第8話『駄菓子屋みつま』

 仲良しクラブの活動は放課後集まって何かすることである。最初はただ1時間そこにいるだけといった形であったが、一馬がトランプを持ってきたことにより少しずつ方向性が出来てきた。

 最初はばば抜きや大富豪などで遊んでいたが、少しずつ飽きているという空気を感じた一馬は、次にウノを取り出した。このウノは、はまりにはまり今では一時間では足りないほどみんな打ち込んでいるのである。

ただ、普通にウノをするのではなく独自ルールをいくつか追加したのである。

 たとえば、

・ ドロツー・ドロフォーカードが出ているときスキップを出すとその効果が一人飛ばしてその隣の人に効果が飛ぶ。(2枚以上出すことも可能)

・ 同じくリバースを出すと逆隣の人に効果を飛ばせる(2枚出しは出来ない)

・ 最後に効果(ドロツー等)カードを残してはならない。また効果カードしか残ってないときに指摘するとペナルティーで5枚追加される(逆に残ってないのに指摘してしまうと指摘した人が5枚ペナルティー)

こういうこともあって、毎日のように盛り上がってしまい、ついには、負け数が一定を越すと罰ゲームまでついてしまった。

 姫ちゃん先生は罰ゲームに関してはあんまり快く思ってなかったが、あくまで金銭がらみと不快な気持ちにさせること以外ならOK と承諾してくれた。

 一馬は、最初、放課後のたび億劫であったが、次第になれていき今では早く授業終わらないかなと思えるようになっていた。

 ただ、気になることもあった。意外に保たちと幸助がすぐに打ち解けて李音も今では優介と仲良く話している。(保とは微妙であるが)女子チームは分け隔てなく男子チームと仲良くなっているのだが、この『仲良しクラブ』発足後、いまだ一馬と幸助との間に会話がないのである。グループでの会話なら何度かあるが、単独での会話はまったくない。その上、授業や登下校もいまだに一人である(前は途中で待ち合わせしたりしていた)

 そのことは、美香や希も気にかけているみたいで、時々夜にLINEが飛んでくるのであるが、何かいい案がないものかと姫ちゃん先生も頭を悩ませていた。

 そんな中、一馬のウノの累積負け数が超えて罰ゲームが決まった。一馬は、どんな罰ゲームが待ち受けてるのかとどきどきしていたのだが、意外なことにその罰ゲームを発表したのは姫ちゃん先生であった。

「それじゃぁーー、発表しまーーす!!罰ゲームは・・・駄菓子屋みつまへのお使いです!」

「・・・はい?」

 一馬は思わず聞きなおした。

「だから、駄菓子屋みつまへのお使い。お金私が払うからお菓子買ってきて」

 姫ちゃん先生は相変わらずハイテンションでしゃべりまくっている。

「あっ、そうそう。みんなの分買うから一人じゃ大変よね。なんで、もう一人決めようと思います。なのでくじ引き!」

 そういうと姫ちゃん先生はくじ引きを用意して他のメンバーに引かせた。


 ―――・・・なんでこういうことになるんだよ―――

 一馬ははかられたと思っていた。よりにもよって、くじであたりを引いたのは幸助であった。今の幸助と一馬は殆ど会話がない。そんな状態で二人きりとは、どれだけ空気が重いこと重いこと・・・。

 一馬は何かしら話そうと必死に考えていたが、まったく言葉が出てこない。どうすればいいのか見当もつかない。そんな中、『みつま』の前まで着いていしまった。

「なぁ、一馬」

 幸助が突然一馬に話しかけた。一馬は突然のことに驚いたが、すぐに返事をした。

「・・・何、幸助」

「お前、変わったよな」

「・・・どこが」

「なんか、お前、明るくなったよな。今までなんか暗いっていうか人と関りたくないっていうか」

 幸助は今までと違いとても寂しそうな表情を浮かべていた。

「最初はさ、好きな子できたりしたって聞いてからかおうかなって思ったけど、それがだんだんいろんなこと仲良くなっていって、なんか、人がかわったみたいな」

「変わってないよ、俺」

 一馬は幸助の目を見てしっかり答えた。

「俺な、ずっと考えてたんだ。なんか、俺ってくらいなって。このままじゃいけないかなって思って、考えたんだ。そんな時、おとんが希が家出したって聞いて。それでな、チャンスかなって思ったんだ。世界広げんの」

 一馬の言っていることはでまかせではなかった。実際、このころ。自分の根暗さ人付き合いの悪さに劣等感を覚えていた。そのときは考えるだけで行動に移さなかったが、今は移さなかった自分がどうなるか知っている。だから同じ過ちはしたくない。と。

「けどよ、幸助にはちゃんと言っとく。俺、これからどんどん変わろうって思うんだ。けど、幸助の知ってる俺はいつまでも俺だから」

―――自分で何言ってんだ。こんなん全然小学生ぽくないじゃん。言い方。でも・・・。―――

 一馬は一呼吸置いて考えた。

―――こんな俺を見捨てずにずっと見てくれていたんだよな、幸助って。うわさじゃ、美香と付き合いだしたとき、俺のことが原因で何度もけんかしたって聞いたし。それでもこいつはいつもそばにいてくれた。大切な親友なんだよな。だから・・・―――

 一馬はそこから先は言葉にしていった。

「幸助、俺たち親友だよな」

「・・・今頃何言ってんだよ。そんなの小1のときに言っただろ」

「・・・ごめん。今まで謝れんくて」

「俺こそごめん。一馬の気持ち考えなくて」

 二人はしばらくお互いを見つめると急に笑いがこみ上げてきてその場で大笑いをしだした。思えば、お互い、一番言いたい言葉を言えずにフラストレーションがたまっていたのかもしれない。

「さて、みんな待ってるからとっととかって帰るか」

「そうだな!いこっか」

 そういうと二人は『みつま』の中に入っていった。


30分ほどして大量の駄菓子を買って教室に戻ってきた二人はすっかりもとの状態に戻っていてメンバー全員安堵の表情を見せていた。

一馬と幸助のチョイスで選んだお菓子はみな好評で、とくに茜は一馬が選んで買ってきた『梅っ子』というお菓子と『ココアシガレット』気に入ったみたいでさっきからずっと食べている。

「いやー、やってみるものね。実は二人で行かせたの仲直りするかなって思ってしてみたんだけど」

「姫ちゃん先生ギャンブルすぎ。それでなんかあったらどうするきだったん?」

 保がすかさず突っ込みを入れた。

「う~ん。なんかあった時はそのときはその時!」

 お気楽過ぎる返事に一堂唖然とした。

「ところでさ、二人が買い物行ってる間に話してたんだけど、優介君って格闘技してるんだよね」

「姫ちゃん先生ったら。まぁ、週2で練習、あとは自主錬とかかな」

「その内容がすごかったからさ、今度、みんなでどう?」

「それって、一馬もしてるやつだよな」

 李音が一馬に聞いてきた。

「俺は、月に2・3度練習に行ってる程度だよ。それ考えると優介ってすごいよな」

「まだまだだよ、僕なんて。来月松に試合あるからがんばらないと」

「えっ、マジで」

 一馬は、びっくりした。

―――そんなの今はじめて聞いたぞ。でも、俺は今回関係ないか―――

「一馬君も登録されてたと思うよ。ルーキー戦だからそんなに人いないと思うけど」

「ちょっと待ってーーー!聞いてないぞーーー!」

 一馬は絶叫してしまった。


 家に帰り両親に話をすると母からあっけらかんと「ごめん、忘れてた」と返されて、一馬は焦った。

―――いまさら、断るわけにはいかんし、練習しないと―――

 一馬はとりあえず今できることを考えて、基礎である腕立て腹筋、基本動作の練習を毎日することを決めて、紙に書き出した。

―――それにしても、前の俺だったらこんなこと絶対しなかったよな。こんなこと―――

 一馬は部屋の窓から外を眺めた。

―――この2ヶ月、状況は当時とまったく変わっちまったな。今後どのタイミングでどんなことが起こるかはわかるが、俺たちの動きが殆ど読めないや―――

 一馬はふと携帯をのぞきながら物思いにふけていた。

『リロリロリ~ン♪』

 一馬はLINEを起動して届いたメッセージを確認した。

『おきてる?一馬』

『おきてるよ、どうしたんだ、こんな時間に』

 LINEの主は茜であった。夜の21時半。本来なら彼女はこの時間寝ているかお風呂に入っている時間帯なので、彼女からLINEが来るのはとても珍しい。

茜『起きてる?』

一馬『起きてるよ』

 返事を送ったが、返信が数分たっても帰ってこない。ただ、既読にはなっているので呼んだことは確かなのだが。

―――おかしいなぁ、いつもならすぐに返事あるのに――― 

 しばらく携帯を置いていると、さらに5分ほどしてようやく着信音が鳴った。

茜『明日の放課後、あいてる?』

一馬『あいてるよ』

茜『話しあるの。のこっててもらえない?』

一馬『いいよ』

茜『よかった。じゃああまた明日!おやすみ』

一馬『うん、おやすみ~』

 珍しく、茜のLINEに変換ミスがある。それが何を意味するのか一馬はまったく気づかなかった。

―――話ってなんだろう?―――

 一馬は気になったが、睡魔に勝てず、すぐに横になった。


 翌日、この日は優介や幸助の都合が悪く仲良しクラブも姫ちゃん先生と相談して例外的になしとなった。一馬はこの方が好都合であった。

 希は李音と遊びに行くらしく、希と保には今日ないことをLINEで伝えた。一馬はその日一日何事も内容にすごすことにした。 

そして、放課後。その日は何事もなく一日が過ぎた。本当にいつもと変わらない放課後。そんな放課後に、一馬は誰もいない教室でひとりで待っていた。

「ごめん一馬。急に呼び出したりして」

「いいよ別に」

 そこに現れたのは茜であった。

「怪我、もう大丈夫そうね」

「うん、次行って異常なかったら半年に一回でいいって先生言ってたんだ」

「よかった」

―――あれ?―――

 一馬は気がついた。いつの間ににか茜が一馬を呼び捨てで呼んでいるのを。

―――茜ってこんなんだったっけ?よくよく考えたら最近殆ど話せてないし―――

「ねぇ、一馬。花壇行こう!」

「うん」

 茜はそういうと一馬を花壇へと誘った。一馬自身話ってなんだろうと思っていたが、今はとりあえず彼女についていくだけを考えた。

 一馬と茜が担当している花壇は、すでにパンジーなど小さい花は咲き乱れていた。そして、茜が植えたひまわりもすっかり大きくなっていた。

「だいぶ大きくなったね、ひまわり」

「ほんとやな。最初何植えたか分からんかったけど」

 ひまわりは全部で3つ植えた。だが、ひとつだけ成長が遅く、他の2本より若干低いのがあった。

「これだけ小さいよね。大丈夫かな」

「大丈夫だよ、こいつもしっかり花咲くって」

 一馬は心配そうな茜に無意識に声をかけた。

「やさしいね。一馬って」

 アカネが急に一馬の顔を見つめて囁くように言った。 

「あのね!!」

 一馬はドキッとした。直前の囁くような声ではなく突然大声で一馬の目を見つめて叫ぶように言ったからである。

 一馬自身もドキッとしてしまい、直立不動に立ち上がってしまった

「あのね、一馬ってすっごいやさしいんだね」

「何だよ急に」

 一馬は、茜のこの先の言葉がまったく読めない。当の茜は、夕日のせいか顔が赤く見える。

「やさしくなかったらあんなみんなのこと気遣えないし、やさしくできないと思うんだ」

 茜は一呼吸置いて再び話し出した。

「みんなのこと思って、真剣に怒ったり遊んだりできていいなって」

 茜はそういうと体を180度回転させ一馬に背を向けた。

「あのね、一馬。私、一馬のこと好き!」

「・・・ええ」

 一馬は茜の予想外の行動と言葉に我を忘れた。

 ―――えっ、これ、夢?―――

 夢ではない。現実なのである。一馬はあまりの急展開に思考がついていけない。ただ、自分の気持ちを素直に言葉に出さないといけないと思い両手にこぶしを作った。

「俺も茜のことがしゅけ・・」

「ちょっと一馬!そんな大事なところなんで噛むのよ」

「しゃあねえだろ!」

 あまりに評し抜けてしまう回答に一馬は逆切れしてしまい、顔面が真っ赤になるくらい高潮してしまった。

―――ぼけぇーーーーーーーーーーーーー!何でこんなところでかむんだよ、俺!!―――

 生まれて初めての告白がこん中たちになってしまい一馬は死ぬまで引っ張るだろうと感じた。

 しかし、桃園茜と形はどうあれ両思いになったのである。一馬自身はうれしくてたまらずこのときばかりは自分が27歳の青年ということを忘れごくごく普通の小学生になっていた。

―――よーー視!こうなったら、茜と思いっきり楽しい思い出を作るぞ!!―――

 一馬は気持ちを新たにして決心した。しかし、この時の一馬の考え方が安直だったかもしれない。好きだった茜と両思いになって小学生ながらつき合えることになったこと。互いに思いあうことが、どれほどの地獄になるかということを。

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