Five Cats ネコミミピアノ 

「じゃあ、みんな。私がネコミミとこの枝で合図したら、ネコミミをあげて、ラって歌ってね」

 ひゅっと、手にした木の枝を高くあげ、ハルは周囲の子供たちを見つめる。

 ハルを中心に、子供たちは円形に並んでいた。ソウタは少し離れた灰猫の桜下に座り、その様子を見守っている。

 ソウタは楽譜役。だから、ここでじっとしているようハルに言われたのだ。

 仲間はずれにされた気がして、ソウタはしゅんとネコミミをたらしていた。

 ハルによると、子供たちは音階順に並んでいるのだという。子供たちを並ばせるまえ、ハルはネコミミでみんなの声を聴き、音を割り振っていった。

 ちなみに子供たちの中で1番背の低いハイは、高いドの音。3番目に低いチャコは、ラの音担当だ。

「いくよー、ミャア!」

 合図とともに、枝が振りおろされる。

 枝が指し示したのは、ハルの正面にいるチャコだ。ハルは左右にネコミミを動かし、ハイと他の子供にも合図を送った。

 ぴんっとネコミミをあげ、子供たちは声をだす。

 高さの違う声が重なり、1つの音になる。

 ハルはネコミミと枝を動かし、次々と子供たちに合図を送っていった。

 重なり合う子供たちの声。

 それはピアノの伴奏のように音を奏で、周囲に響きわたる。

 低い声。高い声。

 声がするたびに、あがるネコミミ。そこに、高いハルの歌声があわさる。

 凛としたハルの声と、子供たちの重奏。

 2つの音は重なり合い、島中に響き渡る。

 子供たちの声がピアノの伴奏なら、ハルの声はピアノのメディだ。

 子供たちの声よりも高くて、リズムも違う。

 声がするたびに、あがるネコミミ。それ見て、ソウタはハルの言葉を思い出していた。

 ――ネコミミピアノ。

 本当に、そのとおりだ。

 ふと、ソウタは気になる。ハルは何の音をもとに子供たちに指揮をおくり、歌をうたっているのだろう。

 心臓が、小難しい音をたてる。刹那、その音とハルの歌声が重なった。

 ソウタは驚きにネコミミを反らす。

 子供たちの中心にいるハルと、視線が合う。彼女は唇を開き、いたずらっぽく笑ってみせた。

 心臓の音だ。

 ソウタの心音を頼りに、ハルはメロディを奏でているのだ。

 ハルがひときわ高い声を発する。弾んだ声を聞いて、ハルが喜んでいるとわかる。

 自分だけ、仲間外れなんてつまらない。

 ソウタは立ちあがり、ネコミミピアノへと駆けていた。並んだ子供たちを跳びこえる。みんな、驚いたようにソウタを見あげてくる。子供たち笑顔を送り、ソウタはハルの前に着地した。びっくりした様子でハルはネコミミの毛を逆立て、ソウタを凝視した。

 ハルが、歌うことをやめてしまう。

 指揮を失った子供たちは、声を発することができない。

 ネコミミピアノがやむ。

 むっとネコミミを反らし、ハルはソウタを睨みつけた。

 ハルに睨みつけられ、ソウタはしゅんっと、ネコミミをたらす。

 心臓が頼りない音を奏でる。その音に合わせて、ハルが声を発した。

 ハルの唇から、歌がもれる。

 歌われるのは、臆病者の少年のこと。

 少年はビクビクしていて、謝ってばかり。本当に頼りないとハルは歌う。

 ハルの歌にあわせて、子どもたちも声を発する。まるで少年をバカにするように。

 むっとなったソウタの心臓が、激しい鼓動を奏でた。

 歌の内容が変わる。

 ごめんねと、大切な人に謝る少女の歌をハルは歌う。

 ハルはネコミミを伏せ、ソウタに頭をさげる。ハルの鈴が悲しげな音をたてた。

 子供たちも、つられてハルの動作を真似る。

 ソウタの心音が、申し訳なさそうに小さくなる。

 頭をあげ、ハルが歌を変える。

 歌は喜びの歌。

 仲の良い少年少女が、友だちと遊ぶ様子をハルは歌ってみせる。

 歌声を弾ませながら、ハルは枝を放り投げた。

 ソウタは放られた枝を見あげる。ソウタの視界に、蒼い空が映りこんだ。

 りんと、鈴の音がする。

 顔を正面に向けると、ハルが微笑んでいた。

 ハルはソウタの手をにぎってくる。ソウタの手をとったハルは、回りだした。

 子供たちもおたがいの手を繋いで、くるくると回転する。

 くるくると、ソウタの視界が回る。

 ソウタは、心臓をバクバクさせていた。

 けれど、嬉しそうなハルの笑顔を見て、ソウタも笑っていた。

 ソウタとハルは笑い声をあげなら、くるくると回る。

 ちりちり。りんりん。

 ソウタとハルのネコミミについた鈴が、交互に鳴る。

 その音に合わせて、ハルは旋律を刻む。子供たちは輪唱を奏でていく。

 春風が美しい歌声を乗せ、常若島を吹き抜けていった。

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