ネコミミクラスタ02 sidestory 茶トラinnocent

 first cat 回想の鎮魂歌

 荒野に、透明な少女たちの歌声が響き渡る。歌声を乗せた風が、ケルト十字の突き刺さる荒れた斜面を駆け抜けていく。風は凪いだ海原に波をたて、遥か遠くに聳える巨大な壁へと向かっていく。

 歌声は、島にある墓所から響いてきていた。

 常若島の西側に広がる墓所に、4人の少年少女たちがいた。

 真新しいケルト十字の墓標の前で、2人の少女が向かい合って歌を奏でている。

真っ白なネコミミをすっと伏せて、少女の1人であるハルは透き通る歌声を唇から紡ぎ出す。茶トラのネコミミをゆらしながら、ハルを見つめるチャコが歌声を追いかけ喉を鳴らす。

 2人の歌声はハーモニーとなって、寂しい荒野に響き渡っていく。

 チャコの眼は涙に潤んでいた。チャコが纏っている喪服を、墓所を突き抜ける風が翻していく。ハルの優しい歌声とともに、風はチャコの震える歌声を優しく運んでいく。

 遠く、海の彼方へと。

 そんなチャコとハルの様子を、ネコミミを伏せながら2人の少年が見つめていた。

 鯖トラのネコミミを動かし、ハイが隣にいるソウタの手を握り締める。灰色のネコミミを伏せ、ソウタが涙を流しているハイの手を優しく握り返した。

 ソウタとハイはぎゅっと手を繋ぎ合い、悲しい鎮魂歌を聴く。

 歌声が高くなる。

 風が、少女たちのハーモニーを震わせていく。墓所に悲哀に満ちた歌声が溢れていく。

 歌いながらチャコは涙を流していた。

 そんなチャコの脳裏に、リズの笑顔が蘇る。

 リズは、チャコを妹のように可愛がってくれた人だった。チャコと同じ茶トラのチェンジリングである彼女は、チャコのことを妹として可愛がってくれた。

 リズがいたからこそ、チャコはソウタやハルと巡り合うことができたのだ。

 そのリズは、もうこの世にはいない。

 歌いながら、チャコはリズのために建てられた墓標を見つめた。

 リズの願いのために、チャコはハルとともに歌っている。

 ――聴こえる、リズ姉。約束、守れたよ。

 思いを歌に込め、チャコは心の中でリズに語りかけていた。リズの墓標に、チャコは微笑みを送る。

 眼を覚ますといつもリズがチャコに微笑みかけてくれた。その笑顔を見るととても嬉しくなって、チャコはネコミミをぴんぴんと動かしたものだ。

 チャコの歌声が悲しみに震える。その歌声を慰めるように、ハルの声が柔らかになる。

 チャコは、ハルを見つめた。

 白銀の瞳を煌めかせながら、ハルはチャコに微笑んでみせる。

 ――あぁ、リズ姉の笑顔みたいだ。

 ふっとチャコはそんなことを思った。優しいハルの笑顔は、どことなくリズのものとそっくりだ。

 ハルの笑顔を見つめながら、チャコはリズとの日々を思い返していた。


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