明日には到着すると思います。例の一台は私が責任を持って届けますのでご心配なく……はい、もちろんです……では、失礼します」

 小林精機の社長室では、小林が得意先であるアポロン社のアデルとの電話を終えたところであった。小林精機では、アポロン社から受注したアドバンスト・レッグの生産、出荷を終え、その一台が小林の机の上にも置かれていた。箱にはピンクのリボンが付けられていた。小林はそれを脇に抱えると、社長室を出て駐車場に向かった。

 「小林社長、本当に自ら配達に行かれるんですか?」

 通路で遭遇した社員が驚いて小林に声をかけた。

 「ああ。これは大事な約束の品だからな」

 「アポロン社との約束ですか?」

 「違うよ。古い友人との約束だ」

 小林は笑顔を浮かべながら社屋を出て行った。内戦終了後、マリオン経済は安定し、小林精機もゴダリアの資本と安価な労働力を背景に急成長を遂げた。

 小林は愛用の日本車の後部座席にアドバンスト・レッグの箱を置くと車を出発させた。アドバンスト・レッグの商品化は当初は不可能と考えられていたが、マリオン政府の支援策によって購入時の価格が抑えられ、著名なデザイナーによる卓越したデザインと日本で開発された高度な制御技術が高く評価されたことによって需要が高まり、商品化に至ったのであった。出荷第一号はこれから向かう先に無償で提供することが決まっていた。

 小林は目的地に到着すると、車を降りて「JADE」と書かれた看板を見上げた。 

 「早瀬さん……ようやく約束が果たせます」

 小林は心の中でそう呟くと、「メリッサへ」と書かれた箱を後部座席から取り出して、ジェイドの入口へ向かった。

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アドバンスト 笠虎黒蝶 @kasatora

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